ビル・クリントン - 停滞するアメリカをいかに建て直したか (中公新書 2383)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (262ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121023834

感想・レビュー・書評

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  • 90年代2期8年務めたアメリカ大統領ビル・クリントン。
    彼の生涯と大統領としての実績、そしてアメリカ政治に残した功罪を考察した内容。
    クリントンといえば不倫スキャンダルで騒がれた負のイメージがある。
    けど、彼の実績は意外に大きい。民主党政権ながら党内リベラル派を抑え、ニューデモクラットとして中道路線を掲げた。特に経済の実績は大きい。福祉削減を厭わず、増税と福祉改革で双子の赤字を解決し再びアメリカを好況へと導いた。外交においてはポスト冷戦に相応しいアメリカの役割を模索し経済のグローバル化にも対応していく。WTOの設立協定、北米自由貿易協定の締結など多国間協調のなかでアメリカの役割を担っていく。またユーゴ内戦の終結や北アイルランド紛争の和平仲介、イスラエル・パレスチナのオスロ合意への仲介など紛争解決に積極的に関与した。
    内政・外交両面で功績を上げたビル・クリントンの強さは野党共和党の主張をも部分的に取り込む柔軟さと、現実を冷徹に分析し把握するリアリストの眼を持っていたこと。

    ただ、クリントンが残した負の遺産もある。クリントン政権が行った金融緩和は後のリーマンショックの原因を作ったとして批判される。銀行・証券・保険業の兼業を認可した法案や店頭デリバティブ取引に関する規制緩和はアメリカを好況へと導く起爆剤であると同時に将来の災いの種だったというのは皮肉な話である。
    外交においても大きな負の側面がある。湾岸戦争後のイラク情勢だ。大量破壊兵器の破棄や国連の核査察に協力しないイラクに対して業を煮やしたアメリカは、98年にイラク解放法を成立させる。これはフセイン政権を除去し民主的政権に移行することが対イラク外交の目標とする法案でクリントンも署名している。

    これら「封じ込めと大量破壊兵器の査察からレジームチェンジへ」というイラク政策の変化は、後のイラク戦争への道筋となってしまった。緊迫するイラク情勢のなか、サウジに米軍駐留し不測の事態に備えていたが、これがオサマ・ビン・ラディンの反米感情を刺激しアルカイダの対米国テロの一因となった。
    加えて国内ではクリントンのイラク政策に対して「生ぬるい!」と強硬派の結束を強めてしまったことが後の悲劇の遠因だった。彼らは後にネオコンとしてブッシュ政権の外交安保の中心メンバーとなっていく。いわばクリントン外交への反発や不満が、9/11テロやイラク戦争へとつながる。皮肉な話である。

  • アメリカの選挙が近く、ヒラリーさんのことが少しでもわかるのではないかと思い図書館で借りました。

    ビル・クリントンと言えば不倫スキャンダルのイメージが強すぎるくらいにありました。

    外交では様々な場面で仲介役になり改善に向かって努力。
    内政では赤字だったのを黒字にさせIT大国への道筋を作ります。

    また冷戦後のアメリカのあり方も探りました。

    人好きのする性格だったのか周りに人も多かったようですね。
    読むまで知らなかったビルクリントンがあったので驚きました。
    負だけでなく今のアメリカにつながることをたくさんしていたんですね。

    女性スキャンダルがなければなぁ…。

  •  ビル・クリントンはイラク戦争を語る上でも外せない人物であり、民主党の左傾化の起点を作った人物でもある。その意味で20世紀最後の大統領であると同時に、21世紀を形作った大統領でもある。なのに、これまで、クリントンを一般向けに紹介する本はなかった。日本国内の認識でもモニカ・ルインスキーとの醜聞ばかりが知られ、良かれ悪かれ何をしたのかはほとんど忘れられている。そのことが相当程度意識されたこの本は、そんなクリントン初心者に対するチュートリアルと言える。日本で翻訳出版された彼の上下2冊の自伝がルインスキーに字幅を割いていることもあり、この手の軽めのバランスの取れた一冊は実は貴重である。
     実際、中東和平、ジャパンバッシング、NAFTA、犯罪対策、福祉削減…とクリントンの中道路線をある程度網羅しており、少なくともクリントンを良かれ悪かれ見直す一冊にはなるであろう。そして、それらは驚くほどに現在2016年へとつながる政策であり、大統領選と相まってそれへの評価/批判が沸き起こっている。それは、親子ブッシュに比べても顕著であろう。
     今回この本は、クリントン政権時代のみならず、2016年現在に影響を与えた部分からクリントン政権の評価を試みている。それを考えれば、本来この本がやろうとしていることは到底新書一冊で収まるものではない。しかし、新書一冊でまとめあげ、かつエピソード的な記述も多いため、この観点においては甚だ不十分なものとなっている。著者には是非、より厚い本による本格的な評価をお願いしたい。

  • 1993年、46歳の若さで、戦後生まれ初の米国大統領に就任したビル・クリントン。2期8年の任期中、民主党政権ながら福祉削減を厭わず中道主義を追求。財政と貿易の「双子の赤字」を解決し好況に導く。また国際紛争解決に積極的に関与し、冷戦後の新たな国家関係を模索。米国を繁栄に導いた。本書は、次々とカネとセックスのスキャンダルにまみれ、弾劾裁判を受けながらも、多くの実績を残し、今なお絶大な人気を誇る彼の半生を追う。

  • 【過ちを犯すことは避けられないとしても、被害の拡大を最小限にとどめ、立ち直る努力をする。そして、どんな困難に直面しても決して人生への情熱を失わないのが、クリントンだった】(文中より引用)

    その業績を語る際,どうしても不倫スキャンダル等に注目が集まってしまうビル・クリントン元米大統領。その生い立ちから大統領在職中の業績に光を当てることで,改めて政策的な功罪に対する評価を試みた作品です。著者は、アメリカ政治研究を専門とする西川賢。

    クリントン政権が内政に強く関心を抱いていたこともあり,同政権を通した米国政治の変容にも迫ることができるかと。同時にクリントン氏の人柄についても十分に知れるほどページが割かれているため,評伝としても十二分に楽しめる一冊でした。

    自分が幼い頃の歴史って意外と知らないことが多々ありますよね☆5つ

  • ビル・クリントンは民主党とアメリカを立て直すという点で大きな功績があったことを認識した。
    その一方で、道徳的に優れたリーダーでは無かった。この点アイゼンハウアーとはどうなのだろう。

    日本ではこれといった優れた政治家は見当たらないが、最近野中広務や小渕恵三、橋本龍太郎、村山富市など、低評価が与えられてきた首相は案外評価されるべきではないかなと思ったり、なかったり。もっと短期間で業績を挙げろというのがなかなか無理があるよね。

  • やや好意的すぎる印象もあるものの、まとまっていて読みやすくおもしろかった。ただ就任から20年以上も経っていることにはやや驚く。

    合衆国大統領というと、基本的に「外交オンチ」という印象で、クリントンも例外ではないし、その政権の設立時の外交への無知ぶりが今振り返ると「恐ろしい」ほどだったことがよくわかった。
    ただ備え持っている共感力を使って克服したという印象がある。その源というか人物像というのが読めてよく理解できた。

    ただ沖縄との絡みはもっとページが欲しかった。このサミットが結局のところどういう意味があったのか、いまでもよくわからない。

  • トランプがアメリカ大統領にならなかったら本書を読むことは無かっただろう。否応無く大きな影響を受けざるを得ない我が国としては、アメリカをもっと理解しなければならないというのが本書を手に取った理由である。
    ビル・クリントンと言えば「シモのユルい大統領」という記憶があったが、いやいや本書を読むとなかなか有能な大統領ではないか。
    確かにいかに人格が立派でも、結果が出せない政治家は無能とされるのが正しい評価というものだ。
    その点クリントンは経済浮揚と財政再建という大きなレガシーを残している。立派なものである。しかし、あのスキャンダルはいただけない。とても尊敬はできない。やはり天は人間に二物を与えてはくれないものだと思った。

    2017年5月読了。

  • 「クリントンは、状況に応じて冷静に戦略を変更しながら、財政均衡、福祉改革、厳格な犯罪対策、北米自由貿易協定、世界貿易機関設立協定など、共和党の主張を部分的に取り込んだ中道的政策を次々と打ち出し、成功を収めた。」p.243


    「いまや共和党からも民主党からも『中道』は消失してしまい、アメリカの政治では2大政党による激しいイデオロギー対立が絶え間なく続くようになった。」p.247

  • クリントンとゴアは、20世紀最後の大統領ではなくて、21世紀最初の大統領を選ぶ戦いと訴えていた。
    冷戦が終わった今、アメリカの目標は国内にある、特に経済こそが重要だ。これがクリントンのメッセージだった。
    96年2月、クリントンは通信分野の規制緩和を定めたテレコム法に署名している。これは1934年以来の大幅な通信法改革である。これによって自由競争が促進された。
    クリントンの政治家としての成功はひとえに彼の人格的優越性によるところが大きい。状況に応じて冷静に戦略を変更しながら、財政均衡、福祉改革などを成功に収めた。逸鉄なリアリストだった。

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著者プロフィール

西川 賢(津田塾大学教授)

「2020年 『ポリティカル・サイエンス入門』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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