白人ナショナリズム-アメリカを揺るがす「文化的反動」 (中公新書 2591)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (212ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121025913

作品紹介・あらすじ

近年アメリカでは、黒人やヒスパニック系など非白人の人口増加・権利拡大に対して危機感を募らせる白人が少なくない。だが、「人種差別主義者」というレッテルを恐れて意見の表明も憚られるのが実情で、「人種」間の緊張は殺人事件やヘイト団体の衝突など過激な形で現れることが多い。社会の閉塞感が強まるなか、民族・文化の多様性が大きな魅力だった移民大国アメリカはどこへ行くのか。各地の草の根の運動を調査・報告する。「もし日本に外国人が数百万単位で入ってきたら? それに違和感を表明したときに『日本人至上主義者』『人種差別主義者』と批判されたら?」――ある白人ナショナリストが著者に投げかけた問いは、外国人労働者の受け入れを拡大するという日本の私たちにとっても他人事ではない。

感想・レビュー・書評

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  • ナショナリズムはグローバル化する世界への反動なんだろうけど、文化的同一性の高い日本人が批判するのは簡単よね

    アメリカは大変だろうと思う。コロナ禍によってグローバリズムとナショナリズムの関係はどうなっていくのか

  • 自由主義の盟主である合衆国が反動思想に揺れている。トランプ政権支持の有無に関らず、白人至上主義と自国第一主義が結び付いた “白人ナショナリズム”の現地からの報告書。▷米国の白人ナショナリズムの起源は、先住民(インディアン)の制圧の理論(先住民は生物学的かつ文化的に白人より下等である故、自分たちの支配下に入ることが幸福であるという優越主義的発想)にあり、今日も消えていない。▷「私は人種差別主義者ではない。白人として、ごく当たり前の権利を主張しているだけです」(元kkk幹部)▷社会の分断が顕著に・・・。

  • 渡辺靖(1967年~)氏は、上智大外国語学部卒、ハーバード大学大学院博士の、国際政治学者。慶大SFC教授。専門は現代アメリカ研究。
    本書は本年5月25日に発行され、著者は本書を著した動機を、「異形のトランプ政権、そして米国の今後を理解するうえで、「白人ナショナリズム」の問題は避けて通れないと思った」と書いているのだが、まさにその出版当日に、ミネアポリス近郊で黒人のジョージ・フロイド氏が白人警察官4人に殺される事件が発生し、「Black Lives Matter」をスローガンとした人種差別に抗議する動きが、瞬く間に全米・全世界に広がった。
    私はもともと、近年欧米で拡大している右傾化、自国第一主義、人種差別の流れに強い危機感を持っているのだが、こうした問題についての米国の現状を知る目的で本書を手に取り、大きく以下のような理解を得た。
    ◆白人ナショナリストといわれる団体・集団は、KKK、オルトライト(新極右)、ペイリオコン(「黄金の50年代」と称される第二次大戦直後の米国社会を理想とする集団)、米国自由党など多様であり、それぞれの主張・立場は必ずしも同じではない。
    ◆白人ナショナリストにとっては、オバマ氏が米国史上初の黒人大統領になったこと、学校や職場でアファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)が続いていること、南北戦争の英雄の銅像などを撤去する動きが広がっていること、女性の社会参加が進み、LGBTへの寛容度が高まっていることなどは、白人であることの否定(彼らに言わせれば、侵略・虐殺・乗っ取り)に映り、「「多様性」は白人大虐殺の隠語だ(Diversity is a Code Word for White Genocide.)」のようなスローガンが生まれる。
    ◆白人ナショナリストの多くは、「人種」について、現代世界において主流となっている、人種概念は「所与」ではなく「構築」されたものと考える「社会構築主義」ではなく、人種間には遺伝子によって規定され、継承される明確な差異があると考える「人種現実主義」の立場であり、人種ごとに能力や社会の作り方に違いがある以上、人種に固執することよりも、むしろ人種の違いに目をつぶることこそ「人種差別」だと考える。「反人種差別主義者は反白人の隠語だ(Anti-Racist is a Code Word for Anti-White.)」というスローガンもある。
    ◆1971年に作られた「ノーラン・チャート」によると、現代の政治的思想は「個人の自由」と「経済的自由」の2軸のマトリックスで捉えられる。現在の多くの民主国家の考え方は、「保守」(共和党)と「リベラル」(民主党)に区分され、「保守」は、個人の自由は軽視(キリスト教的価値観重視など)/経済的自由は重視(グローバリズム礼讃など)、「リベラル」は、個人の自由は重視(LGBT賛成など)/経済的自由は軽視(国民皆保険賛成など)である。しかし、実際には、個人の自由も経済的自由も重視する「リバタリアン」と、双方とも軽視する「権威主義」という考え方が存在し、両者は、正反対の考え方でありつつ、二大政党制は「ポリティカル・コレクトネス」(政治的タテマエ)に支配されていると考えている。白人ナショナリストは、上記マトリックスの「権威主義」に含まれる(権威主義者は、共同体主義者、ナショナリスト、ポピュリストなどとも称される)。
    読了してなおというか、やはりというか、この問題は難しい。
    人種間における遺伝子による差異は、確かにあるのかも知れない(身体能力にはほぼ間違いなくある)。また、同質性の高い社会の方が居心地はいいのも事実かも知れない。しかし、現実の世界には、人種に限らず、民族、宗教、ジェンダー等に差異のある人びとが暮らしているのだ。とすれば、差異のある集団が共存する道を探る以外に方法はない。トライバリズム(人種・民族・宗教・ジェンダーなどの差異に沿って、各自が自分の属する集団に閉じこもること)を能動的に打破していく以外、未来を拓くことはできないのだ。
    BLMの運動が世界に広がる今こそ、読んでおきたい一冊と思う。
    (2020年7月了)

  • 「彼らと同じ言い分」を、最近、日本でもほんとうに多く見聞きする。トランプ大統領の誕生とヘイト犯罪の増加の関連性は、安倍政権の存在が引き起こしている数々の事態と決して無関係とは言えない。読んでいて、そんな薄気味悪い感覚に襲われた。白人ナショナリストの「人種思考の強さ」を指摘した第4章は、人種の本質を考える上で必読!

  • 白人ナショナリズムとは、白人至上主義と自国第一主義が結び付いた反動思想である。
    反多文化主義である一方、軍備拡張や対外関与、グローバル資本主義は否定している。
    アメリカはどこへ向かおうとしているのか、考えさせられる。

  •  アメリカ(さらにヨーロッパ)では、保守とリベラルを超え、またリバタリアニズムと権威主義とが複雑に絡み合って、白人至上主義が台頭している現状と、その社会的・文化的な背景が実地研究を踏まえてわかりやすく解説されている。
     白人ナショナリストは、自らの民族・文化的なアイデンティティがリベラルな多文化主義、国際協調主義によって脅かされていて、むしろ自分たちこそ「被害者」であると考えている。この点に、問題の根深さがある。このことがよくわかった。
     文化的に同質性のある日本人には理解しづらいが、今後、外国人の入国・在留が増えてくる中で、日本人はなお多文化・多様性の尊重を唱えることができるのか。これを鋭く突きつける一冊。
     本書は2020年コロナ感染拡大の直後に書かれているが、コロナ禍によって、米国ではグローバリズムよりもナショナリズム、国際協調よりも自国第一主義の助長が予想される旨を示唆している。これは見事に当たってしまったと言わざるをえない。もっとも、この予想は、アメリカだけではなく、ヨーロッパ、さらにもはや日本にも妥当してしまっているような気もする。

  • アメリカのいろんな事がよくわかった

  • もう少し概論が知りたかった。

    詳細な登場人物の記載は多いが、文章が固く、読みづらかった。

  • 「白人ナショナリズム」が、欧米で広がりつつある。白人至上主義と自国第一主義が結びつき、ネオナチや極右など、様々な勢力が連なる、この反動思想の動向を報告した書籍。

    現在、米国において白人至上主義の指導者的存在とされるのは、雑誌『アメリカン・ルネサンス』主宰者のジャレド・テイラーである。彼の支持者は、自分たちはリベラルな社会秩序の「犠牲者」だという意識が強い。

    白人ナショナリストの政党として「米国自由党」(AFP)がある。「米国人を第一に」をモットーに、「自由、主権、アイデンティティ、伝統」を重視する。その考え方は、トランプ大統領が掲げる「米国第一主義」に近い。

    近年、欧州で極右・右派勢力が台頭している。これらの勢力は、自国第一主義やグローバリズムへの反発などを共有しており、米国と欧州で互いに共鳴し合う関係にある。

    白人ナショナリズムの拡大に伴い、極右の過激派によるヘイト犯罪やテロが増えている。これまでのテロ対策はイスラム過激派に偏重していたが、今後は白人ナショナリストによる過激主義の脅威が安全保障の重要な課題になってくる。

    米国では、白人人口が減るにつれ、白人ナショナリズムが増大している。今後、白人が過半数を割り込むとされる2040年代半ばに向け、さらなる過激化の可能性がある。

    白人ナショナリズムの隆盛は「米国の分裂」を招く。昨今の米国社会は、トライバリズム(政治的部族主義)の様相が濃い。特定の部族=支持基盤の利益だけ重んじ、抗う部族を敵視する。他の民主主義国家でも世論の分断は進み、人権、多文化主義などに基づくリベラルな国際秩序が揺らいでいる。

  • Black Lives Matter 運動が起こるきっかけになった白人警官による黒人男性の射殺事件。
    それまでも同様の事件が頻発し、とうとうこの運動が大きな波となった時、まだ運動の根底にある問題やアメリカの実情は全く知らなかった。漠然とイメージにあったのは、人種差別、反移民、白人至上主義、白人ナショナリスト=暴力的な集団。。

    この”白人ナショナリスト”について当初は暴力的で理解しがたい別世界の人たちだと思っていたのに、読み進めるうちに理解できることが多くて驚いた。

    アメリカの人口の大半を占め、アメリカの礎を築いてきた白人は、今や移民の流入等により米国に占める割合がどんどん減っている。そして、これに対して、自国を乗っ取られたくないという思いがある人たちがいる。。白人ナショナリストの人にとって日本は、同質性の高い社会として尊敬されているとのこと。
    もし日本で移民や外国人労働者の受け入れが大幅に増加した時、自分はどんな考えを持つだろう?コロナ前に訪れた観光地が、中国からの観光客で溢れていた時、マナーの違い等から少なからず不快な気持ちがあった。また道ですれ違う外国人労働者に対するちょっと距離をおいてしてしまう気持ち。。

    勿論、暴力を擁護することは決してないけど、白人ナショナリストの人たちの考えを自分も持つ可能性は大いにある。本当は、そもそも人種や出身国で人を見ずに個人として捉えなければいけないのかもしれない。。

    とにかく、この本を読んで、遠いアメリカの出来事だと思っていた問題が日本でも起こりうる問題として自分ごとで捉えられました。

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著者プロフィール

渡辺靖

慶應義塾大学SFC教授。1967年(昭和42年)、札幌市に生まれる。97年ハーバード大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。オクスフォード大学シニア・アソシエート、ケンブリッジ大学フェローなどを経て、99年より慶應義塾大学SFC助教授、2005年より現職。専攻、アメリカ研究、文化政策論。2004年度日本学士院学術奨励賞受賞。著書に『アフター・アメリカ』(サントリー学芸賞・アメリカ学会清水博賞受賞)、『アメリカン・コミュニティ』『アメリカン・センター』『アメリカン・デモクラシーの逆説』『文化と外交』『アメリカのジレンマ』『沈まぬアメリカ』『〈文化〉を捉え直す』など。

「2020年 『白人ナショナリズム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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