現代民主主義-指導者論から熟議、ポピュリズムまで (中公新書 2631)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (247ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121026316

作品紹介・あらすじ

二〇世紀から現在にいたるまで、多様化していくデモクラシーの潮流を捉える。指導者、競争、市民参加、熟議・闘技、現代思想、ケアなど多様な論点を通して、民主主義の現在地とこれからを展望する。

感想・レビュー・書評

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  • 【民主主義というフィクションのいろいろな説】

    学者、思想家の間で唱えられるたくさんの民主主義の在り方のについて、20世紀ごろからの主要な議論が紹介されている。

    あとがきに書かれている通り、包括的ではなく、指導者、選挙、参加型民主主義、などの主要な争点について、主だった政治学者に的を当てて、議論を比較しながら書かれていた。

    はじめの方で挙げられたポイントは、民主主義と自由主義は元から親和性があったわけではないということ。今では自由民主主義、みたいな形で良く語られるけれど、この違いは、カール・シュミットの同質性・同種性を強調する民主主義の特徴を通して紹介されていた。

    これに対立する考え方として、多数の指導者、相対主義を支持するケルゼン。

    選挙と市民の役割については、ヨーゼフ・シュンペーターなどを紹介。エリートの競争手段としての選挙。人民の支配は目的ではなく、政治家の支配で民主主義が成り立つ、という視点は、現代広く認識される民主主義とは少し違うなーと思った。

    民主主義について、制度的側面を強調し、理論化したロバート・ダールのポリアーキーも、同じくエリート主義的であり、市民の積極的な政治参加は特に必要とせず、定期的に選挙を通して意思表示する政治制度を民主主義とする。加えて、争点法を通した多元主義が実現されるとする。

    一方で発展してきたのが、市民の参加の価値を重視する、参加型民主主義。大衆の参加がどう政治の質を担保するかについて、ハンナ・アーレントなどの批判を含め、議論は続くものの、ぺイトマンの議論が紹介され、国レベルのみならず、地域社会、そして職場でも、民主的な参加の重要性を説く。この点では、コールのギルド社会主義、アソシエーション論も少し触れられている。

    そして、ハーバーマスの公共性論と熟議民主主義。政治とは、公的領域において、対等なもののあいだの自由なコミュニケーションとし、生活世界(社会文化システム)が、経済的な政策などで浸食される、植民地化される危機に警鐘を鳴らす。

    一方で、シャンタル・ムフの抗争的民主主義論は、合意を前提とする議論を批判し、政治的なものとは、経済的なものではなく、本質的に対立的とし、多元性を重視。シュミットの友・敵関係という政治の本質を基本とするものの、敵を自由民主主義の基本的理念を共有する対抗者、と置き換える。

    最後の章は、ポスト構築主義、ポスト民主主義などのジャック・デリダ、ランシェルなの議論をを紹介しつつ、ラクラウとムフのラディカル民主主義を続ける。ここで再度、ムフの議論が深められて、偶発性、意味の固定作用としての結節点、シニフィエとシニフィアン、これが社会的なものであること、政治を通して一時的に安定化させることで多元的な連帯が作られうること、これが対抗ヘゲモニー、ポピュリズムの議論につながっていった…

    大学時に勉強したことを思い出しつつ、私には完全に分かりえることはないと思うので、このような形でなんともざーっと。

    ジョアン・トロントのケアの倫理も、最後の方に紹介されていて、「個」が前提となっている民主主義論に一石を投じていて、少し個人的にギクッとし、この議論については大学時にはなかったので、また読んでみようと思います。



    理論・思想の話なので、全体的にはとても抽象的でときどき議論の方向性を見失っていたけれども、民主主義、という概念を介した壮大なファンタジーだなーと、養老先生の本を読んだ後だったので、もちろん自分たちのいる社会の話なのだけれども、傍観者並みの距離感でも考えてしまう。
    やっぱルソー凄いなー…。

  • 割と内容が難しかった。民主主義や政治理論・思想の基礎的な知識がないとところどころ厳しい。

    ただ興味深い点もいくつかあった。普段何気なく使っているような用語も、細かくみてみると自分が考えていた定義や意味合いも結構違っていたりする。

  • 山本圭『現代民主主義』中公新書 読了。20世紀以降の民主主義論を代表的な論者の議論から概観する。指導者を競争(選挙)によって選ぶ方法論的なシュンペーターの議論は魅力的なものだが、これは一つの思想に過ぎないと相対化してくれる。また現代思想の視座からの考察が斬新。スリリングな感じがする。

  • 20世紀以降の著名な論者による民主主義論について広く取り扱っている。本書の特徴は政治学とは異なる現代思想といわれる哲学的な学問を扱っており、それを用いて民主主義の本質を問い直そうと試みていることである(第5章)。また、他の書籍との違いは、それに加え、現代の多元主義の基礎となった経済学者ヨーゼフ・シュンペーターの民主主義論や20世紀後半から活発になった熟議民主主義と闘技民主主義に関する議論が詳細に記述されていることが挙げられる。

    シュンペーターの多元主義的な民主主義論はエリート主義的と批判されながらも、現代まで実務上受け継がれてきたものだといえる。彼の論理は非常に現実主義的で現代社会に適した形態である。しかし、エリート主義であることが災いして、ポピュリズムの台頭を招いてしまったことも事実である。多元的な民主主義を存続させるために私たちに何ができるか、それを考える上で本書は重要な知見を提供してくれる。個人的に現代思想(5章)は抽象的な記述が多くて難解であった。

  • ウェーバーから近時のポピュリズム、ケアまで幅広く取り扱います.各思想家の紹介の際は当時の政治を取り巻く状況から解説.また、理論同士の関係も丁寧.シュンペーターの理論に対する参加民主主義論の批判の流れは勉強になりました.さらに、デリダら現代思想も扱ってくれるので助かります.

  • 民主主義論の潮流を勉強するのに、良い作品。

    闘技民主主義、熟議民主主義の違いと議論の流れ。
    リベラリズムが独占していた民主主義に対してケア理論からの批判(リベラリズムが詰まるところ、自己を律すことができる完璧な人間が民主主義に参加できると言う)

    シティズンシップについても、あまり批判を受けることなく賞賛されてきたイメージがあるが、そうでないこともようやくわかった。

  • シティズンシップ、とかステークホルダーとか、熟議とか言う名目で、ネイション(国民国家)を否定するような民主主義論がその筋にあふれていることを知って背筋がゾッとした。このようなネイション(国民国家)の否定と戦うためには、ポピュリズム的なモノは有効な武器になるなと再認識。

    ああ、「熟議」とか「討論が足せ論調さ」は変更した専門家が偏った情報を与える形で民主党政権が悪用してたな。

  • 20世紀以降の民主主義論について、指導者民主主義、競走型エリート主義、多元主義、参加民主主義、熟議と闘技、現代思想に至るまで、その理論と言説をコンパクトに解説

  • 最近読んだ本数冊に民主主義がキーワードとして出てきたので読んでみた。
    民主主義という言葉の曖昧さ、民主主義という枠の中での目標や良いとするものの移り変わりを知れてためになった。
    デモなど選挙以外の政治参加についての見方が変わる。
    理解はしきれてないので後でもう一回読みたい。

  • 政治学の視点から、20世紀以降の民主主義観の移り変わりがまとめられています。教育学が専攻である私にとっては、少々難解でした。政治学に関する背景知識があると、読みやすいと思います。
    また、この本から、民主主義の捉え方が多様であると気づけました。この多様な捉え方は、政治学だけではなく教育学(特に社会科教育学・シティズンシップ教育学)を専攻する人も知っていて損はないと思います。なぜなら、多様な捉え方を活用し、教育実践の内容・方法を分析することで、実践が目指すまたはもたらす社会の在り方まで考察可能になるからです。
    例えば、シティズンシップ教育にて行われる、選挙への投票率上昇を目的とした実践について。この実践の結果、投票率が上がることは一見良いように思えます。ですがシュンペーターの民主主義観から捉えた時に、子ども達が「民主主義=選挙」と学んでしまったら、結果的に「競争型エリート主義」の社会に近づく可能性が高いと分かります。
    シュンペーター以外にも、多くの20世紀以降の政治学者の民主主義観がまとまっています。彼ら彼女らの多様な民主主義観を習得・活用したい人にとって、この本はおすすめです。

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著者プロフィール

1981年、京都府に生まれる。立命館大学法学部准教授。専攻は、現代政治理論、民主主義論。名古屋大学・大学院国際言語文化研究科単位取得退学、博士(学術)。

著書に、『不審者のデモクラシー─ラクラウの政治思想』(岩波書店、2016年)、

共編著に、『政治において正しいとはどういうことか――ポスト基礎付け主義と規範の行方』(勁草書房、2019)、『〈つながり〉の現代思想─社会的紐帯をめぐる哲学・政治・精神分析』(明石書店、2018)、『ポスト代表制の政治学─デモクラシーの危機に抗して』(ナカニシヤ出版、2015)、

訳書に、シャンタル・ムフ『左派ポピュリズムのために』(共訳、明石書店、2019)、ヤニス・スタヴラカキス『ラカニアン・レフト─ラカン派精神分析と政治理論』(共訳、岩波書店、2017)、エルネスト・ラクラウ『現代革命の新たな考察』(法政大学出版局、2014)、などがある。

「2020年 『アンタゴニズムス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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