官僚制批判の論理と心理 - デモクラシーの友と敵 (2011-09-25T00:00:00.000)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (187ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121021281

作品紹介・あらすじ

多くの人が福祉社会を志向しているにもかかわらず、それを支えるはずの行政への不信が蔓延している。本書では、目まぐるしく変わる政治状況を横目に見ながら、官僚制批判のさまざまな連関が辿られていく。トクヴィル、カフカ、ハーバーマス、シュミット、アーレントら幅広い論者が呼び出され、ウェーバーの官僚制論が現在との関連で検討される。官僚制と戦う強いリーダーが待望される現実と対峙する鋭利な政治思想史。

感想・レビュー・書評

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  • 『官僚制批判の論理と心理』/中公新書/★★☆☆☆/本書全体の目的がそもそもよくわからず、読みとおしてみてもやはりよくわからなかった。精読していないからなのか。。。官僚制ってそういう文脈で捉えられてきたのね、という学びになったにすぎないかな。

  • 少し前に話題になった政治思想史家による官僚制論です。

    本書は、社会保障拡充の要請と相反する形で社会に蔓延する「官僚制批判」が生じた経緯やその本質について、思想史からアプローチすることで新自由主義批判へと接続した、一風変わった1冊です。
    各章では、政治思想、社会学、文学などの官僚制に関する幅広い知見が紹介されていますが、中でもM・ウエーバーの官僚制論についてはかなり根源的な考察がなされており、その再評価が本書の目的の1つともなっています。

    まず第1章では、「官僚制」の語源そのものが、その保守性等を批判するロマン主義の言説によって提起されたものであり、官僚制批判は時代を超えた普遍性を有するものであることが確認されます。一方、続く第2章では、平等化を志向する民主主義にとって、官僚制が不可欠な条件となっていることが説明されます。

    そして第3章では、官僚制の「正当性」の問題が扱われます。個人的にこの章が一番面白かったです。
    まず、「合法性」による形式的合理性によって正当性を確保する官僚制は、福祉国家下では分配の理念にコミットする必要があるため、実質的合理性を担わなければならなくなり、その意味で正当性の危機に陥ることを著者は指摘します。一方で、経済成長の持続する段階では、この矛盾はあまり表面化せず、行政は価値判断を避けるために社会領域のシステム化を進めていきます。ちなみにこの点を批判し、システムと対置される生活世界の保護を論じたのがハーバーマスです。
    しかし、経済成長が失速するにつれ、官僚制は正当性の危機を顕在化させ始め、官僚制批判が生じやすくなります。そしてこの危機的状況は、次第に新自由主義との親和性を強めていき、政府の責任領域が縮小することで、更なる官僚制批判を呼び込んでいきます。
    このような新自由主義による正当性の危機の取り込みを回避するために、著者は、M・ウエーバーの知的態度に立ち返り、形式的合理性と実質的合理性の対抗関係をそのまま耐え抜くような、粘り強い地道な合意形成を志向する必要があると結論付けています。

    この結論は、官僚制の弊害を克服するために強固なリーダーシップを要請する言説が、現代に存在しない硬直的な官僚制を前提にしていることを指摘した第4章においても繰り返されます。続く第5章では、これらの議論を引き継ぎながら、新自由主義への防波堤となり得るM・ウエーバーの再評価が行われ、本書を終えます。

    以上が主な内容ですが、従来行政学によって論じられてきた「官僚制論」という地味なテーマへの回路を、思想史によって切り開く本書のスタイルは、大変有意義に感じました。
    ただ、テーマと関わりの薄い蛇足的な説明が多い点、不必要なまでに思想家を羅列する点など、構成や文章表現には少し読みづらさを覚えました。

    官僚制論に関心の無い方にもおすすめな1冊です。

  • 名前からして丸山真男の『超国家主義の論理と心理』をもじっているのは明らかであり、内容も大変な良書だと思う。

    近代官僚制に対する批判的言説は、その制度が確立されて以来一貫してして存在する普遍的なものであることを政治思想史的に確認するところ始まり、昨今、なされている官僚制批判=脱官僚に孕まれる問題を批判的に検討していくという内容。
    著者の危機意識は、かなりクリアなもので、昨今為される政治/行政不信に由来する脱官僚制の批判論理は、台頭している新自由主義的な言説に回収されてしまう恐れがある(行政のやることに不信があるのなら、市場に任せた方が安心だよね的な誘惑)し、カリスマ的な政治家を招聘してしまう恐れがあり注意が必要であるというものである。しかし、一方で、国家の秩序や安定性を図ることが主目的となる官僚制をそのまま維持し続けることは、グロバール化し「流動性」という言葉が基調となる社会状況を鑑みるとき、その流れは官僚制にも不可避的なものである(このところを社会理論家のバウマンのリキッド・モダニティの議論を援用して説明しているが、もう少し詳細にしてほしかった)。
    では、どうすればいいのだろうか・・・。
    著者の見解は、極めてシンプルな改良主義的なものであり、非常に現実的かつ理想的なものであると僕は思う。。それは本書を読んで確認して欲しい。

    本書は、政治思想史の枠組みからどのように現実的な諸問題にアプローチできるのかという、それだけでも非常に貴重な試みであると思う。とかく思想史や理論に関する議論は抽象的な議論に終始してしまい、現実の諸問題から乖離したところで議論が展開されてしまうことも少なくない。そういった議論が無駄であるなんてことは、断じて思わないけれど、本書を読めばわかるように、例えばマックス・ウェーバーの官僚制論としての政治思想的/社会学的な議論は、彼が生きていた時代的文脈のなかでの問題意識としてせり上がってきたものが議論の出発点にはあり、そこから理論/思想が練り上げられたもののはずであり、その意味でウェーバー自身にとっては現実的な諸問題への意識がバックボーンに必ずバックボーンにはあるはず。その意味で、政治思想とか政治理論といった抽象的な議論も必ずや現実的な諸問題に対する何らかの示唆を含んでいるはずである。それを抽出できるかどうか、ある意味で読み手の力量に任せられているのかもしれない。が、こういったことを訓練を積んでいない人間が行うことは、なかなか難しい。だからこそ、本書のような本は貴重であろう。新書でページ数にして200ページ程度で過度に抽象的になり過ぎず、その気になれば高校生ぐらいでも十分に読み通せて、値段も800円程度。

    素晴らしい本だと思う。

    激褒めしてるけど、一点だけ、無いものねだりをするのなら、あれだけ本文においてウェーバーの議論を重視しているのだから、同じく社会学者のミルズのパワーエリート論についても触れて欲しかった。

  • 官僚制批判の歴史とは、官僚制の歴史と大きくリンクする。
    その意味で本書は、そのタイトルを官僚制批判の論理と心理と置いているが、同時に官僚制自体がどのように捉えられてきたのかという歴史的な言説を追いかけた、思想史的なアプローチで官僚制を分析した一冊とも言える。
    著者は官僚制批判の根源を、ロマン主義に求める。画一的な決定を下す官僚機構に対して、多元性を重視するロマン主義が反発するというのがその基本的な構図である。
    とは言え、分析の中心は特にウェーバーである。彼は官僚制を「鉄の檻」と捉え、その形式合理性を指摘した。しかしながらテクノクラートによる支配は、ハーバーマス的な後期資本主義の中では政治化してしまう。著者はこうした事態に対して、これまでの日本はそれが上手くいっていたから問題とはなりにくかったが、それが不調に終わっているいま、リキッド・モダニティと呼ばれるかつてのような時代における、境界のはっきりとした硬直的な官僚制のあり方は転換期を迎えていると述べ、新たな官僚制の捉え方、そして新たなウェーバーの読み方の必要性について示唆を加える。とにかく、カリスマv.s.官僚制という二項対立を止めて、デモクラシーの実現の必要条件としての官僚制を前提にしながら考えるべきだということを、ウェーバーを基礎にして主張するのである。

    とにかく読後感としては、面白いが、現実の官僚制に関して、思想史的アプローチで言えることはとても小さい、という感覚であった。我々のほとんどが、官僚制批判をしているかいないかに関わらず、官僚制をこの世から無くせなどとは考えていないわけで、必要だけどどう対処しましょうという話なのであって、そんなことは言われなくても解っているという感じではある。面白いけどね。

  • 【読書】世の中で「官僚」という言葉が良い意味で使われるのはまずない。特に現在は脱官僚を掲げて政権を果たした民主党政権において、その傾向は特に強い。そんな中で本書は、官僚制についてマックスウェーバーの政治思想に注目しつつ、幅広い分野の政治学者の考え方を整理しながら論じており、予想以上に面白い本であった。「官僚たちの夏」のような焼け野原の戦後日本を高度経済成長に導いたような官僚像は終焉し、90年代以降、官僚への批判が噴出し、現在もその傾向は続いている。著者は、政治思想史から見ればそれは現在特有のものではなく、また日本特有のものではなく、18世紀ごろから一貫して続いているものだという。また、不平等や格差への意識が強くなると、そこから平等な、均質でムラのない標準化された取扱が求められるようになる。その過程でそれを可能とする中央政府が強大化し、画一的な行政システムが進展し、官僚制度が構築されていく。しかし、それが硬直化してしまうと、デモクラシーの必要条件であった官僚制度が逆に敵になってしまう。そんな中でいわゆる新自由主義的な発想から小さな政府を志向する動きが出てくる。政治主導といっても、結局は全てを政治で行うのであれば、著者がいうように全てが政治調整になり、物事が進まなくなる。結局は政治と官僚の適切な緊張関係の下でお互いのやるべきことをやるということなのだろう。最近まだまだ仕事で足りないところも多く、一人で落ち込むこともあるけど、また一つ勉強になる本であった。

  • ウェーバー思想と新自由主義を対置するという野心的な試みのもとの著作で、なかなかに興味深く読むことができました。……ただ、予備知識なしで読めるシロモノではありませんので、強くおすすめもしません。

  • 官僚に対して批判的な人が多い。効率の悪さもあるが、親方日の丸的体質と高級取りというイメージが先行している。しかし、現代の社会体制を維持していくためには官僚制は不可欠である。ようは、官僚制に対してどのように組み立てていくかが問題となっているのだ。
    仕事をしないとか、高給取りだとかの批判は愚痴でしかない。

  • 官僚制とはすなわち、一者でもなければ最優秀者でもなく、また少数者でもなければ多数者でもなく、誰もがそこでは責任を負うことのできない官庁の匿名のシステムであり、無人による支配とでも呼ぶのが適切であるようなものである。

    官僚的な組織においては、ダラダラとしたルーティンの仕事が強要され、それに対するフラストレーションが蓄積される。そしきの内部にあってそうした事態は退屈に思われ、組織の外部からすればそれは怠慢に見える。

  • 日本では最近の流行だが、官僚制批判は西洋における官僚制の登場当時からある点、行きすぎた官僚制は民主主義と対立するが、官僚制がなければ民主主義が維持出来ない点、官僚制は人のいかんによって業務の処理の仕方に偏差が出ないように規則で規定されている、つまり、『「脱官僚」とは人の決断やその決断をもたらした根拠を巡る党派的な争いが顕在化すること。この大きな不可を担う準備がないと、これまで行政組織の中で慣行となってきた物の非正当性を告発し、議論を提起することはできる物の、それを収束することができなくなる。あるいは、政治主導の名の下で、一貫性無く問題をつつきだし、決定出来ないので協議事項ばかりを増やして、いたずらに政治不信を高めることに他ならない』いたずらに官僚を敵視して民主主義を傷つけるようなことはすべきではないなと改めて思う

  • ウェーバーの思想の再検討を軸に、政治思想史というアプローチにより、官僚制批判の論理と真理を考察。官僚制批判という世の風潮から一歩引いて、官僚制のあり方を考えることができる好著。
    官僚制がデモクラシーと不即不離の関係にあるこということや「正当性の危機」は新自由主義に絡め取られやすいという指摘が印象に残った。

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著者プロフィール

1969年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程単位取得退学。2003年、ボン大学哲学部で博士号(Ph.D)取得。早稲田大学政治経済学術院助教、岐阜大学教育学部准教等を経て、2010年4月より立命館大学法学部准教授。専門は政治学、政治思想史。主な著訳書に、Kampf und Kultur: Max Webers Theorie der Politik ausder Sicht seiner Kultursoziologie( Berlin: Duncker & Humblot, 2005)、『闘争と文化―マックス・ウェーバーの文化社会学と政治理論』(みすず書房、2006年)、『官僚制批判の論理と心理――デモクラシーの友と敵』(中公新書、2011年)、『はじめて学ぶ政治学』(共著、ミネルヴァ書房、2008年)、『大学と哲学』(共著、未來社、2009年)、クラウス・オッフェ『アメリカの省察――トクヴィル・ウェーバー・アドルノ』(法政大学出版局、2009年)、などがある。

「2011年 『比較のエートス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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