大平正芳: 「戦後保守」とは何か (中公新書 1976)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (300ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121019769

作品紹介・あらすじ

戦後、「保守本流」の道を歩み、外相・蔵相などを歴任、一九七八年に首相の座に就いた大平正芳。その風貌から「おとうちゃん」「鈍牛」と綽名された大平は、政界屈指の知性派であり、初めて「戦後の総決算」を唱えるなど、二一世紀を見据えた構想を数多く発表した。本書は、派閥全盛の時代、自由主義を強く標榜し、田中角栄、福田赳夫、三木武夫らと切磋琢磨した彼の軌跡を辿り、戦後の保守政治の価値を問うものである。

感想・レビュー・書評

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  • 面白かった。
    大平正芳の人となりを知ることができたし、戦後政治史のおさらいにもなった。
    大平の学生時代や官僚時代のことをもっと知りたかった。その後の政治姿勢を培ったものは何だったのか。

  • 安倍・菅政権を考える上で私たちは日本の保守政権をしっかり振り返る必要がある。そのために大平は、とても重要な結節点にあった政治家であることが本書にも見受けられる。

  • 大平氏の評伝というよりは戦後自民党および保守派の変遷を分かりやすくまとめた良書。

  • 戦後保守の流れを大平正芳の生涯を通して外観できる優れた一冊。
    香川県の貧農に産まれ苦学して東京商科大学、大蔵省、終戦。池田隼人の秘書官、政治家に、42歳。宏池会。
    三角大福、小さな政府、田園都市構想、家庭基盤充実、環太平洋連帯構想。
    日中国交回復では外相として指揮、一般消費税で敗北、解散総選挙中に心筋梗塞で死去。70歳。

  • 子供ごころに首相として最初に認識した人物で、在任中に亡くなったという以外、あまりイメージは持っていなかった。たまたま、今年の夏休みに旧師を訪ねた際に、私の先輩にあたる、という由で話題に上った。カーターかキッシンジャーか(どっちか忘れた)が信頼を寄せていたとか、周恩来が褒めていたとか、人物的な評価があったというような話だった。また、首相も自民党顔の人に替わったところだし、普段はあまり読まぬ政治家の評伝を読む気になった。

    讃岐の貧農(は少し言いすぎで中の上の農家だったようだ)の倅。政治家としては貧しい家庭の出身だが、奨学金で東京商大に進学して大蔵官僚を経て政治の世界に入る。

    官僚時代に中国駐在を経験。その影響もあるかどうか、池田内閣での外相就任以降、政治家としてはわりあい外交での活躍が多かった。代表は角栄と組んだ日中国交回復。

    鳩山、岸、福田が国家主義・戦前回帰派とすると、池田、大平は戦後憲法にも肯定的で、吉田茂の流れを汲む軽武装・経済重視の「保守本流」のラインとなる。

    思索的な文筆家・理論家、政治倫理にはあまり拘らない良くも悪くも中庸を好む現実主義者の両面があった。

    1970年代アタマには、今までは欧米へのキャッチアップでやれていたが、経済成長も曲がり角に来て「戦後の総決算」を唱えていた。これは大平に限らぬ問題意識。考えてみると40年後の今日でもその問題に答えは出ていないようだ。

    70年代にわたって三角大福が総理の座を激しく争うわけだが、いったい何が争点なのかはよく分からん。積極財政・親中国の田中と緊縮財政・親台湾の福田くらいの色分けはある。でも政策はすり合わせで決まって、ポジションだけを熾烈に争う感がある。いま現在の政治も同じか。

    政治の役割を限定的に捉えて権力の行使に抑制的だった。70年代のインフレ当時も、無理矢理物価を抑えるよりは市場重視の姿勢。はっきりしないが「小さい政府」派と言えるかもしれない。消費税導入でつまづいたのは皮肉。

    こういう人、好きかも。

    座右の銘「一利を興すより、一害を除くに如かず。」by耶律楚材

  • 大平正芳個人の評伝だったが、同時に戦後日本の自民党政権の変遷を語ってもいる。前半は丁寧に語られているが後半、特に田中以降はやや急ぎ語っている感。そのせいか官僚時代と池田に仕えた時代の印象が強く残った。またここで語られた自民党首班の中では最も敗戦国としての日本を背負っていた人物のようにも取れる。真面目でよく勉強しており残されている論文等からもそれがにじみ出ているが、他の首班に比べ打ち出された政策がこじんまりとしている印象も受ける。興味深いのは「大平(と河本)は、日米安保・自衛力の他に政治・経済・文化の総体の力で「日本はいい国だ」と思わせることが外国に侵略する気を起こさせない、つまり安全保障だとしている。」「福田が文化を「守る対象と捉えているのに対し、大平は「守る力の一環」として位置付けている」(p.225)といった考え方。これは「ソフトパワー」に通じるものではないだろうか。
    たらればだが大平氏が政治の世界に入らず官僚職を全うしたらどうなっていたのだろうと思う。
    一般に使われる「党人脈」「官人脈」が一箇所しか見られなかったのは意外。
    大平についての著作なのに「福田ドクトリン」が丁寧に語られている(p.219)が、確かにこれが対アジア政策において重要であることは疑いない。
    子供ごごろに当時の政治というと自民党内の派閥争いという印象で見ていた。そんな時代を資料で見せてくれた一冊だった。

  • 官僚時代のエピソードに、政治家「大平正芳」の一端を感じる発言がある。終戦が決まった数日後、同僚の宮沢喜一に向かって、「これで日本は何も無くなってしまった。これからどうやって日本人を食わせるか。外地から帰って来る人も多いだろう。何百万人が餓死しなければ生きられないかもしれない。すべてが止まってしまった今の日本では、鉄道だけがとにかく動いている。この鉄道を担保にしてアメリカから金を借りる手はないだろうか。」待ち受ける苛酷な現実を前にしながらも、この気概と志。成長から衰退に向かう日本に向けてネガティブな意見が飛び交っているが、敗戦直後と比べれば遥かに現在の方が恵まれていると思うし、打つ手が無いわけではない。本書は大平の言葉に潜む思考・思索を通して、彼の目指した戦後保守とは何だったのかを考察する。そこには歴代の政治指導者たちとの関わりー政治指向が対峙した岸信介、池田勇人との軋轢、盟友田中角栄との固い絆、福田赳夫との対立、バルカン政治家三木武夫との確執等ーを彼らの掲げた政策と政治志向を交えながら、丁寧に書かれている。戦後政治史の概観を知る上での格好の書だと言える。大平が総理時代に提唱し企画したことは21世紀を視野に入れた構想であったこと。この慧眼ぶりを知るにつけ、昨今の政治家の言動をどうしても比較してしまう。あなたには「こいつの考えをちょっと聞いてみたいと思える政治家はいますか?」

  • 20160330~ 0426田中角栄に続いて同時代の政治家史。

  • 角栄本を読んだ後であったが、前者が角栄という人物に主に焦点を当てていたのに対し、こちらは大平正芳という人物と政治状況を描いた書。

  • 読みやすく、かつ素晴らしい内容です。丹念に文献を調べ、ここぞという時に引用してくるのが心憎いです。かつて、日本にもこのような哲人政治家がいたということは、もっと知られて良いと思いました。

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著者プロフィール

獨協大学教授

「2015年 『第二の「戦後」の形成過程』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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