物語 シンガポールの歴史 (中公新書 2208)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (262ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121022080

作品紹介・あらすじ

一人当たりのGDPで日本を抜きアジアで最も豊かな国とされるシンガポール。一九六五年にマレーシアから分離独立した華人中心の都市国家は、英語教育エリートによる一党支配の下、国際加工基地・金融センターとして発展した。それは表現・言論の自由を抑圧し、徹底的な能力別教育を行うなど、経済至上主義を貫いた"成果"でもあった。本書は、英国植民地時代から、日本占領、そして独立し現在に至る二〇〇年の軌跡を描く。

感想・レビュー・書評

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  • [昇り竜解剖図]羨望を集めるほどの急激な経済成長で、東南アジア諸国の経済や投資を牽引してきたシンガポール。ほとんど顧みる人すらいなかった19世紀初頭の「発見」から、急速な経済成長を経た21世紀初頭までの歴史を概観した作品です。著者は、シンガポールをはじめとした東南アジア諸国の研究で知られる岩崎育夫。


    非常にコンパクトにシンガポールの経済、政治、そして社会についてまとめられているため、同国に関心を持つようであればとりあえずオススメしたい一冊。現実主義に徹したシンガポールの世界観がどのように形作られ、成功を収めることになったかがよくわかるかと思います。シンガポールと東南アジア諸国の関わりについても頁が割かれているため、広く同地域に興味を持つ人にもオススメです。

    〜比喩的に言えば、シンガポール株式会社の社長が創業者オーナーのリー・クアンユー、副社長がリーの片腕のゴー・ケンスィー、第一線の営業部長がエリート開発官僚、一般国民が事務職や現業の社員に相当する。そして、株式会社である以上、シンガポール株式会社は利益獲得に経営原理が置かれ、社長の大号令以下、社員全員が一丸となって会社の発展に励んだのである。〜

    いつかあの不思議な形のホテルに足を運んでみたい☆5つ

  • 同国が1819年にラッフルズがスルタンからの土地購入により英国植民地になり、以来仕事を求めて来た中国人の増加が人口の7割を占め、現在に。そして日本の占領下、マレーシアの一部としての独立、そしてマレーシアからの追放と国としての生き延びていけるのかという悲壮感、リー・クアンユーが作った人民行動党のほとんど一党独裁と民主主義の関係など、現在の繁栄への流れが数奇な運命を感じさせられた。マレーシアからの独立が、むしろ残留を望んだのに追放だった!は驚きの発見だった。逆に分離したことが両国にとって現在の繁栄を招いたのだろうと思う。なによりも社会が存在しないところにいきなり国家誕生というユニークさ、それが成功した例としての国家のように思える。日本占領下での中国人弾圧、マレー・インド人優遇という日本軍の政策は驚きだったが、それを考えると同国の日本との現在の親密な関係は奇跡のように思われる。

  • 昨年の出張にあわせて読んでみた本

    リークワンユー政権以降のイメージしかないシンガポールの歴史について。日本も一時占領してたんですよね。

    言語政策については、学生のときに学んだ気がするけど、いまはウィキペディアが詳しいですねえ。

    海外含め、知らない都市に行く機会は少ないですが、行くとなったら、なんかしら本を読むようにしてます。シンガポールは、もう一冊読んだ。

  • ユニークな発展を遂げてきたシンガポールの歴史が、この一冊でよくわかる。

  • 上司がいるので最低年一回は出張するシンガポール(笑)実はそれまで行った事なくて、その歴史って知ってるようで知りませんでした。
    占領下での残忍な行動にもかかわらず親日が多いので謎でしたが、これ読んでプラグマティズムゆえだなとハラオチしました。
    英国、日本、中国、マレーシア、インドネシア、米国など関係諸国と様々なバランスで成り立っており、
    政治的自由を制約してまで経済成長を追求するのはともかくとして、日本も学ぶべき所は多いですね。
    この都市国家が経済戦略、政治面、文化芸術面など含めて今後どう変わっていくか注目したくなる一冊です。

  • シンガポールの歴史書。シンガポールが今のような姿になるまでに、どのようなことが起きていたのか。前からシンガポールは経済発展のための政府という感じを受けていたが、その理由がわかった。今度行く時は、ちょっと視点が変わるかも。

  • シンガポールに留学、移住するなら絶対に持って行きたい1冊。シンガポールの歴史、経済、政治、全てが学べます。

    シンガポールに来る前、この国の歴史について全くわからず、なんかゆるっと「安全だけど厳しい国」という認識でしたが、この本を読む中でなぜそのシステムが必要だったのか、ということが論理的にかつ簡潔に学べます。
    良くも悪くもシンガポールはリー・クアンユーによって作られたのだなと再認識できる本であり、彼の目指す社会的な方向性、政治指針が今もシンガポールに根強く残っていることがわかるはず。この本のおかげでシンガポールという世界をよりクリアに知覚できたので、とても感謝しています。

  • シンガポールが1819年イギリスの植民地になるまで森以外にほぼ何もない島だったというのが驚きでした。そこに住み着いたのがあくまで出稼ぎという感覚で来ている移民だったために、定住社会ができるより先に国家が先行して成立したという特殊性が本当に面白かったです。国家主導で経済発展を最優先に政策決定したために、国に固有の文化や芸術が生まれなかったという指摘も納得です。以前シンガポールを訪れた際に、発展してきれいな国なのに、なにか掴みどころがなくて得体の知れない印象を受けた理由が分かった気がしました。

    それにしても本書の読みやすさ、分かりやすさは完璧の域だと思います。歴史の開始が近代、かつ一党独裁というシンプルさのおかげもあるかもしれませんが、全ての出来事の因果関係をこれほど分かりやすく書けるものかと感心しました。時代区分を明確にして、政策や政権の特徴などをいくつか箇条書きのように説明して、その結果どうなるのか、ということが理路整然と解説されています。著者の力量、編集者の能力、シンガポールの歴史そのもの、いろんな理由があると思いますがとにかく素晴らしいです。

    シンガポールは物価がものすごく高いという印象です。その理由も、経済発展→少子化→移民奨励→高所得移民が増えて物価高騰、という風に非常に分かりやすく説明されています。中間層より低収入の人々がどう生活しているか疑問だったのですが、公共住宅に住んでいる率が80%という話を読んで納得しました。隣同士を異民族にしたり、年金の積立金で持ち家として購入させて定住させ、国民としての帰属意識を醸成する手法に舌を巻きました。

  • 中公新書の「物語」シリーズ、いくつか手にとって読んだことはあったのですが、今まで読んだ「物語」シリーズの中では一番面白かったと思います。まずその理由は、シンガポールの歴史が浅いので、1冊の本の中でかなり密度の濃い記述がなされていることでしょうか。例えば同じ「物語」シリーズのアメリカ版などは(アメリカもフランス、イギリスと比べれば歴史が浅いのですが)、歴史本に良くありがちな「浅く広く」語っていて、あまり感銘を受けませんでした。その点、シンガポールの歴史は新書250ページくらいあればかなり密度の濃いものが読めると感じます。
    次に良かった点として、シンガポールの独立後の経済成長については政治を軸として極めて明快な論理展開がなされていて、ものすごくわかりやすかったことです。これはシンガポール自体がある意味極めて明快な戦略を打ち立てていたからという面もありますし、それを著者がしっかり明快に記述しているからだと思います。シンガポールの生い立ち、経済成長の仕組みなど、初心者にはとても良い本と思いました。

  •  植民地化前の住民はごく少数で未開の地、という事情が、独立に際し戦争を経なかったことや反英感情がそんなに目立っていないことに影響しているのではないか。
     戦時中の日本による占領を経て、自治政府を認めるという英の改革に合わせ、英語教育集団と共産党系も多い華語教育集団が結び、人民行動党誕生。それから両集団は激しく対立するが、皮肉にも苦い経験だったマレーシア連邦時代が共産党系抑圧には貢献しているようだ。それでも、マレーシアからの突然の「追放」時の悲哀はいかばかりか。
     その後、外政ではマレーシアとインドネシア、米、ASEANのバランス。内政では特異な教育制度と管理システムによる開発主義国家化。その統治手段である人民行動党の性格を、政治理念を持たずプラグマティズムの原理に徹する、と著者は評する。それを支えるのが保守的な中間層だ。
     ただ、21世紀に入ると物価高など生活環境の悪化、それに管理政治への不満から、選挙で人民行動党は苦戦するようになっているという。

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著者プロフィール

元アジア経済研究所地域研究第一部主任研究員
元拓殖大学国際学部教授

「2023年 『現代アジアの「民主主義」』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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