アファーマティブ・アクション 平等への切り札か、逆差別か (中公新書 2811)

  • 中央公論新社 (2024年7月22日発売)
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  • 本 ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121028112

作品紹介・あらすじ

「積極的差別是正措置」と訳されるアファーマティブ・アクション。入試や雇用・昇進に際して人種やジェンダーを考慮する実験的で論争的な取り組みだ。1960年代、公民権運動後のアメリカで構造的な人種差別を解消する取り組みとして導入されたが、「逆差別」「優遇措置」との批判が高まる。21世紀には多様性の推進策として復権するも、連邦最高裁は2023年に違憲判決を下した――。役目を終えたのか。平等のために何をすべきか。アメリカの試行錯誤の歴史をたどり考える。

感想・レビュー・書評

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  • アメリカにおける差別撤廃とアファーマティブ・アクション(以下、AA)の苦闘の歴史を紹介・解説した本。
    面白くて、めちゃくちゃ勉強になります。
    いろいろと紹介したい内容も多いのですが、ひとまず二点のみ、私的感想。
    ①AAは、アメリカでは決定的な事例で違憲とされた判例もありますが、かと言って過去の遺物として全否定できるものでは当然なく、わかりやすく低コストの施策として、今後も条件付きで一定の有効性は認められると思う。
    ②AAは多様な観点から評価されるべきもので、例えば男女差別といった一面だけをとり上げて実行するのは難しい…というか、基本的にすべきではない。差別や格差もまた多様なので、AA実行の前提として、そのような細やかな分析は欠かせない。そして、分析結果に基づき複合的に実行するにせよ、やはり割を食う人がいることを忘れてはならない。

  • 【配架場所】 図・2F総合教育院おすすめ文庫 
    【請求記号】 080||CH||2811
    【OPACへのリンク】
    https://opac.lib.tut.ac.jp/opac/volume/472587

  • アファーマティブ・アクションと逆差別,結局自分たちの利益を守りたい人の都合のいい理屈に踊らされているような気がする.アメリカでのAAの歴史,変遷が分かり,勉強になった.

  • 差別を直視しない日本ではまだ始まってすらいないが、差別是正という根本となる目的を忘れず多様な手段を取っていければいいと思う。

  • すべての人間は平等の下、合衆国は奴隷制は維持される中、1865年に奴隷制が廃止、しかしながら黒人と白人が公共施設、学校などで隔離するジム•クロウ制度の為に人種不平等が続いた。ローズヴェルト大統領のニューディール政策下白人への優遇は続き、ジョンソン政権下1964年公民権法制定とともにジム•クロウ制度は解体。ただし人種を理由とした隔離、雇用とサービス提供の拒否の禁止するだけでは今までの不平等は放置されるだけで何も変わらない。これらの不利な立場の中で能力を発揮できない人を支援しようと言う新たな人種正義の実現に向けてアファーマティブ•アクションが生まれる。1970年代に入りマイノリティを優遇する政策が逆にマジョリティから見ると逆差別にあたり、1971年ワシントン大学法科大学院不合格になったユダヤ系の白人学生デフニスの裁判、1974年のカリフォルニア大学医学部不合格のアランバッキ、1995年ミシガン大学学部入試不合格になった白人女性な裁判によるAA批判が続く。第4章以降はなぜ廃止になったのかまで一冊読むとアファーマティブアクションを一通り学ぶことができる。とてもわかりやすく説明されておりオススメの一冊です。

  • 女子栄養大学図書館OPAC▼https://opac.eiyo.ac.jp/detail?bbid=2000071689

  • 公正さとは何か。何が公正なのか。

    客観的な、恣意的でない開始(再開)条件と廃止(停止)条件は設定可能なのか。

  • ①黒人の技能職の雇用で目標達成を求める。
    ②入学枠に特別枠を設ける。
    ③選抜に際して高校の成績、SATの成績、などと合わせて人種を考慮する。
    2023年に③のような穏健なアファーマティブ・アクションも違憲とされた。
    クォーター制やバリテ制度は世界で今でも議論されている。日本では理系大学に女子枠を設けた。

    奴隷制廃止以降、「分離すれども平等」という原則のもとジム・クロウ制度で隔離政策が続いた。1964年の公民権法以降も、表面的な差別が解消されても平等にはならないことが現実化した。負の連鎖でマイノリティが不利になる。
    制度的な意図はなくても、その蓄積として統計データに表れる。
    ジョンソン大統領が積極的差別是正措置を求めた。

    1924年移民の排斥のため国別割当制度を創設。アイビーリーグなどのユダヤ人クォーター制でユダヤ人入学者を制限した。1950年代まで続いた。ニューディール期の社会福祉事業は実質的には白人労働者を対象にしていた。

    1971年のグリックス判決で、能力本位の選抜試験であっても、以前の差別的な雇用実践が生んだ現状を凍結するような制度は違憲、とされた。
    雇用や昇進に数値目標を設けることは反発も大きかった。
    黒人の多くは歴史的黒人大学(HBCU)に進学した。SATは、受験勉強の準備が必要であり黒人には不利。中立的ではあるが、教育環境の格差を助長する試験。

    デフニス裁判は逆差別を争ったワシントン大学法科大学院の裁判。
    バッキ判決は、差別是正措置としてのAAは否定したが、多様な学生集団を獲得するためにやむにやまれぬ目標として正当化できる、というもの。成績だけでなくスポーツ、出身などと同じように人種を判断材料にすることは可能。
    ウェーバー判決は、民間企業の自発的なAAを合憲とした。

    1970年代末ごろから、黒人のリーダーからもアファーマティブ・アクションに反対する声が聞こえ始めた。黒人の貧困問題として有効なのか、という疑問。アンダークラスの登場。既存の労働者のさらに下の階層。AAの恩恵を受けられない人たち。AAは優遇なしには対等な競争ができない、という差別的偏見。偽りの代償。
    一般市民から住民運動が起こった。カリフォルニア州のAAは実質的に廃止となった。

    人口動態では、アングロサクソン系白人が半数以下になることが予想されている。多様正の爆発。
    1996年テキサス大学法科大学院では、AAが違憲とされた。人種のみを理由に加点することはできず、数ある要素のひとつとして考慮できる。多様性とは人種に制限されることはない広い概念である。しかしその後住民運動で廃止された。

    オバマとその家族は、白人保守派にとって逆差別と優遇の象徴。オバマの成功がフェアだとはいえない。どうして金のかかる大学院に行けたのか。
    アジア系の大学入学希望者に対する差別の声が上がっている。なーバード大学とノースカロライナ大学のAAを違憲とし、人種を考慮するアファーマティブ・アクションの集権を迎えた。トランプ大統領が任命した保守派の判事が多数であったことが影響した。

    ミシェルオバマ、コンドリーザライス国務長官のような社会のリーダー層の変化には意味があった。
    白人エリート層には、市立名門校からアイビーリーグに進学し初めて多様性にふれる学生もいる。
    私立の営利大学にはマイノリティが多く、奨学金の多額になっている。
    人種によるAAの廃止は、スポーツや課外活動などを考慮する入試には手が付けられず、人種不平等の是正からは遠ざかっている。

  • 積極的差別是正措置と訳されるらしい。
    入試や就職・昇進などの場面で人種やジェンダーに配慮する取り組みを指す。
    日本でも大学入試の理工系で女子枠が用意されている。AO入試(今は総合型選抜って言うけど)も差別改善の側面を有している。
    でアメリカでは2023年にアファーマティブ・アクションは平等を謳う憲法に反するという最高裁の決定が出てしまった。逆差別の方にはかりが振れたわけだ。
    アメリカを追随してきた日本は今後、どうするのかね? アメリカほど差別是正のための仕組みを作ってこなかった日本は何もしないってのがオチだな。

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著者プロフィール

南川文里(みなみかわ・ふみのり) 同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授。専門は社会学・アメリカ研究。近年の研究テーマは、アメリカ多文化主義の形成と変容。著書に、『アメリカ多文化社会論〔新版〕――「多からなる一」の系譜と現在』(法律文化社、2022年)など。

「2022年 『自由に生きるための知性とはなにか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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