上海 - 多国籍都市の百年 (中公新書) (中公新書 2030)

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  • 中央公論新社
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感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121020307

作品紹介・あらすじ

アヘン戦争後、一八四二年の南京条約によって開港した上海。外国人居留地である「租界」を中心に発展した街は、二〇世紀前半には中国最大の「華洋雑居」の地となり繁栄を極める。チャンスと自由を求めて世界中からやって来る移民や難民たち、英米日の角逐、勃興する中国の民族運動。激動の時代のなかで人々はいかに暮らし、何を思ったのか。本書は国籍別の検証を通じ、上海という都市独特の魅力を余すところなく伝える。

感想・レビュー・書評

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  • 予想以上に面白い!
    清潔な日本に対して「魔都」としての上海
    日本ならではの妖しさもあるだろうけど、土臭さのないギラギラした妖しさが上海にはあったのかなと思った

  • ここ数年、散々っぱら上海に行ったのに歴史について何も知らないなあと思っていた。上海の近代史を知りたかったのでこの本を。といっても近代史しかないんだけど。そもそも租界って何なのかもあやふやだったのだけど、こんなにも色んな国が出張っていた場所とはしらなかった。その色んな国、イギリス、アメリカ、日本、それぞれの視点からみた上海の変遷を垣間見ることができる。こんな人たちもいたのかと驚きだったが、ロシア難民とかユダヤ難民から見た上海というのも描かれる。そして中国近代史の主人公たち、孫文、蒋介石とか毛沢東たちが、上海を舞台に戦争・革命が繰り広げる。ああこういうことが起きてたのねって、初めていろいろな中国史が腹落ちした気分になれた。上海ってイベントフルな場所であったことをつくづく感じさせられる。文革後10年以上眠っていた上海を、最後に蒋介石が再び目覚めさせる、っていう終わりも良かった。

  • 読後感は心地いいとは言えないが、楽しいばかりが歴史じゃない。上海旅行中に読んだ。

    上海の百年がイギリス人、アメリカ人、ロシア人、日本人、ユダヤ人、中国人の視点で読み解かれる。
    この構成は読めば読むほど適切だと思えた。上海は多様なルーツを持つ人たちによって発展した街だからだ。

    考察対象の時代・国籍の人の手による文章が引用されるので街の雰囲気が分かる。戦前の日本人街にはあまり住みたくない。

    筆者の専門が比較文化研究であるため、花開いた音楽の話はとてもよかった。文化を育む人々の貢献。

  • EYa

  • 上海旅行がさらに楽しみに!

  •  中国(中華人民共和国)の政治の首都は北京だが、経済的には上海が首都と言っても過言ではない。日本における東京ほど一極集中ではないが、序列を付けるなら間違いなく一番になるだろう。上海生まれの中国人は、自分が「上海人」であることに強烈な自負を抱いている人が多く、他の地域から上海に来た中国人に対して謎の優越感を持っていたりする。

     ウン千年の歴史の中で一度も王朝の首都になったことのない上海が、なぜ今の地位を得たのか。それはかつてここに租界があったからだ。本書の副題にある百年というのはかなり正確な数字で、イギリスが最初に租界を作った1845年から日本が撤退する1945年までのちょうど100年間、上海は外国人が支配する街だった。

     租界には中国(清)の統治が及ばず、だからと言って英米仏の本国政府が真剣に統治するわけでもなかったため、租界は一種の自治区となり、様々な事情を抱える人々が世界から集まってきたようだ。「魔都」と呼ばれたその怪しげな雰囲気は、そういう人々が作り出したのだろう。本書はそんな上海の歴史を、イギリス人、アメリカ人、ロシア人、日本人、ユダヤ人、中国人の視点から解説している。

     ただ商売するだけだったイギリス人やアメリカ人と違い、革命から逃れてきたロシア人やナチスから逃れてきたユダヤ人は、上海に華やかな文化芸術をもたらしたという話などは大変興味深い。

     やがて日本が進出して上海も占領下に置かれると、敵国人である英米人は去り、最後に日本が敗戦して撤退すると、上海は100年ぶりに中国人の街に戻ることになる。それから現在までの70年余りの期間はまた別の波乱があったようだが、それはまた別の物語となる。

     私が上海に住んで一年半余りだが、かつて日本人が多く住んでいたというエリアには行ったことがなかった。もうその時代の面影など残っているはずもないが、道だけは当時とあまり変わっていないようなので、一度くらい歩いてみようと思う。

  • 2009年刊。著者は中央大学文学部教授。◆自由貿易都市であり、中国(清朝を含む)政府の支配から免れていたこともあって、善悪問わず活気にあふれていた印象の強い戦前上海。この実際の模様、特に表の面を、国別観点で検討(日英米仏、白系露、そしてユダヤ)。ロシア革命を逃れ難民と化していた白系ロシア人の来し方は、反共産主義の集団ながら、最終的には中国共産化という帰結を迎え、興味を引く内容。加え、文化面(音楽・演劇)で彼らの果たした役割の大なることも印象的。ただ、阿片・風俗等「魔」の面が少なく、やや綺麗事の感は残る。

  • 租界時代の上海を時代、移り行く租借国の立場ごとに、文化、風俗の視点から読み解く。白黒写真、地図、通りの名前など、今もあるもの、使い方が変わったものなど。日本の租借時代の荒んだ感じが悲しい。

  • 主に19世紀半ばから20世紀半ばの上海租界の多国籍性を出身国(民族)別に章立てして書いている。文化・生活の描写が中心である上、近い時代のこととあって当事者の見聞記も多く、分かりやすい。難民として来たロシア人とユダヤ人は外国人の中でも最底辺、ただそれだけに中国人に近い位置にいたようだ。アメリカ人は、エドガー・スノーとその妻を挙げてリベラルだったとしているが、彼らはアメリカ人の中でも例外的ではないか。新興国で後発帝国主義国であった分、イギリス人ほど帝国主義的生活様式ではなかったのは確かだろうが。中心的存在だったイギリス人については、日本の軍事力の台頭とともにその影響力が低下していく。居住人口が最大だった日本人だが、英語やフランス語もできず、また文化面でも他の欧米人とは一線を引いた生活だったようだ。そして中国人については、独立の章で挙げられた宋美齢と聶耳をその代表とはできないだろうが、他の章で、買弁・使用人・学生・夜の職業といった様々な形で外国人と関わっていたことが述べられている。また中流以上の中国人にとっては音楽や映画をはじめ流入した外国文化も享受していたとのこと。

  • 中国の一地方都市にすぎなかった上海が、アヘン戦争後の南京条約により開港し、約100年間の租界時代を経て国際都市に発展して行く様子について、日本人や英国人、米国人、白系ロシア人、ユダヤ人などが租界および中国社会に与えた影響や、これらの外国人たちの租界でのライフスタイル、中国人との交流などを通して描いている。個人的には太平洋戦争前後の上海と言って思い浮かぶのは、魔都、アヘン窟、ジャズ、紫煙といった漠然とデカダンなイメージだったけれど、行政や経済、文化活動、建築スタイル、居住外国人の本国の政策などの説明を受け、上海という都市の変遷をより細かく分かることができて面白かった。

    上海を開港させた英国が租界を設置したのが1845年。同じくアヘン戦争で英国の植民地となった香港とは異なり上海は引き続き清朝の領土であり続け、英国は行政権を持ってはいたものの実質的な租界の運営は当地に居留する外国人の行政組織に委ねられた。もともと自由貿易を行う商人の便宜のために設置された租界は、後に米国の租界と合併して共同租界となってからより自由都市の性格が強まり、ユダヤ人やロシア革命を逃れた白系ロシア人が大挙して押し寄せている。日清戦争を契機とする外国の投資の増加で産業革命が進み、英国への茶の輸出が減少する代わりに紡績業などが急速に発展、1920〜30年の大戦間には金融の一大センターとして繁栄の極みに達したが、上海事変の辺りから日本の進駐が進むに連れ雲行きが怪しくなる一方、それ以前から上海の中国人知識人が租界を帝国主義の象徴だとして回収を求めるなどの運動があり、領土でもない租界を守るという英米など本国の意志表示がないまま、租界の歴史は一旦幕を閉じることになる。

    本書に掲載されている第二次上海事変後の日本軍による共同租界を貫く大規模なヴィクトリーマーチの写真には、私服の外国人が行き交う中6000人もの日本兵が行進する様子が写っており、これはもう超KYという感じで興味深かった。地名や建物の名前などわりと細かく出てくるので、現地に行くときに読むのがより良いと思う。

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著者プロフィール

榎本泰子(えのもと・やすこ)
中央大学文学部教授。専門は中国近代文化史、比較文化。
主な著書に『上海オーケストラ物語―西洋人音楽家たちの夢』(春秋社、2006年)、『上海―多国籍都市の百年』(中公新書、2009年)、『「敦煌」と日本人―シルクロードにたどる戦後の日中関係』(中公選書、2021年)、論文に「上海フランス租界史研究の現段階」(『紀要 言語・文学・文化』第一二九号、中央大学文学部、2022年)などがある。

「2022年 『上海フランス租界への招待』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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