- Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121100238
感想・レビュー・書評
-
396.21||Ts
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
皇道派と統制派の間で小説「藪の中」のごとく言い分が異なる中、事件の実相を考察する本。予備知識がないと細かな事実関係が頭に入りにくい。著者の結論は両派の中間とも言え、陸士候補生にクーデター計画はあり、青年将校に話していたが、辻・片倉の側にも本件を利用した青年将校運動弾圧の意図もあったというものだ。ただし陸士候補生と、この時点では合法的活動に傾いていた青年将校、また参謀本部の片倉と直接候補生に接する辻の間でそれぞれ温度差はあったが。
本件で両派の対立は決定的となり、本書副題のごとく二・二六事件に繋がる。青年将校運動が過激化して壊滅する要因となったわけだ。統制派の側でも、運動を抑制していた永田鉄山が殺される。両派各人の意図とほとんど正反対の方向に進んだことを、著者は「歴史のパラドックス」と表現している。 -
東2法経図・6F開架:396A/Ts93r//K
-
陸軍士官学校事件は、皇道派と統制派の派閥抗争のさなか、辻政信大尉がスパイを送り込み、クーデター計画を捏造したとされる事件で、二・二六事件の原点と呼ばれている事件であるが、これまであまりに謎が多く、実像が明らかにされてこなかった。本書は当事者の日記・記録・回想、捜査に当たった憲兵隊や軍法会議の記録のほか陸軍士官学校候補生らへの取り調べ調書記録なども駆使し、その全貌を明らかにした貴重な研究である。
著者は「諸個人の集合的行為の複合物としての歴史は最初の諸個人の意図を大きく越えほとんどそれと正反対のコースに進むことが多いが、この事件はその典型的ケースだった」(230頁)と述べる。そして、この感慨は読者にも共有される。 -
皇道派・統制派の暗闘が引き起こし二・二六事件の前史となったクーデター企図事件の全貌を、昭和史の第一人者が幅広い視点から描いた労作。昭和陸軍史の異色の物語