荘園-墾田永年私財法から応仁の乱まで (中公新書 2662)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (281ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121026620

作品紹介・あらすじ

農業経営と領地支配の仕組みとして、日本中世の政治・経済・社会の根幹をなした荘園制の全体像をわかりやすく解説する。

感想・レビュー・書評

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  • 奈良時代に始まり、以後、中世社会の根幹にあった荘園とは?
    その歴史を再構築、更に新しい研究を加味し、考察する。
    第一章 律令制と初期荘園  第二章 摂関政治と免田型荘園
    第三章 中世の胎動     第四章 院政と領域型荘園
    第五章 武家政権と荘園制  第六章 中世荘園の世界
    第七章 鎌倉後期の転換   第八章 南北朝・室町期の荘園制
    第九章 荘園制の動揺と解体
    終章 日本の荘園とは何だったのか
    参考文献、荘園索引有り。
    奈良時代の律令制と古代荘園、
    荘園について、成り立ちから変容、終焉までを詳細に解説。
    様々な史料を探っての濃密な記述で、読了まで時間がかかりました。
    でも、時代別に歴史関係の本を読むと、内容の違いから、
    出てくる荘園の記述は難易が異なり、他の時代との接点が
    分かり難かったけれど、こうして通史で詳しく辿ってくれると、
    荘園の歴史と全体像の理解が深まります。
    初期荘園、免田型荘園、領域型荘園・・・。
    中央の権力とな関わりが深い荘園の存在は、
    時代の変革、政変や戦乱にも大きく影響を及ぼし、
    変容、又は鎌倉時代のように安定する。
    だが、応仁の乱以後の災害や飢饉、守護の下国、
    国衆や惣村の形成等で、荘園制は崩れ、解体してゆく。
    気候変動での洪水と旱魃、大地震、飢饉、疫病等が、
    農業経営や開発、開墾、用水の確保等、荘園の在り方にも
    影響しているのが分かるし、中世社会での荘園での生活や
    信仰、農民の自由度と荘家の一揆や逃散、
    荘務、貨幣流通による経済についても、解説しています。
    現在でも、地名や耕地の形状等に、荘園の名残りがあるという
    ことには驚き。残された荘園絵図も参考になりました。

  •  日本史というと、荘園制研究が花形という時代がかつてあったものだが、マルクス主義的な捉え方に馴染めず敬して遠ざけていたので、良く理解できないままに来てしまった。
     しかし経済のことを考えると、荘園の問題は避けて通れない。荘園とは実際どのようなものだったのか、国司や公領との関係、本家・領家と現地との関係はどのようなものだったのか。武家の擡頭によってどのような変化があったのか。
     こうした様々な問題に対して、本書は荘園の実態を明らかにしてくれる。いくつかの専門用語が理解できないと、仕組みが分からないところもあるが、そこは正に勉強だ。
     古代から中世にかけての荘園の変容に、当時の気候状況が影響しているのではないかとする新たな研究動向も興味深かった。当時であれば、今以上に気温や降水量
    、自然災害の影響をダイレクトに受けたであろうし。

  • 荘園の成立(墾田永年私財法)からその解体(応仁の乱後)までの750年余を辿る通史。その変遷をわかりやすく解説するのは至難の業であろうが、本書はその点、非常に明快であった。

    とくに院政期における「領域型荘園」の領主権=本家—領家ー在地領主による三階層の支配体制としてとらえて説明し、この「領域型荘園」の成立を在地領主の開発と院政という新たな王権(中央権力)の介入との合作物としてとらえることで鎌倉期における荘園制が安定していった流れが把握しやすくなっていると思う。そこでは西欧の封建制と類似した性格を見て取ることができるのと同時に、中央権力との関わりにおける日本型の特徴も見いだすことができる。

    以上が第5章まで。第6章は鎌倉期に安定する荘園の農業生産力の発展、荘園における消費の様子、流通と貨幣経済の発展、人びとの生活(主として信仰)との関わりなどが多面的に描写されている。そして、第7章以降が鎌倉後期における荘園の変容から最後の解体までについて叙述されている。飢饉などの危機について最新の気候歴史学の成果も取り入れつつ叙述されているのは、本書の大きな特徴のひとつである。

    鎌倉後期から職の重層的な構造が崩れ一円化が進み、一円領では次第に領主から任命された名主に代わって土豪という独自の支配身分が成立、また荘園のなかの「村」が惣村として集合して領主からの自立をはたしていく。さらに国人領主は国衆へと変化、最後にはその国衆を束ねる戦国大名が成立していく。荘園の最終的な解体である。

    日本の農村風景は荘園によってその原型が形成された。今でもそうした歴史的景観を味わえる箇所もある。本書の最後ではそうした場所の紹介もされているので、機会を見つけて訪ねてみたい。

  • 荘園の成り立ちから解体までを歴史や気候変動を含めてわかり易く書いてあった。特に支配する特権階級の貴族、寺社や武士と農民らの関係も興味深かった。

  • 荘園は中央集権的な公務員的発想では否定的評価になるが、むしろ荘園には民間感覚があり、それは発展の原動力になるものであった。「荘園は国の役人から干渉を受けることなく自由に経営でき、その成果を子孫に伝えることができたので、農地開発や農業経営の進化が促された」(「はじめに」)。

    九世紀後半には農村が荒廃した。税を納められずに村落から逃亡し、戸籍から離れる農民が続出した。その中でも貧しい農民を使役して富裕になった農民が現れた。彼らは「力田の輩」と呼ばれた。

    菅原道真は冤罪で左遷されて亡くなり、怨霊になったと恐れられ、祀られた。この怨霊の鎮魂や慰霊は仏教主導で行われていた。北野天満宮は朝日寺(東向観音寺)の神宮寺であり、僧侶が別当職に任命されていた。「祭神も、天満大菩薩として観音菩薩の化身とされた」(158頁以下)。

    畠山重忠の領地があった埼玉県さいたま市桜区道場では建久年間に土の中から観音像が出た。これを過去に大伽藍があった時の本尊だったとして守護仏とし、持仏堂(道場)を建てた。これが金剛寺になる。金剛寺の境内には天満宮もあった。これが道場天満宮になった。

    鎌倉の最大の宗教施設の鶴岡八幡宮も寺であり、鶴岡八幡宮寺と称された。八幡神は八幡大菩薩となり、仏であった。源頼家の息子で出家した公暁が鶴岡八幡宮寺別当に就任したように僧侶が運営していた。これらは明治時代の神仏分離後に純粋な神社になった。

    天満宮は播磨国矢野荘にも存在した。矢野荘では領家と地頭が対立して、下地中分が行われた。下地中分は荘園を領家方と地頭方に分けることである。天満宮は地頭方に含まれたが、天満宮は双方の領域から侵攻を集めた。天満宮で行われる流鏑馬の費用は領家方が負担した。

    「下地中分はあくまで年貢・公事の収取や検断などの支配の面に限られ、荘民の生活には大きな影響はなかったようだ」(171頁)。領域として一体という感覚が持ち続けられたことは、地頭による荘園侵略は下地中分でも終わらず、続いていっただろう。

  • 記述が厚い。あとがきにもある通り、私にも一行一ページの後ろに何篇の論文があるかと思いをはせるように促すものがありつつ、淡々と解説されていく。新書ってこういうものだよね、と往年の岩波新書を思いながら読んだ。

  • 荘園は墾田永年私財法から750年続いた!!
    墾田永年私財法、租庸調、守護地頭、摂関政治、院政…訳も分からず覚えてた。

  • 荘園(中公新書)
    著作者:伊藤俊一
    発行者:中央公論新社
    タイムライン
    http://booklog.jp/timeline/users/collabo39698
    日本中世の政治・経済・社会の根幹をなした荘園制の全体像を分かりやすく解説。

  • ものすごく内容の濃い本。古代から中世まで天皇や公家・武士など支配層から見がちな日本史に、荘園という地味な事柄を通してリアルな時代の流れが頭に浮かんでくる。「この時代の農民は先祖代々の土地を守って定住していたのではなく、時々の国司や荘園領主の求めに従って点々と住まいと働き場所を変えた」とか目から鱗^^。源平合戦から、南北朝、室町時代へのよく知る歴史もからめているので意外と読みやすい。

  •  独特な土地制度である荘園に関してよくわかる。難読人名・地名や専門用語に関して、初出の時だけでなく、章改めた時などにも、ふりがなが振られていて、著者の配慮に好感が持てる。終章で全体の流れの振り返りがあり、大枠は確認できるが、やはり素人には難しい点も多く、再読は必須である。

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著者プロフィール

伊藤俊一税理士事務所代表・税理士
愛知県生まれ。愛知県立旭丘高校卒業、慶應義塾大学文学部入学。一橋大学大学院国際企業戦略研究科経営法務専攻修士、同博士課程満期退学。事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングについて累積数百件のスキーム立案実行、税理士・公認会計士・弁護士・司法書士等からの相談業務、会計事務所、税理士法人の顧問業務、租税法鑑定意見書、各種FAS 業務鑑定意見書作成等々を主力業務としている。
【主な著書】
非上場株式評価チェックシート(2023年)
新版 Q&A 非上場株式の評価と戦略的活用手法のすべて(2022年)
新版Q&A みなし贈与のすべて(2022年)
ほか
(以上、ロギカ書房)
税務署を納得させるエビデンス―決定的証拠の集め方―1 個人編
税務署を納得させるエビデンス―決定的証拠の集め方―2 法人編
税務署を納得させるエビデンス―決定的証拠の集め方―3 相続編
(2023年)(以上、ぎょうせい)

「2023年 『[Q&A] 同族法人をめぐる オーナー社長の貸付金・借入金 消去の税務』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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