ホロコースト―ナチスによるユダヤ人大量殺戮の全貌 (中公新書)

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 29
  • Amazon.co.jp ・本 (282ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121019431

作品紹介・あらすじ

ヒトラー政権下、ナチ・ドイツによって組織的に行われたユダヤ人大量殺戮=ホロコースト。「劣等民族」と規定されたユダヤ人は、第二次世界大戦中に六〇〇万人が虐殺される。だが、ヒトラーもナチ党幹部も、当初から大量殺戮を考えていたわけではなかった。本書は、ナチスのユダヤ人政策が、戦争の進展によって「追放」からアウシュヴィッツ絶滅収容所に代表される巨大な「殺人工場」に行き着く過程と、その惨劇の実態を描く。

感想・レビュー・書評

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  • ホロコースト(=ナチス=ドイツによるユダヤ人大量殺戮)は「ヒトラーという狂気に満ちた独裁者が、ユダヤ人への憎悪から発案し、彼の命令によって実行されたととらえられがちである。だが事実はそのように単純ではない」と断定した上で、本書は「一般読者に向け、ナチ・ドイツのユダヤ人政策が、ホロコーストに行き着く過程の全体像を描くことを目的とする」という問題設定がなされている。

    ユダヤ人問題の「最終解決」は当初、絶滅を目指すものではなかった。ポーランド占領までは国外退去(「追放」。それまでの過渡期として「ゲットー」)、ソ連侵攻後は「大量射殺」、そして、最終的にはガス(チクロンB)を使った「大量殺戮」という形に変わっていった。

    ソ連のスペース不足、ゲットーの限界、占領地の大量虐殺の限界という現実に直面して、ついに「絶滅収容所」が設置された。独ソ戦の行き詰まりで、新たな領土が獲得できず、ユダヤ人を東方へ移住させられなくなったのだ。

    ヒトラーは1941年3月3日の段階で、ユダヤ人とボリシェヴィキ知識人の抹殺をはっきりと言明していたが、ドイツ国防軍も、ユダヤ=ボリシェヴィキ知識人、共産党役員、積極分子を即刻射殺するという対敵宣伝を行なっており、国防軍も対ソ戦の段階においてはより積極的なユダヤ人殺害の役割を担っていたことになる。かつて囁かれた、ナチス悪玉、国防軍善玉論は成り立たないことがわかる。独ソ戦の開始とともにユダヤ人を初めとする人々の大量虐殺は始まっていた。

    1942年1月20日、ヴァンゼー会議の席上でユダヤ人問題の「最終解決」についての議論があった。「労働可能」なユダヤ人には奴隷的労働による苛酷な搾取と「自然的減少」を、「労働不能」なユダヤ人には即刻殺害という選別計画を了承した。要するに「殺害を認め、ユダヤ人の全面的な追放策から、計画的な大量殺戮への転換を確認した」ことになる。しかしながら、著者はヨーロッパ・ユダヤ人の絶滅政策が「なぜ」、そして「いつから」具体的に実行されたのか、現在に至っても様々な研究、学説があるとしていて、終章「ホロコーストと歴史学」で取り上げている。ヒトラーの一声でその方法や実行が決定された、というような簡単で短絡的なものではなかったのだ。

    ユダヤ人に対するドイツ人、ひいてはヨーロッパ人の反ユダヤ感情がもともと根にあったところから始まり、ホロコーストというナチス=ドイツによるユダヤ人絶滅政策に至るアウトラインがほぼ時系列で、ヨーロッパにおける潜在的な背景を説明しながら記されていく。従来の学説にとらわれず、新しい研究成果もわかりやすく紹介され、通説を修正している箇所も見受けられる。

    本書では、人間の所業とは思えないような惨劇が、ナチスとそれに付属、協力する組織によって繰り広げられていく様子が描かれる。あまりに悲惨で、気分が悪くなりつつも我慢しながら読み進めた局面もかなりあった。ユダヤ人に対しては「最終解決」「合理化」「選別」など、まるで物を扱うような言葉が躊躇なく使われた。事実、収容所などにおいては、ユダヤ人は物以下の扱いだったと言っても過言ではない。かつて、アウシュヴィッツ強制収容所所長、ルドルフ=ヘスによる『アウシュヴィッツ収容所』を読んだことがあるが、ユダヤ人らの殺害がまるで流れ作業のように、無感情な人間たちによって行なわれていた記述があったことを思い出させられた。体験や回顧を記した本は読んだことがあったが、「ホロコースト」というテーマで終始学問的に論じられた本は読んだことがなかったので、勉強になったところも大であったし、冷静な視点で俯瞰することができた。すでに述べたように、テーマがテーマなだけに内容がハードなところもあるが、冒頭で引用した問題設定に応え得る良書だと言えよう。

  • ●新書版なので、まず手にとって読みやすい一冊です。ホロコーストの歴史全体を知るためにお薦めです。

    ●ホロコーストを「知る」ための必読書。ホロコーストたる複雑的で、複数的で、多頭的な秩序化されたカオスが、見事に整理されており、読みやすい。(ボランティアK)

  • 狂気に満ちた歴史の一言。ホロコースト、ナチスの残虐行為の歴史の全体像が見える。

    社会の不満が積もったことでナチスの台頭を許してしまった歴史は、現代社会にも通づる部分がありそうな気がする。グローバル化や多文化政策の急進によって、労働者階級の反感が増したり、極右政党が誕生したり、過去の苦い歴史の懸念が頭によぎる。

    加えて近年は新型コロナの影響もあり、不満のはけ口としてポピュリズム運動に拍車がかかる可能性も否定できない。まさに今このような歴史を振り返る必要性があるのかもしれない。

  • ホロコーストの全体像をつかむために。
    このような状況が二度とないように。

    そこに研究の存在意義がある。

    コロナ禍のなか、自粛警察なるものが生まれた。
    みんな息をひそめている。

    終章を読むべき。あとは足掛かりとしての列挙か。

  • [整然とした狂気]人類の歴史において、最も悲惨な形相の1つを呈したといっても過言ではないナチスらによるホロコースト。ともすれば「ヒトラーが反ユダヤ主義のために開始して……」と単直線的な理解になりがちなこの問題に、深く、そして複合的な視点からその原因や成り立ちを追った作品です。著者は、ナチスやファシズムに関する著書・訳書を多く手がけられている芝健介。


    答えの出ない問題だとは思うのですが、それでも本書を読むと「なぜこんなことが」という疑問が次々と浮かんできます。本書の7割ほどが当時どのようにホロコーストに至ったかという事実でできあがっているのですが、「ナチスの閉じた理論内」ではその1つ1つのステップが非常に「合理的」であったことに改めて背筋の凍る思いがしました。


    〜第二次世界大戦前のヨーロッパには、構造的・文化的共通性があった。だが、それがいま失われつつある。そのなかで共通の記憶を考えたとき、大戦中のホロコーストの記憶ではないかという認識が広まりつつある。ホロコーストにまつわる記憶は決して均質ではないが、ヨーロッパ各国・各地域に遍く存在する。そしてそこには、犠牲者の追憶や人間の尊厳の回復への強い願いが見られる。〜

    アウシュヴィッツを訪れたときを思い出した☆5つ

  • ホロコーストの全体像を描き出した一冊。
    「いずれにせよ本書を通して、ホロコーストというユダヤ人大量殺戮について、狂気に満ちた独裁者ヒトラーがアウシュヴィッツで行うよう命令し、実行されたといった直線的なものでは決してないことを理解して欲しい」(あとがき、P267)

    ドイツ国内、ヨーロッパにあった反ユダヤ主義の雰囲気。
    ユダヤ人位相→隔離→殺害と進んでいった様子が明らかにされている。強制収容所、基幹と支所、労働収容所、そして絶滅収容所へ。
    ゲットーにおける様相の違いなど。
    また、ユダヤ人のみならず捕虜・障害者・政治犯など様々な人々が非人間的な扱いを受けた。
    「ゲットー」(Ghetto)ユダヤ人強制居住区 約400箇所
    起源は中世ヴェネツィア。隔離・移動制限はあるものの、安全だった。
    ワルシャワ・ゲットー、ウーチ・ゲットーなど。
    ハイム・ルムコフスキ(ウーチ・ゲットーのユダヤ人評議会議長)
    対ソ戦での苦戦→東への移送は無理となった。
    ゲットーも受け入れられない状況。
    ヘウムノ絶滅収容所1491.12ガス殺の始まり
    (独:クルムホーフ)
    「ラインハルト作戦」「ヴァンゼー会議」
    「強制収容所」は1933年ナチ党政権獲得後に作られた。

  •  新書だったので、手に取りました。
     普通の市民の集まりが、こういう大虐殺を起こす。ある意味、今まで読んだ大量殺人の本より、怖い。
     もう少し、この方面の本を読んで行きたいです。

  • ホロコーストが行われるまでの流れを簡潔にわかりやすくまとめられている。当時の情勢やドイツの動きが客観的にわかってよかった。

  • あとがきにあるとおり、ホロコーストについて、ヒトラーが大量殺戮をアウシュビッツで行うよう命令し、実行されたという直線的なものではないことを理解することができた。 
    繰り返し出てくる最終解決という言葉が、追放から隔離、そして殺戮へと変遷していく過程を知るとより恐ろしく感じられる。

  • ホロコースト(中公新書)
    著作者:芝健介
    発行者:中央公論新社
    タイムライン
    http://booklog.jp/timeline/users/collabo39698
    ナチスによるユダヤ人大量殺戮の全貌。

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著者プロフィール

1947年、愛媛県生まれ。東京女子大学名誉教授。専門はドイツ現代史。著書に『武装SS――ナチスもう一つの暴力装置』(講談社選書メチエ)、『ホロコースト――ナチスによるユダヤ人大量殺戮の全貌』(中公新書)、『ニュルンベルク裁判』(岩波書店)など、訳書に『総統国家――ナチスの支配 1933-1945年』(岩波書店)、『ファシズム時代のシオニズム』(叢書・ウニベルシタス)、『二つのドイツ――1945-1990』(岩波書店)、共訳書に『ホロコースト大事典』(柏書房)、監修に『星をつけた子供たち――ナチ支配下のユダヤの子供たち』(創元社)など、ナチ関連書多数。

「2021年 『ホロコースト最年少生存者たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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