美しい都市・醜い都市: 現代景観論 (中公新書ラクレ 228)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121502285

作品紹介・あらすじ

日本橋の首都高移設や景観法制定など、「美しい国」をつくる動きが始まったが、「美」とは何か?新世代の論客が、平壌取材からアニメの中の未来都市まで、縦横無尽に検証する。写真多数。

感想・レビュー・書評

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  • 五十嵐太郎氏は『10+1』などの雑誌を開くと名前を非常によく見かける,建築分野の人気作家(?)。なので,私も彼の文章を一度や二度読んだことがあるのですが,あまり惹かれるタイプではなかったので,著書は本書が初めて。というのも,大学の講義の小レポートの課題として選出したので読んだ次第。いかにもなタイトルに読む気がしませんが,まあ読まず嫌いもよくありません。この中公新書ラクレというシリーズも初めて。

    第一部 21世紀の景観論
     1章 醜い景観狩り
     2章 景観を笑う
     3章 日本橋上の首都高速移設を疑う
     4章 渋谷のドブ川とソウルの清渓川
     5章 テーマパーク化する都市
     6章 東京の色彩と広告
    第二部 計画とユートピア
     7章 アジア・メガロポリスの建設と破壊――香港・上海・深圳
     8章 押井守の未来都市
     9章 幕張はいかにつくられたか
     10章 管理社会が生み出す”都市伝説”――ディズニーランド・筑波・都庁舎
     11章 ユートピアとしての平壌
     12章 過防備都市・再論

    案の定というか,本書は『10+1』に掲載された文章を多く含むもので,書き下ろしではなかった。確かに,第一部はかなり一貫して日本の現代都市景観を論じているが,第二部はバラバラな印象で,香港,上海,深圳,平壌といったアジアの諸都市の訪問記あり,押井 守のアニメーションの話ありな感じでまとまりはない。
    しかし,思ったよりは頭の固い人間ではないことが分かった。といっても,彼の関心は常に具体的なものに向けられていて,私が好むような抽象論や認識論に関する議論はほとんどなかった。といっても,3章の日本橋の話や9章の幕張の話は,新書という決して文字数が多くない著書の中ではしっかりとした情報に基づいて分かりやすく説明されており,学ぶことは多かった。本書は基本的に景観に美しい・醜いの絶対的価値軸は存在しないという立場に立っている。でも,実のところは完全なる相対主義ではなく,建築家として教育を受けてきたものとしてのかなり強固な価値軸があることも確かである。

  • 以前、五十嵐太郎氏の過防備都市を読んで、「集まって住むことの窮屈さと安心感のバランスが重要」というメッセージを受け取りました。

    今回受け取ったメッセージは、この巻末の一文がすべてを語っているように感じました。

    口当たりのいい復古的な景観の言説に流されず、現実の多様さをそれぞれが深く考えるきっかけになれば、幸いである。

    私は「自らのライフスタイルを度外視して、冷凍保存のような景観を生み出すガイドラインなどつくるべきではない」と思っています。しかし一方で、本書に出てくる普通のまちの「笑えるようなだらしない景観」は、なにか拠り所を求めている気がしてなりません。例えば、先日紹介したまちなみ住宅のススメはひとつの拠り所です。ひとつの建築や建築群がしっかりとした意志を持ってライフスタイルに呼応しながら設計されたとき、そのまちは生まれ変わるきっかけをつかむのではないでしょうか。

    景観を語るに、私のベースのイメージはいまだに陰影礼讃のこの言葉です。

    美と云うものは常に生活の実際から発達するもので、

    暗い部屋に住むことを余儀なくされたわれわれの先祖は、

    いつしか陰翳のうちに美を発見し、

    やがては美の目的に添うように陰翳を利用するに至った。

    (谷崎潤一郎)

    生活から逸脱した「美」は劇場的で、刺激を与えてくれる要素ではあるとは思いますが、直輸入した瞬間から陳腐化してしまう宿命にあると感じています。

    現実は多様で、その多様性が明日への活力へつながっていくのであり、その生活の実際の中であるべき景観を論じるべきです。色や高さや高速道路といった極論だけがクローズアップされるような状況に流されて、思考停止するような世の中だけにはなってほしくないものです。

  • ブレードランナーとかAKIRAとか攻殻とかの景色をカッコいいと思ってしまったら「醜い都市」って何なのかわかんなくなるよね。その点では美しい建物、醜い建物のレポート書かされた大学生可哀想っちゃ可哀想。いや、考えるのはおもしろいけど。あと、未来から見たらコンクリートの日本橋と首都高とどっちが魅力的か、ってのも意表を突かれた。

  • 社会

  • 日本橋の上に架かる首都高速の地下化についての話が載っていたので読んでみた。日本橋が西洋のコピー橋である一方で、首都高速は世界にも稀に見る複雑な道路建築として評価していて、こういう考え方もあるのかと思った。また、全体を通して、世の中の風景を美しいもの、醜いものの2つに分けて、片方を淘汰するようなやり方の危険性が書かれている。関連図書としては、「ニッポン景観論」がおすすめ。

  • おもったより面白くなかった。

  • 都市の景観論について諸々の話題を書き連ねた本。日本橋の高速撤去の話題(ちょっと過去)、アジア各都市の都市デザイン、幕張の開発経緯、街の監視カメラ社会など、一見バラバラなテーマは無関係に章立てられているが、いずれも現代における都市景観論の視点での著述。一部には強いメッセージも感じられるが、概ね著者自身の心のうちを綴ったエッセイのような感じ。最後のほうに書かれた平壌の都市デザインについての見解が新鮮で面白かった。

  • 2014.06.17
    パラ読。

  • 人は生まれた場所や思い出に風景の美しさを見出すのでしょうか。

    だから私は広告やネオンで囲まれたまちや、ハウスメーカーが量産した欧米風が並ぶ住宅街にも美と愛おしさを感じることができるのかもしれない。

  • 美しい景観とは、醜い景観とはどのようなものか。世の中で言われる「美しい街」にも徹底的に疑問を投げかけ、なにが美しく、なにが醜いか考える。

    第11章ユートピアとしての平壌で、平壌を訪れた筆者は「ここは景観論者にとってのユートピアではないかと思った」と語る。

    「建築と都市のデザインは明らかにコントロールされている」
    「景観論者が嫌う諸要素が、ことごとく排除されているのだ」

    とても衝撃的。

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著者プロフィール

1967年パリ生まれ。東北大学大学院工学研究科教授。博士(工学)。建築史・建築批評。1992年東京大学大学院修了。ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展2008日本館コミッショナー、あいちトリエンナーレ2013芸術監督。
主な著作に『過防備都市』(中公新書ラクレ、2004年)、『建築の東京』(みすず書房、2020年)、『様式とかたちから建築を考える』(菅野裕子との共著、平凡社、2022年)がある。

「2022年 『増補版 戦争と建築』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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