公明党 - 創価学会と50年の軌跡 (中公新書)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (274ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121023704

感想・レビュー・書評

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  • 「五五年体制」から「自公体制」へ。本書の小見出しの一つである。自自公連立が1999年なので、民主党政権の3年間を除いて、もう20年近く自公体制が続いてきたことになる。五五年体制を94年の細川内閣までの39年間とすると、自公体制はその半分に既に達している。

    公明党のこの存在感の一方で、その歩みや特徴をまとめた本は、これまであまりなかった。本書はこの欠落を埋めるもので、1950年代に始まる創価学会の政界進出から64年の結党、70年の言論出版妨害事件、75年の創共協定とその破談、90年代における新進党への参加とその失敗などを経て、2014年の集団的自衛権支持に至るまでの軌跡がまとめられている。他国の連立政権と比べた際の自公連立の特異性(政策の乖離と全面的な選挙協力)や、候補者の選定過程についての記述も興味深かった。

    筆者によると公明党の議員は、「選挙に出たい人」ではなく周囲が「出したい人」たちで、マジメでこつこつ型らしい(国会図書館の利用率が圧倒的に高い政党は、公明党と共産党だそうだ)。だが、こうした人たちは自民党との駆け引きには不向きなことが多い。また、福祉など教育など特定の分野では自主性を発揮する一方で、国家全体のビジョンを打ち出す力は弱いと筆者は評価する。

    公明党関係者への取材が活用されるとともに、適切な距離感も取れており、中公新書らしい一冊。

  •  結党前夜から現在までの通史。公明党ほど路線が左右に大きく揺れ動いた政党はない、とあるが、左に寄ったと言えるのは、言論出版妨害事件で保守体質が他の野党から批判された後の1970年代前半ぐらいだ。そもそも、55年体制下で社共はイデオロギー色が強かったのに対し、公明は現場感覚の強い現実主義的性格だったという。創価学会会員には農村出身の都市低所得者層が多く、大企業勤務でも組織労働者でもなかったことが背景にあるようだ。
     「一・一ライン」の80年代末〜90年代末は公明にとり激動の時期だったようだ。自民との協力の後、非自民連立政権、新進党、その間の自民からの攻撃を経て遂に自民と連立する。その後、自民がタカ派の清和会中心となっても今日まで連立は続く。その理由として著者は、両党の政策は乖離しているも、公明の強い政権願望、日程調整も含めた選挙協力、自民は元々派閥連合体で多様性があったことなどを挙げている。
     終章とあとがきで著者が、公明の国会議員は「出たい人」ではなく「出したい人」、コツコツと地道に物事に取り組むまじめな草食獣、と評するのが興味深かった。

  • 創価学会の文化部として誕生した公明党は2014年に結党から50年
    を迎えた。本書は巨大な支持母体を持ち、政権与党に名を連ねる
    公明党の50年の変遷を辿っている。

    公明党本部でも党史を出版しているようだが、俯瞰した党史として
    読むなら本書は良書だろう。

    結党当初は創価学会の教えを反映しての宗教色の強い主張をして
    いた公明党だったが、1969年に明治大学教授だった藤原弘達が書い
    た『創価学会を切る』に対しての言論出版簿外事件を契機に政教
    分離を打ち出す。但し、学会色を前面に押し出すことをしなくなった
    だけで、現在でも票田は創価学会信者であることに変化はない。

    この大票田が公明党の強みだ。投票率がどれほど低かろうが、
    組織的な得票が安定した議員数に直結する。そして、これに目を
    つけたのが自民党だ。

    55年体制が終焉を迎え、国政選挙があるごとに投票率が低下し、
    度重なるスキャンダルで盤石だった支持層が弱って来た自民党に
    とって、公明党が保有している票田は喉から手が出るほど欲しい。

    だからか…と思う。非自民連立政権に公明党が名を連ねた時、
    自民党はとことん公明党を攻撃した。創価学会が支持母体である
    ことを事あるごとに持ち出し、政教一致を猛攻撃した。

    それが今はどうだろう。手のひらを返したような自公連立政権で
    蜜月が続いているではないか。

    あれだな。金目当てで言い寄って来た男に時々暴力を振るわれる
    のだけれど、たまに優しい言葉をかけられたりプレゼントをもらった
    りして「この人、私がいないとダメなの」と思ってしまう女性のよう
    だな。まぁ、結局は選挙の為ならどんな政党とも組むカメレオン
    でもあるんだけど。

    ただ、現在は自民党に押し切られることが多い公明党だけれど、
    その昔は自民党を追及していた時代もあったんだよね。創価学会
    が絡んでいなければ、結構まともなことを主張していることもあるし。

    「出たい人より出したい人」という候補者選びの様子など、これまで
    分からなかったこともあって勉強になった。

    「平和と福祉の党」との党是を掲げている公明党。山口代表曰く
    「自民党の暴走に歯止めをかける役割をしている」そうだ。今後
    予定されている消費増税に対して軽減税率対象品目の拡大は
    公明党の手柄だろうが、安全保障関連法案に関してはなす術も
    なく自民党に押し切られていやしないか。

    党是と現実との乖離。この溝をどうやって埋めるのかが公明党の
    今後の重要課題になるんじゃないのかな。

    2015年夏、安全保障関連法案に対して公明党の支持母体である
    創価学会信者の中からも反対の声が上がっていたものね。

    巻末には公明党関連の年表、結党以来の国政選挙の候補者数・
    当選者数・得票数の一覧表もあり資料としても充実している。

    全体を読み通すのが面倒臭かったら、「終章」と「あとがき」だけを
    読んでも十分面白い。

  •  公明党の歴史と現在についての概説書である。著者は元『朝日新聞』政治部長で、現在は東洋大学教授。

     従来、公明党についての一般書は、ほぼ100%の否定か、ほぼ100%の肯定のいずれかに限られ、中立的なものは皆無に等しかった。
     本書は、少なくとも大枠においては中立的な内容であり、それなりに意義のある本といえよう。

     多くの資料を駆使し、独自取材も重ねてよくまとまっている本で、公明党入門としては及第点という印象だ。
     ただ、公明党について一通りのことを知る者にとっては、内容はあたりまえのことが大半で、驚きや発見はほとんどない。

     私にとって新鮮だったのは、ヨーロッパ等の連立政権との比較によって、自公連立政権が「世界的にも特異」であることを解説した第10章(「特殊な『選挙協力連立政権』――二◯◯九年~」)のみだ。

     また、本書は大枠こそ中立的だが、ディテールに偏りと悪意が感じられる。使用資料のセレクト、言葉の選び方などの中に、“中立を装った偏向”が潜んでいるのだ。
     たとえば――。

     かつての公明党は福祉や教育などの限られた分野でもっぱら活躍していたが、近年は財政や安全保障など、国家の根幹にかかわる分野でも、連立政権の中で存在感を発揮するようになった。
     そうした変化は、公明党という政党の成熟を示すものだと私は思うが、著者はそう考えないらしい。終章の結論部分には、次のような記述があるのだ。

    《公明党は何をめざしているのだろうか。公明党はこれまで「福祉」や「教育」など特定分野で自主性を発揮してきた政党であり、自民党のようにあらゆる分野の政策に対応する「総合デパート」的な政党ではない。そうした政党が自民党と連立政権を作り、国政全般に対応していかなければならなくなった。では、公明党にその用意があるのだろうか。
    (中略) 
     公明党が重視する「大衆」は、五◯年の間に大きく姿を変えてしまった。》

     私はこの一節に、著者の公明党蔑視ないし軽視を感じる。
     「公明党は福祉や教育だけ頑張っていればよいものを、分不相応に国の根幹部分に手を伸ばしてくるな」という、この国のエリート層のホンネが透けて見える気がするのだ。

  • 巨大な支持母体・創価学会を背景に持つ特異な政党である公明党の軌跡を辿り、その構造にメスを入れている。
    公明党の実像はなかなか見えにくいと感じていたが、本書を読んで、公明党発足の経緯やその変遷、特徴がよくわかった。まじめに「部分最適」を追求する政党だが、必ずしも「全体最適」にはつながっていないという指摘は言い得て妙だと感じた。
    ただ、そもそもなぜ創価学会の信者がこれほど多いのか、また、なぜ創価学会の信者は根強く公明党を支持するのかという点については、新興都市住民の支持を得たといった一般論的な分析にとどまっており、十分には理解できなかった。

  •  「公明党」は、単一の新興宗教団体に全面的に依拠しながら、長期にわたって安定した組織基盤を形成して、終始一定数の国会議員を有し続けているという点で、世界に類をみない特殊な(国際比較が不可能である)政党であるが故をもって、これまで政治学でも歴史学でもまともに研究対象とはなっていなかった(巻末の参照文献を見ても学術的水準を満たす先行研究はほとんどないことがわかる)。本書の著者は研究者ではあるが新聞記者出身なので、アカデミズムよりはジャーナリズム寄りの内容で、学術的分析としては必ずしも十分ではないが、未開拓の分野であることを差し引けばやむをえないものがろう。支持母体である創価学会の会員の多くは草創期から本質的に「保守」的であること、安全保障政策における右傾化は1970年代後半から段階的に進行しており、自民党との連立には歴史的必然性があることを強調している。意思決定において創価学会から相対的自立性が認められる一方で、議員候補者選考における創価学会の主導性を具体的に明らかにしている点が興味深い。

  • 今年ベスト5に入りそうな良書。公明党を扱う本なんて身内本と身内ダミー本(佐藤優)と誹謗中傷でほとんどな中で、まともに偏らず穏やかに、しかも新聞記者出身なのに取材秘話みたいなものにも頼らず、資料に依ってきちっと書いてある。過去はよかった最近はなんだ、という論調で、これが偏りなのか事実なのかはわからないが、今後の公明党と創価学会の関係はあるいは、重要な人物の去就によって変容することもありそうだなあ。

  • 安保問題や、小選挙区制容認など、ブレているようで、母体(池田ファンクラブ)擁護では一貫している。もともと庶民感覚で左翼思想に馴染まない人々が構成要素として多かった

  • 公明党について、客観的に深掘りした良書。良くも悪くも、公明党が日本の産んだものであることが歴史的に良く分かる。

  • 政治入門にちょうどよかった。公明党という切り口ではあるが、日本の政治がどう流れてきたか、歴史を振り返りながら解説があり、政治初心者にとっては分かりやすかった。

    創価学会についてはよくわからず。が、公明党のことよく知らない上、宗教絡んでるからあまり触れてないっていう方にはオススメできます。

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著者プロフィール

東洋大学社会学部教授

「2014年 『現代日本政治史 政治改革と政権交代』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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