リベラルとは何か-17世紀の自由主義から現代日本まで (中公新書 2621)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121026217

作品紹介・あらすじ

「すべての個人が自由に生き方を選択できるよう国家が支援するべきだ」と考えるリベラル。17世紀西ヨーロッパの自由主義を出発点として、第二次世界大戦後は先進国に共通する立場となった。しかし、1970年代以降は新自由主義や排外主義による挑戦を受け、苦境に陥っている。はたしてリベラルは生き残れるのか。具体的な政策を交えつつ、歴史的な変遷と現代の可能性を論じ、日本でリベラルが確立しない要因にも迫る。

感想・レビュー・書評

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  • 田中拓道(1971年~)氏は、国際基督教大学教養学部卒、北海道大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学、新潟大学法学部准教授などを経て、現在一橋大学大学院社会学研究科教授。専門は比較政治経済学、福祉国家論、政治理論。
    本書は、「リベラル」と呼ばれる政治的思想について、その歴史を踏まえて、今後どのような可能性を持つのかを検討したものである。
    私は、今般米国の大統領選挙で民主党のバイデン氏が勝利したことにより、米国(人)がギリギリのところで良識を示したと思っているが、過去10年程の世界に見る「リベラル」の退潮には大きな危機感を抱いており、その可能性を探るべく本書を手に取った。(最近では、萱野稔人『リベラリズムの終わり』なども読んだ)
    本書のポイントは概ね以下である。
    ◆現代のリベラルとは、「価値の多元性を前提として、すべての個人が自分の生き方を自由に選択でき、人生の目標を自由に追求できる機会を保障するために、国家が一定の再配分を行うべきだと考える政治的思想を立場」を指す。
    ◆リベラルは歴史的に、①19世紀末から20世紀初めにかけて、経済的自由主義(古典的自由主義)を修正し、個人の能力の発展と自由な生き方を保障するために、国家が幅広い分配を行うべきだとする思想(リベラル)が登場した、②1970年代、経済成長と産業構造の変化によって都市部に中産階級が増大すると、価値の多様性を重視する、文化的価値観に基づくリベラルが登場した、③1990年代以降、文化的価値観に加えて、グローバル化の進展に伴い、個々人の抱える多様なリスク(新しい社会的リスク)に合わせたきめ細かな財とサービスの分配を国家に求めるように、リベラルが変容した、という凡そ三段階を経て今日の形になった。
    ◆「現代リベラル」は「リベラル(個人重視)+国家中心」という価値観を持ち、「保守(共同体重視)+市場中心」の「ワークフェア競争国家」、「保守(共同体重視)+国家中心」の「排外主義ポピュリズム」と対抗関係にある。(この説明では、ノーランチャートに似たマトリクスが使われている)
    ◆現代リベラルが政治的な力を持つためには、リベラルな価値観を持つインサイダー(安定した正規労働者)と、「新しい社会的リスク」に晒されたアウトサイダー(不安定な非正規労働者)の間に、政治的な連携を作る必要がある。
    ◆今後も、産業構造の変化、働き方の多様化、家族の多様化、(日本に住む人の)民族や宗教の多様化が続いていく中で、価値観が多様化し、個々人の抱えるリスクが益々個別化していくことは間違いない。そして、そのときに大切になるのは、排外的な民族意識や復古的なナショナリズムではなく、国家が、あらゆる個人の価値観やライフスタイルの自由な選択を保障する環境・制度を整備することでしかありえない。リベラルは今も模索の途上にあるが、その可能性が見出せるのではないか。
    「自由」と「平等」はある意味相反する概念と言えるが、人間にとって最も大切な「個人が尊厳を持っている」というのは、その二つがバランスをとって実現されている状態にほかならない。ある著名な某大学学長は、「保守」とは、人間はこれ以上賢くなることはできず、よって現状のままでよいとする考え方で、「革新」とは、人間は更に賢くなることができ、よって現状よりも改善をめざす考え方であると言うが、それに基づくなら、人間はもっと賢くなれるし、「自由と平等」がより良く両立した世界が実現できるはずである。
    リベラルの可能性について、考えさせてくれる一冊と思う。
    (2021年1月了)

  • 6章のまとめがすごくよくできている。経緯を丁寧に追いかけるのはちょっとくたびれるが、必要なんだろう。わかったようなわからんような感は残っている。でもそれなりに理解は進んだか。私、リベラルではなさそうだ。

  • 田中拓道『リベラルとは何か』読了。
    リベラルな価値観に基づいてマイノリティ支援の政策を拡大するほどに"リベラル"であった大衆が自身が受益できないことで不満を募らせ離れていくという「リベラルのジレンマ」は日本はそれ以前という感じもあるけどまさに困難であるなと。そして、社会福祉制度の受給対象を細かく分断すればするほど、受給者への世論の反感は高まるってのは日本における生活保護叩きや行政の水際作戦、コロナ対策の事業者や子育て世帯への給付金のあれこれを思い返しても日本の現在進行系の問題なんだよな、と。
    しかしながら、いまや日本もそうだけど新自由主義的政策をとった国家はいまやワークフェア(社会福祉を提供する代わりに徹底して労働させる)国家に向かってるってのは経団連が牛耳ってる以上そうなってしまうよなと。われわれはいつまで都合のよい駒であり続けるのか。

  • 現代のリベラルは「すべての個人ご自由に生き方を選択できるよう国家が一定の再分配を行うべき」と著者。大きな政府は新自由主義、リバタリアンから攻勢を受けグローバル化、民主主義を体制原理として認めない中国の台頭で厳しい状況。労働環境変化により定形的業務労働者はポピュリズム化し知的労働インテリ層が支持者のリベラルに明日はあるのか。

  • 田中拓道『リベラルとは何か』中公新書 読了。現代においてもその可能性はあるのか。思想的内容や歴史的変遷をコンパクトにまとめた上で、どんな政策を掲げるか、どんな立場の人々から支持されるかを結びつけて検証していく。印象的だったのは、積極的差別是正措置が排外主義を生みやすいという指摘。

  • リベラルがどのように形成され、どのような挑戦を受けてきたかを知ることが出来た。
    日本はやっぱりリベラルの歴史が浅いね。


    アメリカのリベラルとヨーロッパのリベラル 大きな政府 小さな政府
    完成へと向かう存在としての人間 ミル

    17世紀 古典的自由主義 ロック 「統治二法」自然権 アダム・スミス 「国富論」

    19世紀~20世紀 自由主義からリベラルへ 幅広い分配 振興中産階級 リベラルコンセンサス 戦後 ケインズ主義的福祉国家 マクロ経済政策 ニューディール

    1970 文化的的リベラル 脱物質主義的価値観 権利運動 学生運動 自由の両義性 担い手の不足
    1980 第三次産業 ネオリベ 新自由主義 フリードマン 「隷属への道」 個人に平等な機会を マネタリズム サッチャー レーガン 歳出削減 金融転換 ウィンブルドン現象 トリクルダウン

    リベラル リバタリアニズム リベラル 保守 工場 事務労働者 専門職 再分配 市場

    1990 グローバル化 ギグエコノミー インサイダー アウトサイダー 新しい社会的リスク
    ワークフェア競争国家 人への投資 底辺への競走
    現代リベラル ロールズ 「正義論」 無知のベール 機会均等 格差原理 事前の分配 基本財 運の平等
    EU戦略 マタイ効果

    2000 排外主義ポピュリスト グローバル化福祉排外主義 リベラルのジレンマ 福祉制度の選別性 福祉の寛大さと排外主義 普遍主義的アプローチ インサイダーとアウトサイダーの分断の縮小

    日本のリベラル 天賦人権 自由主義伝統弱い 1980 仕切られた生活保障 公的支出最低 日本型福祉社会 企業と伝統集団 90年代 バブル崩壊 格差社会 90年代後半 リベラルの使われ方 民主党 コンクリートからヒトへ 離散集合 安倍晋三 ワークフェア
    財政赤字 高齢化 新しい社会的リスク 格差の固定

  • 分かりやすい。
    個人的にモヤッとしてた部分がスッキリした。
    日本にリベラル政党は無い。

  • 20世紀以前は古典的な自由主義、いわゆる自由放任主義が主流であったが、20世紀初頭にリベラルへ転換した。戦後は経営者と労働者の間の合意(リベラルコンセンサス)を念頭に置いた政策が広く行われた。
    その後、経済の停滞によってリベラルコンセンサスやケインズ主義的な福祉国家は崩壊し、かつての古典的な自由主義とは異なる新自由主義といわれる政治的イデオロギーが隆盛した。イギリスのサッチャーやアメリカのレーガンが新自由主義的な政策を積極的に導入していった。
    しかし、新自由主義が掲げる理念と実際の政策との間ではギャップがあった。また、同時期には文化的リベラルを掲げる新たな社会運動も生まれたが、担い手不足によって伸長するまでには至らなかった。
    1990年代までには新自由主義的改革やグローバル化による産業構造の大幅な変化は富裕層と貧困層間の経済的格差の拡大をもたらし、人々の間に不信感が醸成されていった。これに対応するために、国家が国民の就労を実質的に促進し、国家間の市場競走において有利な立場に立つことを目指すワークフェア競争国家(work+welfare)が先進国を中心に根付いた。さらに、近年では既成政党の腐敗を指摘し、反移民を訴える右派ポピュリズム政党が伸長している。
    現代リベラルにとってこうした傾向は驚異であり、リベラルな価値観を政策に組み込むことが困難になりつつある。言語の壁を乗り越えるための文化的な統合は除いた雇用や福祉の分野において、多元性を重視するリベラルな多文化主義的政策は、移民と自国生まれの人々を選別しない普遍主義をとるべきである。そうすることでリベラル政党を支持する層が増加し、排外主義に対抗することができるようになる。

    以上の欧米の動向に対して、戦後の日本においてはそもそもリベラルを掲げる政治勢力の地盤が弱く、保守政党が広く支持を獲得してきた。それゆえ、日本でリベラルな政策を推進していくためには支持層を刷新する必要がある。具体的には、リベラルな価値観をもつインサイダーと新しい社会的リスクにさらされたアウトサイダーとの間に連携を築くべきである。

    内容は少々難解であったが、その都度要点をまとめて下さっているのでありがたい。
    欧米におけるリベラルの捉え方と日本におけるものとでは、それらの歴史的経緯は大きく異なっていた。しかしながら、欧米や日本のどちらにおいても近年ワークフェア競争国家やポピュリズムが興隆していることから、現代のリベラルな価値観を社会生活に導入していくためには工夫が必要なことには変わりないことが分かった。

    ※2回通読した。

  • 1年前に発刊された本であるが、基本的なところを指摘しているのでこれからますます読まれていくことであろう。
     最後に日本についてのリベラルが書かれており、自由主義的伝統の弱さと1990年代以降の政治により、正規雇用と非正規雇用が分断され、政治への支持ではなく、極右と極左による排外主義が台頭するとしている。
     そうした兆候はますます大きくなっている。
     リベラルとリベラリズムの違い、リベラルの変遷なども丁寧に書かれているので、リベラルという言葉を卒論で使うには欠かせない1冊であろう。

  • 個人の尊厳と自律、価値の多元性、法の支配がリベラルの中核をなすものだけど、長く日本ではリベラル=革新ととらえられてきた。そして政治の場では破れ続けている。
    でも政治手法としても、復権の道は残されていないだろうか? 現代社会を見渡すと真っ暗な気持ちになるけど。そしてこんなことを言うのは嫌いだけど、人は動物じゃないのだから。そんなに市場が大切だろうか? とはいえ好んで貧乏暮らしはしたくないしなぁ。豊かさの指標を物理的なものから変えるのは難しいよね。

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著者プロフィール

一橋大学教授

「2020年 『政治経済学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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