トラクターの世界史 - 人類の歴史を変えた「鉄の馬」たち (中公新書)

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  • 中央公論新社
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レビュー : 17
  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121024510

感想・レビュー・書評

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  • タイトルのとおり、トラクターの誕生から、世界各地での発展の仕方などを通じて、現在の様相まで、一本の線で歴史的にとらえられるように書かれています。さすがに1冊で書ききれる容量ではないので、全部という形ではありませんが、トラクターという普段触れることのなかった世界を、歴史的に知ることができて面白く読ませていただきました。
    農業をするうえで、土を耕すという作業が大きな比重を占めているということ、それを克服するためのトラクターという機械と改良という人類の戦い、それに対する旧来の人々との闘い。そして最後に、トラクターは人類の夢に向かって着実にそれを実現してきましたが、それで良かったのかという投げかけもされており、考えさせられます。豊かになった一方で失ったものもあるという、他でも見られるジレンマがトラクターを通じて改めて感じられました。
    あとがきで、著者が本書にあたっての取材がどれだけ楽しまれていたのかが書かれていて、ここが私にとってはハイライトでした。

  • トラクターの開発・普及や、世界各地でのトラクターの導入方法などを示しつつ、農業の変化や戦争への転用など、その功罪を展望する一冊。タイトルで技術史の本かと思わせつつも、トラクターを通して農業を見る農業史の本でもあり、文化史の本でもあった。面白い。

    日本のトラクター史についても、小岩井牧場や斜里農場で初期に導入していたこと、戦前日本でトラクターが意外と開発されていたこと(普及はしてなかったけど)、岡山や島根がトラクター開発の先進地だったこと、などなど知らないことも多く、読んでて楽しい。

    それと、機械化でなく労働集約化の方向に進んだ近世日本の農業を考える上で、機械化による大規模農業の事例は逆にいろいろなヒントを与えてくれそうに思えた。勉強になった。

  • 農業用”機械”は人類に何をもたらしたか――。米国、ナチドイツ、ソ連、中国、日本など、国家・民度・文化が絡んだ発展の軌跡を描く

  • 軍事技術が民生品に転用され、進化するというのと逆で、トラクターが戦車として開発されたという。トラクターの歴史がこんなにも面白いとは!

  • 藤原辰史『トラクターの世界史 人類の歴史を変えた「鉄の馬」たち』中公新書は、サブタイトルにもあるとおり、トラクターを<人類の歴史を変えた「鉄の馬」たち>と位置づけ、トラクターの登場と発展が人類の歴史をどのように変えていったのかを描く。

    『トラクターの世界史』は、トラクターの誕生から今日に至るまでの人類との関わりを描き出し、これからの未来社会における立ち位置までをも展望する意欲作だ。トラクターに興味のない人でも、トラクターの歴史を通してさまざまな示唆や発見が得られるだろう。

  • 主として農用のトラクター史。かつては蒸気機関を積んだトラクターも存在したが,内燃機関が採用されたことで20世紀に爆発的に普及した。
    トラクターと戦車が双生児とも言えること,トラクターと共産主義の関係など,とても興味深い。
    トラクターの語源が牽引で,attractとも同根であることから,「さまざまな人間を魅惑してきた」p.4という洒落っ気も好感度高い。

    日本のトラクター密度が世界一だというのは,なるほど納得。農地千㌶あたりの乗用型トラクターの台数は,日本は二位のオーストリアを3倍以上引き離して386台とダントツ一位(2000年)。アメリカの40倍近いトラクター密度だとか。
    農地面積が狭く集約的な日本農業の特徴が現れている。

    長い人類史において,19世紀まで一貫して畜力・人力でやってきた耕耘という重労働。それを20世紀のトラクターは肩代わりしていくのだが,その経緯が東西で対照的すぎてすごい。
    アメリカをはじめとする自由主義国家では,自立した農家が新技術に警戒しつつ,家族ぐるみで大事に育ててきた家畜を徐々にトラクターで置き換えていくのに対し,ソ連や中国などの社会主義国家では上からの強制により農業集団化が進められ,トラクター投入を見越して役畜を屠殺したところトラクターが来なかったり故障で動かなかったり。どちらが人間的であったかというのがよく現れていると思う。

    「農業は大規模化して効率よく機械化すべし」という合理的であるはずの考え方が,自己目的化して社会を混乱に陥れたという事実。そしてそれを隠蔽する情報統制とプロパガンダが政策の見直しを阻み,同じ失敗を繰り返す。これが構造的な問題であることに気付いても独裁者への諫言には多大なリスクを伴う。まさに暗黒…。

    トラクター発祥のアメリカでも新奇なものに対する反発,旧来の習慣への愛着は大きかった。
    本書では一例としてスタインベック『怒りの葡萄』の一節を引用しているが,本当に強烈な表現だ→“鋳物工場で勃起した十二の彎曲した鉄の陰茎、歯車によって起こされたオルガスム、規則正しく強姦し、情熱もなしに強姦を続けていく”p.65(大橋健三郎訳)

  •  トラクターは、いろいろな自由を人間にもたらした。
     トラクターは、役畜のの世話、長時間の耕作業、農作業の疲れ、そういったものから、人間たちを解放した。耕地を歩く距離も減り、一人で耕すことのできる面積が増え、農村に余暇をもたらしたのである。農業生産力を高め、人々を都市に向かわせ、人口を人類史上では例外といえるほどまでに増やすことに貢献した。トラクターが、近代の果実を人々にもたらしたこと、それ自体は否定しようがない。(p.235)

    ・女性に自由をもたらした?→トラクターは男のものであり続けた。
    ・農民に余暇を与えたが、農業機械購入のローン組みとセット。
    ・耕地の砂漠化の原因の一つ。(p.236-237)

     機械の大型化に向かう「力」は、決して大企業の一方的な力などではなく、農民たちの夢、競争心、愛国心、集落の規制、大学の研究、行政の指導と分かち難く結びついた網のようになっており、だからこそ、根強く、変更が難しいのである。(p.240)

  • 中公らしい一冊だけど、トラクターという題材は戦車との対比と各国での取り上げられ方ではちょっと弱かったように思える。

  • まあまあよかった。題材が題材だけに現代史に集中していたのでモノ歴史の失敗作にありがちな散漫な印象はあまりなかったが,もう少しベーシックな政治経済史の流れとの接続は欲しかったかも。

  • トラクターというマニアックでニッチなテーマを掘り下げ、人類発展の歴史をあぶり出している本。
    食料生産力を劇的に向上させたトラクターの功績と、戦争に応用されたとする功罪、そしてトラクターが生んだ今後の課題について言及されています。
    全部を通して伝わってくるのが、筆者のトラクターに対する愛です(笑)マニアックながら、ただただ面白い。オススメです◎

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著者プロフィール

藤原 辰史(京都大学人文科学研究所准教授)

「2017年 『本当は怖い自民党改憲草案』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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