日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実 (中公新書)

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  • 中央公論新社
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レビュー : 42
  • Amazon.co.jp ・本 (228ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121024657

作品紹介・あらすじ

310万人に及ぶ犠牲者を出した先の大戦。実はその9割が1944年以降と推算される。本書は「兵士の目線・立ち位置」から、特に敗色濃厚になった時期以降のアジア・太平洋戦争の実態を追う。異常に高率の餓死、30万人を超えた海没死、戦場での自殺・「処置」、特攻、劣悪化していく補充兵、靴に鮫皮まで使用した物資欠乏……。勇猛と語られる日本兵たちが、特異な軍事思想の下、凄惨な体験をせざるを得なかった現実を描く。

感想・レビュー・書評

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  •  ここ20年くらい前から日本近代史学界では「兵士の視点・体験」からの戦争史・軍事史研究が盛んだが、本書は1941~45年のアジア・太平洋戦争に焦点を絞った、そうした研究動向の現時点におけるコンパクトなダイジェストといえる。餓死、自殺、他殺、薬物中毒、精神疾患、感染症、私的制裁、略奪、人肉食といった極限状況における日本軍兵士の「死と病理」を生々しい記録・証言によって明らかにしている。単に兵士の悲惨な実情を示すのみならず、その構造的原因を経済・文化的背景を含めて分析することで、立体的な歴史像を構築している。注意するべきは、いわゆる「後知恵」的な批判・裁断は極力行わず、批判するにしても同時代人の軍人・軍関係者の直接の言葉をもって行っていることで、「当時の感覚」としても問題が意識化されていたことがわかるような叙述になっていることであろう。近年の根拠のない「日本軍礼賛」「日本人自画自賛」風潮への批判意識は明瞭だが、そうした先入観なく「事実」をありのままに知らしめるための工夫といえる。

     なお個人的には、本書で示される日本軍の構造・特質がどうしても現在の日本企業と重なって仕方なかったことを付言しておく。過労死・過労自殺が恒常化している劣悪な職場環境や、「自己責任」の名の下で次々と弱者に抑圧が移譲される状況、作戦至上主義ならぬ成果至上主義による人間性の荒廃、問題を根本的に改めず精神主義的な対応に終始する国家の対応など、あまりにも相似している。改めて「戦前と戦後の連続性」を深刻に捉える必要を感じた。

  • 日中戦争・太平洋戦争を通じて、現場に近い日本軍の戦中史。
    「戦略レベルの戦史業書」と「戦術・個人レベルの戦場体験記」の隙間を埋める作品。

    例えば、戦地で歯医者がいない、覚醒ヒロポンの多用、必要不可欠な装備の劣化、アメリカへの過小評価、軍記・組織の乱れ、陸海軍の不統一 、機械化の遅れ=人力や根性で補う等を例に富み、帰還した現場の管理職達の証言や出版物をまとめている。
    個人の戦争体験記を、まとめただけという印象があり、物足りなさを感じる。
    しかし、時系列で一定の体系化されており、理解しやすい工夫がされている。
    また、敵であり戦勝国のアメリカと異なり、日本側の戦死者の記録が、遺族への気遣いや仲間意識により、後世の研究材料にならない杜撰な統計記録であった事は、初見であり収穫であった。改めて、日本人の弱さを考えさせてくれる。

  • 吉田先生の渾身の作品。
    この本を読むと、右の人が大好きな大東亜解放という聖戦とやらが、日本軍の人命軽視、補給軽視の戦争遂行によって実に尊い人命が無くなったかと思うとやりきれなくなる。

    もっとも、大義のために人名を軽視しがちなお偉いさんの考えたかたは戦後70年経過しても変わらないようである。

  • 第30回アジア・太平洋賞特別賞受賞作!

    『日韓国交正常化交渉の政治史』『中国はなぜ軍拡を続けるのか』と並びアジア・太平洋賞特別賞を受賞

  • 180804日経書評 郷原信之氏 日本軍は現代のブラック企業
    軍の勝利至上主義 兵士は消耗品 戦死者の多くは餓死 近代の軍事史ではない
    ここには「現代日本の本質」があるように思われる 大学病院の奈落も同じ論
    「短期決戦至上主義」自分本位の考え方で臨み、長期的視点が欠落、綻びが目立ってくる
    日銀黒田総裁の「異次元の金融緩和」も同じ 短期決戦を前提、長期戦の弊害は思考外
    理解し対応できるかという「能力の問題」もあるが、基本は「無責任」
    自己の功名心は大きいが、国民や、同僚・部下の思いやりは皆無

    180810 日本軍兵士 吉田裕 ☆☆☆ 兵士は消耗品 改善・革新は進まない
    Ⅰ.太平洋戦争 
    1.日本軍は人力馬力vs米軍はエンジン力 その差が兵士にのしかかった
    飛行場建設などの土木工事のスピード格差 ブルドーザー・ダンプトラックで新設→制空権を
    2.最大の犠牲者はアジアの人々 死者2,000万人
    3.日本人戦死者310万人の9割は1944年以降の犠牲者
    4.餓死の比率が高い 4-6割
    5.水没者35万人 米軍潜水艦の活躍 
    6.長期戦 兵士の気持ちが倦む 備えがない ex歯医者がいない 休暇制度がない
    7.処置 傷病者へ自殺の強要・射殺

    Ⅱ.異質な軍事思想
    1.短期決戦
    2.作戦至上主義 現地徴発=略奪
    3.極端な精神主義 米英軍の過小評価「虚勢」

    Ⅲ.過酷な軍務実態
    1.リンチ私的制裁の横行 本来の秩序を維持できない
    2.従軍期間の長期化長い者は7-8年 モラルダウン 軍紀の弛緩と退廃 
    3.設営能力の圧倒的差(トラックと馬) 通信機器の遅れ(伝書鳩) 軍靴

  • 当時に生きて、戦地にいたらと想像するのも苦しい、あまりに残虐で惨い姿。目を背けてはいけない「美しい国」の姿。
    兵站を重視せず、精神論に頼るのは現代にも受け継がれている?

  • ただ単に前線の悲惨な惨状を描いただけではなく、なぜそのようになってしまったのかをできるだけ客観的に述べられている。
    戦死者よりも、餓死・自殺などが多いというのは何となくわかっていたけど、こうはっきり出てくると、やはり戦争は愚かしいなと思う。
    そして、日本は、世界にまれにみる戦争下手なんではないかとも思う。現状の日本を見ていると、それは今でも変わっていないような気がする。そういった観点からも、日本は戦争をしてはいけないと思いますね。

  • 第2次世界大戦で日本人の戦没者数は310万人(軍人・軍属230万人、民間人80万人)。この大部分がサイパン島陥落後の絶望的抗戦気期の死没者と考えられている。
    軍人・軍属の戦没者のうち、餓死者の割合は約6割との推定もある。
    中国軍と中国民衆の死者が1000万人、朝鮮で20万人、フィリピンで111万人との推定もある。

  • 悲惨な戦争最前線。
    国として兵隊を軽視していたことがよく判る。

  • 戦死した兵士のほとんどは戦闘中での死ではなく、病死、餓死だったようだ。日中戦争、太平洋戦争の兵士にスポットをあて、あくまで事実を客観的に紹介している。

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著者プロフィール

*同名著者あり
1.吉田裕(よしだ ゆたか)
1954年生まれのの研究者。専攻は日本近代軍事史、日本近現代政治史。一橋大学名誉教授。同時代史学会代表。
2018年、『日本軍兵士-アジア・太平洋戦争の現実』でアジア・太平洋賞特別賞を受賞。

2. 吉田裕(よしだ ひろし)
1949年生まれの研究者。専攻はフランス文学、日本文学。早稲田大学法学学術院教授。1972年早稲田大学第一文学部仏文科卒、同大学院博士課程中退、早大文学部助手、同法学部助教授、教授。

3. 吉田裕(よしだ ゆたか)
2018年1月現在西日本旅客鉄道株式会社安全研究所 主席研究員(主席)

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