電車の運転: 運転士が語る鉄道のしくみ (中公新書 1948)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121019486

作品紹介・あらすじ

時速100キロ以上の速さで数百トンの列車を率いて走行し、時刻通りにホームの定位置にピタリと停める…。このような職人技をもつ運転士は、何を考え、どのように電車を運転しているのだろう。また、それを支える鉄道の仕組みとはどのようなものだろう。JRの運転士として特急電車から貨物列車まで運転した著者が、電車を動かす複雑精緻なシステムと運転士という仕事をわかりやすく紹介する。

感想・レビュー・書評

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  • 電車の運転技法とそれに関わる基礎知識(電気的な部分を含む)についての解説本。運転士を育成するための教本を読んでる感じであったものの、電車の運転が如何に職人芸的で、著者がその仕事を誇りに思っているかがひしひしと伝わってきた。身近でありながら、ブラックボックス化している鉄道というものについて理解するには最適な本ではないかと。ヘンにマニア的視点が一切ないのもポイント高し。

  • 筆者は電車の運転手を長年経験された方で、タイトルから、私は運転操作そのものに関わることを中心にまとめられていると思っていましたが、線路や架線、信号、標識、駅、車両に関する技術的なこと、などなど、鉄道に関わる細部の仕組みまでまとめられており、非常に興味深い内容でした

    また、運転についても、運転士の皆さんが、日々、ダイヤを守るためにさまざまなことに気を配りながら対応されてることがわかり、毎日利用する電車乗車中での意識がかなり変わりました

    自動車の運転とは全く異なっていて、想像を遥かに超えた繊細なことであることがわかり、とても驚きました

    最終章の、何に恐れながら運転しているのか、と言うお話もとても印象に残りました

  • 【感想】

    電車の運転を支えるさまざまな技術・工夫について、国鉄=JRの元運転士が余すところなく解説した、燻し銀のような渋い良書。鉄道のしくみをちゃんと理解するには電気の知識が必須だなと思った。


    【まとめ】

    ●交通機関の3原則: 安全、正確(高速)、快適 (=運転士の永遠の目標)

    ●鉄道の長短:
    ○決められた道(レール)を走る→線路の専用(閉塞)→定時・高速・大量輸送
    ○鉄(車輪)が鉄(レール)の上を走る→
    ①高速運転(走行抵抗が小さい)
    ②大量輸送(走行抵抗が小さい=重量あたり出力が小さい→大型化が可能)
    ③雪や雨に強い(車輪とレールの接触面が小さい=単位面積あたりの圧力が大きい→間に嚙みこんだ雪や雨を容易に排除)
    ✕上り坂に弱い(重量あたり出力が小さい)
    ✕曲線に弱い(軌間が狭い・車体が大きい・重心が高い→遠心力による横からの力に弱い)
    ✕進路を選べない(レール)

    ●安全第一を実現するために:
    ・踏面の整正
    ・速度制限
    ・三重ブレーキ = 貫通・常用・予備
    ・閉塞方式
    ・信号機
    ・保安機器(ATS-Pなど)
    ・運転士の怖いもの(下り勾配、ブレーキの効きが悪い、空転と滑走、雨・霧・霜、毎日がレンタカー、信号機の間近に止まる、ホーム端の乗客、居眠り)


    【メモ】

    ●発車と加速
    ・マスコン(master controller)
    ・ノッチ ≡ 力行を指示するためのマスコン操作・速度指令
    ・力行(りきこう) ≡ モーターに電流を流すこと
    ・VVVF: variable voltage variable frequency、可変電圧可変周波数制御
    ・空転(slip): 力行時のモーターの回転力 > 摩擦力(レールと車輪)
    ・輪軸方式: 鉄道は左右の車輪を車軸に固定(輪軸=車軸+両輪)→ 左右の回転数が常に等しい
    ・踏面(とうめん、車輪外周のレールに接する箇所)は定期的に削正(さくせい)

    ●走る ― 駅から駅まで
    ・ノッチオフ ≡ 力行から惰行に移ること
    ・惰行 ≡ 無動力による惰力運転
    ・力行率 ≡ 力行距離 / 走行距離 (=平坦線区では1/4〜1/2くらい)
    ・運転士は自分の乗務線区の情報について、あらかじめ資料を読みこんで完全に頭に叩きこむ(→極論すれば速度制限標は不要)
    ・走行抵抗 = 純走行抵抗(車輪を支える軸受の抵抗、レールと車輪の転がり摩擦による抵抗)+ 勾配抵抗 + 曲線抵抗 +出発抵抗 + その他の抵抗(トンネルの空気抵抗、橋梁での抵抗など)
    ・カント ≡(曲線での)左右のレール頭部の内側における高低差
    ・スラック ≡ 曲線での左右のレール間隔のわずかな広がり
    ・勾配 ≦ 25‰(1/40、通常限度)、33‰(1/30、最大)
    ・レール = 電流帰路
    ・直流電圧: 標準1500V、✕変電所(複雑、送電ロスが多い→設置間隔が短い)、✕架線(電流が大きい→饋電線(きでんせん)が必要、送電ロスが多い)、○車両(簡易→軽い)
    ・交流電圧: 在来線20kV/新幹線25kV、○変電所(簡易、送電ロスが少ない→設置間隔が長い)、○架線(電流が小さい→簡易、送電ロスが少ない)、✕車両(複雑→重い)
    ・変電所の容量を超えないために: 停電後の再送電→列車ごとの時間差起動(全列車の同時起動を制限)、単線の行違い駅→上り・下りの時間差発車(同時発車を制限)

    ●止まる
    ・運転士の最大の工夫 = ブレーキの衝動防止
    ・再ブレーキ、舟漕ぎブレーキ(再ブレーキ2回以上)を極力減らす
    ・転動(≡ 勾配などのため無動力で動くこと)しないよう、停車後はただちにブレーキ
    ・応荷重装置 ≡ 車両重量の変動に応じて車両ごとにブレーキ力を調整するシステム(車体を支えるバネのたわみを機械的に測定)
    ・滑走(skid): ブレーキ時のブレーキ力 > 摩擦力(レールと車輪)、ブレーキ力が粘着力より大きくなる→車輪がブレーキ力によりロックされる→回転せずにレールの上を滑る
    ・湿気(雨・雪・霜・霧、トンネルの中)+ 埃(レール表面)→ 泥 → 粘着力が小さくなる → 滑走
    ・雨天時の踏切 → 車・歩行者による泥 → 滑走
    ・滑走対策: 砂まき機構(機関車)、ブレーキ時にセラミックス粒子を吹き付け(新幹線)
    ・ブレーキ: フェールセーフ(故障時に動作)or フェールアウト(故障時に不動作)

    ●線路と架線
    ・JRのホームの高さ = 76cm、92cm、110cm
    ・車両限界: 最大幅 3000mm、最大高さ 4100mm/パンタグラフ込み 4300mm、車体底部はレール面から75mm
    ・建築限界: 側面は車両限界から400mmずつ、ホームは車両限界から75mm
    ・キロポストの起点 = 東京(東北本線)、神戸(山陽本線)、門司港(鹿児島本線)、米原(北陸本線)、函館(函館本線)
    ・レール1本の長さ = 標準25m
    ・レールの寿命 ← 摩耗(∝曲線、加速・ブレーキ)+ 金属疲労(∝通過量)
    ・レールを連結する継目板のボルトの数 = 6本(60、50Tレール)/4本(それ以外のレール)
    ・バラスト ≡ 枕木の下に敷く砕石
    ・スラブ軌道 ≡ バラストと枕木を使わずにコンクリートのベッド上にレールを直に敷設
    ・分岐器 = ポイント(分岐)+ クロッシング(交差)
    ・架線 = 吊架線(上)+ ハンガー +トロリー線(下)
    ・最も重要なのはパンタグラフに接するトロリー線を水平に保つこと
    ・パンタグラフ(の摺板)の同じ箇所が連続接触して発熱損傷しないよう、架線は左右にジグザグに張る(左右幅≦400mm)
    ・離線 ≡ パンタグラフが架線から離れること(→大きなアークを発生、直流ではアークが自然消滅しないので絶対に防止)
    ・パンタグラフを架線に押し付ける力 ≒ 5kg
    ・摩擦する物体は同じ材質のときに抵抗と摩耗が最も大きい → 硬銅(架線)と軟銅(摺板)の使い分け(架線交換よりも摺板交換のほうが費用が安い→摺板に軟銅を使用)
    ・サードレール: 地下鉄で採用、電圧≦750V
    ・架線の電圧降下は大きい(∝架線の電気抵抗と電流値∝電源からの距離)、変電所から遠い場所では20%ほど降下することも
    ・鉄道法→鉄道・甲種免許、軌道法→路面電車・乙種免許、車種=電気車・内燃車・蒸気機関車・新幹線電車

    ●安全のこと
    ・閉塞方式: ①閉塞区間に列車がなく空いていることを確認→進入許可、②1つの列車に進入許可を出したあとは他の列車に進入許可を出してはならない、③列車が通過して閉塞区間が空いたことを確認→次の列車に進入許可
    ・軌道回路: 閉塞区間に列車が入る → 車軸が左右のレールを短絡 → 電流が検知装置に届かなくなる=区間内に列車がいると判断 → 信号機に停止信号
    ・現示(げんじ)≡ 信号機が表示する信号の内容
    ・場内信号機、出発信号機、閉塞信号機など
    ・無閉塞運転 ≡ 例外的に閉塞区間に2本の列車を入れる
    ・進行(緑)→減速(緑黄)→注意(黄)→警戒(黄黄)→停止(赤)
    ・踏切警報機 = 第1種(警報機と遮断機)、第3種(警報機のみ)、第4種(防護装置なし)
    ・警報開始〜遮断桿(しゃだんかん)降下 = 標準20秒/最短15秒、遮断桿降下〜列車前頭が踏切通過 = 標準15秒/最短10秒、列車の検知は軌道回路による
    ・ドアが閉じる力 ≒ 60kg(人力で開けるのはむずかしい)
    ・マスコンのバネ: マスコンから手を離す→オフに戻って力行が終わる(運転士が意識不明になっても力行を続けなくて済む)、新幹線のマスコンから手を離す→オフに戻らない(新幹線は力行時間が長く、ほとんどノッチ投入)
    ・EB: emergency brake、居眠り対策
    ・ATS-P: automatic train stopper-pattern、信号機が停止現示 → ブレーキパターンを生成 → 信号現示どおりに(パターン内の速度で)運転すれば警報なし/パターンに接近すると警報/パターンを超えると自動ブレーキ作動
    ・ATC: automatic train control、信号現示とすべての速度制限に対して自動ブレーキ(制御するのはブレーキだけで力行は運転士)、新幹線や都市圏の鉄道(地下鉄、山手線)など
    ・ATO: automatic train operation、すでに仙台市営地下鉄などで部分的に採用
    ・保安機器の取り扱いは厳格に: 運転士に警報 →「ここで警報を受けるはずがない、誤作動だろう」と判断(正常性バイアス)→ 事故
    ・前部標識(前灯)と後部標識(尾灯)、標識 = 他者に列車の接近・存在を知らせるのが目的(前灯≠運転士が前方を見るための照明)
    ・ホームの安全: ホームの見通し=乗降の安全確保のために重要、曲線外側ホームが最も見通しが利かない、仙台市営地下鉄はすべてのホームを直線にした

    ●より速く
    ・停車中は進行距離 0 → 時間短縮に最も有効なのは停車駅を減らすこと
    ・振子車体への誤解: 「車体を内側に傾けて遠心力を相殺することで速度向上」は誤解、車体が振子する→車体重心が曲線外側に移動→脱線防止の点ではむしろマイナス、目的はたんに乗り心地の改善
    ・定格速度 ≡ モーターが最高出力を発揮できる速度
    ・車: 変速機(ギア)があるのでどの速度でも最高出力 ↔ 電車: 変速機がないので定格速度をひとつしか指定できず、定格速度より低速でも高速でも出力が落ちる → スタートダッシュか巡航速度か
    ・狭軌 1067mm: JR在来線、東武線、西武線、小田急、東急、相鉄、名鉄、南海
    ・1372mm: 京王線(井の頭線を除く)
    ・標準軌 1435mm: 新幹線、京成線、京急、阪急、阪神、京阪

    ●運転士の思い
    ・マスコンとブレーキを2箇所から同時に操作できてしまうと危険 → キー挿入で機器ロック解除/キーを抜くとロック/他の運転室でキー挿入しても無効
    ・運転士のコアタイム=朝夕のラッシュ → 出退勤が早朝深夜になりがち
    ・乗務率 ≡ 実乗務時間(実際に列車を運転している時間)/ 勤務時間 (=現在は相当高い)
    ・運転士のミスはバスタブカーブ(慣れるまでの初期、疲労がたまった後半)→ 「1時間半の乗務+30分の休憩」を繰り返すのが最良
    ・睡眠時間が毎日ずれる → 居眠り要注意(とくに10時〜12時)
    ・早朝深夜に営業している店がない → 食事をどうするか(とくに早朝)
    ・定時運転への努力、「運転士は秒針に追われて走る仕事」
    ・列車が遅れる原因=乗降時間の増加 → 遅れを回復しようとするのは運転士の本能

  •  サブタイトルのとおり、運転士のOBが鉄道について著した本。
     電車は喩えのとおり「決められたレールの上を走る」乗り物なので、行程の選択や他の交通の干渉はない。だからといって全く簡単なものではなく、空転の抑止、カーブの速度規制、加速時・ブレーキ時の衝動防止と、毎度毎度の操作に緊張が求められるものだというのがよくわかる。
     電車の動力、制動機構の話題に比べて、私の好きな閉塞、信号、標識の話題が浅く広くなってしまっていて少々不満だった。また、運転士が指導を受けることに対して、現場の本音や意見が述べられている点は面白く読めるのだけれども、規制の根拠(法なのか、法準拠の規則なのか、監督官庁との「約束事」なのか、社の決め事なのか、事故の反省から自主的にやっていることなのか…)と裁量の範囲(運転士の裁量でできることなのか、選択肢のある指令を受けてできることなのか…)をはっきりと著してもらいたかった。

  • 初読の時は、直流、交流の仕組みの説明についていけなかった。しかし、幾冊か鉄道の本を読んだ後で再読することで理解が進んだ。「電車を運転する」ということと、それに伴う苦労を知らずにいたことも再認識もした。日本は世界に誇る定時運転が当たり前の国だが、もう少し運転密度を下げてダイヤを組めれば、無謀な運転による事故は防げるのでは? と思わずにはいられない。大都市圏ではコロナ禍で終電時刻を繰り上げているが、コロナ収束後も続けて良いのではないかと併せて思う。鉄道運転士のワークライフバランスが良くなりますように。

  •  40年以上、国鉄JRで働いていた元運転士による、電車の運転や運転士についての話(乗務していた岡山とか広島らへんの話がメイン)と、電車の運転を支える車体や動力、レール、信号や踏切の仕組みの解説。後半の機械やシステムの解説部分が全体の3分の2は超える。
     電車の運転操作に関する解説と若干のエッセイみたいなものかと思ったら、全然そんなことはなく、高校で習いそうな電気とか物理の話?も結構あった。正直読み通せるのかどうか不安だったが、文系で鉄ちゃんじゃないおれでもわりと面白く読める。細部はよく分からないけど、少なくとも全然気づかなかった部分に多くの秘密が隠れていることが分かった。例えば「曲線では左右の車輪の進行距離が異なるので、車輪直径が同じでは支障が出る」(p.45)とか、言われてみれば当たり前なのだけど、全然そういう視点を持ったことがなかったので、それだけで新鮮。だから「車輪の直径は車体内側寄りを大きく、車体外側寄りを小さくして差を設けている。」(同)らしい。さらに車体の傾きによる脱線を防ぐ目的で「フランジ」というのがある、とか面白かった。そしてそのカーブというのもどれくらいキツいカーブなのかを示す数値というのがあり、それがRで表されるらしい。「JR東海道本線の東京~新橋はR400の連続であり、山手線の品川~大崎の大カーブはほとんどR300である。」(p.67)ということで、Rの数値が小さくなればなるほどキツいカーブ(円弧の半径が小さくなる)、ということになるらしい。じゃあやっぱりあの福知山線の事故のあのカーブのRはいくらかなのか、とか阪急塚口駅の伊丹線のところのカーブはキツいよな、とか日本で最もキツいカーブはどこにあるのか、とかそういうことが気になる。それからモーターの話も難しかったけれども、「各段の中では速度向上につれて基本周波数が高くなり、主回路は音楽的な響きを奏でることになる。これを速度切換と誤解する向きがあるが関係ない。」(p.42)というところは、分かったような分からないような…。ただその後に「音色は某鉄道のものが最も音楽的に優れているそうで、音階を想定して切換周波数を設定したのなら設計者のセンスをほめてあげたい」(同)という、某鉄道というのは、あの京急のことなんじゃないか?と思ったけどその前のp.41にはJR四国の8000系の写真の下に「発車後の加速で聞こえる音楽的な響きは新しい時代を告げるかのようだ」とあるので、これのことなのかなあ。てかどんな音なんだろう?あと運転士の技量が光るのはやっぱりブレーキのかけ方、ということで、なんとなく乗客でも感じられる部分なだけに分かりやすい。けどやっぱり難しそう。「現実には許されないことだが、ごくわずかの行きすぎは停止位置を狙った的確なブレーキであるとして運転士の意識では減点ではない。速度が落ちてソロソロと進入するブレーキよりはるかに評価が高い。」(pp.100-1)そうだ。それで、京王線の新宿駅で止まる時なんかはビックリするくらいノロノロと入って、ここで停まるかと思ったらもう2ドア分くらい進む、という毎回何かしらを思ってしまうあのブレーキはどうなんだ、と思ってたら、ちょうどp.131に「車止の約4m手前まで進入する例」という写真で京王線の新宿駅が出ていた。ふつうは20mらしく、「5mは運転士にとっては大変な緊張で、停止のさいの衝動緩和も後回しになる」(p.132)らしいから、あれはあれでやっぱり理由があってのことなんだと思った。そして「信号」の話になると途端にヒューマンエラーの話が出てくるが、本当に単純なことに見えるけど、それだけにミスをしないようにする、というのがいかに難しいことなのか、というのが分かった。1本の線路に同時に入れる電車は1つだけ、というのを「閉塞」と呼ぶらしいが(飛行機もレーダーを使わない管制だと同じ考え方がある?と思った)、「現実に閉塞の取り扱いミスによる正面衝突や追突はいくつも発生している」(p.178)らしく、「いくつも」というのだからちょっと驚いてしまう。「連絡ミスによって2本の列車を進入させ、衝突事故を起こした例がいくつもある。こんな単純な確認を誤るというのは信じられないが、混乱時には人間の注意力が想像以上に低下することの実証であろう」(p.180)ということで、状況は違えど全く他人事ではないよな、と思った。ほんと、失敗できないことは何回確認してもし過ぎということはない、というのが、おれがここまでの社会人生活で学んだことだと思う。だからもしおれが運転士だったら、失敗が怖いからそれこそ信号の度に指差しとか呼称とかやって何回も確認するしかないだろうなあと思うけど、「鉄道によっては運転士が休むヒマがないほど連続して行っている例がある。腕を振り回し、大声を出すことは意識付けには有効だが、回数が増えるほどマンネリ化することも心配しなければならない。ほどよい刺激が脳を活性化するのであって、慣れすぎて反射的に行うのでは人間の判断の誤りを防止するにはマイナスであろう。マリオネットのような運転士を見ると、この鉄道はこうした動作が多いほどよいと勘違いしているのでは、と気がかりである。」(p.200)と言うのだから、難しい。精神論もダメ、頻繁な確認「作業」もダメ、というのだから、厄介。
     ということで、やっぱり運転士って大変だなあと思う。前にやたら居眠りする同僚がいて、「電車とか乗り物好きだけど、それで運転士とかになったら自分とんでもないことになるだろうと高校生の時に気付いて、その道に行かなかった」といった人がいたが、仮におれも運転士になったら、一番心配なのは居眠りかな、と思う。「安全・高速・快適」が「交通機関の三原則」(p.236)だそうだが、時間に追われるプレッシャーを抱えながらの安全とか、経済的な運転とか、その狭間にいる運転士という人たちの仕事はすごいなあとただただ思った。
     確かに、今まで当たり前に乗ってきた電車について多くのことの触りが知れるのは楽しく、電車に乗るのが多少は面白くなるかもしれない。(20/08/30)

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