明治維新と幕臣 - 「ノンキャリア」の底力 (中公新書 2294)
- 中央公論新社 (2014年11月21日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (233ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121022943
作品紹介・あらすじ
明治維新は、西郷隆盛・大久保利通・木戸孝允ら薩長土肥の志士が中心となって成し遂げたというイメージが強い。進取の気風に富む西南雄藩が、旧態依然たる江戸幕府に取って代わったのは、歴史的必然だったとさえ捉えられている。だが本当に幕府は無為無策で、すぐれた人材を欠いていたのか。本書は、行政実務に精通し、政権交代後も継続登用された中・下級の旧幕臣たちに光を当てるものである。明治維新への新たな視座。
感想・レビュー・書評
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この本のタイトルは妥当ではない。実際のテーマは「明治維新と無名の幕臣」になるだろう。
政治と行政を分けるのは、政治の世界に関心の低い人々には分かりにくいかもしれない。
ただし、その間には動と静、明確なボーダーラインがある。
日本では江戸時代から、そこにきちんとした線引きがなされてきたからこそ、全国を揺るがす内乱が起きなかったといっても過言ではない。
武士の一分という言葉があるように、行政官の一分が庶民の生活を支える行政を担ってきた。
江戸時代から現代まで脈々と受け継がれている社会の安定を第一に考える役所の世界は、社会的な革命期である明治維新期にも受け継がれたことをこの著作は示している。
家庭や民間企業では、組織の中心人物がいなくなれば、そこにいる人物は動揺を免れない。
しかし、江戸幕府がなくなって将軍がいなくなっても、日本中の奉公人の大半は粛々と自らの仕事を進めていた。
お役御免になった組織の長も、次のリーダーに従うようにと伝言を残して静かに組織を去っていった。
改めて、なんと凄い国家なのだろうかと感銘を受けざるを得ない。
しかし、だからこそ、その行政マンが怠慢になった世の中は非常に恐ろしい事態が起きないかと危惧もしてしまう。
幕末をみて、現代を省みると、いろいろなものが見えてくる。またその感覚を強めた一冊であった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ふと思った疑問が膨らみに膨らんで手に取った一冊。
明治維新(旧幕臣からすれば「御瓦解」)前後の行政機関がどのように運営されていたのかを十分に示している一冊。
読んでいると行政に携わる人間の移り変わりがよく理解でき、明治10年代と1桁代の行政機構の違いが肌感覚で理解できるようになると思う。
ただし、他の方のコメントにもあるように、維新全体の流れ以上に、その点の記述にもう少し厚みが欲しかったのが正直なところ。
ただ、この一冊で維新前後の流れをあらかた追えるように出来ているとは思えるし、行政機関としての江戸幕府についても冒頭で確認できるつくりになっていることは、新書である以上ポジティブに捉えてもよい構成だと思う。
読んでいて、本社から来た人間を支社(出先)で迎える側の感情にはさまざまなものがあると推測されるが、そういう話ってこの頃にもあったのだろう、と勘ぐった。
繰り返しになるが、そんなことを考えさせてくれる「ノンキャリ」の働きぶりをもう少し見たかったというわがままを思い起こしつつ、本社支社環境への気付きを与えてくれた一冊。 -
2015.01.04 予想以上にこの本を読まれている方が多いようだ。今のところ読む可能性が低いけど、リンク集として記録しておく。
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明治維新における歴史的流れも、上手くまとめられててとても興味深い。
江戸幕府における役職の説明まで、結構細かく為されててうちの息子もこの辺りが大好きで質問して来るので助かったりしました。 -
歴史って楽しい
幕臣サイドからの幕末って
最近漸くわかってきた -
この本は、「ノンキャリア」の人びとに注目することで、幕末と明治の連続性とその変容を明らかにしています。僕自身、学校では「明治維新によって幕府は滅びた」と習った覚えがありますが、行政機構として明治政府は脆弱な部分もありました。ですから実際には、幕府や各藩が長年の統治によって蓄積してきたノウハウを受け継ぐことで、明治政府は全国に渡る統治(いわば明治政府の自立)を可能にしていったのだといいます。
そしてそのノウハウを知っているのは、行政実務にあたってきた幕藩の末端の人たち、つまり「ノンキャリア」でした。明治政府は榎本武揚や渋沢栄一といった旧幕側の人物、それも外国の学問に通じた人物を厚遇して迎え入れていますが、その他方で幕藩のもとで実務にあたってきた人びとも登用していったのです。
本書の前半は、そうしたノウハウが蓄積される過程、つまり幕藩体制が成立する過程を概観し、後半でそのノウハウがいかにして引き継がれたのかということを箱館府(開拓使の前身)の事例を中心にしてみてゆきます。
社会の激動とそれに対応する人びとの姿から、明治維新の違った一面が見えてくるかもしれません。 -
江戸幕府が倒れ、明治新政府が樹立する。日本史をならった人ならば、誰でも知っている歴史的事実である。しかし、実際に事務仕事を担当していたのは誰なのか?という問われたら、そのことに答えられる人はおそらくほとんどいないであろう。本書ではその答えを「幕臣」に求める。歴史の大事件の陰に隠れてはいるが、明治新政府を支えた幕臣たちに光を当てようとした一書である。
ただ、正直いってタイトルに問題あり、ではないかと思う。「明治維新と幕臣」というタイトルながら、第1章と第2章は江戸幕府の話で、明治維新の話とは言い難い。第3、4章はほとんど政治過程史の叙述といってよい。本書のタイトルとすっきり合致する内容は5章、6章だけである。
1章、2章が5、6章の「前フリ」になっているならまだわからなくもないが、一読した印象ではそれほど関連性を感じることができない。江戸時代の官僚に行政的能力がある、ということが重要なのだが、そのこと以外のこと―江戸時代の官僚システムのこと―を、1、2章では述べているので、なんともつながっていないような感じなのである。そこに加えて3,4章で政治過程が入ってくるものだから、ますます主題が遠のいているように感じられる。
個人的には、5、6章に出てくる「有名でない官僚」たちの生き様、その後をもっと知りたかった。というか、そういう本だと思っていた。まあ勝手に期待しておいて、それと違うからこの本はダメ、とまで言うつもりはないが、でもやっぱりこの本のタイトルは誤解を招くんじゃないかな・・・と思う。 -
明治維新政府で多くの旧徳川幕府の人間が行政マンとして働いていたというお話。幕末の時に朝廷から攘夷しろと命令されたことに対して幕府内で朝廷に政権を返上しようという意見があったというのは驚いたが、徳川幕府成立から話が始まっているので正直前置き長いなと感じた。高尚な理想を掲げた維新政府にしても色々な政府のお仕事を幕臣なしにするのは無理だったんだな・・。
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戊辰戦争後、多くの幕臣は静岡藩に移ったが、奉行より下のなど多くの御家人は、給与が必要でそのまま維新政府に勤めた。そこ後、西洋式マネジメントが普及すると彼らの出番がなくなり退職していった。
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江戸から明治に変わる激動期にスムーズに移行できた理由がよくわかる一冊。