ショパン・コンクール - 最高峰の舞台を読み解く (中公新書 2395)

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (262ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121023957

作品紹介・あらすじ

ポーランドのワルシャワで五年に一度開催されるショパン・コンクール。一九二七年の創設以来、紆余曲折を経ながらも多くのスターを生み出してきた。ピアニストをめざす若者の憧れの舞台であり、その結果は人生を大きく左右する。本書では、その歴史を俯瞰しつつ、二〇一五年大会の模様を現地からレポート。客観的な審査基準がない芸術をどう評価するか、日本人優勝者は現れるのか。コンクールを通して音楽界の未来を占う。

感想・レビュー・書評

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  • 2021年末の大掃除で発掘した本です、この本は2021年の間に読む本の様ですね。読みかけになっていたために、評価は「★一つ」にしております。内容が不満足だったわけではありません。

    2021年12月29日作成

  • 個性的な日本人コンテスタントが多数本選に残った今年のショパンコンクールは、youtubeでのリアルタイム配信もあり近年にない盛り上がりを見せた。そのブームに乗ってショパンコンクールについてちょっと勉強してみようと図書館で借りて読了。
    青柳いづみこさんの文章はいつもながら大変読みやすく、ピアニストの視点でありながら一般人にもわかるように噛み砕いて説明することも忘れない心配りが行き届いていて臨場感あるリポートとなっていた。そう、本書はショパンコンクールの概要や歴史についてももちろん触れられているが、基本的には2015年に開かれた第17回大会の記録である。現地で演奏を聴き、コンテスタントや審査員らとも直接話をしたのでなければ得られない臨場感が伝わってくる。
    しかし出版からすでに5年経っていることもあり、本書の価値は、ショパンコンクールの成り立ちから現在までの経緯をわかりやすくまとめている点にこそある。ショパンコンクールは設立意図からして思想的・政治的な思惑も絡んでいた。その後も世界の動静と無関係でいられるわけはなく、ポーランドが「東ヨーロッパ」だった間はソ連の影響を受け続け、音楽業界が巨大ビジネス化する弊害もあり、現在は押し寄せるアジア勢の大波で予備選抜の方法も手探りが続いている。浮世離れしているかのようなクラッシック音楽最高峰の舞台は、実は世相を映す鏡だということをあらためて概観することができた。
    そしてショパンコンクールで常に問題になるのは、その演奏はショパンらしいのかどうかだというのも興味深かった。もちろん、ショパンの名を冠しているから当たり前といえば当たり前なのだが、そもそも、こんな有名なコンクールで一人の作曲家の曲だけを演奏するコンクールというのは他には寡聞にして知らない。そういう意味ではかなり変わったコンクールである。審査員も聴衆もずーっとショパンだけを聴き続けるのだ。本書ではその「ショパンらしさ」についてかなり専門的な説明もなされていて、なるほどなあと思った。
    しかしその方向を突き詰めていくと、音楽はタコツボ化してしまうのではないだろうか。専門的な解釈を突き詰めた演奏者が、同じくわかる審査員に向けて演奏する世界。それはコンサートホールで多くの客に向けて演奏するよりも小さなサロンで親しい人に弾くことを愛したショパンに似ているようでいて、実は最も遠いような気がする。解釈とか説明とか抜きで、聴いている人にあわせて弾いてくれる、そんな演奏が本質的なショパンなのではとサービス精神に満ちた反田さんの演奏を聴きながら思ったのだった。
    そしてまさにコンクールが終わり本書を読んでいる最中に、2000年の優勝者ユンディ・リの買春容疑のニュースが流れた。ショパンコンクール、あらゆる意味で世情と最も懇ろなコンクールであるの意を強くした一報であった。

  • ショパン国際ピアノコンクール2021の予備予選の配信を視聴しながら、どんな基準でコンテスタントが選ばれていくのか知りたくて読んだ。

    この本は、主に前回の2015年のコンクールについて書かれたものだが、コンクールの歴史的背景から、ショパンの曲についての解釈、様々なピアニストの特性等、多角的な方面から描かれていて面白い。登場したピアニストの映像をYouTubeで観ながら、理解を深めることもできた。
    また、この本で挙げられたコンテスタントが再度2021年にも登場し、予選を通過していたりして、秋の本選もますます楽しめそう。

  • 来年は5年に1回のショパン・コンクールの年。
    18回目になるらしい。

    演奏家でもあり、ドビュッシーの研究者でもある筆者が、コンクール「公式ジャーナリスト」として記録した前回のコンクールの記録である。

    ショパンらしさとは何かを巡って、揺れ続ける審査基準。
    楽譜に忠実派と、ロマンティックな弾き方か。
    ルバートは左手は一定のリズムを刻み続けるのか、それとも「右と左を交互に」ずらすのか。
    さまざまな対立軸があるようだ。
    応募者の増加で、審査方法もルールも変更の連続。
    審査員やコンテスタントをはじめ、多くの関係者のインタビューなど、多彩な情報源からそういった矛盾があぶりだされていく。

    本来言語とは異質の音楽を言葉にするのは大変だ。
    予選、本選の鑑賞記録は、演奏家ならではの細やかさ。
    プロはこういうところを聞いているんだ~、と興味深く読んだ。

    審査基準については、青柳さんは演奏家審査員寄りの立場をとるのかと思いきや、音楽学者寄りの立場だったのが意外。

    ヤマハやスタインウェイ、カワイ(シゲル・カワイという最高級モデルがあるそうな)、ファツィオリの特性の違いなども、面白かった。

  • ショパンコンクールについて、2015年のDVD審査から本選までを中心に、ピアニストである著者が主観を交えてレポート。審査員やコンテスタントに多数インタビューしており、様々な考え方が見えてきて面白い。
    森のピアノや蜜蜂と遠雷のようなファンタジーの有無ではなく、譜面に忠実か自由な発想も認めるか、というふたつの潮流のぶつかりがあることが分かった。

  • YouTubeで ショパンコンクールの予選から公開してるので 照らし合わせて愉しむのも一興。
    とにかく この本は音楽初心者には難しいけどそれ以上に面白く刺激的だった。

    論文ではない

  • <閲覧スタッフより>
    芸術における評価は人それぞれです。著者が長い歴史をもつショパン国際ピアノ・コンクールを紐解き、審査方法など気になる舞台裏にメスを入れながら伝えてくれます。審査員の判断基準によって僅差で落選することもあるシビアなものかと思いきや…そうでないことも事実としてあるようです。また何度も修正可能な書類・DVD審査から始まり何が起こるか分からない本大会までの長期にわたるレポートや、コンテスタントの取材は臨場感が漂う内容ばかりです。
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    所在番号:新書||763.2||アオ
    資料番号:10235043
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  • 170213図

  • 2015年にBS1で放映された「もうひつとつのショパンコンクール・ピアノ調律師たちの闘い」という番組を見ました。ピアニストが競うコンクールですが、その舞台裏ではエントリーした演奏家がどのメーカーのピアノを選択するのかというピアノメーカーの闘いが繰り広げられており、それを現地でサポートする調律師達の仕事ぶりを紹介する秀逸のドキュメンタリーでした。そんな感じの内容を期待したんですが、本書は出場した各演奏家のパフォーマンスへのコメント、コンクールが求める理想の音楽像、コンクールが抱える問題点など音楽そのものに焦点を合わせた内容でした。テレビ番組なら出場者の演奏の一部でも聴きくことができますが、何せその演奏自体を全く聴いてない状態でその演奏のコメントを読んでも想像力が及ばずに理解しにくい部分が多かったです。ただ、著者の繰り広げる音楽を表現する文章、文言の豊かさには驚かされました。ピアノを演奏する方ならもっと共感できだんじゃないかなと思います。
    コンクールの抱える問題点や、日本のピアノ演奏家がこれから取り組むべき方向性などの部分はよくわかりました。

  • 5年に一度の権威あるショパン・コンクールの裏幕。2015年の予選、本選から登場したピアニストたちを詳細に語る。同じショパンの曲がこのように演奏家により表現の違いを語ってくれるのは実に痛快なひと時だった。2010年の予備審査でDVD撮影により一旦落選したアヴデーエワが審査員のクレームで復活者に加えられ、本選で優勝!という事件までがあったとは物凄い話。東アジア勢(日中韓3国)が予備予選合格者158名の約半数を占めたというのは、やはり経済の勢いも背景にあるのだろう。ポーランドのピアニストが有利に働くというのも興味深いところ。審査基準があいまいで、混乱を極める裏幕が実に興味深い。100点満点で、75点以上の場合に次のラウンドへ進ませたいかどうかをYes/Noで回答し、そのYesの数、最終は10名のファイナリストへの順位点合計で決まるなどの考えが一昔前のフィギュアスケートを思い出させる。当たり前のことながら、優勝者チョ・ソンジンだけではなく、チェ・チャン(2010年)、アムラン、ケイト・リウ、エリック・ルーなど優勝者ではない人たちの音楽性の高さもよく分り、優勝者だけではない層の厚さを改めて感じる。
    個性的なピアニストのページで女装したMrジー・チャオ・ユリアン・ジアが登場した際の会衆が思わずプログラムを確認する場面の逸話は思わず笑える。

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著者プロフィール

ピアニスト・文筆家。安川加壽子、ピエール・バルビゼの両氏に師事。フランス国立マルセイユ音楽院卒。東京藝術大学大学院博士課程修了。学術博士。武満徹、矢代秋雄、八村義夫作品を集めたリサイタル『残酷なやさしさ』により平成元年度文化庁芸術祭賞。演奏と文筆を兼ねる存在として注目を集め、安川加壽子の評伝『翼のはえた指』で吉田秀和賞、『青柳瑞穂の生涯』で日本エッセイストクラブ賞、『六本指のゴルトベルク』で講談社エッセイ賞、CD『ロマンティック・ドビュッシー』でミュージックペンクラブ音楽賞。2020年、浜離宮朝日ホールにて演奏生活40周年記念公演を開催。テレビ朝日『題名のない音楽会』、NHK Eテレ『らららクラシック』、『ラ・フォル・ジュルネ音楽祭』『東京・春・音楽祭』等にも出演。日本演奏連盟理事、日本ショパン協会理事、養父市芸術監督。大阪音楽大学名誉教授、神戸女学院大学講師。

「2023年 『安川加壽子の発表会アルバム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

青柳いづみこの作品

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