六国史―日本書紀に始まる古代の「正史」 (中公新書 2362)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121023629

作品紹介・あらすじ

奈良時代から平安時代にかけて編纂された歴史書「六国史」。七二〇年に完成した日本書紀から、続日本紀、日本後紀、続日本後紀、日本文徳天皇実録、日本三代実録までを指す。天地の始まりから平安中期の八八七年八月まで、国家の動向を連続して記録した「正史」であり、古代史の根本史料である。本書は、各書を解説しつつ、その真偽や魅力を紹介。また、その後の紛失、改竄、読み継がれ方など、中世から現代に至る歴史をも描く。

感想・レビュー・書評

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  •  比較的好意的に日本書紀を取り扱った本といえる。

     巻第二四皇極紀では、舒明の后であったタカラノヒメミコが皇極天皇として皇位についた時代を描く。この巻は六四五年の蘇我入鹿の殺害が劇的に描かれる。いわゆる乙巳の変である。蘇我氏の主流は国政から排除されたのであり、排除した側によって新政が進められた。
     巻第二五孝徳紀は、海に開かれた難波に都を遷し、管制や租税など国政上の重要な改革が行われたことを記す。いわゆる「大化改新」である。
     戦後歴史学は、『日本書紀』が描く改新像に疑いの目を向けてきた。だが近年の都城の発掘や七世紀木簡の調査は、むしろ『日本書紀』の記述の確かさを証明している。特に難波宮の調査で出土する木簡は、大化改新や『日本書紀』そのものを検証するうえで目が離せないと、述べている。
     
    坂本太郎による『日本書紀』の材料の整理として、
    ①帝紀(大王の系譜)
    ②旧辞(神々や英雄の物語)
    ③墓記(諸氏族の系譜・歴史)
    ④風土記(諸国に伝わる伝承)
    ⑤寺院の縁起(元興寺の縁起など)
    ⑥個人の手記・日記(『高麗沙門道顕日本世記』『伊吉連博徳書』『難波吉士男人書』)
    ⑦外国文献(『魏志』『晋起居注』『百済記』『百済新撰』『百済本記』)
    ⑧政府の記録
    の8つより成り立っていると述べている。

     『日本書紀』の文章について、典拠を研究するものとして出典論がある。現在では、『日本書紀』の文章を整えるとき、唐の欧陽詢『藝文類聚』や北斉の祖孝徴『修文殿御覧』といった類書(項目別に名句を再編集した文献)を参照したことがわかっている。いわば便利な辞典を利用し、孫引きで文章が整えられたのだ。(P55)
     私はその孫引きというよりは、類書を暗記したか勉強して、口ずさめるほど慣れ親しんだ役人や僧侶によって書かれたものだと思われる。だから文章のなかに自然に力を入れるところでそれを挿入するのは当たり前だろうと考えている。

     また遠藤氏は述べる。
    『日本書紀』が完成した当初の読者は朝廷に使える官人たちだった。
     新たに完成した史書がどのような記述であるか、彼らは無関心ではなかったろう。『日本書紀』では、「中臣連の遠祖」「出雲臣・土師連らの祖」など、氏族の始祖について関心を払っている。諸資料の提供者に配慮をしたと考えられる。
     このような読者に対し、いくら勅撰の権威があるとはいえ、一方的な「歴史」を提示することは難しい。
     養老七年(七二〇)にようやく『日本書紀』は完成した。天武天皇10年から数えると三九年の歳月を費やしたことになる。日本最初の公的な歴史書が誕生するまでには、これだけの時間が必要だった。

     編纂の材料と通して『日本書紀』を眺めると、『日本書紀』はただ一人特定の著者が考え抜いた計画に従って書き記した歴史ではない。さまざまな素材を尊重し、先行する歴史記述や古い伝承の価値を認めて引用した。『日本書紀』は歴史書である。だが、現在の歴史や歴史書とは違う考えに基づくところがある。『日本書紀』を理解するためには、偏りのある記録はもとより、伝承や歌謡のようなそのまま歴史的事実とは考えがたい材料を記載する、その意味を考えなければならない。
    『日本書紀』が神代を設定し、氏族や地域の伝承を取り込んだことも同じであるが、それは手本とした中国の正史にはなかった。八世紀の日本で完成した歴史書の型式である。(P68)

     私も同意見である。

  • 日本書紀から日本三代実録にいたる古代の歴史書について、その特徴や成立の背景が解説されている。個々の詳細も興味深いが、近代までの伝来過程を追う事で、歴史を継承するという事の意義を考えさせられる内容でもあった。

  • 歴史とは何か、確定した過去すら所詮は人造の籠鳥

  • 日本書紀に隠れて、六国史の存在感が薄いけれど、この歴史書があるからこそ日本史の正確な描写ができるんだと思う。

    それにしても、研究をリードしているのが相変わらず民間ベースというのが皮肉。

  • 六国史がただの公記録から文章の読み方を教わり、ぜひ読みたいという気持ちになった。

  • 平成28年度 古代歴史文化賞優秀作品賞

  •  
    ── 遠藤 慶太《六国史 ~ 日本書紀に始まる古代の「正史」20160224 中公新書》
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4121023625
     
    http://q.hatena.ne.jp/1517128384#a1266268(No.1 20180201 23:54:08)
     天皇を語るには、つぎの史料を手もとに置いて議論しましょう。
     
    (20180205)
     

  • まず日本古代史に興味がある方や足を踏み入れた人は黙って読んどいた方がいい。どうやって研究を進めてくのか、手法がざっくりつかめます。
    高校の授業で日本史取ってれば問題なく理解できる内容だと思います。

  • 平成30年2月20日再読
    平成29年6月22日初読

    六国史ー日本書紀に始まる古代の「正史」
    遠藤慶太
    中公新書
    ISBN978-4-12-102362-9
    2016年2月25日発行

    はじめに
    序章 六国史とは何か
    第1章 日本最初の歴史書ー「日本書紀」
    1 全三〇巻の構成と記述ー神代から四一代持統天皇まで
    2 伝承と記録のあいだ
    3 素材ー公文書から外国文献まで

    第2章 天皇の歴史への執着ー『続日本紀』『日本後紀』
    1 奈良時代史への入り口ー『続日本紀』
    2 英主、桓武天皇の苦悩ー得意な成立
    3 太上天皇への史臣評ー『日本後紀』

    第3章 成熟する平安の宮廷ー『続日本後紀』『日本文徳天皇実録』『日本三代実録』
    2 摂関政治への傾斜
    3 国史の到達点ー『日本三代実録』

    第4章 国史を継ぐものー中世、近世、近代のなかで
    1 六国史後ー「私撰国史」、日記による代替
    2 卜部氏ーいかに書き伝えられてきたか
    3 出版文化による隆盛ー江戸期から太平洋戦争まで
    あとがき
    参考文献
    六国史 関連年表

    http://www.chuko.co.jp/shinsho/2016/02/102362.html

  • 奈良時代から平安時代にかけて編纂された『日本書紀』をはじめとする歴史書「六国史」について、各書の成り立ちや内容を解説しつつ、中世以降の六国史を伝えた人々の営みについても紹介している。六国史を概観するのに最適の書。
    個々の六国史の内容について、少し物足りない気もしたが、それは裏を返せば、六国史をもっと詳しく知りたいという気にさせてくれる本であったということだ。
    内藤湖南が、六国史は、「官報を綴じ込んだようなもの、毎日毎日書いたものが何時の間にか集まったもの」と消極的に評していたことに対し、著者が「六国史の記事が公文書・日録を材料としたことへの着目であり、史料としてみるならばむしろ、大きな利点と映る」とコメントしていたのが印象に残った。
    また、日本書紀への百済史書の影響、『続日本紀』の「欠陥」、『日本後記』における人物評、仁明天皇の医薬への傾倒、文徳天皇は内裏に参入しなかったという事実、集大成としての『日本三代実録』、国史の代替としての日記や文学作品という見方、大阪の陣の最中に家康が六国史等の書写を命じていたこと、秘伝から公開へという林羅山の画期性といった内容が興味深かった。

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著者プロフィール

1974年、兵庫県生まれ。大阪市立大学文学研究科博士後期課程修了、博士(文学)。皇學館大学史料編纂所助手を経て、現在、皇學館大学文学部教授。 ※2022年10月現在
【主要著書】『東アジアの日本書紀―歴史書の誕生―』(吉川弘文館、2012年)、『日本書紀の形成と諸資料』(塙書房、2015年)、『六国史―日本書紀に始まる古代の「正史」―』(中公新書、2016年)

「2022年 『仁明天皇』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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