日本経済の底力 - 臥龍が目覚めるとき (中公新書 2124)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (179ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121021243

作品紹介・あらすじ

東日本大震災後の日本を立て直すにはどうすればよいのか-。この問題を考えるとき、震災前の日本経済が停滞していたことを忘れてはならない。以前に戻るのではなく、復興とセットになった新たな成長が必要なのだ。そのために効果的な取り組みとは何か。本書では、飛躍的成長の核になる。産業集積の考え方から、TPPの本質までをわかりやすく説き明かし、まだ眠っている日本の力を最大限に生かす道を明解に示す。

感想・レビュー・書評

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  • 戸堂康之著「日本経済の底力」中公新書(2011)
    本書の特徴としては、経済学を中心とした学術的な実証研究の結果をもとにしていることだ。それによって、東北の地震による復興、そしてその復興を超えた成長のために乗り越えなければならない2つのことで議論を展開していることだ。1つがTPP(環太平洋戦略的連携協定)の締結により、日本経済をさらにグローバル化して、外国との貿易、投資、知的交流を活性化させること。つまり筆者はTPPについては、積極的な論者となっている。もう1つが東方をはじめとして日本の各地に特区をつくることで高度な技術を核とする産業集積を創出することである。産業集積が経済成長を促進する上でどの程度の効果があり、どのような方策や政策をおこなえばよいかについて詳細に述べている。

    *一般的に、革新的な技術が生まれても、普及するには時間がかかる。例えば、日本にはじめて自動車が輸入されたのは、1989年であり、1904年には国産自動車第一号も作成されたが普及にはなかなか結びつかなかった。しかし、初上陸から25年後の1923年に関東大地震が東京を襲い、復興のための輸送手段として自動車やトラックの有用性が認められたためにようやく普及が進んだ。大災害の作用はシュンペーターのいう「創造的破壊」にも通じる。大災害たもたらす容赦ない破壊から、新しい成長の芽が育つということなのだ。
    *輸出から生産性への因果関係を示すデータがある。日本のデータをつかった研究では、輸出をすることで企業の生産性成長率は平均で2%ほど上昇することが見いだされている。海外直接投資をすることでもやはり生産性成長率が平均で2%あがるとの実証結果がある。もしすべての企業の生産性成長率が2%あがれば日本全体のGDP成長率もおおむね2%上昇する。
    *しかし、生産効率が向上することよりももっと重要なのは、輸出や直接投資といったグローバルな活動を行うことで、企業が世界とつながり、海外の最先端の技術やアイデア、情報にふれ、技術や経営の確信を行うための知識や手がかりを得ることができることである。
    *日本の輸出額の対GDP比は15.6%であり、主要先進国、新興国の中では最低レベルである。つまり、日本は輸出大国でもなければ、外需に依存した国でもない。日本では、日本企業はアジアに投資しているように思われているが、実は対外直接投資の対GDP比で言えば、他の先進国と比べると低い。
    * TPPの特徴は何と言ってもその規模である。交渉中の9カ国のGDP総額は、正解の28%である。むろん、これは世界のGDPの24%を占めるアメリカが含まれていることが大きい。さらにもし、日本がこれに参加すれば世界のGDPの三分の一をしめる巨大な自由貿易圏となる。貿易を拡大するにしても、つながりによる技術や情報のやりとりの効果にしても規模が大きい方がメリットもおおい。
    *TPPに日本が参加した場合には、日米のGDPで全体の96%を占めることになる。このことからTPPは実質的には日米のEPAであるとの議論がある。また日米間の工業品に対する関税はすでに低いこともあって、TPPは必要ないとの議論もある。しかしTPPに参加する可能性の高いアメリカとマレーシアについて、日本からの輸出をみてみると必ずしもこの議論は正しいとは言えないことがわかる。

  • ふむ

  • 東日本大震災直後に書かれた、震災復興提言の書である。論旨は明快でわかりやすいが、震災から10年近くが経過した現在から考えると、提言の内容はどうであったか。よく考える必要がある。

  • 【一言】著者は経済研究者なので、本書でなされる経団連チックな提言(特区構想、法人税引下げ&消費税上げ、等)は冗談だと思いたい。その前の分析も微妙なので、本気で改訂版を出してほしい。。

  • 復興+成長とTPPとのことなので面白そうと思って購入したものの、なんか違う。災害(戦災を含む)が長期的には経済に影響を与えない事、ただし、衰退したところに災害を受けると、衰退を加速し元には戻らない事、産業集積については興味深く読めたが、TPPのキモである(と個人的に考える)ISD条項には一切触れてないのでTPPは実質関係なかった。輸出促進が技術革新に有効だよ。数字で出てるよってのはテイクノートしておく

  •  TPP推進の他、経済グローバリズム、一元化に対し強い親近性を持つ著者による日本経済の処方箋論。

     本書からは理解しがたい不明点。
    ① 米国経済が強い理由は真に輸出か。海外直接投資?。両者の差異は?。
    ② 製造業ではなく、いわゆる役務提供業の輸出とはこれ如何。
    ③ 一人当たりGDPが幸福度を反映する点が所与の前提。結論を直ちに否定しないが、何故そうかは明快にすべき。
    ④ 日本の人口(特に生産人口)急減効果を如何に把捉しているか不明。
    ⑤ 全般的に根拠を信用せよという前提で書き過ぎで、他の研究者による根拠の是非を安易に借用していないか疑問(結論は是でいいが)。
    ⑥ 言語障壁の問題。
     日本人の英語他の外国語能力と外国人の日本語習得・日本人の外国語習得の困難性。

     新奇事項。
    ① 自由市場経済は合成の誤謬のような事態を生んで、かえって海外との結合を阻害するとの視点。
    ② 優遇税制や技術開発の直接的経済的支援よりも、公的なネットワーク構築・場の提供の方が安価で効果的な可能性。特に対中小企業。
    ③ 東京一極集中への懸念。
     他地域の発信力の低下は、東京のネットワーク先の喪失を意味し、創造力・発信力の全般的な沈下を招来。各地の大学とその周辺に情報の集積地域を。
    ④ 災害後に既存産業を復活させるだけでは縮小再生産にしかならず。別の付加価値を。

     2011年刊行。著者は東京大学大学院新領域創成科学研究科国際協力学専攻教授。

  • 東日本大震災後の日本を立て直すにはどうすればよいのかについて、経済学を中心とした学術的な理論や実証研究の結果に基づいて、2つの提言を行っている。1つ目は、TPPをはじめとするEPAの締結や、起業に対する情報支援によって、日本人、日本経済をさらにグローバル化して、外国との貿易、投資、知的交流を活発化させることである。2つ目は、東北をはじめとして日本の各地に特区をつくることで、高度な技術を核とする産業集積を創出することである。2つの提言とも、「つながり(3人寄れば文殊の知恵効果)」が経済成長のために重要であるという考え方がベースとなっている。
    図表も交えながら、わかりやすく、論理的に議論が展開されており、一定の納得性があった。ただ、具体的提言であるTPP参加と特区が、どのように「つながり」をもたらすかということについては十分に理解できたとはいえなかった。

  • 東日本大震災から復興さらには震災以前よりも飛躍的に経済を活性化させるために地方に産業集積特区作って、力はあるのに国内にとどまっている臥龍企業を中心にEPAで海外進出に期待しつつ企業同士のつながりを支援し「三人寄れば文殊の知恵」効果で技術経済発展しようぜ!日本はまだまだやれるよ若者にも期待してる!
    という話。
    文系にも読みやすい。

  • サプライサイドの話が多かったが、研究論文を多く引用していて面白かった。
    要はTPPを起点にグローバル化し、地方に減税特区を作って産業集積を促進せよという内容。

    「法人税は上げるべからず。所得税より消費税の方が公平だから消費税増税が良い。」というのもよく分からないし、三人寄れば文殊の知恵効果というのもいまいちピンと来ないが、とにかく日本経済を復興以上に甦らせ、豊かになりたいらしい。
    資料が豊富なので、目を通すだけでも十分に勉強になる。

  • TPPなどを通じた産業集積による地震後の復興について
    経済学知ってる人には特に目新しい内容はないし、知らない人はあまりいい評価をしないであろう内容です
    まあ一度は目を通して見ても

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著者プロフィール

戸堂/康之
早稲田大学教授

「2021年 『開発経済学入門 第2版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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