バルカン―「ヨーロッパの火薬庫」の歴史 (中公新書 2440)

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (314ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121024404

作品紹介・あらすじ

南東ヨーロッパに位置するバルカン半島。オスマン帝国時代、住民の多くを占める正教徒たちは平和裡に暮らしていた。19世紀、帝国が衰退すると、彼らは民族意識に目覚め、ギリシャ、セルビア、ブルガリアなどが独立を果たす。だがそれら新興国家に待ち受けていたのは、欧州列強の思惑と果てなき民族対立だった。ユーゴ紛争とともに20世紀が終わるまでを描いた、いま最も注目される歴史家の名著を翻訳。監修・村田奈々子。

感想・レビュー・書評

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  • バルカンというと第一次世界大戦の引き金となったサラエボ事件など、ヨーロッパの火薬庫というイメージが思い出されます。近いところでは、ユーゴスラヴィア紛争がありました。

    スラブ系、ギリシア系そしてイスラム教徒など多様な民族が共生するこの地域は、オスマン帝国、オーストリア・ハンガリー帝国、そしてソ連共産主義による支配を経て、現在はEUに統合される過程にありますが、天然ガスの供給では依然としてロシアの影響が強く、いぜんとして勢力のせめぎあう地域となっています。

    オスマン帝国の支配が終わった後1912年からの100年間で、バルカンから500万人ものイスラム教徒がトルコへと追い出され、こうしたバルカンの非イスラム化が1990年代初頭のボスニア・ヘルツェゴヴィナでのモスク破壊などへつながっていると筆者は言います。

    地域を支配する強大な勢力が弱体化する過程で、ナショナリズムが過激化してバルカン紛争やユーゴ紛争へと発展していった歴史は、西欧での近代国家成立の過程と大きく違うことを理解せねばならない、と筆者は後段で締めくくっています。

  • バルカンのことをよく知らないので軽い気持ちで読みましたが、なかなかに難解な内容でした。特にオスマン帝国の影響がとても大きいことを知り、オスマンにも興味が出てきました。

  • タイトルから世界大戦時の政治が主題かなと思ったが、どちらかというと一般的な農民の文化や宗教観などのソフト面に多く記述があり、何よりもオスマン帝国下の半島の状況もかなり多く紙幅を使って著述されており面白い。
    このオスマン帝国に支配されている間の統治体制、宗教観が西欧では見られない形態で面白い。
    イスラム教と正教を同時に信じるという、日本人のような二重性。
    戦争で列強に引き裂かれるだけでない、バルカン半島に住む人々の生活の面白さを感じられる良い一冊。

  • 初めはよかったけど竜頭蛇尾

  • 日本ではあまり馴染みのないバルカン。世界史的には「ヨーロッパの火薬庫」として、第1次世界大戦やユーゴスラビア内戦を想起させるものではないだろうか。どうしても「暴力」のイメージがつきまとう。
    本書はそんなステレオタイプに関して、オスマン帝国が支配していた時代からユーゴスラビア内戦の時代までのバルカンの歴史を、政治レベルから民衆レベルまで概観し、検証していく本である。
    特に本の末尾あたりにある「バルカンはヨーロッパの未来である」という言葉は、本書を読み終えた時に強烈な納得感を持つものであった。

  • 20180112

  • バルカン情勢について知りたい人は、必読。人種・宗教などさまざまに入り組んだ複雑な場所。

  • 『バルカン―「ヨーロッパの火薬庫」の歴史』というタイトルからバルカンの近現代政治史の1冊かと思い込んでいたら、とくに前半は文化史・文化人類学的な記述が意外な印象を受けました。
    著者の精緻な記述により、近現代においてバルカンの人々のアイデンティティがどのように遷移していったか、また、どのような内的/外的要因によってnationalなアイデンティティが形成されていったのかをたどることができて興味深かったです。情報量が膨大すぎて一度読んだだけではまだまだ理解不足な点も多々あるので、また読み返してみたいと思います。
    1点だけ気になったのはやはりタイトルでしょうか。新書とはいえ、ちょっとミスリーディングなタイトルな気がします。政治史と思って手に取った人にとっては「思っていたのとちょっと違うかな」となってしまい、nationalな問題や文化史的な側面が気になる人は「政治史の本かな」と手に取らなくなってしまいそうな感じがしてしまいました。

  • 課題意識のはっきりした良書。島国に住んでると理解することすらも阻むような難問である。

    今ではバルカンは後進性や暴力といった言葉と共起されることが多いが、オスマン帝国時代はxx人だという民族的なアイデンティティは意識されておらず、宗教的な帰属の方が重視されていた。その信仰だって、田舎にいけばイスラム法もユダヤの儀式もキリスト教の聖人も等しくありがたがるような東洋的な汎神論に近いもので、身分的な制約やお互いの軽蔑はあってもそれなりに共存していた。

    それがオスマン帝国の崩壊とともに、分割を目論む西ヨーロッパの列強の思惑とともにネイションの概念が移入される。
    ところが、西側と違って、東南ヨーロッパでは一つの民族が大多数を占める地域というのは存在しない。トルコ人、セルビア人、ギリシャ人、アルバニア人、、、、
    国境を引いてみても必ず国境外にも大量の居住民を残すため、「未回収」の自民族を自国に収めるべく膨張政策の余地が常に存在する。
    宗教だって、一つの国家には一つの宗教が原則(オランダが新教を選択することはスペインからの独立を意味していたように)なので、強制改宗、大量の難民、大規模な殺戮や強制住民交換(これはイギリスの悪意で分離独立したパキスタンとインドのイスラム教徒とヒンズー教徒の交換もあった)が発生した。
    国境を接してあおっていたオーストリア帝国とロシアの利害が対立すれば、第一次世界大戦までは一直線だ。その後バルカン諸国が東西陣営に分割されても、基本的に1918年時点から国家間秩序はかわっていない。

    要するにバルカンが火薬庫なのはもともとそうなのではなく、国民国家という枠組みがもたらしたのだというのが本書の趣旨だが、国民国家モデルが有効なのは思いのほか狭い世界でしかなかったといまさら言ってみてもオスマン時代に戻るわけにもいかず、詮の無いことである。

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著者プロフィール

1958年ロンドン生まれ。オクスフォード大学で古典学と哲学を専攻。ジョンズ・ホプキンス大学で修士号、オクスフォード大学で博士号を取得。現在コロンビア大学教授。ギリシャを中心とするバルカンの専門家であるにとどまらず、20世紀ヨーロッパ史の世界的権威である。「フィナンシャル・タイムズ」紙、「インデペンデント」紙などの寄稿者でもある。バルカンを扱った Inside Hitler's Greece: The Experience of Occupation, 1941–44 (1993)、 The Balkans: A Short History (2002)、 Salonica, City of Ghosts: Christians, Muslims and Jews, 1430–1950 (2004)で次々と権威ある賞を受ける。20世紀ヨーロッパ史を扱ったものとしては No Enchanted Palace: The End of Empire and the Ideological Origins of the United Nations (2009) (本書)、 Dark Continent: Europe's 20th Century (1998) (未來社より近刊)、Hitler's Empire: Nazi Rule in Occupied Europe (2008)、 Governing the World: The History of an Idea (2012) (NTT出版より『国際協調の先駆者たち』として刊行)などのベストセラーがある。

「2015年 『国連と帝国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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