日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実 (中公新書)

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  • 中央公論新社
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レビュー : 68
  • Amazon.co.jp ・本 (228ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121024657

作品紹介・あらすじ

310万人に及ぶ犠牲者を出した先の大戦。実はその9割が1944年以降と推算される。本書は「兵士の目線・立ち位置」から、特に敗色濃厚になった時期以降のアジア・太平洋戦争の実態を追う。異常に高率の餓死、30万人を超えた海没死、戦場での自殺・「処置」、特攻、劣悪化していく補充兵、靴に鮫皮まで使用した物資欠乏……。勇猛と語られる日本兵たちが、特異な軍事思想の下、凄惨な体験をせざるを得なかった現実を描く。

感想・レビュー・書評

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  •  ここ20年くらい前から日本近代史学界では「兵士の視点・体験」からの戦争史・軍事史研究が盛んだが、本書は1941~45年のアジア・太平洋戦争に焦点を絞った、そうした研究動向の現時点におけるコンパクトなダイジェストといえる。餓死、自殺、他殺、薬物中毒、精神疾患、感染症、私的制裁、略奪、人肉食といった極限状況における日本軍兵士の「死と病理」を生々しい記録・証言によって明らかにしている。単に兵士の悲惨な実情を示すのみならず、その構造的原因を経済・文化的背景を含めて分析することで、立体的な歴史像を構築している。注意するべきは、いわゆる「後知恵」的な批判・裁断は極力行わず、批判するにしても同時代人の軍人・軍関係者の直接の言葉をもって行っていることで、「当時の感覚」としても問題が意識化されていたことがわかるような叙述になっていることであろう。近年の根拠のない「日本軍礼賛」「日本人自画自賛」風潮への批判意識は明瞭だが、そうした先入観なく「事実」をありのままに知らしめるための工夫といえる。

     なお個人的には、本書で示される日本軍の構造・特質がどうしても現在の日本企業と重なって仕方なかったことを付言しておく。過労死・過労自殺が恒常化している劣悪な職場環境や、「自己責任」の名の下で次々と弱者に抑圧が移譲される状況、作戦至上主義ならぬ成果至上主義による人間性の荒廃、問題を根本的に改めず精神主義的な対応に終始する国家の対応など、あまりにも相似している。改めて「戦前と戦後の連続性」を深刻に捉える必要を感じた。

  • 軍人、民間人合わせて日本人は310万人も亡くなっているんだ。
    1番の被害者はアジアの人々。数が把握できていなくとも膨大な人数。
    戦死といっても色々で、本当に戦死ではなく、自殺、餓死、病死など様々。衛生状態も、栄養も悪く、常に死と向き合う中精神がおかしくなる人も勿論多かった。

    戦争はしたらダメ!という思いはあるけれど、軍人の事まで深く考えたことはなかった。PDSEとかベトナム戦争で言われ始めたけれど戦争という人を殺し自分も殺されるかもしれないという過酷な状況に加え、劣悪な環境の下(政府も歯科衛生や公衆衛生、精神衛生まで元より今と概念が違う為何も手立てなし)よく生き延びて帰ってきた人がいたなぁと思った。

  • 【感想】
    読んでいてとにかく切ない。悲しすぎてなかなか読み進められない。
    戦死者の多くは戦闘ではなく、飢餓や病気がもとで亡くなった兵士。さらにその中には友軍の兵士によって自決を強いられたり殺害されたりした者もあったという。
    神風特攻隊のような特攻隊にスポットが当てられる一方で、このような悲惨な死を強いられた人々もいたことを忘れてはいけないと思った。

    【目次】
    1.死にゆく兵士たち
    2.身体から見た戦争
    3.無残な死、その歴史的背景
    終.深く刻まれた「戦争の傷跡」

  • 私の祖父はフィリピンへの輸送船で戦死した。あと3週間頑張れば戦争は終わったのに。でも、果たしてそうなのか。上手く島に着いても、酷い飢えと病気が待っていた。凄惨な状況、酷い装備、そしてただ精神論のみの挙句、部下を死に追いやる軍上層部。とりあえず日本人は、戦争に向いていない。そう強く感じた一冊です。

  • 凄惨な日本軍兵士の事実に、胸が痛む。これだけの辛苦を課したエリート層は何故この道を進む事になったのか。個人の問題ではなく、組織や国家のありようが、まだ理解出来ない。
    現代社会の枠組みに、同じリスクが孕まれているようにも思うが、これを救うのはナショナリズムを否定するグローバルな視点が卓越する必要がある。だから僕等は世界を目指す。

  • とても真面目に丁寧に日本軍の実態を追いかけている。何よりその姿勢に心打たれた。

  •  イデオロギー色がないわけではないが濃くはない。軍医や衛生兵の証言を多く引用するなど、研究者の本らしく抑え目の表現ながら生々しい。死者の9割が1944年以降で、戦病死者や餓死者、自殺者数が戦闘の死者数を上回るという数々の推定。硫黄島の戦いでも戦闘の死者は3割のみとの証言。栄養や補給、工業化なども含めた総合国力が軍の強さでもあり、日本軍はこの点で明らかに弱かった様子が分かる。消耗戦を戦い抜くだけの国力はないとの「強い自覚」は軍にもあったと著者も書いているのに。
     著者は、国力を超えた戦線の拡大や戦争終結の意思決定の遅れの背景として、明治憲法体制の欠陥である「統帥権の独立」と「国家諸機関の分立制」を挙げている。しかし、両者は矛盾する面もあるかと思う。前者だけなら「軍部(=軍令)の暴走」と単純化すればよいが、実際には内閣や大政翼賛会など他のプレーヤーも戦争の過程にいた。また後者に重点を置けば、軍部の暴走というよりも、むしろ国家のどの機関も決定的な力を持たなかったことが欠陥だったのではないか。
     なお、男子人口に占める軍人の割合は同時代のドイツよりもずっと低く、この隘路に対し、植民地出身者や当時の欧米で行われていた女性の軍事動員は消極的で、その分少年兵を重視したという。

  • 日中戦争・太平洋戦争を通じて、現場に近い日本軍の戦中史。
    「戦略レベルの戦史業書」と「戦術・個人レベルの戦場体験記」の隙間を埋める作品。

    例えば、戦地で歯医者がいない、覚醒ヒロポンの多用、必要不可欠な装備の劣化、アメリカへの過小評価、軍記・組織の乱れ、陸海軍の不統一 、機械化の遅れ=人力や根性で補う等を例に富み、帰還した現場の管理職達の証言や出版物をまとめている。
    個人の戦争体験記を、まとめただけという印象があり、物足りなさを感じる。
    しかし、時系列で一定の体系化されており、理解しやすい工夫がされている。
    また、敵であり戦勝国のアメリカと異なり、日本側の戦死者の記録が、遺族への気遣いや仲間意識により、後世の研究材料にならない杜撰な統計記録であった事は、初見であり収穫であった。改めて、日本人の弱さを考えさせてくれる。

  • 吉田先生の渾身の作品。
    この本を読むと、右の人が大好きな大東亜解放という聖戦とやらが、日本軍の人命軽視、補給軽視の戦争遂行によって実に尊い人命が無くなったかと思うとやりきれなくなる。

    もっとも、大義のために人名を軽視しがちなお偉いさんの考えたかたは戦後70年経過しても変わらないようである。

  • 「皇軍」や「神軍」と言われた日本軍隊の一面を“これでもか”というほど教えてくれる。ただ文章中に見られる左翼的な表現や引用される数々の書籍がいわゆる「非売品・自費出版」である事を考えると、その信憑性や客観性に疑問も感じる。いずれにせよ、右と左、両方をしっかり判断してあの戦争を考えなければならないと思う。

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著者プロフィール

*同名著者あり
1.吉田裕(よしだ ゆたか)
1954年生まれのの研究者。専攻は日本近代軍事史、日本近現代政治史。一橋大学名誉教授。同時代史学会代表。
2018年、『日本軍兵士-アジア・太平洋戦争の現実』でアジア・太平洋賞特別賞、2019年同作で新書大賞2019大賞をそれぞれ受賞。

2. 吉田裕(よしだ ひろし)
1949年生まれの研究者。専攻はフランス文学、日本文学。早稲田大学法学学術院教授。1972年早稲田大学第一文学部仏文科卒、同大学院博士課程中退、早大文学部助手、同法学部助教授、教授。

3. 吉田裕(よしだ ゆたか)
2018年1月現在西日本旅客鉄道株式会社安全研究所 主席研究員(主席)

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