兼好法師 - 徒然草に記されなかった真実 (中公新書)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121024633

作品紹介・あらすじ

兼好は鎌倉時代後期に京都・吉田神社の神職である卜部家に生まれ、六位蔵人を経て左兵衛佐として天皇に仕えた後、出家して徒然草を著した。――現在広く知られる彼の出自や経歴は、兼好歿後に捏造されたものである。筆者は同時代史料をつぶさに調べ、兼好の足跡を辿るとともに、徒然草の再解釈を試みた。鎌倉、京都、伊勢をゆく兼好の視点から、中世社会に新たな光を投げかける。

感想・レビュー・書評

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  •  「〇〇は捏造だった」とか「通説は間違いだらけ」という類の言説は、たいてい学問的な論証の手続きを踏まえていない場合が多く要注意だが、兼好(吉田兼好、卜部兼好)の出自・経歴に関する通説を全否定し、後世の吉田家による捏造を明らかにする本書に関しては、史料批判の方法に瑕疵はなく、研究史を完全に刷新する画期的な成果である。兼好について、現行の辞書・事典類(日本語・日本文学、歴史学問わず)は必ず六位蔵人・左衛門佐の任官歴を記すが、少なくともこれは今後書き換えなければならないだろう。兼好像の変化に伴い『徒然草』や家集の位置づけも当然変わり、本書ではこれまで誤解されたり、等閑に付されていた問題に新たな解釈を示している。巷間の「シニカルな隠者」像とは異なる、身分流動的な出家者の立場を利用して公武間を遊泳する実務家としての姿が浮かび上がる。

  • ひとに勧められて読了。自分に中世史の素養は無いが、論理的かつ分かりやすい本で面白かった。
    兼好は貴顕の側近く仕えた人「ではなく」、隠者的なイメージに反して色々と世事の雑用に携わって暮らしているし、挙句に実は吉田兼好ではなかった…と次々に通説がひっくり返されていく。
    ミステリーのようだが真面目な話で、謎解きの鍵にあたるのが引用される史料。たとえば当該官職の人は当時どういう扱いを受けていたか、家集への作品収載ルール、紙背文書の年代推定等、時代背景やお作法や常識を弁えることで史料から情報が引き出されていく。
    デジタル化により史料への表面的なアクセスは容易になっていく中、それらを本当に「読む」ための能力というのは相変わらず必要なのだなぁ。

  • 角川ソフィア文庫の『新版 徒然草』の訳者だったことに、読んで気付く。
    タイトル通り、兼好法師についての本。

    吉田兼好やら卜部兼好やら、名前が色々あって、どう呼ぶのがいいんだ、と思ってはいた。
    吉田兼好とするのがいい、とか。
    吉田という名字は兼好が生きていた後の時代に付けられたものだから、相応しくない、とか。
    でも法師は名前ではないから、兼好でいい、とか。
    結構いろいろ目を通してきたのだけど、まさかの、嘘だったとはね……。

    兼好がどういう書物に見られるのか、そこからどんな人物像が考えられるのか。
    細かいというか、丁寧すぎて、ややしんどくもある。すいません。
    まず第七章を読んでもいいかも。ネタバレだけど。

  •  兼好は、なぜ「吉田」ではないのか。
     また、「世捨て人」としてとらえることの思い込み。
     
     どんな古典であっても、まだまだいくらでも新しい研究は可能であることを明示した一冊。
     
     
     
     

  • 兼好法師という人物が、実際にはどんな人だったのか。徒然草や歌集や手紙などから、その実相を現すように書かれています。また、帯にありますように、「吉田兼好」という名前で呼ばれるように何故なったのか。その真実も知ることができて、面白く読ませていただきました。肉親との手紙のやり取りから見えてくる社会的な立場。朝廷の内実を知ることができた訳。そして歌人として名を上げたこと。
    今の世に徒然草の作者として伝わる「吉田兼好」という人間は、実在してはいなかった。兼好法師は実在していて、十分に人間的に魅力ある人物像であったこと。徒然草を読むのでしたら、その作者について良く知って読むのと、そうでないのでは全然違う。私たちの知っていることとは全然違うということを。勉強になりました。

  • 実は今興味があって『徒然草』を細々と読んでいるのだが、その作者である兼好法師について知っておこうと思い買った本。
    しかし読んでみて仰天した。いつかのニュースか何かで、今の教科書では「吉田兼好」は使わずに「兼好法師」になっている、と見聞きしたのはうっすらと覚えていたんだけど、その理由はこれだったのか。詳細は読んで確認して欲しいけど、もし著者の説が正しいのだとしたら、よくもまあこんなデタラメをやったものだと逆に感心したくなったよ。たぶん500年以上にわたって日本人を騙して続けてきたのだろうから。
    正直この件のインパクトが強すぎて、初読直後は中盤の兼好の人となりの記述が霞んでしまった感はあったんだけど、読み返すとこちらも資料に対する分析には説得力があるように思えた。兼好が生きた時代の状況もよく分かったし、知的好奇心を刺激してくれたという意味においても個人的には十分満足できた一冊。
    新書はどれもこれくらいのレベルのものを目指して欲しいね。

  • これまで広く知られる出自や経歴は捏造。角川ソフィア文庫『新版 徒然草 現代語訳付き』 あしだ

  • 徒然草の「吉田兼好」の実像を丁寧に解き明かしている。京都で不動産経営をしているのが面白かった。

  • 巷間に流布する「吉田兼好」の出自・経歴を没後捏造されたものとし、同時代資料から丹念に情報を抽出することで、その実像へと迫る一冊。再構築されていく人物像も興味深いが、その背景となる当時の世相が面白い。

  • 『徒然草』の作者・兼好法師の生涯を、同時代史料から多くの情報を抽き出すことで明らかにしていくという内容の本である。
    自分の知識では『徒然草』の作者は「吉田兼好」なのだが、読み始めるや否や(6ページめ!)、自分が知るその出自、経歴が捏造でデタラメであると断ぜられたことに度肝を抜かれた!
    捏造した張本人、吉田兼倶(1435〜1511)が五百年にわたって徒然草の読者を欺き続けたことは本当にすごいなと思ったが(悪い意味で)、わずかな史料からそのペテンを暴いていく著者のロジックの詰め方には感心させられた。
    個人的に瞠目したのは、「金沢文庫古文書」発見のエピソード。「紙背文書」という史料の形式は知らなかったのだが(VHSに録画されたテレビ番組より、番組間のCMの方が映像史料として貴重みたいなものか)、不要となり典籍の書写に流用された書状が、ある時期には価値がなくて放置されていたからこそ、時代の息吹を現代に伝える貴重な史料になったということに感動するとともに、その紙くずに価値を見出した歴史学者(関靖)に学者のすごさを感じた。

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著者プロフィール

慶應義塾大学文学部教授
著書・論文:『二条良基』(人物叢書、吉川弘文館、2020年)、『中世和歌史の研究 撰歌と歌人社会』(塙書房、2017年)など。

「2024年 『古典文学研究の対象と方法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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