三井大坂両替店 銀行業の先駆け、その技術と挑戦 (中公新書 2792)

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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121027924

作品紹介・あらすじ

元禄四年(一六九一)に三井高利が開設した三井大坂両替店。元の業務は江戸幕府に委託された送金だったが、その役得を活かし民間相手の金貸しとして栄えた。本書は、三井に残された膨大な史料から信用調査の技術と、当時の法制度を利用した工夫を読み解く。そこで明らかになるのは三井の経営手法のみならず、当時の社会風俗や人々の倫理観だ。三井はいかにして日本初の民間銀行創業へとつながる繁栄を築いたのか。

感想・レビュー・書評

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  • 著者はSNSにおいても積極的に情報を出していてそこでは細部にこだわる著者の気質を窺い知ることができるが、本書では特に第3、4、5部でそれを全面に押し出しているように見える。

    教養書として読むような私のような一般読者には少々冗長に感じるところがあるが、学術書(学術書として立派な別の本も出版されているが)として評価するとその資料価値としては特筆すべきところがあり、著者の歴史学者としての資質を十二分に発揮していると言えるだろう。

    本書ではまず三井両替店の生業である為替業の仕組みを説明している。これはある程度、金融の仕組みを理解していたらまあなんとなく理解できるが、初学者にとっては多少理解に時間がかかるだろう。

    幕府との間で特権とも言える関係を気づいた三井家は、そこから生まれる余剰資金を民間融資によって利殖を稼ぐことに専念する。

    私が感心したのは、三井家で奉公する従業員の動産(質物)の価値評価においてあらゆる質物を適切に評価することが出来たということである。

    例えば、山崎豊子の不毛地帯では舞台の繊維商社において繊維の質を社員が見極める場面があるが、その技術の獲得には相当の時間がかかると見受けられる。同様に担保に供するあらゆる品物の見極めには非常に熟練の技がいると考えられるのは自然であろう。

    当然、三井家の従業員のみだけで、価値の評価を行っている訳ではなく、潜在的なステークホルダーである専門業者との情報共有によってそれを実現していた訳だが、多かれ少なかれ三井の従業員にも鑑定眼を持ち合わせていたのだろうと思う。

    なぜ潜在的なステークホルダーである専門業者との円滑な情報共有が可能だったかと言うと、言葉通り彼らは三井家に対して融資を申し込む可能性を秘めていたからであり?(ここ間違ってるかも)そこには大坂内での緻密な情報ネットワークが存在していた。

    著者はこの当時の大坂の社会を窮屈な監視社会であると表現している。確かに現代の視点から見ると窮屈で、一般にイメージしがちな江戸時代の自由溌剌さとは趣が異なる。私も同意するが違ったアプローチで批判的な見当を考えてみたい(偉そう)。

    大坂のプライベートがない窮屈な社会という視点は、前述の通りプライバシーという概念のある現代からの視点であり、同時代の江戸や、現代の極端なイスラム主義国家から江戸時代の大坂という都市を俯瞰してみるとまた違った視点を与えてくれるかもしれない。(江戸やイスラム国家は私は曖昧なイメージしか持ち合わせず間違っているのが前提である)

    まず江戸から見ていこう。幕府が設置されていた江戸は絶対的な存在として幕府があり、そして各諸藩の江戸藩邸、そして市井を生きる人々と明確な権力の構造があった?そこには幕府の合理性から生まれた理屈があり、それが絶対的な指針だったはずである。その権力構造に組み込むための権力側からの上からの強権的な政策や監視が存在していてもおかしくないだろう。そして不合理であるとしそれに抗う者は絶対的な権力からの制裁があったはずである。

    強権的なイスラム国家にある宗教都市からも見てみよう。

    そこには過去の慣習から生まれた時代遅れの規律があり、それを守らせる為政者からは不合理であっても厳格な取り締まりが行われる。これはどの時代においても宗教が勢力を誇る都市において見受けられるだろう。

    この首都機能を持つ都市と宗教都市とで、権力から離れた、ある程度高度な自治を維持した商業都市である大坂と比べてみると、大坂は経済原理という合理性が持つ力によって都市が運営されていたことが分かる。それは窮屈であっても、損得勘定で動けばある程度満足する結果が生まれるという人々にとっては、ある程度納得させる道理があったと言えるかもしれない。

    また当時の日本社会においてプライバシーという概念はなく、情報共有はむしろ貧しい社会の中で人々の効用を最大限にさせるための共同作業の面が強かったのではないだろうか。

    現代社会に目を向けると、社会の高度な発展によりプライバシーという概念が産まれて久しい。一方、情報技術などの科学技術の進歩により不確実要素を取り除こうとしている。情報技術の究極の目的は個人情報の取得、応用だろう。今、我々の社会はこの立憲主義の基本であるプライバシーの守秘と情報技術の進歩と決して両立できない2つの概念?がせめぎ合っている。この岐路に経つ中で我々がどう生きていくかはそれぞれの良心に委ねるしかないのだろうか…

  • <目次>
    第1章  事業概要
    第2章  組織と人事
    第3章  信用調査の方法と技術
    第4章  顧客たちの悲喜こもごも
    第5章  データで読み解く信用調査と成約数

    <内容>
    江戸時代から続く「三井」。この中心の三井大坂両替店の活動の概要を示した本。三井文庫にある「三井家記録文書」は膨大なデータが残り、そこから読み取れる江戸時代の「両替商」の仕事があからさまになっている。データが細かすぎて、理解できないところも多く、専門書に近い内容か?第4章が面白かった。

  • 桃山学院大学附属図書館蔵書検索OPACへ↓
    https://indus.andrew.ac.jp/opac/volume/1331624

  • 女子栄養大学図書館OPAC▼https://opac.eiyo.ac.jp/detail?bbid=2000070190

  • 顧客に貸付を実施するか否かを判断する際の信用調査票(聴合帳)が大変面白い。

    聴合帳には、大阪三郷(今の中央区・西区を中心に北区南部・浪速区及び天王寺区北部辺りになるだろうか)の地名が頻出する。江戸時代の大衆社会や金融に関心がある方は勿論、大阪の歴史や地理に関心がある方にも楽しめる一冊になっていると思う。

    江戸時代の人々が自分と同時代を生きる人々に感じるし、三井グループの強さの源流を見た様な気がした。

    喜久屋書店阿倍野店にて購入。

  • 金貸し業の基本が担保の精査と信用調査なのは江戸期も全く変わらず、三井両替店が徹底したそのノウハウこそ、今日まで継承された真の資産かもしれない。店員のレポートを読むと、現在の銀行さながらだし、かつ商都大阪の町人達の生活も垣間見られて面白い。年功序列と人材育成、福利厚生(?)といった組織像は、日本型企業の雛型のよう。幕府公金を扱う事によって債権回収にも優遇される事情や、反面大名貸しが貸し倒れリスクを伴うなど、権力との付き合い方が肝要なのはこれも普遍の真理。信用調査で今と大きく異なるのは、顧客の人柄や素行の評価がウエイトを占める点で、むしろ大切な判断材料と思うのだが、これは現在NGなのだろうか。

  • 【配架場所、貸出状況はこちらから確認できます】
    https://libipu.iwate-pu.ac.jp/opac/volume/572258

  • 【本学OPACへのリンク☟】
    https://opac123.tsuda.ac.jp/opac/volume/713648

  • 東2法経図・6F開架:B1/5/2792/K

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著者プロフィール

萬代 悠(まんだい・ゆう)
1987年大阪府生まれ。
関西学院大学大学院文学研究科博士課程後期課程文化歴史学専攻日本史学領域単位取得退学。
博士(歴史学)。
三井文庫研究員。

「2021年 『近世畿内の豪農経営と藩政【オンデマンド版】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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