物語 フィンランドの歴史 - 北欧先進国「バルト海の乙女」の800年 (中公新書)
- 中央公論新社 (2017年10月18日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (290ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121024565
作品紹介・あらすじ
古来よりスウェーデン王国下にあったフィンランド。19世紀にロシア帝国下、「大公国」となり広範囲な自治を獲得。ロシア革命、大規模な内戦を経て独立する。第2次世界大戦では、ソ連に侵略され領土割譲。その後ナチ・ドイツに接近し、近親民族の「解放」を唱えソ連に侵攻するが敗退。戦後は巨大な隣国を意識した中立政策を採りつつ、教育、福祉、デザイン、IT産業などで、特異な先進国となった。本書は、「森と湖の国」の苦闘と成功を描く。
感想・レビュー・書評
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フィンランドはロシアから独立した。ロシア支配下は過酷という印象があるが、最初から必ずしも当てはまるものではない。フィンランド大公国としてロシア帝国とは別の国として扱われた。皇帝が支配する帝国の方が後のソビエト連邦やロシア連邦よりも異民族の自治を認める面がある。連邦という体制は分権的に見えるが、実は中央集権的であり、欺瞞がある。
冷戦中はソビエト連邦に妥協的であった。バルト三国の独立運動支持も他国より遅れて批判された。そのフィンランドも、ロシア連邦のウクライナ侵略後はNATO加盟を打ち出した。ウクライナ侵略がグローバルスタンダードからは暴挙であることを物語る。
フィンランドの料理はまずいと言われることがある。フィンランド料理の特徴は伝統的に入手しにくかったため、スパイスをあまり使わないことである。それで不味いと言われるならば、素材の味を理解していない人の言うことであり、むしろ名誉になるだろう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
フィンランドの特徴
スウェーデンとロシア、以後、ドイツとロシアのパワーバランスに翻弄された北欧の小国
・アジア起源の民族であるという風評があるも事実ではない
・北欧4国(スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、アイスランド)の言語が、印欧語系であるに対し、フィンランド語は、フィン・ウゴル語系、なので、フィンランド人は、ヨーロッパとは異なる民族であるとの印象が強い。
・第二次世界大戦までは、フィンランド人も、自分自身をアジア系であって、ヨーロッパの外の存在と考えていた。
・日本人にとっては、シベリウス、ムーミン、ノキアの国
・第二次世界大戦では、ドイツの友好国として対ソ連戦に参加した枢軸国の一国であった
本書は、13世紀のスウェーデン王国の統治下から物語が始まる。
(スウェーデン統治時代 1155?~1809)
・北の十字軍の遠征を3度受ける
1155年 スウェーデン王 エーリク
1249年 スウェーデン貴族 ビルイェル・ヤール
1293年 スウェーデン 東カレリア地方まで拡大
・1323年 パハキナサーリ条約 スウェーデン・ノヴゴロド間でカレリア地峡の国境画定
・1362年 スウェーデン王選出の権利を得る⇒フィンランドはスウェーデンの一部と認められた
14世紀に、ペストまん延するも、フィンランドには影響がなかったようだ
スウェーデン統治下でのおきた戦争を 〇〇の怒りという
1495~97年 古き怒り モスクワ大公との紛争
1570~95年 長き怒り ロシアとの紛争、フィンランドが舞台に
1713~21年 大いなる怒り ロシアに占領 (1700~21年 北方大戦争の一部)
1808~09年 スウェーデン・ロシアによるフィンランド戦争勃発 ハミナ講和条約の結果、フィンランドはロシアへ割譲される
(ロシア統治時代:フィンランド大公国)
1809~1850年代 ロシア統治時代初期 経済はロシアと分離して扱われる
1850年代~1870年代
自由化の時代 広範囲の自治の時代 ロシア皇帝アレクサンドル2世の銅像がいまもヘルシンキに残る善政の時代
我々はもはや、スウェーデン人ではない、さりとて、ロシア人にはなれない、フィンランド人でいこう
ロシアにとっても、フィンランドをスウェーデンから分離することで統治を容易にするというメリットがあった
大叙事詩 カレワラの収集と編纂の時代
1880年代~1914年 ロシア化政策の時代 自治の制限、ロシア帝国に組み込むための政策が実行 ニコライ2世の時代 対ドイツの時代
1914年~1917年 独立期 第2次ロシア化政策、シベリウスのフィンランディア
(独立、内戦)
1917年~1930年代 独立宣言 その後、親ドイツ派(白衛隊)と、親ロシア派(赤衛隊)との内戦に突入
1917年 レーニンのボリシェヴィキ政権が、ブレスト=リドフスク条約により、フィンランド国内のロシア兵2万5千人をロシアへ撤収
白衛隊が勝利し、赤衛隊は、旧フィンランド領であるカレリア地方に退却、これが、大フィンランドにつながっていく。白衛隊はカレリアをも統合しようとしている(1918年)
1922年 オーランド諸島の帰属をめぐって問題化、新渡戸稲造が国連事務局次長として解決に関与
1939年 第一次ソ連・フィンランド戦争勃発 冬戦争
1941年 第二次ソ連・フィンランド戦争勃発 継続戦争 大フィンランド カレリア奪取を計画、
1944年 ソ連・イギリスと休戦条約 フィンランドの第二次世界大戦は終わる
以後、ソ連崩壊まで、親ロシア路線の中立国として冷戦を生き抜く サウナ外交とフィンランド化
1989年 ソ連崩壊にともない、ロシアと新友好条約を締結、EU加盟へ、さらに、2022年NATO加盟へ
目次
はじめに
第1章 スウェーデン王国の辺境 13世紀~19世紀初頭
第2章 ロシア帝国下の「大公国」 19世紀~第一次世界大戦
第3章 揺れる独立国家フィンランド 内戦~1930年代
第4章 二度の対ソ連戦争 第二次世界大戦下、揺れる小国
第5章 苦境下の「中立国」という選択 休戦~東西冷戦期
第6章 西ヨーロッパへの「接近」 ソ連崩壊~21世紀
終章 フィンランドという価値
あとがき
主要参考文献
付録 -
中公新書の「物語 XXの歴史」シリーズにやっとフィンランドが加わって嬉しいことこの上なきかな・・・「物語 北欧の歴史」が出たときは、それはないんじゃないの!?と思ったものですから。北欧は、どうしてもひとまとまりにされますが(その最たるものが旅行用ガイドブック)、それぞれに違った歴史もあり、どこからの目線で何を見るのかがとても重要。ヨーロッパは、現代になってからでも、国境線が変わっている国が多いですが、少なくとも、北欧の国々は、第二次世界大戦後は、落ち着いているわけですから、各国別の「物語 XXの歴史」があってしかるべき。特にフィンランドは、スウェーデン王国に支配され、ロシア帝国に支配され、独立。2つの大国に支配されていた時代も、「植民地」的な支配のされ方をしていたので、「支配国」とは違った道を歩んでいるし、民族意識的にも違うのが特徴。知れば知るほど面白い、そんな国だと思います。
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ムーミンやマリメッコ、福祉国家、進んだ教育、サウナというイメージで日本人にも馴染みが深いフィンランドという国が、ロシアやスウェーデン、デンマークにドイツといった大国に挟まれ、紆余曲折しながら1917年に独立を勝ち取り、ノキアの成功とともに成功を勝ち取ってきた歩みを入門的に概観できる良書。スウェーデン語が公用語の長い時代を経て、フィンランド人としてのアイデンティティを勝ち取り、ラップランドの住民たちと移民の融和の歩みをSISUの精神のもと感じられる。世界一まずいお菓子サルミアッキを噛み締めながら、じっくり2回か3回は読んでおきたい本だ。
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フィンランドの歴史が掴める本。特にソビエトとの関係や、ナチスドイツに近寄った背景などが興味深かった。日本もロシアとは隣国であり、もう一つ、自由主義とは相容れない価値観を持つ中国と隣り合わせである。これらの国との関係を考える上で、フィンランドの歴史を知ることは役に立つと思う。
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高校の先生が教えてくださった本。
世界史を学びたい人におすすめ。
少し専門的な用語が知っている前提で出てくることがあるので、その辺は覚悟が必要かも。
独学で学ぶのにちょうどいい。
「物語」シリーズ、他の国も読み進めていきたい! -
2023年8月18日
たったいま、読了いたしました。
やはり良書でした。何回か、読み返したいと思います。
「著者の方は ムーミンの良さがわからない」というのも、ある意味で好印象です 笑
2023年7月14日
いまも読んでいる途中ですが、とても勉強になります。
「フィンランド」について、淡々と深く考察しているような気がします。
特にフィンランドを褒め称えるわけでもなく、貶すわけでもなく。
ただ奥底になにかしら愛情のようなものも感じます。
メモを取りながらじっくりと読んでおります。 -
興味のある国から「物語」シリーズを読み進めています。
フィンランドは、林業が盛ん、世界全体がきな臭い情勢下、長年の政策を転換しNATOへ加盟申請した等のニュース、枕元にムーミンのぬいぐるみが置いてある(妻と付き合ってすぐに行ったアウトレットのゲームセンターのクレーンゲームで2,000円掛けて取った)等、遠い国でありますが、よく名前も聞くし関わりもある国です。先進的で良いイメージもありますが、歴史についてはよく知らないと思い、「物語」シリーズのフィンランドを手に取りました。
かつては欧州の後進国であったことや、スウェーデン統治時代、ロシア統治時代から先の大戦、そして冷戦、大国に挟まれ翻弄されてきた歴史、NATOへの加盟申請が今までの外交政策からの大転換であることを知ることができました。
また本書の内容とは別に、あとがきで著者が、フィンランドのホストファミリーは現在でも第二の家族と述べていたことから、自分もホストファミリーをやり第二の家族を作りたいと思いました。