人類の起源-古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」 (中公新書, 2683)

著者 :
  • 中央公論新社
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本棚登録 : 348
感想 : 27
  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121026835

作品紹介・あらすじ

古人骨に残ったDNAを解読し、ゲノム(遺伝情報)を手がかりに人類の足跡をたどる古代DNA研究。近年、分析技術の向上にともなって、飛躍的な進展を見せる。60万年前のホモ・サピエンス誕生から「出アフリカ」を経て、人類はどのように世界に広がったか。ネアンデルタール人やデニソワ人との分岐・交雑の実態から、日本人のルーツの最新説まで、分子人類学の第一人者が最先端の研究を渉猟し、人類の起源の謎に迫る。

感想・レビュー・書評

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  • 古代人ゲノムの分析は、スヴァンテ・ペーボが2022年にノーベル賞を取ったことで少し世の中の注目を集めた。ネアンデルタール人と現代人との混血の証拠や、デニソワ人の進化上の位置づけを明らかにするなど傑出した成果を残し、人類史の精度を格段に進歩させたまさに同賞に値する研究だ。
    この本は、ペーボらをはじめとした研究で、古代人のゲノム分析手法が確立されたことによって明らかになった人類の足跡について、現在分かっている最新の情報をまとめたものである。
    著者の篠田さんは2007年に『日本人になった祖先たち DNAから解明するその多元的構造』という本を出されたが、そのころから比べると数多くのデータが取得されたことからより精緻な結論が出ている。同書も2019年に改訂版が出されたようなので、日本人の起源を知るにはそちらの方がより多くの情報が詰まっているのだろう。
    本書は、ネアンデルタール人、デニソワ人といった旧人と現生人類であるホモ・サピエンスとの関係、ホモ・サピエンス誕生の地アフリカでの人類の発展と出アフリカ、そしてより多くのデータがそろっていると思われるヨーロッパ・ユーラシアへの人類の進出(農耕と牧畜の拡大、ヤムナム族の進出)、アジア・オセアニア、日本列島集団の構成 (縄文と弥生の二重構造モデル)、アメリカ先住民の出自、と一通りの人類の旅路について記載されている。これらから、これまでの遺跡や人骨に頼った研究とは一段階も二段階も精度と確度が上がった人類史が確立しつつあるということがよくわかる。

    こういった類の本として、デヴィッド・ライクの『交雑する人類』がある。実は、こちらの本の方が読み物として面白い。一方で本書は、新書という制限もあるのかもしれないが、研究からわかった事実を淡々と記載しているという印象がある。事実を網羅的に知るにはこちらの方が効率的だという言えるかもしれない。その意味では良書だと思う。

    著者は、あとがきで、「民族」間の遺伝子の違いよりも、個々人の違いの方が大きく、遺伝子的な違いに価値をおくべきではないと強調する。遺伝子研究において集団の優劣にその研究が使われてしまうことに強い懸念を持っている。例えば、ネアンデルタール人出自の遺伝子の割合は、地域によって大きく異なる。特にアフリカ人には出アフリカ後に交雑があったという経緯から当然ほとんど含まれない。ネアンデルタール人由来の遺伝子には人間の能力に何か違いをもたらすものが含まれている可能性もある。このことをもって集団の優劣につなげて議論されることを懸念しているのだ。おそらくそれから目を逸らすのではなく、より”正しい”理解を持つように啓蒙することが重要だと思う。

    また、この本で取り上げられた古代人の遺伝子解析ができる研究所は数少なく、人も資金も多くかかり、十指に満たないビッグ・ラボでしか実施できないということが書かれている。このことで研究がある地域に偏ってしまわないようにとは思う。

    なお、日本列島集団の分析プロジェクトが2022年で終了し、その成果を発表出るだろうということだ。自分が属する集団がどのように形成されたのか、その遺伝特性とはどのようなものなのかというのは興味のあるところである。



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    (参考)
    『交雑する人類―古代DNAが解き明かす新サピエンス史』(デイヴィッド・ライク)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4140817518
    『ネアンデルタール人は私たちと交配した』(スヴァンテ・ペーボ)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/416390204X
    『日本人になった祖先たち DNAから解明するその多元的構造』のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/414091078X

  • 2010年以降劇的に進んだ古代ゲノム解析の現時点の到達点がわかりやすく解説されている。梅原猛的な縄文人と弥生人の二重モデルだげでは、それぞれの地域での細やかな交雑、集団の交流は描き得ない。アイヌはアイヌの、琉球は琉球固有の混淆史がある。
    文献、史料での歴史学、考古学では、担い手の交雑の軌跡というベースを参照しないわけにはいかなくなるはずだ。制度史であろうと、アナール派的な個人史であろうと。とりわけ渡来や民族移動にかかる影響は古代ゲノム分析抜きには論じられなくなに違いない。
    小熊英二の「単一民族神話の起源」をゲノム解析て科学的な面からとくとこうなるわけだ。

  • 国立科学博物館館長篠田先生の本。
    ものすごく面白かった!

  • 人の移動と系譜は単純な線形ではないということが延々と懇切丁寧に説明されていく。平易な文章だけれども、内容はとても難しい。つまり人類の起源は全く単純じゃない。

    縄文人と一口に言っても西日本と東日本でミトコンドリアの系列が大きく違う。
    人類はアフリカで生まれたとされているけれども、どの猿人からいまのホモサピまで繋がっているのか、特定が大変困難で、よくわかっていない。
    教科書的にはネアンデルタール人とホモサピとは別人類とされているけれど、ゲノムを見ると互いに交配しながらユーラシア大陸を複雑に巡っている。
    アメリカ先住民はシベリアから何度も何度も新大陸へ流入したことを示唆する痕跡が出ている。
    アラスカの遺跡の古人骨は、実はそれよりも大昔に北アメリカの南部に到着した人類が、温暖化に伴い反転北上して住み着いた痕跡のようである。
    とても面白い。

  • 人類をDNA分析、いわゆるゲノム分析から分けたものである。類似度は%でしか表せないし、ごく少数のサンプルから分析するということはあるものの、わかってきたことは多い。ただ、日本人に関するものがわずか50ページにも満たないということで、なかなか身近には感じられない。

  • 2022.08―読了

  • 感想
    過去を知り今の見方を知る。偏見や差別を打破する第一歩は事実に虚心坦懐に向き合うこと。科学は未来への道標ともなるか。

  • ゲノム解析によって、新しい事実が明らかになればなるほど、民族や人種やその優劣といった、近現代までの認識のあやふやさが、くっきりしてくる感がある。日本については、クニとして整った集団が渡来したという話は、ならば列島内でもクニは移転したのだろう、という推測にも繋がり、興味深い。確認されているホモサピエンス以外の人種との交雑も、影響の度合いによっては、彼らも我々の一部と言うことになり得る。出自やルーツはとかく偏見にも通じるが、最新の研究結果は大抵それを否定するところに、科学のひとつの意味を感じたりもした。

  • 遺跡から発掘した人骨に残されたDNAを解析することに寄って、人類の起源が明らかになり始めている。ホモ・サピエンスのDNAを、一番近い種であるデニソワ人やネアンデルタール人と比較したときにサピエンス固有のDNAは、全体の1.5~1.7%程度にすぎない。また、地域によって、サピエンスは、デニソワ人やネアンデルタール人のDNAを2%程度持っているが、これは交雑によるものと考えられている。
    78ページまで読んだ

  • 人類の起源
    古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」

    著者:篠田謙一(国立科学博物館館長)
    発行:2022年2月25日(再版3月15日)
    中公新書

    著者の専門は分子人類学で、京大理学部卒、医学博士で理系の人類学者。古代DNA研究は80年代から始まったが、その技術の進歩はめざましく、2006年から「次世代シークエンサ」の技術が使えるようになると、核のDNAが解読できるようになった。2010年から古代ゲノム解析が可能となり、初めてネアンデルタール人の持つ全てのDNA解読に成功したという。こうした古代ゲノム解析による人類の起源に関する研究について紹介した本だけど、著者独自の説を展開するという類いのものではなく、最新の事情を紹介している感じ。著者もあとがきで言っているが、執筆した2021年時点で分かっていることなので出版時にはまた進んでいるかもしれない、とのこと。初版から1年で再版になっているため、その間になにか新たな発見があって書きかえられたのかもしれない。

    言うまでもなく、我々が中学や高校で学んだものとはかなり違ってきている。猿人→原人→旧人→新人の区分けは同じだが、最近では初期猿人という区分けも加わっている。その初期猿人(三属)の次の猿人が、教科書で最古の人類として教えられたアウストラロピテクス属で、上記の4区分となっていくものの、それぞれに重なる時期もかなりあり、交雑もあるからこうした区分への批判もある。ただ、便利なため今も使われているそうだ。この本で扱うのは主に、旧人と新人(ホモ・サピエンス)。

    旧人の代表選手はネアンデルタール人だが、その後に新人(ホモ・サピエンス)が誕生し、その代表選手としてクロマニヨン人の名を覚えさせられた。しかし、ネアンデルタール人と新人との間に、もう一つ重要な旧人を入れる必要が今はあるようだ。デニソワ人という。ロシアの、中国、モンゴルに近いデニソワ洞窟から発見されたネアンデルタール人で、DNA解析によってデニソワ人と呼ぶにふさわしいことが分かってきたようだ。
    ネアンデルタール人とデニソワ人がホモ・サピエンスにDNAを残し、交雑し、ネアンデルタール人とデニソワ人も逆にホモ・サピエンスからDNAを受け、さらにそれが交雑して・・という具合に複雑に遺伝子を残していったらしい。

    21世紀の初頭には、ホモ・サピエンスの中にネアンデルタール人のミトコンドリアDNAが見つからないことから、交雑はなかったと断定された。ところが次世代シークエンサにより交雑が証明され、その説が覆った。

    ホモ・サピエンスは、今ではアフリカで誕生したというのがほぼ定説。しかし、ネアンデルタール人とデニソワ人が共通祖先から分岐したのが60万年前で、最も古いホモ・サピエンスの化石が30万年前の地層から発見されていて、30万年間分がなにも見つかっていないため、アフリカを出た原人のうちユーラシア大陸にいた原人の中からホモ・サピエンスとネアンデルタール人、デニソワ人が誕生したのではという解釈も一定の説得力を持つそうだ。そして、30万年前以降にアフリカ大陸に移動したホモ・サピエンスのグループがのちに世界に広がることになるアフリカのホモ・サピエンスとなり、ユーラシアに残ったがグループはネアンデルタール人と交雑した後に絶滅した、と。

    そんなわけで、新たな発掘やDNA解析技術の進化により、人類の起源について昔とは大きく塗り変わっているが、こんな調子で説明されてもややこしくて頭に図式が残りにくい。後半に日本人のルーツについて章をさいていて興味が持てるが、それもいろいろと混ざっているということで全体像を専門外の我々がつかむことは困難でもある。

    では、この本から我々はなにを学ぶべきか。終章に著者の力強い解説と見解が書かれていて、納得できた。
    「人種」という言葉は、もはや自然科学の分野では使わないそうだ。遺伝子解析により、黒人、白人、黄色人種という区分けができないことが明らかになっている。人類の起源の過程で混ざり合い、変化していったため、単純に3つで分けられるわけがない。その中間というような〝人種〟は無限にあるかもしれないとこの本を読めば分かってくる。

    著者は「民族」という言葉の括りについても警告している。日本人の感覚だと同じ民族といえば遺伝的にも斉一性の高い集団だと考えがちだが、近年の古代ゲノム研究によって、人類集団は離合・集散を繰り返しながら遺伝的な性格を変化させてきたため、他集団との混合を経ずに存続する集団という面でいえばせいぜい数千年のレベルでしか存在しないことが明らかになっているからである。昨今の風潮がいかにおろかなことかがよくわかる。

    ***

    ①初期猿人
    700万年前 現代人とチンパンジーの分岐
          サヘラントロプス・チャデンシス(チャド)
    600万年前 オロリン・ドゥゲネンシスの化石(ケニア)
    580~520万年前 アルディピテクス・カダッパ(エチオピア)
    440万年前 アルディピテクス・ラミダス(エチオピア)
    *サヘラントロプス属、オロリン属、アルディピテクス属の三属を初期猿人とする

    ②猿人
    420~200万年前 アウストラロピテクス属(肉食傾向)
    260~130万年前 パラントロプス属(植物を食べていた)
    200万年前 ホモ・ハビリス、ホモ・ルドルフエンシス(初期のホモ属でのちのホモ属につながる)

    ③原人
    190~150万年前 ホモ・エレクトス(北京原人、ジャワ原人ほか。最初の出アフリカを成し遂げる、ジャワ原人は20万年前の化石からも、インドネシアのホモ・フロレシエンシスじゃ6万年前まで存在)
    30万年前 ホモ・ナレディ

    ④旧人
    80万4000年前 デニソワ人とネアンデルタール人の先祖が分岐
    64万年前 デニソワ人とネアンデルタール人が分岐
    60万年前 ハイデルベルゲンシス
    30万年前 ネアンデルタール人(アフリカで誕生したハイデルベルゲンシスのうち欧州に渡ったグループから誕生し絶滅、アフリカに残ったグループの中からホモ・サピエンスが誕生、と考えられてきた)

    ⑤新人
    30万年前 最も古いホモ・サピエンスの化石(アフリカ)

    ********
    日本列島に最初にホモ・サピエンスが到達したのは4万年前(旧石器時代)。
    1万6千年前には土器が作られ、縄文時代に。
    3000年前からは弥生時代。

    ヨーロッパ人と東アジア人では、後者の方がわずかに多くネアンデルタール人のDNAを受け継いでいる。

    コロナで重症化させる遺伝子がネアンデルタール人に由来する可能性が示されたが、その遺伝子は南アジア系の人が高い頻度で保有し(バングラディッシュ人は60%)、ヨーロッパ系も20%。一方、アフリカ系と東アジア系で保有する人はほとんどいない。

    共同体の規模が大脳の新皮質に比例すると考えると、猿人は50人、原人が100人、ホモ・サピエンスは150程度。ダンバー数と呼ばれている。

    牧畜生活は遺伝子の突然変異が可能にした。哺乳動物は母乳で育つが、乳糖を分解するラクターゼは授乳期を過ぎると活性が低下して分解できなくなる。成人期でもラクターゼを合成する突然変異があったので牧畜が生まれた。牛乳を飲むと下痢をする人がいるが、ラクターゼが合成できない人。

    6万年前から気候は温暖化、5万年前から寒冷化に。2万1000年前に最も氷床が拡大した最寒冷期。それ以降、徐々に温暖化に向かったが、1万3000年前に「寒の戻り」が一時的にあった。この環境と地形のドラスティックな変化が、ユーラシア大陸にいたホモ・サピエンスの離合と集散を促した。

    ホモ・サピエンスがアフリカを出たのは6万年前。1万年ほど中東で停滞し、5万年前からヨーロッパからシベリアにかけての全世界へと広がった。

    オーストロネシア語を話す人々は、台湾から東南アジアの島々、ニュージーランド、ハワイ、イースター島などの太平洋の島々、アフリカ大陸東岸のマダガスカルまでの地球半分を占める広大な地域で話されているが、台湾が源郷。

    トンガの人々は台湾にルーツを持つことがゲノム解析から証明された。

    縄文人の遺伝的な要素がどれぐらいあるかを計算すると、北海道のアイヌ集団で70%、琉球列島の現代人で30%、本土日本人で10%。

    宮古島から出土した縄文時代の人骨をゲノム解析したところ、予想に反して本土の縄文人と類似するものだった。縄文時代以降の琉球列島での主なヒトの移動は本土、とくに九州からの流入だったと考えられる。

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著者プロフィール

篠田謙一

1955年生まれ.京都大学理学部卒業.博士(医学).佐賀医科大学助教授を経て,現在,国立科学博物館館長.専門は分子人類学.
著書に『DNAで語る日本人起源論』『江戸の骨は語る――甦った宣教師シドッチのDNA』(岩波書店),『新版 日本人になった祖先たち――DNAから解明するその多元的構造』(NHK出版),編著に『化石とゲノムで探る人類の起源と拡散』(日経サイエンス)などがある.

「2022年 『人類の起源』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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