物語 近現代ギリシャの歴史 - 独立戦争からユーロ危機まで (中公新書 2152)
- 中央公論新社 (2012年2月24日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (292ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121021526
作品紹介・あらすじ
ヨーロッパ文明揺籃の地である古代ギリシャの輝きは、神話の世界そのままに、人類史の栄光として今も憧憬の的であり続けている。一方で現在のギリシャは、経済危機にあえぐバルカンの一小国であり、EUの劣等生だ。オスマン帝国からの独立後、ギリシャ国民は、偉大すぎる過去に囚われると同時に、列強の思惑に翻弄されてきた。この"辺境の地"の数奇な歴史を掘り起こすことで、彼の国の今が浮かび上がる。
感想・レビュー・書評
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ギリシャ独立に至る前史から現代まで。そもそもギリシャ人とは? というところから、メガリ・イデアとはどういう背景のもとに生まれたのか? どういう過程をたどったのか? ギリシャ語のカサレヴサとデモティキについてや「兄弟殺し」と言われた内戦の展開、ギリシャ国外のギリシャ人についてなどなど、今のギリシャを知るために不可欠な内容がならんでいる。文章も平易で読みやすい。これは古代ギリシャ好きやビザンツ好きにも必読の一冊かもしれない。
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うまく行かなった国々のことを知るための本
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場所が悪い。ヨーロッパにとってギリシャとは、19世紀まではイスラム世界との前線だったし、20世紀に入ってからは共産主義との前線だった。おかげで大国の思惑に左右されて自立した国づくりができなかった。やっと冷戦も終わったと思ったら、今度はユーロのおかげでバブって弾けてにっちもさっちも行かなくなってしまった。
古代ギリシャに対する憧れ(自国民自身の憧れ・誇りと、ヨーロッパ世界からの憧れと両方)は、良い面と悪い面の両方があるだろう。
良い面・・・独立への支援、諸外国からの文化的な関心、観光産業
悪い面・・・分不相応な野望(メガリ・イデア)、言語の混乱(カサレヴサ対ディモティキ)
しかし、良くも悪くも個人主義的に見えるのは、やはり古代ギリシャの遺風か・
・ビザンツ帝国時代の「ギリシャ人」のアイデンティティは「ヘレネス」ではなく「ロミイ」、すなわちローマ人であった。広義にはローマ帝国臣民であり正教キリスト教徒、狭義にはギリシャ語話者を指した。このロミイ意識はオスマントルコ支配下でも継続した。アイデンティティの中心は正教徒であることだったので、多神教のパルテノンに畏れこそはらったが、自分たちの歴史とつながっているとは思っていなかった。しかし、オスマントルコからの独立運動が盛り上がると、消極的・保守的な正教聖職者への反発から、ビザンツを軽侮して古代ギリシャへ回帰する思想が現れる。独立の後、やっぱり古代ギリシャから直結でアイデンティティを主張するのは苦しいのでビザンツも再評価される。
・独立戦争当時のヨーロッパ列強指導層の反応は「ウィーン体制を乱すような余計な真似をしてくれるな」。ギリシャ人の名士層も各々の利害しか眼中になくバラバラだった。しかしバイロンに象徴される古代ギリシャに魅了された人々や自由主義者の残党が熱心に応援した。最後はイギリスとロシアのパワーバランスが独立を後押しした。
・初代大統領はカポディストリアス。ダ・カーポですな。
・1832年の独立当初はペロポネソス半島あたりの僅かな領土しかなかった。当時は田舎町に成り果てていたアテネをわざわざ首都にした。コンスタンティノープル奪回を唱えて軍事力もないのに領土拡張を目指した。イギリス、オスマントルコからの割譲、ブルガリアらとのバルカン戦争などで今の領土になった。
・第一次大戦後に列強にそそのかされて小アジアのスミルナに進駐して、ムスタファ・ケマルのトルコと戦争に。惨敗。領土拡大の野望終了。トルコ領内のキリスト教徒と、ギリシャ領内のムスリムを交換。
・第二次大戦でドイツに占領される。共産党系のゲリラが抵抗するが、国内も反共主義のために二分されてしまう。兄弟殺し。戦後、共産党は弾圧されて、ドイツに協力した人々が復活する。英米も反共を後押し。
・黒海南岸出身の「ギリシャ人」ポンドス。黒海からオスマントルコに追われてロシア/ソ連のグルジアへ。グルジアで粛清されて中央アジアやシベリアへ。冷戦終了後ギリシャへ行ってもなかなかなじめず。ディアスポラ。
・今のパパンドレウって、父も祖父もギリシャの首相をやった人。 -
序章 古代ギリシャの影
第一章 独立戦争と列強の政治力学
第二章 コンスタンティノープル獲得の夢
第三章 国家を引き裂く言語
第四章 闘う政治家ヴェニゼロスの時代
第五章 「兄弟殺し」 第二次世界大戦とその後
第六章 国境の外のギリシャ人
終章 現代のギリシャ -
地域史
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最近のギリシアを巡る経済的混迷を受けて再読。
これを読むと一国の「運」と「幻想」をどうしても考えざるを得ない。
まずは地理的場所というどうしようもない要件がこの国(地域と言った方が正確かな)の行く末を決定したんだろうと思う、それこそ大国から良いように蹂躙されたんだから。これに比し、日本はやっぱり極東だったことが結果的に幸いしたんだと思う。随分と酷いことを日本自身が行ったし、周りの国は大迷惑だった訳ですが、(良いか悪いかはさておき)世界の中心たる欧米から見れば遠くの場所だから放っておけと無視されていただけかと。
それに加えて本人達の大いなる勘違いも火に油を注いだ感あり。コンスタンティノプール奪還とか、やっぱり違和感ありますから。それを疑問に思わないまま突き進んだ結果が今日まで繋がっている気がする。公務員が大半を占める国ってやっぱりおかしいですから。
結局ギリシアだけが悪い訳でもないが、ギリシアにも正すべき非があるという一番厄介な袋小路に陥って今に至るのかな。うーん、取りとめもない戯言に終始してしまいました。 -
2015年度今週の1冊
巨額の負債を抱えて迷走するギリシャ。
物語形式で案内したこの本は、ギリシャについてこれから知ろうとする方にぴったりの1冊です。古代や中世のギリシャに興味がある方も、現在から過去を見るとまた違った感慨が起こります。(2015/6/31)
【紙の本】金城学院大学図書館の検索はこちら↓
https://opc.kinjo-u.ac.jp/ -
昨年事故死したテオ・アンゲロプロスの追悼特集をかなり見たので、その背景となったギリシャの近現代史を知っておかねば、という目的で読んでみた。 そしてわかったのはギリシャという国が、多田智満子が謳ったような、青いエーゲ海に放たれた場所ではなく、むしろ東と西が重なり合う地政学的な条件の下に、常に外国の利権によって政情を左右されてきた弱小国のひとつであった、ということ。 著者自身が「はじめに」で提示するように『アンゲロプロスがなぜ青い空でなく灰色の空のギリシャを撮り続けた理由』がわかったような気がした。
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建国以降のギリシャの歴史をたどる。
ギリシャ史については全くの素人であったが、
読みやすくわかりやすい内容で、
かつ非常に興味深く読むことができた。
明確なビジョン無きまま、お膳立てされた独立では、
国家運営はうまくいかないのはどこの国でも同じだが、
偉大すぎる過去故にナショナリズムの拠り所を求めて
迷走する姿はギリシャ特有の姿であると感じた。
また、ヴェニゼロスについては評伝などあれば触れてみたい。 -
EUのお荷物であるかのような扱いをされているって聞くけど、過去の出来事を見てみると欧州各国にいろいろと酷いことされているなぁ。