言語学の教室 哲学者と学ぶ認知言語学 (中公新書 2220)

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  • Amazon.co.jp ・本 (233ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121022202

作品紹介・あらすじ

「雨に降られた」はよくて「散布に落ちられた」がおかしいのは、なぜ?「西村さんが公園の猫に話しかけてきた」の違和感の正体は?認知言語学という新しい学問の、奥深い魅力に目覚めた哲学者が、専門家に難問奇問を突きつける。豊富な例文を用いた痛快な議論がくり返されるなかで、次第に明らかになる認知言語学の核心。本書は、日々慣れ親しんだ日本語が揺さぶられる、"知的探検"の生きた記録である。

感想・レビュー・書評

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  • 実に楽しく、明快で、かつ高揚感に溢れる一冊。異なる言語間の形式的差異を文化の違いに帰するだけの本ならいくらでもあるが、この本が読み手を連れて行く(←語彙的使役)場所はそれより遥かに深く鮮やかな色彩に満ちている。言語学者と哲学者の、どちらが主とも従とも、教師とも生徒ともつかないままの対談形式は澱みもなく、豊富な例とも相まって読み手の理解を大いに助けてくれる。「言語学」「哲学」などというと堅苦しいが、難解な所は全くなく、肩肘張らずリラックスして読める良書。巻末のブックガイドと索引も有難い。

    ところで何年か前、大学の農学部を舞台としたマンガが人気を博したことがあったが、その中で「かもす」という動詞が頻繁に使われていたことを思い出した。キャラクター化された細菌が出てきて「かもすぞー」などというのだが、そのマンガを読んだとき、その「かもす(漢字では「醸す」)」という動詞を新鮮で面白く感じつつも、なぜそう思えるのかその理由がよく分からなかった。この本によれば、そのような「動詞+助詞(せる・させる)、例:腐らせる」の形ではない単一の使役動詞を「語彙的使役動詞」というのだが、そのような動詞が使われる場合は行為と結果の因果関係が直接的かつ強固で、客体が主体の完全なコントロール化にある場合が多いのだそうだ。…つまり、微小で頼りない(マンガ内でもラクガキ的に描写されている)細菌が、こと発酵というプロセスにおいては有無を言わせない程強力な役割を果たす支配者なのだという、そのギャップが面白かったのだなあ…とこのように、様々な気づきを与えてくれること間違いなしの一冊。

  • 言葉を操ることは楽しいし、考えれば考えるほどドツボにはまる。言語をめぐる哲学的対話の体で、野矢さんが多彩な質問を繰り出しテンポよく論が進んでいく。実際の対話はもっと長かったそうで、中公新書の編集担当者さん、お疲れ様でした。

    冒頭でソシュールを引き合いに「共時態」と「通時態」の話が来たところでいよいよ引き込まれてしまった。全体的に通底しているテーマだったように感じる。

  • 全6回構成でその主題は次の通りです。
    第1回:チョムスキー以後の言語学史
    第2回:認知言語学の意味論
    第3回:プロトタイプ意味論
    第4回:使役構文
    第5回:メトニミー
    第6回:メタファー

    第3~6回は、言語学に興味があれば、そこだけ読んでも面白いです。
    反対に第1、2回は、事前知識なしだとよく分からない話をしています。
    そして、哲学寄りの話をしている第2、3回こそ、哲学と言語学の先生の対談にした意義が表れているのかなと思います。

    全編にわたって大変面白い本です。
    普通に読んでいたら素通りしてしまいそうなところでも、聞き手の野矢先生がバシバシ突っ込みを入れてくるのですが、そういう頭のいい人の考え方が覗けるのも興味深い。
    ただ、体系的な理解ができる形式ではないので、本書を手に取るのは、言語学と言語哲学の入門書を読んだ後がいいのでしょうね。

  • 生成文法と認知言語学を比較しつつ、言語の意味と文法の概念や使用方法を哲学者と言語学者で対話した著作。

  • 面白かったー!!対話形式で読み口がマイルドだし取っつきやすい。でもやってる内容はガチのガチなので薄っぺらくなることもなく初心者にはうってつけなんじゃないのかな。認知言語学の面白さと、じゃあこれってどういうことなの?でもこうなんじゃないの?と興味を次に繋げる感じの構成で、どんどん認知言語学について知りたくなる。
    久しぶりに新書で楽しませてもらいました!
    (ていうか私が野矢さん好きだからこんなにハマったのかもしれませんね…)

  • 哲学系の新書などでは、自分で何を書いてるのかわかってるの? 自分に酔ってるだけなの?とつっこみをいれたくなるものや、他人の言説を引用しまくって受け売りしているだけのものが多かったりしますが、野矢さんの文章はクリアで、論述の対象の本質をうまくすくいとるかたちで書いていることがよくわかります。何冊か読んだことがありますが、すべてきっちりできている。きっと、話し方も論理的なんだろうなあと推測します。そういう話し方のできるひとを、私はとても信頼できます。
    それでいて、逆説的なのですが、野矢さんが関心をもっている分野について、私はまったく関心がもてないのでした。まったくというか、ニアミスというか。言語については関心があるし、いろいろ本を読んで知りたいと思う。にもかかわらず、野矢さんがおもしろいと思ってアプローチをする論点は、私にはまったく響いてこないのでした。野矢さんの書き方がクリアなので、だからこそ、私の関心とのちがいがものすごく明確にわかるのです。
    この本などはまさにそうで、読み終わったとき「なるほど、そういう観点で議論してるのね。なかなかおもしろい。でも、私にはまったく関心のないアプローチでした。この方向の議論は、今後深追いしないでおこう。終わり終わり。次行ってみよう」と自信をもって納得したのでした。(2015年4月21日読了)

  • むずかしかった。
    対談形式だと難解さもわかると思ったけど。
    優しい語り口なんだけど、専門用語が多め。

  • 認知言語学の入門書としてはやや敷居が高いか。例えば籾山洋介 (2010)『認知言語学入門』東京: 研究社 あたりを読んでおくと良いのかも。生成文法との区別や,メトニミーに関する記述が興味深かった。野矢の専門も生きる記述もあり,ウィトゲンシュタインの家族的類似性の話は大変わかりやすかった。

  • ちょっと意地悪で優れた弟子が、先生を楽しく追いつめる。言葉の不思議の解明に膝を打つ。

    【紙の本】金城学院大学図書館の検索はこちら↓
    https://opc.kinjo-u.ac.jp/

  • 言語学、というとソシュールやらチョムスキーやら、やたらと難解なイメージがあってなかなか食指が動きません。しかし、この本は哲学者の野矢茂樹先生が認知言語学者の西村義樹先生の講義を受ける形で、言語学の歴史から最新の知見まで概略的に学ぶことができます。言語学に興味のある方には入門書としてうってつけ。でも、この本は単なる言語学の入門書ではありません。哲学者の生徒が認知言語学の盲点を突くような鋭い疑問・考えをたびたびぶつけて、先生を困らせています(笑)そういう意味で現代の言語学の射程を超えたところまで考えるきっかけを与えてくれる刺激的な著作でした。
    僕としては、特に第3回の『プロトタイプと百科事典的意味論』の章が興味深かったです。

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著者プロフィール

1954年(昭和29年)東京都に生まれる。85年東京大学大学院博士課程修了。東京大学大学院教授を経て、現在、立正大学文学部教授。専攻は哲学。著書に、『論理学』(東京大学出版会)、『心と他者』(勁草書房/中公文庫)、『哲学の謎』『無限論の教室』(講談社現代新書)、『新版論理トレーニング』『論理トレーニング101題』『他者の声 実在の声』(産業図書)、『哲学・航海日誌』(春秋社/中公文庫、全二巻)、『はじめて考えるときのように』(PHP文庫)、『ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』を読む』(哲学書房/ちくま学芸文庫)、『同一性・変化・時間』(哲学書房)、『ここにないもの――新哲学対話』(大和書房/中公文庫)、『入門!論理学』(中公新書)、『子どもの難問――哲学者の先生、教えてください!』(中央公論新社、編著)、『大森荘蔵――哲学の見本』(講談社学術文庫)、『語りえぬものを語る』『哲学な日々』『心という難問――空間・身体・意味』(講談社)などがある。訳書にウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』(岩波文庫)、A・アンブローズ『ウィトゲンシュタインの講義』(講談社学術文庫)など。

「2018年 『増補版 大人のための国語ゼミ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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