政友会と民政党 - 戦前の二大政党制に何を学ぶか (中公新書 2192)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (260ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121021922

作品紹介・あらすじ

待望の二大政党時代が到来したのにメリットが実感できない。そうした幻滅の声がしばしば聞かれる。だが歴史を振り返ると、二大政党が交互に政権を担うシステムは戦前にも模索されている。大正末年の第二次加藤高明内閣発足から五.一五事件による犬養毅内閣崩壊までである。政友会と民政党の二大政党制が七年足らずで終焉を迎えたのはなぜか。その成立・展開・崩壊の軌跡をたどり、日本で二大政党制が機能する条件を探る。

感想・レビュー・書評

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  • 民主党がまだ元気だった頃に、政友会を自民党に・民政党を民主党に見立てて二大政党制の在り方について論じた本(本文中に直接的な現代政党との比較こそないが、あとがきから自民・民主の二大政党制を念頭に置いているのは明らか)。

    既得権益層の支持を背景に政局的に物事を推し進める政友会と、政策的見地から政治を進めようとするもその軟弱さから実施へ一歩踏み込めない、よしんば踏み込めたとしても転んでしまう民政党との比較は面白い。惜しむべきは民主党が政友会と民政党の悪いところを受け継いでしまっている部分か。そのせいで仮定が崩れて論点がぼやけてしまっている感は否めないかな。

    ただ細かい部分は読む前の両党のイメージから逸脱した知見を得られて面白い。よく軍部に迎合して515事件と共に崩壊したとも言われるが、少なくとも226事件までは(部分的に協力することはあっても)完全に迎合していた訳ではなく、軍中央部と理性的な連携をとりながら物事を進める部分もあったのは新しい発見だった。国際連盟脱退は軍の方が驚いていたくらいだし。
    それだけに226事件と日中戦争は軍の政治への関わり方を根底から覆してしまったのだなぁと実感。
    一次資料にかなり当たっているので、各論に関しては面白く読めた。

    しかし近衛文麿本当に余計なことしかせんな。

  • この段落、この章で何を説明したいのか、それを明確にせず歴史的文書や発言の引用を重ねていくため、戦前の日本の政治史はおろか、政友会や民政党についてなんら知識を持たない私は置いてけぼりにされたような気分になった。一度図書館か本屋で軽くページをめくってから、読むか読まないか決めると良い。

    【この本を読もうと思ったきっかけ】
    小説家・火野葦平の芥川受賞作『糞尿譚』が、戦前の北九州での政治模様を描いた作品であった。この小説に出てくる政友会と民政党を軽く調べてみた結果、この本が詳しく解説しているだろうと考えて読むことにした。

    【他の本との繋がり】
    Jack Snyderという国際政治学の教授が書いた『From Voting to Violence: Democratization and Nationalist Conflict』という本がある。この本は、民主主義化がまだ進んでいない国が民主主義化をしようと踏み切る際に戦争の可能性が高まるということを論じた本だ。日本の普通選挙化への歴史と政党、そして戦争までの細かい流れをこの井上寿一『政友会と民政党』で学習できたことは、Jack Snyderの唱える学説の理解にも繋がったといえる。

  • 東2法経図・6F指定:B1/5/Inoue

  • なぜ、戦争に突入してしまったのか、という問いの答えの一つに政党政治の失敗ということがあるのではないかと、ここ最近考えていた。この本で解説してあった戦前、特に昭和一桁の頃の政党政治や、選挙の状況を確認するに及んで、いよいよその思いを強くした。足の引っ張り合いをしている政党に嫌気が差した国民が、軍部に期待してしまう様子がよくわかった。
    誰か1人が決めるのではなく、時間がかかっても仕方ないから民主主義で行くのがベターなのだと再認識。

  • 約100年前の日本政治に実現していた二大政党制から学ぶことにより、100年後の日本政治でなぜ二大政党制が実現しないのかを考察すべきなんだろうが、そもそも著者は二大政党制に否定的なようである。その理由については明確に述べられていないが、それは歴史学者である著者の専門外だからなのだろう。これが歴史学者の限界と言ってしまえばそれまでなんだが。
    同じ資本主義・自由主義陣営の米英では機能している二大政党制がなぜ日本では機能しないのか?それを日本人の国民性や文化に求めるのは容易いが、それでは社会科学とは言えないだろう。歴史から何を学び、現代にどう生かすのか、その接続性が問われているように感じた。

  • 2017/04/28 初観測

  • 戦前、「憲政の常道」と呼ばれた、政友会と民政党の二大政党が交互に政権を担う時代があった。本書は、その時代を中心に、政友会、民政党それぞれの成立・展開・崩壊の軌跡を丹念にたどっている。
    両党ともに外交政策は協調外交路線で共通度は高いのに、民政党は不戦条約に難癖をつけ、政友会はロンドン海軍軍縮条約を「統帥権干犯」と非難するなど、お互いに党利党略による足の引っ張り合いを行うようになり、それが軍国主義的な時代の伏線となってしまうといった点は、現代の二大政党政治においても、大いに教訓となるものであり、本書は現代政治を考えるうえでも有益であると思われる。

  • 戦前の政友会・民政党の2大政党制はなぜ崩壊したのか。そして、現在の日本の政党政治はどうあるべきか。歴史に教訓を求めるべきとの本書の主張は、副題に「戦前の二大政党制に何を学ぶか」にある通り。複雑な昭和戦前期の政治経済、そして外交情勢を念頭に置きながら、政党がどのような方向性を模索したのかをリアルに想像していくのは案外と難しい。2大政党のみが政治主体ではなく、官僚や軍部などの非政党の政治主体も同時に動きつつ、政党との距離も近くなったり遠ざかったりするからである。

    以前、自分も昭和恐慌期の本を書いたとき、民政党の安達謙造が政友会との協力内閣構想が挫折したエピソードから書き始めた。昭和恐慌という経済危機の状況にあっても経済政策・外交政策ともに変えられなかった民政党の挫折が相当気になっていたからにほかならないのだが、本書を読んであらためてこの時代に何が可能だったのか、続く政友会内閣で何が政党政治の方向を誤らせたのかを考えてみる必要があるように思った。

  • 政治史というよりは政党政治史と言った方が近い。「憲政の常道」における二大政党制と、5.15後における両党の模索を描く。
    戦前の政党政治下でも多くの政策が実行された。日華関税協定による日華関係改善、ロンドン海軍軍縮条約の調印など。しかし、国内世論あるいは党利党略により憲政の常道=ワシントン体制から「逸脱」したのもまた政党であった。
    膠着局面で天皇の威光に頼り、時には陸軍の主張に同調した。満州事変、5.15、2.26、国家総動員法、大政翼賛会への統合と、自滅していく。
    普選後は政党が政治のアクターとして登場するため、政策決定における非合理的な部分—統帥権干犯問題や天皇期機関説/国体明徴声明事件—が増えて来る。その背景を知る上で刺激的な一冊である。また、演説の引用から当時の政治が浮かび上がり面白い。
    ただ、この一冊で流れがわかるというものではない。陸軍の影響はやはり大き過ぎる。そして、この時代はとにかくアクターが多過ぎる。

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著者プロフィール

井上寿一
1956年(昭和31)東京都生まれ。86年一橋大学大学院法学研究科博士課程単位取得。法学博士。同助手を経て、89年より学習院大学法学部助教授。93年より学習院大学法学部政治学科教授。2014~20年学習院大学学長。専攻・日本政治外交史、歴史政策論。
著書に『危機のなかの協調外交』(山川出版社、1994年。第25回吉田茂賞受賞)、『戦前日本の「グローバリズム」』(新潮選書、2011年)、『戦前昭和の国家構想』(講談社選書メチエ、2012年)、『政友会と民政党』(中公新書、2012年)、『戦争調査会』(講談社現代新書、2017年)、『機密費外交』(講談社現代新書、2018年)、『日中戦争』(『日中戦争下の日本』改訂版、講談社学術文庫、2018年)、『広田弘毅』(ミネルヴァ書房、2021年)他多数

「2022年 『矢部貞治 知識人と政治』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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