東京ひとり散歩 (中公新書 2023)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121020239

感想・レビュー・書評

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  • 1940年生まれのドイツ文学者、エッセイストの池内紀氏との出会いも初めて。著者との初めての出会いから、またその著者の著書にも興味が湧いてくる。著者は、カフカの翻訳で著名な方のようだ。

    ブックオフで100円の新書を数冊買ったうちの一冊で、2009年9月発行と少々古い。ぶらり散歩をしながら街並みの紹介などもされており、当時と随分変わってしまっている部分もあるだろう。例えば、築地本願寺あたりを散歩された後、築地市場でグルメを楽しまれる様子が書かれているが、こういう辺りは古さを感じざるを得ない。

    それでも、東京の主だったスポットを様々なウンチクを語られながら、歴史を振り返りながら散策されるので、ガイドを伴った紙上ツアーを楽しむことができる。

    その地にまつわる歴史の回想があったり、地名の由来の話が出てきたり、その地に関わる書籍の紹介があったり、また街並みの分析をしてみたりと、最近のすぐにグルメ話に直結するものとは異なり、深みのある散歩である。

    例えば、紀尾井町。江戸の頃は大名屋敷が占めていて、紀伊和歌山、尾張名古屋の両徳川氏、また近江彦根藩井伊氏の中屋敷が並び立っていたことから、明治の初めにその頭文字をとって命名されたと紹介。

    さらにお隣の平河町は、二代将軍徳川秀忠が名付けた由来などが紹介されている。後半に出てきた「汐留」の地名に関する話も面白かった。

    こんなくだりを読むと、地名の由来本も読んでみたいなと新たな興味を広げてくれる本でもある。

    法務省のある辺りは、米沢藩上杉家の江戸藩邸があったとか、文京区西方は、少し前まで「阿部様の町」とよばれていたという話から、旧福山藩の阿部家の歴史につながっていく。

    向島では、永井荷風の「墨東奇譚」や滝田ゆうの漫画「寺島町奇譚」などに触れられたり、護国寺の共同墓地には、漱石や荷風、鏡花、八雲が眠ると、ご自身がリアルに馴染んでこられた作家に思いを飛ばしたりされている。

    こうして、また荷風の時代のその土地の見え方はどうだったのかなとか、新たな関心に結びついていく。

    愛宕山にある青松寺前にあったという戦中下の名残「肉弾三勇士」のブロンズ像の話や、築地川銀座公園にある「名犬チロリ」の像などは、その存在すら初めて知ったが、その背景にある話をちょこっとネット検索してみると、さらに深みのある話を知ることができる。もちろん著者は、そのことを十分知って、本書を著されているから、そういう話が登場するのであるが・・・。

    本書でもっとも楽しかったのは、「マイ・アンダーグランド・シティ 八重洲地下街」のグルメ話と、「一日古書めぐり 早稲田・本郷・神田」だった。著者が優雅にひとりきままな散歩を満喫されている様子がとくに感じられ、読んでいるこちら側もとても楽しい気分になれた。

  • 先日亡くなられたドイツ文学者のエッセイ。川本三郎氏が追悼の記事を新聞に書いていたのを読み、書棚からこの本を取り出してみた。よく知っている界隈のエピソードは楽しい。斎場の話にはちょっとドッキリ。中公新書から出ている他のエッセイもさっそく購入。

  • 永井荷風の「日和下駄」を下地にしたような東京ぶらぶら記。

  • お風呂に入りながらちびちびと読んだ。
    池内本は最高の暇つぶし。

    東京各所のぶらり旅で、池内さん独特の、ちょっと身を引いたような視線(偉そうというのではない)から書いているが、官庁街や銀座などの話よりも、やはり下町や古い町並みを歩いたときのほうが、本人のこころもなごんでいるらしく感じた。

  • 東京という街には色んな景色が詰まってる。

    どこの駅にふらりと降りても、新旧聖俗入り混じった町がある。

    ちょうど、色んな町をぶらぶら歩きたかったところだったので、いい指南書になる。ぼんやりと感じたことを本書のようにさらりと言葉にできればなおいいのだが。

  • 18歳で上京したドイツ文学者の著者が、「東京の居候」感覚で、様々な街を散歩しながら、独りゆっくりと語る随想集。雑誌の連載だったようで、各章の読み切りが、それぞれ一回の散歩に対応するが、出かける街のラインナップが良く、山の手から下町まで、バランスよく配合されている。面白いことに、東京の街は、山の手下町問わず、どこを訪れても、ふたつの対立項(昭和と平成、聖と俗、漢字と横文字…)が絡み合っているのがわかる。ユーモラスにトボけた口調の中に、東京への愛情と皮肉がたんまりと込められた一冊だ。

  • 高校のОB いつまでも姫路を想う大先輩
    わたしも後輩として 同じコースを散歩したい

  • 教養をもって東京を歩くとこうなる、という軽いエッセイ。ウィットもあり、洒脱でもある。

著者プロフィール

1940年、兵庫県姫路市生まれ。
ドイツ文学者・エッセイスト。
主な著書に
『ゲーテさんこんばんは』(桑原武夫学芸賞)、
『海山のあいだ』(講談社エッセイ賞)、
『恩地孝四郎 一つの伝記』(読売文学賞)など。
訳書に
『カフカ小説全集』(全6巻、日本翻訳文化賞)、
『ファウスト』(毎日出版文化賞)など。

「2019年 『ことば事始め』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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