トラクターの世界史 - 人類の歴史を変えた「鉄の馬」たち (中公新書)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121024510

感想・レビュー・書評

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  • 「トラクター」を通して、世界の農業史を振り返る一冊。

    農家にとって、トラクターは「一度頼るとそれから離れられない農機具」。それを「政治的に農業と農民を管理する手段(p.84)」として使ったスターリン時代のソ連など、興味深い事例が多く紹介されている一冊。

    歴史資料として「トラクターが出てくる小説」を多く取り上げているのも特徴。なかでも秀逸なのが、戦前・戦後のウクライナの政治・農業史を振り返る資料として紹介される「ウクライナ語版トラクター小史(=邦訳『おっぱいとトラクター』)」(p.114-)。舞台となるウクライナでもトラクターを通して農民を管理・抑圧する動きはあったことを示唆しつつ、一方でトラクター技術者としての誇りももつ、という主人公の存在は非常に興味深い。

    日本でのトラクター史も紹介はされている。ただ、それは海外(特に米ソ)では主流の大型トラクターの技術を、日本の小規模で粘土質が多い田畑に適した小型トラクター(耕運機)に生かしていくか、という日本技術者の動きに注目されており、日本の農村社会への踏み込みはこの著書の中では限定的。そこはちょっと物足りなかった。

    ただ、油断してると「田畑・農村・農民間におけるトラクターの立ち位置」にとらわれがちなトラクターへの視点を、世界史という全体を俯瞰できる視点に引き上げてくれる一冊として、興味深い一冊だった。

  • 著者は農業の歴史の研究者である。そして、本書は農業に革命を起こしたトラクターの歴史について世界史的な視点から書かれた本である。通常、経済史の世界では内燃機関を搭載した輸送機械としての自動車の発明とその大々的な普及については特筆され、輸送革命、交通革命として論じられることが多いが、トラクターは輸送でも交通でもなく、人類史上画期的な農業生産性の向上を伴う「農業革命」の主役であった。またそれは大量の化学肥料投入と対になって進行した(牛馬の糞尿が肥料として使われなくなった)。

    資本主義、社会主義などの社会体制を越えてトラクターが及ぼした変革の力はもっともっと考えられるべきテーマであろう。本書はその導きの糸となるものである。

  • ・なんで読んだか?
    研修先の農家さんが貸してくれた

    ・つぎはどうする?
    なし

    ・めも
    トラクターの進化
    ①大量生産
    ②PTO:ロータリー、ハロー、ディスクプラウ。
    ③畝立て
    ④ゴムタイヤ:運転手に振動が伝わりにくくなって、快適になった。
    ⑤三点リンク:作業機との連結部を旧来の一点から三点にした。油圧シリンダーで作業機が自動で上げ下げできるようになった。作業機の重さでトラクター本体を安定させ、倒れにくくした。

  •  現代の農業では当たり前のものとなっているトラクターが、一体何なのか想像したことはあるでしょうか。
     著者によれば、トラクターは、19世紀アメリカで誕生し、20世紀に発展していった機械です。そこで重要なことは、第一次世界大戦時、イギリスやフランスが戦車の開発を始める際に着想を得たのが農業用の履帯トラクターであったということ、そして、第二次世界大戦中には、各国のトラクター工場が戦車工場として転用されていたということです。トラクターという機械の歴史は、複雑な社会的背景に支えられてきたものなのです。
     一方で、トラクターが様々な自由を人間にもたらしたことも確かです。しかし、「人間がトラクターを支配するだけでなく、トラクターに支配された面、あるいは、トラクターによって何かを支配した面」もあることを著者は指摘しています。
     本書は、人類史において欠かせない農耕、土を耕すという行為を劇的に変化させたトラクターという機械の歴史を丁寧に遡ると共に、「人間が機械を通じて自然界や人間界とどうつきあっていくか」という現代に通ずる問題について一歩踏み込んで考える為の契機を与えてくれる著作です。
    (ラーニング・アドバイザー / 国際公共政策 SATO)

    ▼筑波大学附属図書館の所蔵情報はこちら
    http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=1740785

  • 歴史

  • モノから見る視点のおもしろさを実感。時代と場所と人がモノを変え、モノが時代と場所と人を変える。

  • トラクターの誕生、進化がもたらした農業の変遷と功罪を知る。トラクターは農作業の効率を高め、農民の労働負担を減らして余暇を増やす、そんな利点だけを漠然と描いていた。大きな購入経費負担、振動と騒音による身体被害、多発し減らぬ作業事故、排気ガスによる環境汚染、さらに兵器である戦車への技術転用の歴史など、負の側面をも検証する。なお、最後まで叙事的ならぬ叙情的に著されており、日本のトラクターの章ではもう少し技術面の突っ込んだ紹介が欲しい。さて、昨今のIT活用でスマート農業が進むならば、穀物や野菜は産品というより製品って感じで、農業は第一次産業ではなくて第三次産業に分類したくもなる。

  • 農業の機械化、中でも今では牽引機として幅広い用途で利用できるトラクターに焦点を当てたもの。

    世界的なトラクター開発の流れや歴史だけでなく、日本に置いての歩行型トラクターの開発の話も綴られており、これはトラクター好きは読まないとならないなと思います。

    農業の機械化と戦争の関係もあり、機械化による大地への影響もあり、社会主義の裏にもあったトラクターを始め、
    果たして農業が機械化されたことで、家畜を利用していた頃と比べて本当に豊かになったのか。
    そんなことをふと考えるきっかけになります。

  • タイトルのとおり、トラクターの誕生から、世界各地での発展の仕方などを通じて、現在の様相まで、一本の線で歴史的にとらえられるように書かれています。さすがに1冊で書ききれる容量ではないので、全部という形ではありませんが、トラクターという普段触れることのなかった世界を、歴史的に知ることができて面白く読ませていただきました。
    農業をするうえで、土を耕すという作業が大きな比重を占めているということ、それを克服するためのトラクターという機械と改良という人類の戦い、それに対する旧来の人々との闘い。そして最後に、トラクターは人類の夢に向かって着実にそれを実現してきましたが、それで良かったのかという投げかけもされており、考えさせられます。豊かになった一方で失ったものもあるという、他でも見られるジレンマがトラクターを通じて改めて感じられました。
    あとがきで、著者が本書にあたっての取材がどれだけ楽しまれていたのかが書かれていて、ここが私にとってはハイライトでした。

  • トラクターの開発・普及や、世界各地でのトラクターの導入方法などを示しつつ、農業の変化や戦争への転用など、その功罪を展望する一冊。タイトルで技術史の本かと思わせつつも、トラクターを通して農業を見る農業史の本でもあり、文化史の本でもあった。面白い。

    日本のトラクター史についても、小岩井牧場や斜里農場で初期に導入していたこと、戦前日本でトラクターが意外と開発されていたこと(普及はしてなかったけど)、岡山や島根がトラクター開発の先進地だったこと、などなど知らないことも多く、読んでて楽しい。

    それと、機械化でなく労働集約化の方向に進んだ近世日本の農業を考える上で、機械化による大規模農業の事例は逆にいろいろなヒントを与えてくれそうに思えた。勉強になった。

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著者プロフィール

藤原 辰史(京都大学人文科学研究所准教授)

「2017年 『本当は怖い自民党改憲草案』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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