天使とは何か キューピッド、キリスト、悪魔 (中公新書)

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121023698

感想・レビュー・書評

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  • 借りたもの。
    西洋の美術や文学に現れる「天使」とは一体何なのか?
    この本は、巷によくあるオカルト一辺倒なものではなく、美術からその図像を解釈するだけのものではない。
    「天使」というイメージの中にある奥深さを紐解いていく一冊。

    そもそも聖書の正典だけでなく、外典にも表れる天使。彼らはキリスト教と異教、正統と異端の境界を揺るがす存在だった。
    神学者たちが真面目に?天使について論じていた内容に触れ、古代自然哲学の一環(要素)として現れたり、占星術のつながり(確かにイエスの出生を予言したのも占星術に基づいていた)もあったし、異教の神々の性質を引き継いでいたり。
    古代から人々の信仰の対象にもなっていた。それは宗教の枠を離れ今日でも映画やアニメで人々を魅了する。

    今のキリスト教では「神の子」とするイエスを、かつては「天使」と解釈する論説があったこと(異端となった)。「神の子」と人間を繋ぐ橋渡しとしての天使たち。
    それは幻視という形を取り、そのイメージ、ヴィジョンが美術で表現されるようになる。
    ボエティウスの「宇宙の音楽」が「天使の合唱・合奏」となり、美術表現に落とし込まれてゆく。

    悪魔(堕天使)についても言及。
    『創世記』では「神の子」である天使が人間と交わって「英雄たち」を生んだという。それが人間に「悪」をはびこらせたというが、それはこの際どうでもいい(古代の人の後付け、責任転嫁っぽいから。単に悪魔のルーツが天使であるという話をしたいだけだろうし)、ギリシア神話のティタン神族の神話との類似性を指摘。
    ここではキリスト教とギリシア神話の境界が曖昧になっている。
    また、堕天使たちの行動から人間の「自由意志」問題を垣間見る。

    最後は近代以降の宗教教義や古代自然哲学の解釈を離れた天使たちを紹介。それはもはやミューズだ。

  • ギリシア語 アンゲロス=伝令、使者

    angel ユダヤ・キリスト教
    キューピッド 異教
    (古代ギリシアでエロス、ローマでクピドやアモル)

    神の愛アガペー>地上の愛エロス

    34 新プラトン主義と天使論
    マクロコスモス宇宙とミクロコスモス人間
    ダンテ

    44 ユダヤにおいてイエスと天使が混同
    →天使崇拝、終末思想@第二神殿時代

    天使キリスト論と天使型キリスト論

    81

    91 天使と音楽

    144 自由意志

    202
    アール・ブリュット
    アウトサイダー・アート

  • キューピッドと天使が習合するのは容易に想像できるが、
    キリストと天使の境界も曖昧だったとは驚き。
    そういえばロビンソン・クルーソーにも
    キリストは天使か否かの話がチラッと出てきた。

    俗なものと見なされていたものが
    聖なることとみなされるようになっていく様子が
    天使の描かれ方・解釈のされ方で見えてくるのは興味深い。

    時代が下るにつれ、絵画・写真・文学に神やキリストが不在であっても
    天使が必要とされ続けてきたというくだりが印象的。

    また、快楽として遠ざけられていた地上の音楽が
    14世紀の発展を経て、
    まず天使に託されたことで蔑視から免れていく過程(第3章)は自分にとって身近なテーマでもあり興味を持った。

    他は堕天使を必ずしも絶対悪と見做していないような図像に興味が湧いた。
    時代と地域は改めてチェックしたいところ。

  • 天使がどのように伝えられて来たかよくわかった

  • 芸術作品としての天使、大天使ミカエル、大好きなモローの作品について、個人的な好みの部分を重点的に読んでみた。うーん、難しい。かなり時間をかけないと理解できない。とりあえず「エフェメラル」という言葉を覚えた。

  •  岡田先生の著書をひもとくのも3冊目。宗教学・図像学、二本の軸足を学際的に広げてゆく筆勢が心地よい。
     14世紀、音楽がモノフォニーからポリフォニーへ発展するにつれ、絵の中の天使たちが楽器を手にするようになったという指摘に感心する。また、初期の音楽は器楽より声楽が高く位置づけられていたのも知らなかった。それで「天使の歌声」なのか。
     160ページの引用図版、ブレイクによるサタンの絵が素晴らしい。私が悪魔なら「どこまでもついてゆきます!」と言いたくなるところ。

  • 20190623
    抽象的な音楽にたいして、具体的な声楽や器楽は感覚的なものとして、一段と低く見られる傾向にあったのだ。とはいえ、宇宙(コスモス)がその数学的秩序によって音楽的な調和を保っているとする発想は、近代的な天文学の発展の原点となるものである。また、可聴域の外にあるような宇宙の「音」を探ろうという最新の研究もあるようだ(神話はつねに回帰してくる)。
    (p.87)

  • おもに絵画に描かれた天使像を中心に、その描かれ方から天使に対する歴史上の扱われ方を見ていく。多神教の影響が大きく異教の神・霊的存在という要素と習合し、キリストと同一視されてきた天使の設定がキリスト教の厳格化とともに教義上のシンボルとなりかけたが、芸術家をはじめとする人々の欲求が天使の描写を通して異端的だが魅力あるものに仮託されるようになっていく。堕天使・悪がいるからこそキリスト・善なるものも輝く。

  • ●天使と一言に言っても、その時代その場所によってさまざまな描かれ方がしていることがわかり、興味深かった。

  • 天使の側面が見えて面白い。翼をもって様々な境界をものともせず飛び交うものなのだな。

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著者プロフィール

1954年、広島県に生まれる。2020年、京都大学大学院人間・環境学研究科教授を退職。現在は、京都大学名誉教授、京都精華大学特任教授。専攻は、西洋美術史。
 著書に、『キリストと性』(岩波新書、2023)、『反戦と西洋美術』(ちくま新書、2023)、『ネオレアリズモ──イタリアの戦後と映画』(みすず書房、2022)、『フロイトのイタリア──旅・芸術・精神分析』(人文書院、2008、読売文学賞)、『モランディとその時代』(人文書院、2003、吉田秀和賞)など多数、
 訳書に、ジョルジョ・アガンベン『創造とアナーキー──資本主義宗教の時代における作品』(共訳、月曜社、2022)、同『王国と楽園』(共訳、平凡社、2021)など多数がある。

「2024年 『アートの潜勢力』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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