天災から日本史を読みなおす - 先人に学ぶ防災 (中公新書)

著者 :
  • 中央公論新社
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本棚登録 : 771
レビュー : 94
  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121022950

作品紹介・あらすじ

豊臣政権を揺るがした二度の大地震、一七〇七年の宝永地震が招いた富士山噴火、佐賀藩を「軍事大国」に変えた台風、森繁久彌が遭遇した大津波-。史料に残された「災い」の記録をひもとくと、「もう一つの日本史」が見えてくる。富士山の火山灰はどれほど降るのか、土砂崩れを知らせる「臭い」、そして津波から助かるための鉄則とは。東日本大震災後に津波常襲地に移住した著者が伝える、災害から命を守る先人の知恵。

感想・レビュー・書評

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  • とにかく、面白い。そして、とってもタメになる気がする。

    軸になっているのは、歴史学者である著者から読者に向けた、歴史に学び、守れる命を守ろう、という呼びかけ。「人間は現代を生きるために過去を見る。・・・すべての歴史は現代史の一部である。」
    武将から寺社の記録係、果ては忍者から市井の人々まで、さまざまな立場の人が書き記した古文書から、各地の災害に関する記述を読み解き、体験談として生き生きと蘇らせています。

    驚くのは、計量技術が今ほど精密ではなかった時代に、桶の水のこぼれ方や井戸水の変化や、線香の燃え具合などから、災害が起きた時間や状況がかなりしっかりと表現されていること。さらには、言い伝えや、立地や、地名の名付けなどで後世になんとかして教訓を伝えようとしてきた人びとがいたことも、よく分かります。

    地震、津波、噴火、山崩れ、台風に高潮。日本の各地がどれほど災害に見舞われてきたかを示されて、改めて慄然としつつ、先人たちが残した多くの生き延びるためのヒントを、もっともっと大切にしなければならないのだと実感しました。

    備えは万全に。でも災害は時に想定を超えることも知っておく。自分の身を守るのは自分。非常時こそ、互いの思いやりと優しさを。

  • 地震、台風、津波、土砂崩れ……。
    史料から読み解く、かつての天災の光景。
    そこから考える、日本のこれから。

    思えば、日本というのはこういった史料に恵まれた国だ。
    早くから紙が普及し、識字率も性別に関わらず高かったことから、伝え遺す情報が多いことは本当に幸運なのではないかと思う。

    しかし、どれほど貴重な教訓が遺されていても、それを重用しなければ意味がない。
    この新書の中でも、地名から想像出来る被害を考えずして、重要な施設を建てていたりする。
    財政的に、そうするしかない場合もあるのだろうけれど、いつ起こるか分からない恐怖より、いつ起こるか分からない無謀に走ることが人間は多い気がする。いや。科学技術の進歩が、人間に全能感を与えているのかもしれないなぁ。

    耐震、防火、防潮。100年も前とは比べものにならない技術力を我々は手にした。
    けれど、その代わりに起こる人災もある。
    知らないことを他者のせいにせず、自ら生き延びる情報を得ようとする姿勢が必要なのではないか。

    こうした文献を、蔑ろにしてはいけないと強く思わされた。

  • 歴史学者の磯田道史氏が朝日新聞に連載した、「磯田道史の備える歴史学」(2013年4月~2014年9月)をまとめたもの。2015年の日本エッセイスト・クラブ賞受賞作。
    著者は、東日本大震災後、理系の研究者が地震や津波の実態を明らかにした数多くの本が出版されたとしながら、本書の狙いを、「本書は、地震や津波ではなく、人間を主人公として書かれた防災史の書物である。防災の知恵を先人に学ぶとともに、災害とつきあい、災害によって変化していく人間の歴史を読みとっていただけたなら、幸いである」と語っている。
    本書では、豊臣秀吉を襲った1586年の天正地震と1596年の伏見地震(これらの地震がなければ、徳川家康の天下にはならなかったと言われる)、1707年の宝永地震とそれが招いた大津波及び富士山の宝永噴火、1828年のシーボルト台風(これにより、佐賀藩は軍事大国となり幕末史にも影響を与えたと言われる)ほか、様々な地震、津波、台風と土砂崩れ・高潮などの災害について、古文書を丁寧に読み解いて、その様子やそこから得られるものを示している。
    また、著者は、災害史に興味を持った大きな理由として、著者の実母が1946年に徳島県で昭和南海地震・津波に遭い、九死に一生を得たことと語っており、そのときの実母の経験とそこから得られる知恵についても、詳しく述べている。
    そして最後に、東日本大震災の教訓として、津波被災地の古い神社の多くでは、津波は神社の石段を上った鳥居までは来たものの、神社の社屋は被害を免れたことを紹介し、歴史や先人の知恵に学ぶことの大切さを強調している。
    英国の歴史家E.H.カーは、名著『歴史とは何か』の中で「歴史とは現在と過去との対話である」と述べ、現在を生きる人間がどのように捉えるかによって、過去の事実のもつ意味は変わってくると言っているが、災害がその時代にどのような影響を及ぼしたのか、及びその災害から現在の我々は何を学べるのかについて知る上で、有益な書と思う。
    (2015年12月了)

  • 地震、津波、高潮、土砂崩れと、多くの災害に見舞われてきた日本には、その克明な記録が残されている。古文書を紐解けば、過去の災害がどのような規模だったか、同じ被害を繰り返さないために何に注意すればよいのか、多くの示唆が得られる。

    地震や津波、富士山の噴火では前兆と考えられる現象が観測されていた。地名や神社の場所には、過去の災害の刻印が隠されていた。悲劇を生き延びた人々が残した戒めが、後の世の人々を救った例も多い。近世の災害や東日本大震災での事例も含め、今後も災害と向き合っていかなければならない日本人が、覚えておくべき多くの教訓が残されている。

  • 過去の震災ってあまり現実感がなくて、津波、地震、噴火があったんだなぁ、くらいにしか思えなかった。
    本書ではリアルな質感を持ったものとして過去の災害を知ることができた。折々に散りばめられた著者の情緒的な感想に引っ張られたこともあるが、数字だけでなく、種々の文献から庶民の実態を垣間見ることができたことも、過去の震災に立体感を持たせていたと思う。
    何百年経ち予測の精度は格段でも、いざ災害が起きれば人は未だに逃げることしかできない。できることが同じならば、過去の経験はとても大切だと感じた。

  • 災害史をかじってみたくて手に取った本。エピソードベースなのでさくさく読めて、まとまりはないですが読み物として面白いです。
    宝永地震や伏見の地震、あるいは地震だけでなく噴火や津波、土砂崩れ等の事例がとりあげられており、どの地域にどのような災害のリスクがあるのか分かったのが良かったです。災害の後に何が起きたのか、歴史がどう動いたのかがしっかり書かれているのも歴史学者の著者らしくこの本の面白いところかと思います。

  • 歴史家の立場で、著者や専門家に発見された歴史学から裏付けされた地震などの前兆・天災による罹災状況を著述し、防災知識として昇華したエッセイ。
    読者一人ひとりに語りかけ、被災しても、必ず生存して欲しいという著者の願いが詰まっている。
    地震、高潮、津波、富士山噴火など中身が、充実し、防災のための知識として、この作品を、1冊目としていいのではと断言してもいいと思う。

  • 地震の歴史は繰り返す。だからこそ古文書からの教訓は多い。

  • 歴史学って面白いと思いました。
    面白いといっては少しはばかるような内容ではありますが。
    史学ってこういうことのためにするものだと
    思える内容でした。

  • ご存じ「武士の家計簿」の著者が朝日新聞に連載したエッセイを新書にまとめたもの。2015年の日本エッセイスト・クラブ賞受賞作。

    以下内容の面白いエッセンスです。
    豊臣政権を揺るがした天正地震(1586年)と伏見地震(1596年)の2度におよぶ大地震が豊臣政権崩壊の引き金になったという。
    特に後者の地震後、秀吉が伏見城の再建と、朝鮮再出兵を疲弊に苦しむ諸国の大名に命じたことが、豊臣から徳川へ人心が移り始めるきっかけとなり、政治の潮目が変わった。
    伏見地震の直後、秀吉は小屋に蟄居していたので、徳川家康と家臣は防御が手薄な秀吉を急襲する計画を謀議した資料が国立公文書館の中で見つけた時は、著者は鳥肌がたったという。ただ家康は明智光秀の末路を見ていたので、実行はしなかった。

    1828年のシーボルト台風の被害から立ち直るために、佐賀藩では西洋文明を重視する改革派が登場し、以後軍事大国となり幕末史にも影響を与えたと言われる。
    余談だが、シーボルト台風に先立ち、1808年にイギリスの軍艦が侵入する事件が起き、佐賀藩は長崎湾を守りきれなかった。この後佐賀藩では西洋帆船との戦いを念頭に置くようになった。とてもかなわぬ西洋軍艦と戦うために、この時に考え出されたのが「捨て足軽」という自爆部隊である。
    西洋の圧倒的な軍事力への対抗手段として、非西洋は、しばしば「自爆攻撃」という無茶をやってきた。太平洋戦争での日本の特攻隊がそうであり、イスラム過激派の自爆攻撃がそれである。それらの西洋への自爆攻撃を組織的に準備した最古の歴史的事例がここにあるという。

    以上のような面白い話が満載であるが、やはり3.11の東日本大震災のような被害を最小限に食い止めたいと願う著者が、歴史の教訓を今日に当てはめようとする熱意がひしひしと伝わってくる良書であり、一読をお勧めします。

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著者プロフィール

磯田道史(いそだ みちふみ)
1970年、岡山県生まれの研究者。茨城大学、静岡文化芸術大学などを経て、国際日本文化研究センター准教授。専攻は日本近世・近代史・日本社会経済史。
実家は備中鴨方藩重臣の家系で、古文書が豊富にあった。高校生のとき実家と岡山県立図書館の古文書を解読している。京都府立大学文学部史学科、慶應義塾大学文学部史学科を経て、慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程修了。「近世大名家臣団の社会構造」で史学博士号取得。
2003年刊行の『武士の家計簿 「加賀藩御算用者」の幕末維新』が第2回新潮ドキュメント賞を受賞し、2010年森田芳光監督により『武士の家計簿』のタイトルで映画化し大ヒット。2015年には『天災から日本史を読みなおす』で第63回日本エッセイスト・クラブ賞を受賞。その他代表作に『日本史の内幕』などがあり、多くの新書がヒット作となっている。

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