日本鉄道廃線史 消えた鉄路の跡を行く (中公新書 2810)
- 中央公論新社 (2024年6月19日発売)


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本 ・本 (256ページ) / ISBN・EAN: 9784121028105
作品紹介・あらすじ
野ざらしの廃車両、ぽっかりと闇をのぞかせる廃トンネル……全国に散在する廃線にも、かつては活気に満ちる時代があったはずだがなぜ廃止されてしまったのか。戦中の「不要不急路線」にはじまり、モータリゼーションや国鉄再建に伴う大量の廃止、近年の自然災害による廃線などを時代別・種類別に紹介する。そして現在、新たな廃線論議が巻き起こっているが、解決策はどこにあるのか。廃線からたどる戦後日本交通史。
感想・レビュー・書評
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筆者の本を読むのは、田中角栄の思想と鉄道を論じた『「日本列島改造論」と鉄道』以来。タイトルからしてノスタルジックな話もあるのかと想定しながら読んだが、さにあらず。廃線の行く末あれこれを比べつつ論考している。
各地を旅してきた筆者は廃線前と現在の比較をしっかり撮影している。単に郷愁を誘うのではなく、写真を通じた過疎の現実、民間による観光トロッコなどで今も生きながらえている鉄路の姿を浮き彫りにする。口絵の最初に出てくる、線路上に放置されて草むすのと鉄道のディーゼルカーは示唆的だ。
国防や防災の観点から、特定用途で保存しておき、有事に利用できるようにするというのは納得。明治期の鉄道の整備は富国強兵という軍事的側面があった訳であり。北海道新幹線の札幌延伸で廃線となる函館本線の山線(長万部ルート)の再考は改めてすべきだと感じる。半導体のラピダス進出で北海道の経済安保の位置付けも高まっている。そもそも経営が厳しいJR北海道については会社そのものを公設民営にするかを検討するステージではないか。
只見線のように災害による長期運休から再開した地域もある。福島県の外部監査では「共同幻想」と批判されたようだなが、鉄道がつながり続ける意味は今なお大きい。なお、筆者は三陸のJR東日本のBRT転換そのものを批判はしていないが、せめて釜石-気仙沼まで鉄道がつながって三陸鉄道が一体で運行していたら。気仙沼だけ宮城県ということが影響した可能性もあるが。厳しくJRを批判する原武史ほどではないが、こういうクリティカルな視点は大事にしたい。
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非常に良い内容なのに、元号表記にこだわった表記により、時間感覚をつかみにくい。勿体無い。
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戦時中から現代まで様々なタイプの廃線事情をまとめた本。過去の著者写真なども使われていて、貴重ではある。しかし歴史をまとめただけで、さらに深い論考には至らず。
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鉄道は国のインフラであり、多大な設備投資もしたものであるので、簡単に廃線には出来ない。それでもまあ、諸事の事情によって廃される路線があるのは当然かつ事実であり、その理由、背景を、幾つもの事例で紹介する。
国鉄時代からJR、法の改正もあったようだし、色々と事情が異なる。
戦時中、複線から単線にされたというのも驚いたが、JR東が、むしろ会社としては黒字の為、災害後の復旧に公的資金の援助が見込めず廃線にしたこともあるそうだ。
廃線後のインフラ対応とかも色々あって、興味深く読めた。 -
鉄道というインフラは永遠ではないにせよ、かなりの永続性を想定して敷設されるが、過疎化、モータリゼーションの進展、災害などの理由で維持が難しい路線が増えている。
いや、昔から赤字ローカル線は言われていたが、高度成長期には列島改造論におされてむしろ開発がすすめられた。右肩上がりの時期ならそれでもよかったのかもしれない。
現在では赤字ローカル線を廃止するのにバスに代替しようにも、運転手が確保できないという袋小路にはまっている。
廃線(だけでなく新設もだが)のスキーム自体がかなり古く、国鉄時代からの負の資産もいろいろあって見直しが難しいのだろう。不採算路線を維持するのは現実的ではないにせよ、鉄道の廃止が容易に行われれば、不採算地域では郵便やNTTの回線なども維持しなくてもよいというロジックが成り立ってしまう。
鉄道という社会インフラや地方の在り方をどう捉えるかという大きな問題が根底にはある。
最後の章で、観光目的として路線を維持したらどうかという提言があるが、普段使いのインフラと不急不要の観光用途は合い入れないように感じた。それはどちらかというと文化財の動態保存に近く、路線全体の維持は難しいのではないか。 -
以下、引用。
●海外では観光目的の保存鉄道が長距離区間でも列車を運行しているのであれば、日本でも5キロ前後のミニ路線だけでなく、もっと長い距離の廃線区間を特定目的鉄道として再生したり、廃線予定の区間を特定目的鉄道へと転用して存続させることができるのではないか、という発想が可能になる。特に後者の場合、昭和末期の特定地方交通線の廃止反対運動でほとんど 実効的な成果を挙げられなかった「乗って残そう○○線」的な対策よりも、特定目的鉄道への転換を図る手法のほうが、まだ現実的な可能性があるように思われる。
地方鉄道の新たな運営形態として特定目的鉄道の制度を活用する案は、平成20年(2008)の時点ですでに専門家からの提案が見られる(渡邉亮「イギリスの保存鉄道の特徴と事例紹介」『運輸と経済』2008年9月号)。同論考は、イギリスでは観光目的の保存鉄道が一定の範 囲で地域輸送にも貢献している例があることを踏まえて、将来における一つの可能性として
「今後は特定目的鉄道を観光目的のみならず、地方鉄道の新たな運営形態の一つとして活用し、主に観光輸送を行う鉄道として再生させつつ、地域の足としての役割も果たしていくことは考えられないだろうか」と問題提起している。
その最も先駆的かつ挑戦的な発想の一つが、北海道新幹線の並行在来線として廃線の方向性 が固まっている函館本線の山線(173ページ)を、この特定目的鉄道に転換して存続させよ うとするプランである(杉山淳一 「函館本線『山線』並行在来線として2例目の廃止、鉄道を残す方法は?」『IT Media ビジネスオンライン』2022年2月4日付)。確かに、30キロどころか全長140・2キロにも及ぶ長大路線を特定目的鉄道にした前例などないし、ほとんど人が住んでいない山岳路線の管理の困難さは、門司港レトロ観光線や嵯峨野観光鉄道の比ではないことは容易に想像できる。
ただ、平成12年の有珠山噴火時に山線が果たした幹線代替機能を、災害発生時の代替ルート 確保、あるいは国防上の非常時に備えて今後も残しておくことが国として必要ならば、平時の名目として特定目的鉄道の制度を活用し、線路を残す試みがあっても不思議ではない。すでに沿線自治体は廃線 同意しているので、地域輸送用のローカル列車を毎日に 走らせる必要はない。沿線のニセコ町などと連携しつつ、高額な料金を要する豪華クルーズ列車や観光客向けの専 用列車を夏季に多く走らせれば、国内外からの旅行者が 注目する北海道観光の新たな名物になる。
逆に、豪雪に覆われる冬季は無理に除雪して列車を走 らせるのではなく、門司港レトロ観光線や嵯峨野観光鉄 道と同じように長期運休してしまえばよい。富山県の山 中を走る黒部峡谷鉄道(宇奈月~欅平)などは、雪崩 の被害を避けるため、冬季運休時には鉄橋や線路標識の 一部を撤去してトンネルの中に保管しておくことまでしている。
JR北海道も北海道庁もこの区間を残すメリットがないと判断しているのに、国策上の観点 から線路を残しておこうとするのであれば、こうした施策は「北方4線」と同様に国レベルで 取り組むしかないだろう。また、こうでもしないと、北海道の鉄道は現下の経営悪化を理由に、観光資源としての潜在的な魅力を持つ路線や駅がどんどん切り捨てられてしまうように思えて ならない。北海道で近年相次ぐ路線や駅の廃止措置が、まるでタコが当面生き延びるために自分の足を食べているように見えてしまうのは私だけであろうか。
●対象路線の赤字という当該鉄道会社の経営上の事情を除くと、環境問題にせよドライバー不 足にせよ、あるいは非常時の代替ルート確保の要請にせよ、総じて鉄道の存続可能性を高める 方向に作用しやすい事情が増えている。そうであれば、既存の鉄道路線の廃止にはなるべく慎 重な姿勢で臨むことが重要となる。夜行列車を後年に再増便するのと異なり、線路はいったん剣がしたら再敷設はほぼ不可能だからだ。
特に、平時の運行実態はローカル線でも、いざというときには幹線級の役割を果たし得る
"ローカル幹線”については、地元客が支払う運賃収入の多寡によってその存在意義を判断す ると、日本全体にとって不都合で非現実的な結論になりかねない。その問題意識は、北海道新 幹線の開業に伴う函館~長万部間の在来線存廃の議論において顕在化した。今後、全国で問題 となりつつある赤字ローカル線や並行在来線の存廃の議論において、当該鉄道会社や沿線市町 村、都道府県レベルを超える国家レベル、国際レベルでの視点をどこまで重視し、採り入れて いくかが、これからの日本の鉄道興亡史を大きく左右することになると思われる。 -
法制度、歴史、地方事情、そして現地探訪と、様々な視点が非常にいい具合に構成されている
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女子栄養大学図書館OPAC▼https://opac.eiyo.ac.jp/detail?bbid=2000071551
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勝手に「廃線跡紀行、もしくはガイド、カタログ」と思ってたら案外ガチな分析、解説やった。いや、「廃線史」やねんから当たり前で勝手に勘違いしてたんやけど。
思ってたんとは違ったけど、分析、解説は分かりやすいし納得。しかし北海道新幹線の並行在来線どうすんのかな。
著者プロフィール
小牟田哲彦の作品





