日本陸軍とモンゴル - 興安軍官学校の知られざる戦い (中公新書 2348)
- 中央公論新社 (2015年11月21日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (263ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121023483
作品紹介・あらすじ
一九三〇年代に満洲の地で、日本陸軍が関与し、モンゴル人へ軍事教育を施す目的で作られた興安軍官学校。日本の野心と中国からの独立を目論むモンゴルの戦略が交錯する中から生まれた場所だ。本書は軍事力により民族自決をめざすモンゴル人ジョンジョールジャブや徳王らの活動、軍官学校生らが直面したノモンハン戦争から敗戦にいたる満蒙の動向などを描く。帝国日本に支援され、モンゴル草原を疾駆した人びとの物語。
感想・レビュー・書評
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2016.02―読了
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ノモンハン事件のことを知りたくて関係書を探していた中で読んだ本。
民族自決、独立国家の形成を目指した、モンゴルを取り巻く状況、日本、中国、ソ連、といった大国間で翻弄された歴史。 -
満洲国内でモンゴル人を対象に作られた興安軍官学校。陸士に学んだジョンジョールジャブとその兄。民族のリーダーになると期待されていた徳王。本書ではこれらの活動をモンゴル人の側から描く。単なる被支配者ではなく、日ソを利用して民族自決を図る誇り高い民族主義者の姿でもある。
著者は日本軍の規律や精神、またモンゴル人に親和的な個別の日本人はある程度肯定的に描く。しかし日本当局全体としては、モンゴル人を支援しつつも、あくまで満洲国の五族協和や汪兆銘政府下の地方政権という枠内でしか認めず、民族独立は許さない。「国」ではなく「邦」、「蒙古」ではなく「蒙疆」、「独立軍」ではなく「自治軍」の扱い。モンゴル人同士が不本意ながら敵味方に分かれて戦ったノモンハン。
著者は中国共産党政権の日本との近似性、時には日本以上に厳しいモンゴル人政策を何度も指摘する。漢語教育が強化されているという近年の政策がずっと頭にちらついた。 -
YK6a
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ノモンハン事件を日本の目でしか見なかった。さらにモンゴルがソ連と共同して戦ったぐらいしか知らなかった。
中国によるモンゴル人へのジェノサイトとモンゴルへの侵略が行われていたことは初めて知った。 -
日中戦争前後におけるモンゴル民族を取り巻く状況。私も含めて知らない日本人も多いのではないだろうか。
著者もモンゴル出身者であってモンゴルの民族自決に対する強い思いが随所に感じられる。満州国に組み込まれたモンゴル人、戦争後の運命等列強に左右されるモンゴル民族の悲哀を感じる。
今でこそ相撲等でなじみがあるモンゴルだが、本書記載の民族としての背景を知ることが出来る貴重な一冊と思う。 -
モンゴルの独立をめざし倒れて行った者たちに対しモンゴル人が書いた鎮魂の書である。モンゴルは現在内外蒙古に分かれている。いわゆるモンゴル人民共和国はソ連によって共産圏に加わることで独立を果たした。それに対し、内蒙古と言われる地域は、日本と中国、それにソ連の間にあって、苦悩した地域である。本書は本来モンゴル人のための軍人を養成するためにつくられた学校―興安軍官学校のものがたりで、日本の陸軍士官学校で軍人としての教育を受け、そこで教官をしたジョンジョールジャブの生涯を中心に描いたものである。日本人はここで、モンゴルの独立、自決を担う軍人たちを養成しようとしたし、満州国成立後は五族協和の看板を掲げたものの、やがてかれらがうとましくなり、かれらの恨みを醸成していった。言ってみれば、日本はかれらを利用しようとし、かれらも日本を利用して中国からのモンゴル独立を果たそうとしたのである。中国からすれば、かれらは中国を分裂させる分子だというであろうが、モンゴル民族にとって中国はつねに独立を妨害する憎き国家なのである。中国の民族政策を見ていると、とても各民族を尊重しているようには思えない。モンゴル人にとって耐えられないのは、草原を開墾して農地に変えることである。これがよくないのは、草原は一旦開墾すると雨が少ないのですぐにだめになってしまうからだそうだ。だから、かれらは草原を求めて遊牧するのである。一方、日本のやり方で最もまずかったのはノモンハン事件で、日本人はモンゴル人たちを戦わせようとする愚挙に出た。その結果は、多くの離反兵、逃亡兵を生むことになった。ノモンハンの大きな敗因の一つはそこにあるというべきだろう。そして、日本の敗戦に際し、ジョンジョールジャブは日本の軍人幹部たちを殺害するという行動に出た。これはそれまでの恨みが爆発したものと言われるが、ぼくには原因はわからない。モンゴル人の中には、日本人たちを庇い、逃がした者もいたからである。自分を育ててくれた多くの日本人に恩義を感じていたジョンジョールジャブがどうしてそのような行動に出たのだろう。
これを読むと日本人の中にも、モンゴルの独立を支援した軍人もいたが、かれらは変人扱いされた。その中心はやはり日本中心の大東亜共栄圏を打ち立てることにあったのである。 -
2016年1月新着
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モンゴルの野心家ジョンジョールジャップの野望と日本帝国陸軍がモンゴル民族へ施した軍事教育について書かれた本(2015/11/25発行、907E)。
本書は、日本帝国陸軍とモンゴルの関わりについて書かれた本のようなタイトルが付けられていますが、実際には日本に帰化した中国・内モンゴル出身の著者の鬱結した恨みに満ちた内容で書かれたジョンジョールジャブの評伝です。
本書、著者の中国に対する恨み辛みが強く感じられる内容で、ジョンジョールジャブに対する高評価についても疑問・不信を感じるところが多く、余り評価出来ない内容でした。当時の中国や日本の対応に色々間違いや問題があったのは確かのように思えますが、はたして著者が主張する程、モンゴル側が一方的な被害者だったのでしょうか?
フィクションではありますが、当時を知るモンゴルや日本の方達を取材し書かれた安彦良和の「虹色のトロツキー」や、日本・中国・モンゴル・朝鮮・ロシアの各民族から選抜された人達が集った建国大学の学生達が生き抜いた戦後を綴った三浦英之のドキュメント「五色の虹」他の書籍を読んだ限りでは、本書の内容に偏向を感じるのは何故でしょう...
個人的にはこの本を御覧になられる或いはなられた方には、一度、同ジャンルの著者の異なる他書も御覧になることをお勧めしたいと思いました。 -
著者はモンゴル人。視点は面白いのだが、小国としてのモンゴルのルサンチマンに満ちていてあんまり愉快ではない。大国(日本、中国、ソ連)のエゴに翻弄されるフビライ・ハーンの末裔という物語が先行しすぎていて、歴史ものとしては惜しい。
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書籍についてこういった公開の場に書くと、身近なところからクレームが入るので、読後記はこちらに書きました。
http://www.rockfield.net/wordpress/?p=6643 -
中国共産党は日本帝国主義を引き継いだようなもの。
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一九三〇年代に満洲の地で、日本陸軍が関与し、モンゴル人へ軍事教育を施す目的で作られた興安軍官学校。日本の野心と中国からの独立を目論むモンゴルの戦略が交錯する中から生まれた場所だ。本書は軍事力により民族自決をめざすモンゴル人ジョンジョールジャブや徳王らの活動、軍官学校生らが直面したノモンハン戦争から敗戦にいたる満蒙の動向などを描く。帝国日本に支援され、モンゴル草原を疾駆した人びとの物語。