- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121025845
作品紹介・あらすじ
中世の荘園を描いた地図、失われた大伽藍や城の絵図、合戦に参陣した武将の名簿、家系図……。これらは地域の歴史を知るうえで貴重な史料であり、市町村史や学校教材にも活用されてきた。しかしもしそれが後世の偽文書だったら? しかもたった一人の人物によって創られたものだとしたら?本書は、椿井政隆(一七七〇~一八三七)が創作し、近畿一円に流布して、今に至るまで影響を与えつづける、数百点に及ぶ偽文書の全貌を解明する試みである。
感想・レビュー・書評
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ある所で読んだ著者のインタビューがたいへん面白くて興味をもった。堅い感じの地味な表紙、パラパラめくると中身も難しそう…という第一印象だったが、いやぁー面白かったです!
江戸時代に生きた椿井政隆、偽文書を次々と作り出した執念や恐るべし。単にお金儲けではなく、彼にとって生きる証だったんでしょうね〜画才も半端ない。
終章・偽史との向き合いかた」で述べている著者の歴史学に対する考え方にすごく共感しました。また「あとがき」で「椿井文書と椿井政隆に対する私の愛情は誰にも負けない。これまでも、そしてこれからも」の言葉に、何ごともとことん突き詰めるには、やはり愛だなぁと。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
フェルメールの贋作をイメージして読み始めたのだけれど、まったく違った。(無知丸出し)
恐るべし椿井正隆。でも、それより恐るべしは、盛り上げるためなら偽文書の内容をも活用してしまう(一部の)町おこしの無節操ぶり。それを批判する著者の正義感を支持したい。 -
たった一人の人物の創作による偽文書が、いかにして作られ、
地域に、人々に浸透していったか。数百点にもなる椿井文書の全貌。
第一章 椿井文書とは何か 第二章 どのように作成されたか
第三章 どのように流布したか 第四章 受け入れられた思想的背景
第五章 椿井文書がもたらした影響
第六章 椿井文書に対する研究者の視線
終章 偽史との向き合いかた
カラー口絵、モノクロの画像と地図や表多数有り。
参考文献有り。巻末に「椿井文書」に関する表Aと表B有り。
絵画も書道も達者、史料を調べる知力もあり、
足を運んで実地調査する行動力にも長け、音便にも関心がある。
そんな人物が行った偽文書の創作。連名帳、家系図や地図までも。
歴史学者や文献史学者を信じさせた内容の巧みさは、圧巻!
趣味と実益、需要と供給・・・『五畿内誌』の補完、自分の家系のため、
村同士の争い、式内社の選定、かくあってほしい歴史。
石碑が建立され、行政史に取り入れられ、
そして村おこしや町おこしにも使用されるようになる。
史実でなくても地域の歴史に関心を・・・なんて言われるとねぇ~。
後戻りは難しいものだと、しみじみ。 -
中々読み応えがあった。
どのようにして偽書が、かくも世の中に受け入れられたかを見事に解き明かしてくれた。
偽書をあたかも正史のように受け入れさせた歴史家の責任は重いが、それを町おこしや、教育に利用するのを許した行政の怠慢と責任が一番おもい。特に偽書であることが分かってからも、教育上の効果のために利用したのは言語道断。教育者を続けて良いのだろうか。良心を問いたい。 -
「消えた名画を探して」「ピカソになりきった男」と偽作ものを読んだあとに、「日本最大級の偽文書」というキャッチコピーを見かけたので、これは読むしかない。
江戸時代後期に椿井政隆が作成した偽文書の研究本。芋づる式に偽文書の証拠が示されていくさまは謎解きのよう。
それにしても、偽作をつくるというのは、ものすごくクリエイティブ。模写するのではなく、文書自体ひいては文書が存在する背景の歴史自体をうみだしている。趣味もかねていたのではないかと著者は推測しているけど、ここまで大量の文書群を生み出す原動力はなんだろうか。 -
一言でいうならば「根が深い」。
作成者である椿井本人の巧妙かつ膨大な偽史料作成、それをさまざまな理由で「是」とした同時代や後世の人々、専門外であるや己の主張や単に気づかないという状態でこれを引用する研究者、地域振興になるから…利益になるからと無批判に利用する自治体。
幾つもの線が絡み合って、今まで「真」として伝わった一連の文書は、これはこれで興味深すぎる事例ではあるけれど、解きほぐすには時間がかかる…。
筆者が何度か述べているように「批判からはなんの利益も生まれない」。「東日流外~」事件でも、限られた研究者人生を偽物の追及にあてるのは割に合わないといわれたが…。
根が深いなぁ。
椿井文書に比べれば「東日流外~」事件がお粗末なコントに見える。
椿井氏が和田某の制作風景を見たらなんと言うだろう?
「ツメが甘いな、もっと史料と付き合わせてリアルにしないと、整合性を持たせて、分量も増やさないと…」と苦笑してそうだ。
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すべての京田辺市民は読むべき一冊。
自分の街の歴史を知っておきたいと思うことはないだろうか。簡単にまとめてある冊子を手に取っても良い。官公庁発行のパンフレットに目を通すだけでもおもしろい。でもやはり、本格的に知りたければしっかり編纂された分厚いハードカバーの「市史」や「町史」で学びたい。ーーでは、そのすべてが【偽文書】に基づいて編纂されていたら?
以前から本書の存在は知っていましたが読んだことはなく詳しい内容も知りませんでした。しかし京田辺市の歴史を学びたく思い、『京都府田辺町史』を読もうと心意気高くページをめくり、わずか19ページ目に悪名高い「椿井文書」からの引用が現れた際、読まねばと心に誓いました。わかったことは、田辺という町は椿井政隆の手のひらの上で砂の城を築いてしまったのだということ。
偽文書の実像を紐解き歴史研究の実情を暴いた本書、偽文書を受け入れてきた側の立場で読むとあまりに切なくておもしろい。 -
19世紀に椿井政隆によって偽作られた古文書や絵地図等の数々。制作の経緯や範囲を丹念に追い、正史や現代社会へに波及に警鐘を鳴らす。
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とても興味深い本でした。
椿井文書(つばいもんじょ)と呼ばれる一連の疑文書の全貌とそれが真正な文書として一部利用されてきた過去を明らかにする中で、歴史学の在り方、偽史、偽書との向き合い方に及ぶ思索の書です。