歌う国民: 唱歌、校歌、うたごえ (中公新書 2075)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (293ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121020758

作品紹介・あらすじ

日本人の心の原風景として語られることの多い唱歌だが、納税や郵便貯金、梅雨時の衛生などの唱歌がさかんに作られた時期がある。これらは、ただひたすらに近代化をめざす政府から押しつけられた音楽でもあった。だが、それさえも換骨奪胎してしまう日本人から、歌が聞こえなくなることはなかったのである。唱歌の時代から「うたごえ」そして現代までをたどる、推理小説を読むような興奮あふれる、もう一つの近代史。

感想・レビュー・書評

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  •  音楽を巡る近代史、あるいは近代史における音楽に関する本、と言えば良いだろうか。
     まず第一章では、維新政府がスタートして早々の明治12年に、後の東京音楽学校の前身である「音楽取調掛」が設置されたことから始まる。それは西洋の"芸術"を導入しようとしたものだったのか?それは、近代国民国家を作るために、「国民」が共有できる「国民音楽」をつくり、皆で歌うことによって帰属意識や連帯意識を高めることを目的としていたとする。

     続く「唱歌」の章では、鉄道唱歌を例に、地理唱歌、歴史唱歌といった啓蒙のための唱歌について、現在の我々がイメージする"音楽"よりも広く、帰属意識や連帯意識を形成、維持するために歌われる「コミュニティ・ソング」というコンテクストで捉えることが適当だという。
      
     後の章では、卒業式の定番ソング《仰げば尊し》と《旅立ちの日に》の対照、校歌、県歌をめぐるドラマ、そして『うたごえ運動」について、事実の紹介とともに
    その意味合い、位置付けが語られる。

     エピソードとして興味深い事実や内容がふんだんに紹介されていて、それだけでも面白いが、現在の常識や固定観念に囚われず、時代状況に即して見ていけば、全く違って見えてくるものがあることを学ぶことができた。

  • 唱歌、卒業式の歌、校歌、県歌、労働者の歌をそれぞれが作られた社会状況に照らして分析する。

    地理唱歌、唱歌遊戯、1891(明治24)年「小学校祝日大祭日儀式規程」の制定などなど

  • 明治~高度経済成長期あたりを中心に、唱歌、校歌、社歌、それにうたごえ喫茶などの背景にある時代背景やイデオロギーを語る。

    度々筆者が言及しているのが、現在の価値観だけで捉えてはいけない、ということ。全体主義的と思えたりヘンテコな歌詞だと思えるものも、当時の社会情勢からするとそれが当然だった可能性がある、と。また、例えば戦後のうたごえ喫茶は左翼的な政治活動と結びつけて考えられがちだが、「そういう人達もいた」というくらいに捉えた方が良いようだ。

    しかし筆者がいくらフォローしても、昔の唱歌が政治的プロパガンダの色合いが濃い感は否めない。実際、明治政府は日本を近代国家にしていく過程において「日本国民としての統一感」「品性のある国民」づくりの一環として唱歌を制定してきたようだ。

    他にも、昔は当たり前のように卒業式で歌われてきた「仰げば尊し」は色々思想的な物議をカモスコトガあって今ではあまり歌われなくなってきているという話などが興味深かった。

  • いま私たちがくちずさんだり、郷愁を覚えるなどと形容する唱歌や校歌といったものが盛んにつくられた近代においては、それらには国家のような大きな力による大衆の啓蒙や知識づけ、扇動……いってしまえばプロパガンダ的な要素があったということを論じている。論文の構成で、ですます調で書かれているような感じ。
    唱歌に啓蒙的な要素があるとは以前にも聞いたことがあるし、たとえば年号の語呂合わせとか電話番号をメロディー化するとか、要は覚えるためにキャッチーなフレーズにしたり歌にしたりすることで、覚えるというより身にしみ込ませていくのが人間ってものなんだなと思った。そう考えると、詩でもなく曲でもなく「歌」っていうのは面白い媒体?媒介?だよね。
    唱歌とか校歌、そのほかこの本で触れている社歌とか労働歌、うたごえ運動で親しまれた歌とかはみんなで歌うもの、つまりみんなが知っているものでもあるわけで、だからこそ、啓蒙とか意識の醸成とかの目的遂行に役立つ。最近はみんな、自分の好きな歌を独りで聞き、独りで聴く方向に向かっているから、こういう歌の特性って薄くなっていくのかも。

  • 鉄道唱歌をはじめとする唱歌や、校歌や県歌などの成立を知ることができます。県歌の代表例として、信越本線が歌われている長野県歌のエピソードが載っています。

  • 新書文庫

  •  明治から現代まで音楽という切り口から社会を分析する。けっこう厚くて話題も多岐にわたる。一番言いたいことは、一見別物に見えるものでも実は繋がっている。そこでこれまでとは別の視点から歴史を捉えなおすということだろうか。
     戦前と戦後で180度方向が変わったように見える文化活動も実は共通の要素があったり、昔流行したものが現代で再び流行ったりするのは根底に大きな流れがあるから。それが国民音楽だったり「国民づくり」なのだ。

  • 常識や紋切り型の論理を疑ってみようという方法論で論考が進められている。

  • 「換骨奪胎」がゲシュタルト崩壊した。物事に対する多角的視点を学ぶのに役立つ良書。

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著者プロフィール

東京大学大学院人文社会系研究科教授

「2007年 『ピアノはいつピアノになったか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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