新種の発見-見つけ、名づけ、系統づける動物分類学 (中公新書 2589)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121025890

作品紹介・あらすじ

新種発見! と聞くと滅多にない大ニュースとの印象を受けるが、地球上にはまだ数百万種以上もの未知種がいるとされ、誰もが新種に出会える可能性がある。本書は新種発見――生物(種)に新しい名前を与え、適切なカテゴリーに振り分ける――に日々取り組む動物分類学の入門書である。生物分類・命名法の基本から採集の楽しみ、論文発表の苦労と喜び、今後の動物分類学の可能性まで。生物の多様性とおもしろさを知る方法を伝授。

感想・レビュー・書評

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  • 動物分類学の専門家が、その仕事を紹介した本。動物分類学の学者は、地球上に存在する動物を体系的に分類することが仕事であるが、動物がどのように分類分けされているのか、その体系や名前の付け方など、その方法を新種の発見時を例に詳しく述べている。日本でおなじみのサザエは、最近になって正確な名前が付けられられた(系統付けられた)などのトピックスも盛り込まれており、興味深かった。

    「新種の発見は、実はさほど珍しいものではない。この地球はまだ見ぬ新種に満ち溢れている」pi
    「新種が発見されるペースは一向に落ちる気配がない。このことから導き出される事実は2つである。1つは、生物が、私たちの思っている以上に多様であること。そしてもう1つは、生物を命名する学問分野がいたって人手不足であるということである」pii
    「この研究話には、重要なことを2つ含めたつもりだ。1つは、私が最初にその新種の標本を発見したときに、それが新種であると全く気付かなかったこと、そして2つ目は、私が新種を認識してから発表するまでに、丸々2年がかかっていることである」p8
    「学名は、英語でもフランス語でもなく、全てラテン語で表記するように定められている」p20
    「生物学的には、太陽光のほとんどが届かなくなる200m以深を深海と呼ぶが、海洋でこの深海域の占める割合は、その海底面積で92%、体積では99%に及ぶ。意外なことに、地球環境のなかでは我々人類にとってアクセスが非常に難しい深海域が、地球の生命圏の過半数を占めている」p36
    「ノーベル賞学者 本庶佑「『nature』や『Sciense』に出ているものの9割は嘘で、10年経ったら残って1割」」p88
    「身近な問題で解決できないからと諦めるのではなく、歯を食いしばり、どんなに古い文献であろうが収集し、言語にかかわらず目を通し、あちこち駆けずり回って標本の収集を行えるかどうかが、分類学の1つの分水嶺だ。諦めずに、古今東西の文献収集と標本観察を継続していれば、突然目の前の生物の特徴が、名前が、スッと理解できるようになる瞬間が訪れる。これは私の実体験や、いろいろな分類学者に話を聞いた経験に基づくが、分類学の入り口でもがきつづけた者には、なぜかこのような臨界点を突破する瞬間が訪れるのだ」p153

  • 新種を発見したときのお作法が丁寧に解説されており、いずれ私も新種と思しき生物を発見したら…なんてことは起きないと思うけど、万が一に備えて、気になっている分類群について文献を集めるところから始めてみようかしら。
    もっと若い頃にこういう学問の存在を知っていたら、専門的に学んでみたかったな。

  • [鹿大図書館・冊子体所蔵はコチラ]
    https://catalog.lib.kagoshima-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB30261875

  • 【書誌情報】
    新種の発見 見つけ、名づけ、系統づける動物分類学
    著者:岡西政典
    初版刊行日:2020/4/21
    判型:新書判
    ページ数:264ページ
    定価:本体860円(税別)
    ISBN:978-4-12-102589-0
    NDC:481

    現在、地球上で名前が付けられている生物は約一八〇万種。だが、まだ数百万から数千万以上もの未知種がいると言われていて、誰でも新種に出会う可能性がある。採集の楽しみから、新種を新種と見抜く方法、動物分類・命名の基本、新種として公式に認められるための論文発表の苦労まで。「珍しい生物」好きが高じて深海生物テヅルモヅルの研究者となり、実際に新種を発見してきた著者が綴る、動物分類学への招待。
    https://www.chuko.co.jp/shinsho/2020/04/102589.html

    【簡易目次】
    口絵(2頁) [/]
    まえがき [i-iv]
    目次 [v-viii]

    第1章 学名はころころ変わる?――生物の名前を安定させる学問、分類学 003
    1 新種発表の地道な作業 004
    2 生物を分け、名前を付ける基礎的な学問 012
    3 生物に名前を付ける意味は? 026

    第2章 地球の果てまで生物を追い求める――陸か、海か 033
    1 どちらの生物が多い? 035
    2 陸の動物を採集する 054
    3 海の動物を採集する 064
    4 最後に。安全とマナーには十分注意しよう 083

    第3章 分類学の花形、新種の発見 091
    1 深海は新種の宝庫――謎の生物テヅルモヅル 093
    2 身近な秘境「海底洞窟」の洞窟性甲殻類 098
    3 砂の隙間に潜む小さきクマムシと動吻動物 107
    4 「コスモポリタン」は一種ではない? 117
    5 東京大学三崎臨海実験所――明治から続く新種発見の拠点 128

    第4章 命名――学問の世界への位置付け 145
    1 古今東西の文献・標本調査 146
    2 国際動物命名規約 155
    3 キイロショウジョウバエと動物命名法国際審議会 176
    4 歴史に埋もれた新種――誰も知らなかったサザエの学名 180

    第5章 これからの分類学 189
    1 生物の数と分類学者の数 191
    2 情報化によって生まれる「新しい分類学」 198
    3 分類学の広がり――他分野とのコラボレーション 207
    4 「市民サイエンス」という新たな科学の形 221
    5 分類学の終着点 229

    あとがき――あなたが「新種」を見つけたら 231
    巻末付録 記載論文の例 [239-244]
    参考文献 [245-252]

    Column
    ラテン語とは――学名のはなし① 024
    なぜ多様性が重要なのか 030
    名は体を表す、ムカデの場合――学名のはなし② 062
    分類学は主観的? 087
    よくある命名、神様の名前を付ける――学名のはなし③ 114
    本当に「レア」な動物とは? 140
    化石のニンジャタートルズ――学名のはなし④ 174
    長い長いウニの学名――学名のはなし⑤ 178
    さまざまな種小名の文法パターン――学名のはなし⑥ 185

  • 地球上にはまだ数百万種以上もの未知種がいるとされ、誰もが新種に出会える可能性がある。生物の多様性とおもしろさを知る方法を伝授

  • 学術系クラウドファンディング academist

  • (ヒトデに似ている)クモヒトデの仲間テヅルモヅルの研究者による動物分類学解説書。ちゃんとサブタイトルに「見つけ、名づけ、系統づける動物分類学」とあるのに、私は本を読み終えるまで「植物が入ってないなー」などと変な違和感を感じ続けていたのでしたorz
    書店で立ち読みした時にはテヅルモヅル関連しか載っていないような印象を受けたのですが、実際に読んでみるとそんなことは全くありませんでした。リンネに始まる分類学の基礎、歴史、そして命名規則の紹介まで、分類学のことが素人の私にも見えてくるように解説された良書です。さらには、どうすれば分類学者になれるかも書かれています(第四章1節及びあとがき部分に)。
    ただし「ちょっと気持ち悪い動物の写真が載っていても大丈夫な人」しか読めないかも知れません(少ししか載ってませんけどね)。

    以下つまみ食い。
    ①ヒアリを元にして「リンネの階層式分類大系」を説明。ご存じのようにラテン語で命名。
    ドメイン:真核生物ドメイン(Eukarya)
    界 :動物界(Animalia)
    上門:
    門 :節足動物門(Arthropoda)
    亜門: 六脚亜門(Hexapoda)
    綱 :昆虫綱(Insecta)
    亜綱: 双丘亜綱(Dicondylia)
    下綱: 有翅下綱(Pterygota)
    節 : 膜翅節(Hymenopterida)
    上目:
    目 :ハチ目(膜翅目)(Hymenoptera)
    亜目: 細腰亜目(ハチ亜目)(Apocrita)
    上科: スズメバチ上科(Vespoidea)
    科 :アリ科(Formicidae)
    亜科: フタフシアリ亜科(Myrmicinae)
    族 :
    亜族:
    属 :トフシアリ属 Solenopsis
    亜属:
    種 :ヒアリ(Solenopsis invicta)
    亜種:
    なおヒアリを示す「種名」だけは二単語から記述されている(イタリックで表記するのは、決まりではなく印刷上の習わしだそうですが)。これが「リンネの階層式分類大系」のもう一つの特徴である「二語名法」だそうです。ヒアリ Solenopsis invicta ならば属名 Solenopsis と「種小名」invicta から構成されるわけですね。リンネ以前は、種小名1単語だけではなく、ながーい説明文(であり定義でもある)名前が付けられていたようです。しかしこれだと動物の定義がさらに細かくなると名前が変わってしまう。そこでリンネは名前を単なる記号にしてしまい、定義が変わったり細かくなったりしても、名前は変わらないようにした。これで名前が安定して、安心して生き物を指し示せるようになった、と。

    ②日本でとても有名な貝であるサザエに近年まで学名が与えられておらず、2017年になってようやく Turbo sazae が与えられた(つまり新種になった!)ことが(その経緯を含めて詳細に)書かれており、とても驚きました。詳しく知りたい方は第四章4節をお読みください(要約しようとしたら長すぎた)。もしくは岡山大学からのプレスリリースをご覧ください。
    「驚愕の新種! その名は「サザエ」 〜 250年にわたる壮大な伝言ゲーム 〜 - 国立大学法人 岡山大学
    https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id468.html

  • 東2法経図・6F開架:B1/5/2589/K

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著者プロフィール

1983年、高知県生まれ。東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻博士課程修了。博士(理学)。文部科学省教育関係共同利用拠点事業(京都大学瀬戸臨海実験所)研究員、茨城大学理学部助教、東京大学大学院理学系研究科附属臨海実験所(三崎臨海実験所)特任助教などを経て、2022年4月より広島修道大学人間環境学部助教。著書に『深海生物テヅルモヅルの謎を追え!』(東海大学出版部)、『新種の発見』(中公新書)など。日本動物学会論文賞・藤井賞・奨励賞、日本動物分類学会奨励賞、科学技術文部科学大臣表彰(科学技術分野)若手科学者賞などを受賞。北海道大学理学部在学時に分類学に出会い、様々な未知の動物を求めてフィールドを駆け巡る。



「2022年 『生物を分けると世界が分かる 分類すると見えてくる、生物進化と地球の変遷』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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