平和主義とは何か - 政治哲学で考える戦争と平和 (中公新書 2207)
- 中央公論新社 (2013年3月22日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (244ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121022073
作品紹介・あらすじ
平和を愛さない人はいないだろう。だが平和主義となるとどうだろうか。今日では単なる理想論と片付けられがちだが、実はその思想や実践は多様である。本書は、「愛する人が襲われても無抵抗でよいのか」「正しい戦争もあるはず」「平和主義は非現実的だ」「虐殺を武力で止めないのは無責任」といった批判に丁寧に答え、説得力ある平和主義の姿を探る。感情論やレッテル貼りに陥らず、戦争と平和について明晰に考えるために。
感想・レビュー・書評
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トルストイの『戦争と平和』を読んでいる最中に目に入ったので、手に取る。
とても現実的な視線で書かれた「平和主義」の入門書だと思う。平和主義のパターンを類型化した上で、対象的な立場や、批判的な立場からの反論も検証していく。
タイトルに「政治哲学」とあるように、検証の仕方は論理に論理を重ねていく思考実験的で、私などそれに慣れない人間には読んでいるとちょっと頭が疲れてくるかもしれないが、豊富な引用や例があり文章はわかりやすい。
ただ絶対的に平和を唱えるのではなく、それぞれの利点や主張をバランスよく取り入れ、時は現実を考慮し妥協もしながら、著者はなぜ「それでも」平和主義が現在においても魅力的な主張であるかを説いていく。
本書を読んでもっとも思ったのは、やはり現代社会において平和主義を選ぶのは、相当の覚悟がいるだろうなぁ、ということだった。
非暴力を(強弱・範囲の差はあれど)主義として貫くことは、やはり、並大抵の覚悟でできることではない。
しかし、それでもこの平和主義の考え方は、多くの人が潜在的に望んでいることなのだろうと思う。
本書を読んで、私の中で平和主義そのものに対する何か胡散臭いイメージが、だいぶん払拭された気がする。
そして、圧巻は最後の読書案内! 平和主義を考えたい、勉強したいという人だけでなく、少しでもこれらのことに関わることを学びたい、という人にとって、素晴らしい導きとなるであろうリストだ。
そういう方面を勉強する学生が本書に出会ったらと思うと、その学生が羨ましい限りだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
憲法改正問題がクローズアップされている中、長年の矛盾とされてきた、憲法9条と平和主義の問題。特に「平和のために戦うべきである」という問題をどのように考えるかによって、軍事力との関わり方・立ち位置が定まってくる。本書ではただ「平和主義」の字面だけで片付けることをせず、敢えて「平和主義」の内実を政治哲学的視点で分析し、よく言われる、ただ単なる「平和か武装か」の二元論にすぐに陥ることなく、「平和主義」のバリエーションを細かく且つクリアに提示する。その中で著者が「目指すべき平和主義」も提示されてはいるが、それは「平和主義」をめぐる議論のたたき台として留めておくこともできよう。考えるべきなのは、むしろ「平和主義」の内実をどのように考え、具体的な手立てとして想定するかであり、その考えた理念の下で限りある現実の選択肢の中で最善の行動を尽くすかである。
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どんな立場に立っても、つい熱くなりがちな平和論を、徹底的に思考する一冊。平和について考えたいなあとりあえず最初はこれかなあ、で手に取ってOKです。
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本書ほど現実的な平和主義(この言葉が奇異に感じられること自体、これまでの平和主義論のおかしさを示している気がする)は初めて目にした。
筆者は個人的心情としての「絶対平和主義」と政治的選択としての「平和優先主義」を区別し、後者、具体的には戦争は基本的にコストに見合わないという帰結論に戦争=殺人=悪という義務論を加味した立場に立つ。しかし「非平和主義」である正戦論でも現実主義でも人道介入主義でも、戦争を絶対的に肯定はしておらず、正当化しようがない、コストに見合わない戦争や軍備保持には賛成しないだろうし、戦争による人命を含めた被害に全く無頓着でもないだろう。また筆者はデモクラティック・ピース論を一応肯定しつつも、民主主義により好戦性が高まった例もきちんと指摘している。そうすると結局、平和主義と非平和主義は別次元ではなく一続きの線で、ある戦争を肯定するか否かはそのpro/conをどう分析するか次第ではないかという気がしてくる。筆者の言うように、特に帰結論は両者が「有意義な対話をする際の蝶つがいの役割を果たしうる」のである。 -
平和主義という概念がいかなる意味内実をもち、異なる立場と比較した場合、平和主義理論がいかなる思考を提供してくれるかを平明に解説している。国際関係論における、国際関係はいかにあるべきか、という問題に対する様々なアプローチを現実主義や人道介入主義として取り上げているが、国際関係論を専門的に学んだ人にとってはなかなか納得しがたい議論も含まれているように思われる。それでもやはり、平和をめぐる政治学的言説を出来る限り網羅しようとしていて、平和論への導入として非常に優れた新書であると思う。
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速読の形で大まかに読了。平和主義に対する批判ー愛する人を襲われたら、戦争の殺人は許されるか、戦争はコストに見合うか、正しい戦争はありうるか、平和主義は非現実的か、救命の武力行使は正当かーに対して、批判的検討を行い、平和主義への基礎づけを、読みやすい形でまとめている。いまウクライナでの戦争が勃発するなか、翻って日本の周辺状況を考えるとき、思考を鍛えることのできる一冊。
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○平和主義=非暴力手段による平和を達成しようとすること
・無条件平和主義:100%非暴力
・条件付平和主義:原則非暴力、例外あり
・絶対平和主義:ずっと非暴力
・平和優先主義:例外あり
・義務論
・帰結主義
○非平和主義
・正戦論
・現実主義
・人道介入主義
とにかくわかりやすかった。 -
マケプレ本
戦争倫理学関連は初。これから少し読んでみたい。 -
「 平和主義とは何か 」 平和主義のあり方を考察した本。本書の立場は 自衛戦争を容認した 平和優先主義。
「愛する人が襲われても(平和主義を貫くのか」「なぜ殺人は禁止なのか」「正しい戦争はあるか」「平和主義は非現実的か」などの考え方を提示。法律家、政治家、メディアから 提示されたことがない主張で 大変 勉強になった。
平和主義とは=あるべき姿
*目的より手段により定義すべき=非暴力手段により平和という目的を達成しようとする主義
*絶対平和主義だけでなく、平和優先主義も平和主義
愛する人が襲われたら(平和主義者への)批判に答える
*戦争否定と 家族を守ることの否定は トリック
*平和主義には 絶対平和主義と 平和優先主義がある
*平和優先主義=私的場面または公的場面の暴力否定
*戦争否定=公的場面の暴力否定→私的場面の暴力を容認しても矛盾はない
なぜ殺人は禁止なのか
*義務論=行為の正しさを行為自体から判断する→ 殺人行為は 行為自体が道徳に反する
*無危害原理=危害発生を回避する=殺人禁止は義務
*正当防衛=責任者への対抗暴力は免責される→ 戦争と正当防衛の違いは その状況の責任者への対抗か否か
*非戦闘員保護の原則を守らない戦争は殺人
戦争はコストに見合うか
*帰結主義=行為の結果から 行為の正しさを判断する=最大多数の最大幸福→結果によっては戦争賛成
*戦争放棄=防衛費削減+機会費用(別選択時の利益)
*核兵器=人類にとって明らかに無意味な殺傷能力→帰結主義によれば 人は戦争を避ける
正しい戦争はありうるか(正戦論)
*戦争=侵略戦争+自衛戦争→正戦=自衛戦争
*両国が自衛戦争を主張=克服しえない無知
*正戦と不正な戦争の区別は困難
平和主義は非現実的か(現実主義)
*暴力の正当性は問わない→悪は実際に存在する→非暴力が有効でない
*中央政府のいない無政府世界→国家の責務は安全保障
*防衛力強化→相手国にとって脅威が増加→剣を取る者は皆 剣で滅びる