プロテスタンティズム - 宗教改革から現代政治まで (中公新書 2423)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121024237

作品紹介・あらすじ

1517年に神聖ローマ帝国での修道士マルティン・ルターによる討論の呼びかけは、キリスト教の権威を大きく揺るがした。その後、聖書の解釈を最重要視する思想潮流はプロテスタンティズムと呼ばれ、ナショナリズム、保守主義、リベラリズムなど多面的な顔を持つにいたった。世界に広まる中で、政治や文化にも強い影響を及ぼしているプロテスタンティズムについて歴史的背景とともに解説し、その内実を明らかにする。

感想・レビュー・書評

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  • 「神聖ローマ帝国」は、ローマ教皇により戴冠された皇帝が支配する帝国、という意味です。

    本書では、中世のドイツ、すなわち神聖ローマ帝国が、ローマ教皇により搾取されていたこと。それが、ルターの宗教改革、プロテスタンティズムの誕生を可能とした素地を作っていたことが、歴史的背景からわかりやすく説明されています。

    北部ドイツで信者を獲得したプロテスタンティズムはやがて保守化し、今日のドイツではカトリック(主に南部地域)と並び政治と深く結びつき、保守層を形成していきます。

    一方、保守化したプロテスタンティズムを嫌ったリベラル派であるピューリタン達は、国家からの信仰の独立と自由を求め、アメリカ合衆国にわたり、政治と宗教の分離を勝ち取ります。

    これが、自発性と自由競争を基本理念とする米国の精神として今日でも体現されている、という筆者の視点には説得力があります。

    「プロテスタンティズムは、自分自身に拘束されない作法を持っている」すなわち、自分自身からも自由である、というリベラルな考え方の起点と言えます。

    昨今よく言われる多様性の重視、といのうのは、ルターが中世にローマカトリックの在り方に疑問を呈した「95か条の提題」から生まれた、とも言えるのでしょうか。

  • ルターの「行動」の結果と現代まで残るその影響についてまとめた一冊。

    プロテスタンティズムといえば、おもな登場人物としてルターとウェーバーの2名だけ押さえておけばいい気もしないでもない。その2名のうちのどちらかというとルターの基本的なところは思ったよりもまとまりがあって読みすかった。

    ただ、そのマックス・ウェーバー的な「現代まで残る影響」についてはどちらかというと否定的なところはそれはそれで良いのだけど、「否定的な見方が主流」というその根拠がほとんど示されていない。ウェーバーから入った人は「で?」だと思う。

    オビには「保守とリベラルの源流」とあるが、結論として「近代世界の成立への貢献は限定的」と読めなくもないところがちょっと自分には読解できなかった。

  • プロテスタンティズムの全貌を理解するのにうってつけの入門書。1517年のルターの「95ケ条の提題」から今日のアメリカに至るまでの変遷を丁寧にたどる。(本書で読売・吉野作造賞を受賞したが、研究不正により取り消し)。

  •  第1章から第6章まではプロテスタンティズムの歴史について、わかりやすく書いてあります。そのため、世界史やキリスト教についての知識がなくても理解できます。

     第7章のリベラリズムとしてのプロテスタンティズムが興味深かった。以下、個人的に関心を持った文章を抜粋(「」内は編集しました)。
     
    ・ピューリタンたちがアメリカに移住し、最終的には国 
     営の教会によって独占されていた宗教市場を自由化、
     あるいは民営化しようとした。

    ・ヨーロッパの宗教市場は独占であるのに対し、アメリ
     カは競争市場である。新プロテスタンティズムは競争
     を制し、市場で勝利を収めた。巨大化していく姿はさ
     ながら、市場を独占する「GAFA(Google、Amazon、
     Facebook、Apple)など」の大企業のようだ。
     
    ・…宗教における自由競争がアメリカ社会の深層構造を規
     定しているのだろう。

    ・この世での成功がアメリカでは宗教的な救済の証明と
     なった。…アメリカでは与えられた人生で成功した者こ
     そが神の祝福を受けた者だと諭された。

    ・…市場で成功し、勝利した者こそが正義であり、真理で
     あり、正統になる。これがアメリカ的なイデオロギー
     に宗教が与えた影響であろう。

     現在ある政治や社会、経済の姿に宗教も大きな影響を与えている。宗教や慣習といった観点からも社会を考察できるように、関連図書を読みたい。

      

  • 宗教改革の意味合いからその後のプロテスタンティズムの展開を詳述した労作。兎角一括りにされがちなプロテスタントの多様性がよくわかる。著者もあとがきで触れているが、カルヴィニズムへの展開にも詳しければ、さらに良かったかなと思い、今後に期待する。今の欧米の状況を理解するために必読の書である。

  • 現在の西欧中心の世界の成立に大きく関与しているはずなのにプロテスタンティズムについてちゃんとわかっていなかった反省があって…かと言ってマックス・ヴェーバーなんか読んでもちんぷんかんぷんだろうし…と思っていたら図書館にこの本があったので。自分の従来の理解では金儲けに走ったカトリックに対してルターが立ち上がりプロテスタントという宗派ができてプロテスタントが盛んな国では資本主義も盛んになった、という大雑把なものでこれがかなり間違っていることに気付かされた。つまりルターやスイスのカルヴァンが目指したのはあくまでカトリックの改革であって宗派を作ることではなかった、そしてこれらは言わば古プロテスタンティズムであって更に新プロテスタンティズムがあると。識字率の悪い時代はとにかく教会の言うことに従っていれば天国にいける、という素朴な信仰が殆どであり悪名高い免罪符などの原因になったわけだが識字率の向上と印刷技術の発達によってプロテスタンティズムの聖書に帰れ、という運動の結果、解釈の相違によって様々な流派が誕生した。その中でも「予め救われる人間は神によって定められていて経済的に成功した人間は神に祝福されているのだから成功をめざすべき」という考えの一派が~つまりプロテスタンティズム全部ではない~資本主義の発展に寄与したという説明は特に腑に落ちた。西欧がなぜいまのようになったのか、について非常に分かりやすく説明されていてものすごく面白かった。カトリックの高校とプロテスタントの大学出てるのに今更で恥ずかしいけれども…。

  • 難しそうと思ったけどそんなことなかった。
    サクサク読めて面白かった!

    贖宥状に関して、本人たちは大真面目なんだろうけど笑ってしまう。お金を払うと罪が帳消しになり、天国へ行けると信じるなんて。今と比べると寿命も短く、死と隣り合わせなので仕方がないと言えば仕方がないのかもしれないけれど。
    良いか悪いかは別として、アメリカの影響を大きく受けている日本で、プロテスタンティズムを受け入れられなかったことは興味深い。
    宗教を学ぶのは面白いですね。

  • 一口にプロテスタントといっても様々あり、保守系にもリベラル系にもつながっているというのが面白い。教義を聖書に求めたが、聖書の解釈には様々あり、取りまとめるような存在がいないと。

  • 宗教改革から始まったプロテスタンティズムが歴史上どのような役割を果たしてきたのかを扱った本。プロテスタントを古プロテスタントと新プロテスタントに分類し、現代の保守とリベラルの源流として説明したことも新しい視点であった。
    現代日本文化に無視できないほど大きな影響を与え、世界を席巻しているアメリカの文化の奔流を読み解くうえで多大な貢献をしてくれる本であろう。
    文章自体も読みやすく、歴史的事実をきちんと押さえながら論理的な考察が入っていて常に納得感を抱きながら読み進められた。

  • コンパクトにさくさく読める良著。現在のルターイメージはドイツナショナリズムとの協力のなかでつくられたものであり、ルターの等身大の姿が描かれる。また、ルター派などのプロテスタンティズムを古プロテスタンティズム、アメリカにわたったものなど、を新プロテスタンティズムとし、その対比を描く。とても勉強になり、カールレーフラーがなければ多くの人にすすめたかもしれない。

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著者プロフィール

1964年生まれ。アウクスブルク大学哲学・社会学部博士課程修了。Dr. Phil.(アウクスブルク大学)、博士(文学)(京都大学)。現在、金城学院大学人間科学部教授。著書『超越と認識』(創文社)、『十九世紀のドイツ・プロテスタンティズム』(教文館)、『ヴァイマールの聖なる政治的精神』(岩波書店)、『思想としての編集者』『神学の起源──社会における機能』(新教出版社)、Paul Tillich: Journey to Japan in 1960(Tillich Research 4、 de Gruyter: Berlin 2013)ほか、訳書にシュライアマハー『宗教について』(春秋社)、『アーレントとティリッヒ』(法政大学出版局)ほか多数。

「2014年 『ティリッヒとフランクフルト学派』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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