イギリス帝国の歴史 (中公新書 2167)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121021670

作品紹介・あらすじ

かつて世界の陸地の約四分の一を領土として支配したイギリス帝国。その圧倒的な影響力は公式の植民地だけにとどまらなかった。本書は近年のグローバルヒストリーの研究成果をふまえ、アジアとの相互関係に注目しつつ、一八世紀から二〇世紀末までの帝国の形成・発展・解体の過程を考察する。今や世界経済の中心はアジア太平洋経済圏にシフトしつつある。そのシステムの基盤を作り上げた帝国の意義を明らかにする試みである。

感想・レビュー・書評

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  • インドへの機内で読んだ。18世紀から20世紀のイギリス帝国の歴史をグローバルヒストリー(相互作用や関係性を重視する)の視点から、近年のインドを含むアジアの経済的発展を歴史的に考える。「非公式」も含めたイギリス帝国の植民地、とくに英領インドの諸関係には多くの考察がなされている。たとえば、インドの綿の生産・流通は、やがては帝国の解体やインドの独立へとつながる。現代のインドを知る上において大切な1冊。日本史研究においてもグローバルヒストリーの手法は有効と思われ。

  • 17世紀にはじまる大英帝国の衰亡を、とくにインドを中心としたアジア方面の経済を軸に論じている。世界の四分の一を支配した大帝国も、時の移ろいとともにヘゲモニー(覇権)を米国に譲り渡すととなったが、本書は、そこまでの帝国の確立、膨張、運営、破たん、衰亡に、公式帝国、非公式帝国の観念を織り交ぜながら、いかに経済が大きなウェイトを占めていたか、ということを理解させてくれる。当時のヨーロッパ情勢はほぼ出てこないが、それは、世界最強の軍事力を持った大英帝国が、政戦両略をもってヨーロッパ各国の思惑をはねのけてきたためともいえる。唯一フランスに付け込まれて誕生した米国が、ヘゲモニーを受け継ぐことになるのは、皮肉とも取れる。
    また、非公式帝国には、初期の大日本帝国も組み込まれており、これは日英同盟による、日本のジュニアパートナーへの昇格まで、続いていた、という点は、驚きがあった。大英帝国が緩やかに衰退し、帝国+コモンウェルス、最終的にはコモンウェルスのみへ移行し、完全に消滅した今となっても、遺産として残っているものは多い。
    やはり、20世紀までは、政治、軍事、文化、どれをとっても、大英帝国こそが、世界最強の覇権国家であったことを再認識させられ、その実像を知る一端となる書だと感じた。

  • 帝国の歴史は、いかに宗主国の経済的利益のために、搾取するための植民地を作ってきたのかの歴史である。金のためには何でもありの国家形成政策である。このような帝国主義は一昔前のもののように感じられるが、今まさに帝国化したあるいは帝国化しようとしている国々が世界に猛威を振るっていることには驚きである。いつになったら世界中でウィン=ウィンの関係が構築できるのだろうか。

  • イギリス帝国の歴史についてインドをはじめとしたアジア諸国との関係を中心に描いた書籍。近年、どの学問領域においても個々の事象ではなく、その関係性に焦点が当てられてきているが、本書もその潮流に乗ったものである。日本とイギリスの関係についても語られており、経済や貿易、金融などの視点からも近現代を雑観できる良書である。

  • 信州大学の所蔵はこちらです☆
    https://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB09459395

  • イギリスの植民地経営、近現代のイギリスと植民地間貿易の仕組み、ロンドン・シティの金融街がイギリス外交政策に与えた影響、コモンウェルスの歴史、インドが果たした役割などが勉強になった。

    もともと、香港と他のイギリス植民地の経営方針の違いが知りたくて読んだが、イギリスと植民地の関係は物凄く奥が深くて面白い事がわかった。

  • 歴史

  • これまでの通説を紹介しながら、それを覆してグローバルヒストリーの面白さ、視点の豊かさを提示していく著作。アジア、特にインドの存在が、イギリス帝国の「帝国性」を支えていた。(カナダはどうなの?)

  •  グローバルヒストリーの視点から帝国としてのイギリスを論じる。

    印象的な内容
    ①東インド会社と豊かなアジア
    ②北米へ不自由移民―年季奉公人と囚人
    ③自由貿易帝国主義―植民地と非公式帝国・経済的従属国
    ④自治権移譲―安価な植民地支配
    ⑤帝国拡張の先兵インド軍
    ⑥世界の工場から世界の銀行家・手形交換所
    ⑦インドが支えたポンド体制
    ⑧ヘゲモニー国家と国際公共財
    ⑨光栄ある孤立と日英同盟
    ⑩日露戦争―日本の軍艦輸入と外債発行
    ⑪帝国臣民の居住移動の自由
    ⑫コモンウェルス―本国と対等のドミニオン
    ⑬スターリング圏
    ⑭スエズ戦争と脱植民地化

  • P.59-62 七年戦争による財政赤字と負債の増大があまりに急激であったために、その負担の一部を北米植民地に転嫁せざるを得ない状況に追い込まれたのである。
    こうして本国政府は1765年に、法律・商業関連の文書だけでなく、新聞や書籍など印刷物全てに本国発行の印紙を貼ることを義務付けた印紙法を導入した。植民地側が「代表なくして課税なし」の論理で同法に激しく反対したことはよく知られている。印紙法は現地植民地の反対で、翌66年に撤廃に追い込まれた。
    しかし本国政府は67年に、蔵相タウンゼンドが別の形の増税策として、茶、ガラス、紙、ペンキ、鉛に輸入関税を課した(タウンゼンド諸法)
    (中略)
    イギリス商品とイギリス的生活様式を拒否することが、植民地側の独自性を主張する手段になった。
    (中略)
    本国政府は、北米植民地への茶の直送と、その独占販売権を東インド会社に与える茶法を、1773年に制定した。
    同年十二月十六日、茶法に反対した商人・急進派市民が先住民(ネイティブ・アメリカン)を装った上で、ボストン港に入港していたイギリス東インド会社船を襲い、積荷の茶を海に投棄するボストン茶会(ティー・パーティ)事件を引き起こした。
    (中略)
    消費パターンの脱イギリス化、その典型としての紅茶の拒否が、アメリカ人のアイデンティティの確立にとって不可欠となっていったのである。

    P.206 ポンドの価値を実勢レート以上に過大評価した旧レートでの金本位制への復帰は、イギリス本国の産業界にとってはポンド切り上げとなり、輸出を困難にして打撃を与えた。他方、ロンドン・シティは、海外のポンド建て資産の価値を温存でき、ニューヨークに対抗する国際金融センターの地位を保つためにも必要な措置であるとして、この政策を歓迎した。

    P.257-258 国境を越える広域史(regional history)、広域の諸地域相互の関係史(trans-regional history)など、新たな枠組みを創出する必要がある。その一つの実例として、現在、世界中の歴史家や社会科学者が注目しているのが、グローバルヒストリー(global history)と呼ばれる歴史の捉え方である。

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著者プロフィール

1958年生まれ。大阪大学大学院文学研究科・教授
(主要業績)
『イギリス帝国とアジア国際秩序』(名古屋大学出版会、2003年:第20回大平正芳記念賞2004年)、『イギリス帝国の歴史―アジアから考える』(中公新書、2012年:第14回読売・吉野作造賞2013年)、Shigeru Akita (ed.), Gentlemanly Capitalism, Imperialism and Global History (London and New York: Palgrave-Macmillan, 2002).

「2020年 『グローバルヒストリーから考える新しい大学歴史教育』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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