正義とは何か-現代政治哲学の6つの視点 (中公新書 2505)
- 中央公論新社 (2018年9月19日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (271ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121025050
作品紹介・あらすじ
アメリカの政治哲学者ロールズは『正義論』で、公正な社会を構想し功利主義を批判、社会契約説を現代から再構成した。民主主義の原理ともいえるその理論は、社会倫理の議論を捲き起こす。国際社会の中で、自由、権利、財・資源、義務は、どう分配されうるか。本書では、サンデルの立脚地であるコミュニタリアニズムなど六つの代表的視点を取り上げ、現代の課題に思想家たちがいかに応答したかに迫る。現代正義論の入門書。
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
ロールズ「正義論」を訳した著者が、ギリシア哲学を確認した上で、6つのアメリカ政治哲学(リベラリズム、リバタリアニズム、コミュニタリアニズム、フェミニズム、コスモポリタニズム、ナショナリズム)をジャンル別にわかりやすく解説した著作。
-
単純化できない。
ますは様々な論点を理解するところから。
”こうした困難にもかかわらず現代正義論が受け継がれているのは、〈君は君の正義を貫け、私は私の正義を貫く〉ではすまない領域が拡大し、そこにおいて見過ごせない事態が生じてきたからです。” -
かなり面白く読んだ。
ロールズのリベラリズムを大きな軸として、リバタリアニズム、コミュニタリアニズム、フェミニズム、コスモポリタニズム、ナショナリズムを俯瞰する。
シンプルに、こういう人たちが今の正義論界隈でのメジャープレーヤーなんだ、というのを知ることができ、それぞれの考え方を整理するのに役に立つ。
他方で、正義とは何か、正義はどうあるべきか、という問いは、社会がどうあるべきか、あるいは、どのように私と他者が共に生きていくのか、を問うことであるという「正義論」の意義を語りかけてくるところに温かみがある。神島は、私たちがこの答えの定まらない問いに対して議論を重ねていくこと、考えることを通して、社会で生きていく希望を持ち続けられるとするが、どうだろうか。 -
本書は、政治哲学の大テーマである「正義とは何か」について、ジョン・ロールズをベースにしながら(著者はロールズの『正義の理論 改訂版』2010年の共訳者の一人)、リベラリズム、リバタリアニズム、コミュニタリアズム、フェミニズム、コスモポリタニズム、そしてナショナリズムそれぞれの思想から平易に論じたものである。
6つの思想潮流がすべて西欧起源の思想であり、その点、現代のグローバルな諸問題にアプローチする限界がありはしないかという疑問は湧くにせよ、ロールズやノジック、サンデル、セン、ヌスバウムなどの思想がとてもわかりやすく書かれており、ポスト・ロールズの思想について勉強になった。
経済学を勉強する我々にとっても馴染みの深いアマルティア・センは、「人間のアイデンティティはたしかに共同体のなかで形成されるけれども、人間は文化的伝統から離れて合理的判断を下しつつアイデンティティを形成してゆくこともできる」(p.143)とコミュニタリアズムを批判し、また「ロールズの契約説が「閉ざされた不偏性」を伴うものであるとして、それよりもスミスの「開かれた不偏性」にこそ、地域的偏狭性を反省する可能性があるとしています」(p.144)とロールズ批判も展開する。センはスミスを高く評価しているらしいが、まさにその通りだと思う。
しかし、現実のグローバル社会にはたして「公正な社会」は可能なのか(正義は実現されるのか)、その哲学的な基盤はまだまだ確立されたものとはなっていない。
余談:もう17年前になるが、2003年にケンブリッジ大学に遊びに行ったとき、散歩しているセン(当時、トリニティカレッジの学寮長)を偶然見かけてちょっと感動したことを思い出した。
センはインド出身なので、上記に書いたような西欧哲学の本流から少し離れていることもプラスに働いているのではないかと思う。 -
ロールズを中心に、「正義」を民主主義を基盤に、リベラルなものから保守的なものまで6つの視点に分けて述べたもの。各視点の特徴と代表的な論者が分かり面白い。各視点の比較を図解整理すると理解度が増すであろう。著者の真摯な語り口に好感が持てる。
-
ロールズの議論をベースに6つの立場で正義論を考える。興味深いが、やや難解。
-
内容は少なくとも初心者向けではない。多少哲学の素養がないとちょっと辛いかな?という気はした。ただ、内容が理解できるととても面白い。
-
現代政治哲学をロールズを中心にまとめた本です。
-
「正義とは」が抽象的な意味ではなく、現実の国家運営、そして国際問題において問われている具体的な課題であることが改めて理解できた。難民問題、格差拡大問題など、どの立場の正義に立つのか問われるだろう。ロールズのリベラリズムが現在は民主党の政策に親和的、数年前にハーバード式授業で話題になったサンデル教授はリバタリアニズムの主張でロールズとは一線を画している。そしてコミュリタリアニズム、フェミニズム、コスモポリタニズム、ナショナリズムなどの現代正義論の6つの立場を解説する。「正義」が一様でなく、政治的な色を持たざるを得ない当たり前の現実を感じる。私自身はロールズの次の言葉が一番印象的。「生まれつき恵まれた立場におかけすることがないようれた人びとは誰であれ、運悪く力負けした人びとの状況を改善するという条件に基づいてのみ、自分たちの幸運から利得を得ることが許される。」これは愛として説いているのではなく、正義として説いている!この基にあるロックの自由論は清教徒の思想から影響を受けていたらしい。