歴史修正主義-ヒトラー賛美、ホロコースト否定論から法規制まで (中公新書, 2664)

著者 :
  • 中央公論新社
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本棚登録 : 560
感想 : 38
  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121026644

作品紹介・あらすじ

ナチによるユダヤ人虐殺といった史実について、意図的に歴史を書き替える歴史修正主義。フランスでは反ユダヤ主義者の表現、ドイツではナチ擁護として広まる。1980年代以降は、ホロコースト否定論が世界各地で噴出。独仏では法規制、英米ではアーヴィング裁判を始め司法で争われ、近年は共産主義の評価をめぐり東欧で拡大する。本書は、100年以上に及ぶ欧米の歴史修正主義の実態を追い、歴史とは何かを問う。

感想・レビュー・書評

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  • 『歴史修正主義 ヒトラー賛美、ホロコースト否定論から法規制まで』武井彩佳著(中公新書) 924円 : 書評 : 本よみうり堂 : エンタメ・文化 : ニュース : 読売新聞オンライン
    https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/review/20211122-OYT8T50047/

    『歴史修正主義――ヒトラー賛美、ホロコースト否定論から法規制まで』武井彩佳著 評者:山本浩司【新刊この一冊】|文化|中央公論.jp
    https://chuokoron.jp/culture/118602.html

    武井彩佳 – SYNODOS
    https://synodos.jp/expert/takeiayaka/

    歴史修正主義|新書|中央公論新社
    https://www.chuko.co.jp/shinsho/2021/10/102664.html

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      自賛や犠牲強調 国の対立再生産 [評] 野村進(ノンフィクションライター)
      <書評>歴史修正主義:北海道新聞 どうしん電子版
      https...
      自賛や犠牲強調 国の対立再生産 [評] 野村進(ノンフィクションライター)
      <書評>歴史修正主義:北海道新聞 どうしん電子版
      https://www.hokkaido-np.co.jp/article/634151?rct=s_books
      2022/01/17
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「歴史修正主義」を考える/武井彩佳/志田陽子(ホスト) - SYNODOS
      https://synodos.jp/talklounge/27...
      「歴史修正主義」を考える/武井彩佳/志田陽子(ホスト) - SYNODOS
      https://synodos.jp/talklounge/27678/
      2022/03/07
  •  一読しての感想は、大変勉強になったということ。
     
     歴史修正主義という言葉自体は知っていたものの、"アウシュビッツにガス室はなかった"などホロコーストを否定したり、自国の歴史に誇りを持つために"侵略"の語を避けたりといった動きの背景にある考え方、といった程度の知識だったので、本書を読んで、歴史修正主義の意味合い、社会に及ぼす深刻な悪影響、放置することなく闘うとはどういうことか等について、大いに考えさせられた。

     まず序章では、歴史を再検証して「書き直す」ことと歴史修正主義とはどう異なるのか、学術的に許容される歴史の見直しと、批判される歴史修正主義とを隔てるものは何なのか、という提起がなされる。

     そして第1章以降、ヨーロッパそしてアメリカにおける具体的な歴史修正主義的な言説を紹介していく。
     
     (なお、本書は、欧米社会における歴史修正主義に対象を限定しているのだが、例えば、第2章のニュルンベルク裁判への不満ードイツだけが悪いのかーなどを読むと、東京裁判史観のことがどうしても頭に浮かんでくる。)

     1950〜60年代のドイツでは、ネオナチの組織化もあったのだが、ドイツが置かれた国際情勢と、それに対応するために作られた「民衆煽動罪」等の上からの法的・政治的規範があったため、歴史修正主義が抑え込まれていた、という。

     第3章では、70年代に入り、明白なホロコーストの否定、矮小化の動きが出てきたことが説かれる。欧米では、こうした主張は「否定論(dinial)と呼ばれる。
     「AはBでない可能性があると主張する人もいる」⇨「AはBではない」と結論付ける訳で、科学的な根拠はないのだが、自らは「歴史の解釈の一つ」を提示していると主張する。
     ではどうしてこの時代にホロコースト否定論は登場してきたのか?一つは戦後世代への世代交代。それから六日間戦争の勝利などイスラエルの軍事強国化が背景にあるという。ユダヤ陰謀論支持者にとっては、シオニストによる世界支配が現実化したと捉え得るからである。

     第4章では、1980年代後半のドイツ「歴史家論争」が分析される。ここは大変読み応えがあったし、非常に啓発された。著者は、歴史家論争には二つの中心的議論があったとする。
     1 ホロコーストが比較可能かという問い
     ホロコーストが唯一無二かどうかが、学問的ばかりでなく、イスラエルの存在や行動に対して政治的に大きな意味を持っていた。
     2 歴史の政治利用の問題
     歴史が「国民史」(ナショナルヒストリー)であったことから、国家の利益になるような歴史を示すことに問題はないと考える政治家は多いが、他者を排除することにつながるのではないか、自国民のみが満足する歴史は、将来の選択肢を狭めているのではないか。

     第3章ではツンデル裁判、第5章ではアーヴィング裁判という、歴史を巡り争われた裁判が紹介される。特にアーヴィング裁判で、ホロコースト否定論が司法の場で「事実でない」と宣言されたことで、ホロコースト否定論は許容できないというヨーロッパ社会の合理形成を促したと、著者は評価する。

     第6章では、ヨーロッパで進む法規制の動向や内容が紹介される。この辺りの動向は全く知らないことだったので、大変参考になった。法学的に言えば、保護法益は何なのか、過剰規制される恐れはないのか、そもそも司法が立ち入るべき領域なのかといった論点について、丁寧に説明はなされている。ただ、大陸法系のヨーロッパと英米法系の国では、表現の自由を巡る考え方が異なるし、歴史的・政治的背景も異なるし、難しい問題だ。

     そのほか、アルメニア人虐殺問題や、冷戦崩壊後の東ヨーロッパ、そしてロシアにおいて、新たな歴史認識問題が現れていることに言及される。


     本書の帯の文言、"歴史とは何か?""事実とは何か?"
     そうしたことを考えることは、一人ひとりにとって無縁なことではない。

  • 人々の営みの積み上げである歴史。これに真摯に向き合うことの大切さを思い知り、先進地ヨーロッパで起きているパラドックスも理解できる良書。

    学問的アプローチかエセ学問的アプローチかの見極めは難しいが、修正主義者のロジックには一定の決まりがあるという。その修辞法は国語の授業などで教えるべきだろうと感じた。

    そして言説を批判することの重み、社会規範や制度はいかに変化するものか、さらにそれを支える基盤となる民主制の強さ・レジリエンスについて深く考えるきっかけにもなった。

  • ドイツ現代史を専門とする学者の優れた論考。歴史学のなかでは、いわゆる「歴史修正主義」というものの居場所がないことが明白なのに、なぜそれが亡霊のように現代にまで蔓延ってしまうのか。素人の私見だけれど、これはおそらく社会心理学や政治学など、学際的な研究を積み重ねる必要があると感じた。その議論の際の基本テキストとなるはずだ。著者の他の本も読みたくなった。

  • 歴史修正主義とは何か?
    ホロコーストとナチの戦争責任において、修正的な言説がどのように生まれ、欧州はそれにどう対応してきたのか?
    米英と独仏の表現の自由に対する立ち位置、中心となった独仏と周辺、共産圏との関係なども。
    また否定的な表現に対する法規制の経緯や種類、程度の比較なども興味深く。
    南京や慰安婦も少し言及あるが、基本ナチの話。

  • 近年、「もうひとつの事実」「フェイク」「陰謀」という言葉がメディアに頻繁に登場するようになりました。また、今年5月の対独戦勝記念日で、米ホワイトハウスのサキ報道官はプーチン大統領を「歴史修正主義者」と批判しています。本書は「歴史とは何か」という切り口から歴史修正主義の実態、発生、法規制、司法での争いを記した中公新書の力作。歴史修正主義概論入門書というような性質の本ですが、事例が多く、面白く読みました。

    著者の武井彩佳さんの専門はドイツ現代史とホロコースト研究。したがい、本書は主にヨーロッパで発生した事例がメインであり、慰安婦問題といったアジアにおける歴史問題は触れられていません。

    本書で記されているのは下記の通りです。

    1)歴史学の観点から歴史とはどのように記されるのか、その基本的な姿勢や手段についての記述。
    大雑把に言えば「歴史学とは過去が全体としてどうであったかを示す学問であり、一点から、一個面からのみ解釈することはしない。また複数の証拠を付き合わせることで判断する。これには専門性と長年の訓練が必要とされる」。一方、歴史修正主義は全体を見ず、ごく一部しか見えていないにも関わらず過去を結論付けてしまいます。「自分の考えと矛盾する事実は単純に無視することが多い。学術的には極めて適切であるだけでなく、事実に対して不誠実なのだ」。
    さらに「最初から事実と異なる歴史像を広める意図で、あからさまに真実を指定する主張を欧米では歴史修正主義ではなく否定論と呼ぶようになっている。日本では歴史修正主義と否定論は必ずしも区別されていない」。例えば、「ホロコーストは存在しなかった」という類の主張が否定論です。
    2)ナチズムとホロコーストについて歴史修正主義(および否定論)は何を目的としどのような形態で現れたのかを検証。「中でも1980年代以降にホロコーストの否定が拡散し、これに欧米社会が対応を迫られる経緯」を追います。この部分は非常に面白いと思いました。ドイツ親世代の自己防衛からくる問題となる歴史の矮小化、イスラエルの軍事強国化がきっかけのようです。ただ、その動機にはサルトルの「反ユダヤ主義は情熱である」を引用して、合理性はないと分析します。
    「歴史が被告席に」置かれたとするアーヴィング裁判については詳述されています。歴史改竄の方法は興味深く、ちょっと笑える箇所もあります。
    3)現在、欧米社会は歴史修正主義や否定論とどのように向き合っているのか?
    欧州では多くの国がホロコースト否定論を法的に禁止しています。それと言論の自由の侵害について考察します。

    歴史修正主義者は自分たちにとって都合の良い過去を繰り返し、人々の認識の揺らぎを呼び起こすことを意図しています。ファクトとフェイクの間の境界が曖昧になれば、当然視されているあらゆることの土台が緩み、その上にある社会制度が軋む恐れすら生じると言われています。
    SNSでいろいろな主張が拡散している現在、本書は読むべき1冊と思いますが、何よりも読み物として面白い本書はお勧めです。

  •  「アウシュビッツにガス室はなかった」「南京事件は捏造」「慰安婦はみんな職業的な娼婦」といった話しを耳にしたことがあるだろうか?歴史的な事実の全面的な否定を試みたり、意図的に矮小化したり、一側面を誇張したり、何らかの意図で歴史を書き換えようとすることを「歴史修正主義(revisionism)と呼ぶ。日本の団体の中には「歴史戦」などと叫び、歴史修正主義を「戦い」とする愚かな発言が物議を呼んでいる。
     本書は、世界史が専門の著者が、あえて日本の歴史には触れず、世界史の中での歴史修正主義との闘いを、各国の情勢や司法の判断などの事案も交えて紹介する。ニュンベルグ裁判、ホロコースト否定論者の勃興とツンデル裁判、アービング裁判などを通じて、ヨーロッパです進む歴史修正主義への法規制が歴史的経過と共に整理される。
     著者は、「歴史修正主義は、表面上は歴史の問題を扱っていても、本質的には政治的・社会的な現象であり、歴史修正主義はむしろ社会と民主主義との関係から考える必要がある。」との説明には、我々が考えるべき点ではないだろうか?

  • 『#歴史修正主義』

    ほぼ日書評 Day551

    本書では冒頭から、欧米では、「アウシュビッツにガス室はなかった」「ユダヤはドイツから補償金を搾り取るためにホロコーストを利用する」など主張は「否定論denial」と呼ばれ、「修正主義revisionism」とは区別されると言い切っている。

    にも関わらず、筆者の主張においては、意図的に(日本では両者が峻別されていないから、という理由で)両者を混同させる。

    この手法で、第二次世界大戦の負の側面に関する責任を日独を始めとする「敗戦国」に全て負わせようとする「釈明史観」に疑問を抱いた人までも、言ってみれば "あなたはホロコーストを否定するような「歴史修正主義者」の輩に加担するつもりか" と追求することで、彼らの覚醒を妨げ、再洗脳しようとするのが本書の趣旨である。

    曰く "「南京虐殺は中国共産党による捏造である」「慰安婦はみな娼婦であった」などの言説は(…)明らかに否定論の分類に入る" 等である。
    ここでは細かに論じることはしないが、慰安婦について問題となっているのは軍部による強制の有無であって、全てが職業的な売春婦であったか否かではないことは、確認しておきたい。

    評者の拙い言説に比べ、Amazonブックレビュー "さぬきうどん" さんの投稿が客観的かつ的を得たものだったので、掟破りな感もあるが、以下引用しておく。

    〜〜〜〜〜

    事実を捻じ曲げて都合の良いように歴史を書き換える。
    こういったイメージが所謂日本人の歴機修正主義だと思う。
    この本もタイトルもこういったイメージに基づいて書かれているように読む人を仕向ける。
    しかし、西欧でいわれている「歴史修正主義」とはこういった字義的なものとは異なる。

    (以下、渡辺 惣樹氏の著書『戦争を始めるのは誰か』から抜粋。)
    本来の「歴史修正主義」とは、戦前の日独を全面肯定する歴史観のことではありません。米英の外交に過ちはなかったのか、あったとすれば何が問題だったのか、それを真摯に探る歴史観のことです。
    「公式の歴史」では、ベルサイユ体制と国際連盟体制を破壊した枢軸国(日独伊)の他国への侵略が第二次大戦の原因と説明されますが、実は英米参戦の「必要」や「理由」は後からでっち上げられました。「ヒトラーはどん底のドイツ経済を立て直した」「オーストリア国民はドイツへの併合を熱烈に歓迎した」「借金に追われていたチャーチルにとって、ナチス台頭は絶好のチャンスとなった」などと、本当のことを言ってしまうと、連合国が作り上げた戦後体制の正当性が崩れてしまうのです。
    (引用終わり)

    例えば韓国の慰安婦問題や、中国の南京大虐殺は歴史的な事実ではありません。
    しかし韓国や中国を歴史修正主義であると批判する欧米系メディアは存在しません。
    歴史修正主義は誰かを批判し、非難するのに便利な言葉ではあります。
    ただ声高に言う人は何らかの意図をもっていると思うべきでしょう。

    第二次大戦という「確定した歴史」を批判的に論じること。
    そして無反省に歴史を受け入れることを強いる。
    「歴史修正主義」と非難することは思考停止をもたらしかねない危険があるのではないか。
    内心の自由、言論の自由、学問の自由。
    普遍性を持ったものではないとおもう。

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  •  ちょうど鎌倉時代の歴史を読んだ後に読んだ。歴史はいろいろと利用される。学術的なお勉強は騙されないために大切だな。
     あと、歴史を歪めなきゃならんほどの体験をするってのもなかなか気の毒だと思った。
     それと、確信犯的に嘘だとわかってて自分のために利用するの賤しいなと…

  • この本から特に得たことは「特定の歴史言説が社会の前面に押し出されるとき、背後にある政治的意図や経済的利害を読み取るメディアリテラシーが必要となる」という部分だ。
    特に、個人での発信が容易になった現代において、その人物が発信しているコンテキストも理解した上で、判断をするリテラシーの重要性が特に顕著であると思う。
    この重要性を、歴史修正主義という視点から指摘した良書。上記なコンテキストも含め、善悪のような単純化された二項対立をわかりやすさから簡単に迎合する我々の弱さを認知し、それに対抗していく意思を持ちたいと思った

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著者プロフィール

武井彩佳

1971(昭和46)年愛知県生まれ.94年早稲田大学第一文学部史学科卒業.2001年早稲田大学文学研究科史学専攻博士課程修了.01~04年日本学術振興会特別研究員.04年博士(文学・早稲田大学).早稲田大学比較法研究所助手などを経て,学習院女子大学国際コミュニケーション学科教授.専攻・ドイツ現代史,ホロコースト研究.著書『戦後ドイツのユダヤ人』(白水社,2005年),『ユダヤ人財産は誰のものか――ホロコーストから,パレスチナ問題へ』(白水社,2008年),『〈和解〉のリアルポリティクス――ドイツ人とユダヤ人』(みすず書房,2017年).訳書D・ストーン著『ホロコースト・スタディーズ――最新研究への手引き』(白水社,2012年).監訳W・ロワー著『ヒトラーの娘たち――ホロコーストに加担したドイツ女性』(明石書店,2016年).

「2021年 『歴史修正主義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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