中曽根康弘 - 「大統領的首相」の軌跡 (中公新書 2351)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (348ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121023513

作品紹介・あらすじ

自主憲法制定を訴えるタカ派、主張を変える「風見鶏」、首相就任時も、田中角栄の影響下「田中曽根内閣」と批判された中曽根康弘。だが「戦後政治の総決算」を掲げた中曽根は、「大統領的」手法によって国鉄などの民営化を推進、レーガン米大統領や中韓と蜜月関係を築き、サミットを通じて、日本の国際的地位を大きく上昇させる。本書は中曽根の半生を辿り、日本が敗戦から1980年代、戦後の頂点へと向かう軌跡を追う。

感想・レビュー・書評

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  • 広田弘毅を著した服部教授による中曽根康弘の評伝。読み応え十分。

    毀誉褒貶ある政治家であるが(というか政治家なんて毀誉褒貶あるのが通常だが)、その哲学、知力、胆力、理念、実行力は、今の政治家からは感じられないものであり、その主義主張や行ったことへの賛否はおいて、類まれな政治家であったことを実感させられる。

    アラブ訪問時(だったかな?)、会談相手が突如フランス語で行いたいと言ってきたが、フランス語通訳がいない状況で、フランス語だったら自分でできるといって会談してしまうって。宮澤喜一といい、中曽根といい、どれだけ語学に長けていて、どれだけ頭いいんだと、ただただ感嘆するほかない。

    このような政治家がいない今を、残念と思うか、それとも、そのような政治家がいなくても何とかなっている状況自体を好ましいもの捉えるのが適切なのか…

  • カント読んでる政治家なんて日本に今いるのかな。
    そういえば佐藤栄作も読んでた。昔の政治家には哲学があったんだなあ。

  • 中曽根の人生だけでなく、自民党における派閥闘争に関するエピソードも興味深かった。

  • 中曽根康弘はもともと海軍の主計係だった
    前線の物資調達にあたる任務で、命の危険にさらされた経験もある
    戦後は、反米・自主独立路線をとり
    日米安保や新憲法に対する批判の急先鋒となった
    ところが、国際社会が冷戦構造を形成していくにともない
    むしろ親米傾向を強めていく
    初入閣が科学技術庁長官だった中曽根の、原発・ロケット開発には
    アメリカの協力が不可欠という事情もあった
    しかしそうかと思えば
    台湾承認に反対して中国との関係改善を唱えたり…
    また翻って佐藤栄作と和解したことを機に
    世論には、中曽根を「風見鶏」と揶揄する向きもあった
    もっとも、本人からすれば
    師と仰ぐ徳富蘇峰の教えに忠実だっただけかもしれない
    政治は宗教ではないのだから
    大局を見て妥協することも必要だというのが、徳富の考えだった
    それがまあ無節操と言えないこともない
    中曽根の初心である自主独立は、「自主防衛」に建前を後退させつつ
    総理大臣になった後もブレなかったが
    自民党内の派閥闘争に左派の支持を取り込んでいったことは
    80年代以降、日本の政治に混乱をもたらしたと思う
    加えて靖国の公式参拝だ
    満を持してアメリカに物申すポーズが、結果的に中国への挑発となり
    せっかく築いた日中の信頼関係に新たな禍根を残した
    今はまだその時ではないと見て
    妥協を続ける選択もあったはずだが
    それをしなかったのはやはり、無節操というものだろう
    翌年の公式参拝を中止したことで
    内政干渉受け入れの前例を作ることにもなった

    経済政策に関しては
    日米貿易摩擦解消のための輸入促進と
    規制緩和による内需拡大
    こういった矛盾を同時に押し進めつつ
    さらに民間の活力回復をうたった三公社民営化まで上乗せして
    バブル経済と、その崩壊と、長きにわたるデフレスパイラルを
    呼び込むことになった
    三公社民営化は、もともと「増税なき財政再建」の方策として
    議論されていたものだ
    それで高額収入者の所得税を大きく下げたのはまあいいが
    引き換えに、売上税の導入に踏み切ろうとしたことは度が過ぎていた
    結局、中曽根退陣後の竹下内閣では
    好景気のどさくさ紛れみたいに消費税が導入され
    無節操は受け継がれていくことになる
    想像するに
    中曽根としてはおそらく
    日本人の生得的な愛国心、情け深さ
    ノブレスオブリージュに期待するところもあったのだろう
    しかし現実には
    過当競争のしわ寄せを底辺に押し付け
    格差の拡大に進む道でしかなかった

    中曽根康弘という人は、政治家としてリアリストを気取っていながら
    本質的に空想的ロマンチストだったのだと思う
    もしそうならむしろ
    ファシスト扱いされようとも「本当の自分」を
    押し出すことが正道だったのかもしれない
    しかしまあ
    当時そんなことでは、まず総理大臣になんてなれなかっただろうな

  • 2016.01.24 毎日新聞書評(中島岳志 評)

  • 東2法経図・6F開架:B1/5/2351/K

  • 運もあったにせよ長期政権を維持できたのは、政治的センスが高かったからということ。 ただ、国をどうしたいという信念があったというよりは政局を乗り切る器用さのほうが目立つ。自民党の一つ世代が上の代議員からはパフォーマーという評価で信頼を得ていない。 これを読むと、今振り返る形の小泉純一郎の評伝も読んでみたくなった。

  • 著者も最後に書いているが、まだ存命の政治家について業績をまとめることはとても勇気のいることだったと思う。まずその労をねぎらいたい。そして、吉田茂が戦後を作った指導者ならば、中曽根康弘こそが戦後を終わらせ、冷戦を勝利に導いた指導者なのだろう。
    総理になる前に、これほどまでに海外を歴訪した指導者は日本では唯一無二なのでは無かろうか。そうやって積み上げた者があったからこそ、外交を得意分野とした総理たり得たのだろう。
    しかしながら、対米、対中、対韓の全方位の外交を上手くこなしてきた『自信』が、これまでの総理と同じく靖国神社に普通に参拝すれば済むところをわざわざ諮問機関を作って『公式参拝』し、しかもその後の中国の反発に応じて以後の参拝をやめるという『靖国神社の政治問題化』といった禍根を招いたのは間違いないところだと思う。
    このような致命的な失敗があったものの、三公社の民営化をやり遂げたなど、中曽根氏の功績が偉大なのは言うまでもない。
    とはいえ、無理矢理引退させられるまで議席に固執しないで息子の中曽根弘文に議席を譲って自らは参議院比例区に転出するべきだったんじゃねえのかなあ?福田は息子も総理になったぞw

  • 「大統領的首相」を標榜して昭和の最後に約5年間首相を務めた中曽根康弘の評伝。中曽根へのインタビューや中曽根の著書・日記をベースとしつつも、同時代の他の政治家による中曽根に対する評価を記した史料等も用いながら、中曽根を現代日本政治史の中に位置付け、その半生をできる限り客観的に描いている。
    中曽根の半生をたどることは、まさに戦後の日本政治史をたどることであると感じた。パフォーマンス重視や風見鶏という批判は、一面では当たっていると感じたが、傍流の小派閥の長として、首相にまでのぼりつめようと思ったら、ある程度は仕方のないことだったのだろうとは思う。
    中曽根が政治家として優れている点として、野党時代や不遇の時代に勉強をに努めたり、外遊を重ねるなど、その後に表舞台に立つときに備えていたということが挙げられると感じた。
    また、憲法改正にこだわるなどタカ派のイメージが強かったが、中国をはじめとするアジア諸国への配慮に心をくだくなど、いわゆるタカ派のイメージそのままではない一面も知ることができた。
    新書ということで分量的に仕方のない部分はあると思うが、一つ一つのエピソード(三公社民営化、靖国公式参拝問題など)の掘り下げが少し足りないかなと感じた。また、まだ存命の人物という点で難しいのは重々承知だが、最後にもう少し著者なりの中曽根に対する全体的な評価を示してくれれば、なおよかったと思う。

  • 鈴木善幸内閣のときになぜ第二臨調ができたのか疑問に思っていたが、行政管理庁長官が中曽根であったことを知り、納得した。

    いわゆる「死んだふり解散」のとき、記者から、ほんとうに解散はないのかと問われて、能「羽衣」を引用して、「疑いは人間にあり」と答えたというエピソードが紹介されていました。

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著者プロフィール

中央大学総合政策学部教授
1968年生まれ 神戸大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学 博士(政治学)
〔主要業績〕
『増補版 幣原喜重郎──外交と民主主義』(吉田書店、2017年)、『外交を記録し、公開する――なぜ公文書管理が重要なのか』(東京大学出版会、2020年)、Eisaku Sato, Japanese Prime Minister, 1964-72: Okinawa, Foreign Relations, Domestic Politics and the Nobel Prize (translated by Graham B. Leonard, London: Routledge, 2020)

「2020年 『外交回想録 竹下外交・ペルー日本大使公邸占拠事件・朝鮮半島問題』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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