腐女子化する世界: 東池袋のオタク女子たち (中公新書ラクレ 229)
- 中央公論新社 (2006年10月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121502292
作品紹介・あらすじ
腐女子とは、男性同士の恋愛物語を嗜好する女性をいう。なぜ彼女たちは、「自分不在」の妄想世界に遊ぶのか?密かに、しかし確実に進行する女性のオタク化、その裏側をレポートする。
感想・レビュー・書評
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女子は関係性が好き
格差社会は筆者の想像(腐女子のバックボーンは多岐のためそれが大多数だと断言するには乱暴すぎますね詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
著者は、「腐女子の特徴は?」「ファッションには無頓着なの?」「現実の恋愛には興味がないの?」といった質問を受けるたびに、「お洒落な女性もいれば、そうでない場合もあります」「彼氏がいることもあれば、いないこともあります」とこたえてきた、と述べています。
メディアではステレオタイプで描かれがちな「腐女子」ですが、じっさいには見た目も行動も一般の女性とちがいはありません。したがって本書でも、腐女子の「生態」を解き明かすことよりも、ごく普通の女性たちがBLなどのオタク文化にのめり込んでいくのはなぜか、という社会的な観点からの分析が中心になります。
バブル崩壊以後の格差社会の到来によって、かつて女性誌などが提唱してきた「ライフ・スタイルの選択」は多くの女性たちにとって手のとどかないものになりました。それにより、競争から降りた女性たちが「ライフ・スタイル」が介在しない、ただ「趣向」だけでつながることのできるような「場所」を求めてオタク文化へ参入してきたと著者は見ています。とくにBLなどの男性どうしの恋愛をあつかうコンテンツは、読者自身が作品内の登場人物に感情移入するのではなく、現実離れした世界の「妄想」を読者に提供しており、こうした作品が腐女子に受け入れられているのだと著者は述べます。
読む前に想像していた内容とはかなり違っていましたが、こういうレポートもありだと思います。バブル以降の社会状況の変化を踏まえたうえで腐女子コンテンツという「異文化」の出現を説明する本書の議論は、1970年生まれの著者の世代が腐女子を理解する道筋ではあるのかもしれませんが、その一方で、腐女子たち本人の自己理解とはあまり切り結ぶところがないのでは、という気もします。 -
腐女子だから恋人がいない、という概念は全くの嘘だと知れて良かった。現実と妄想を分けている、という点が興味深い。一人でいるのは自発的な理由ではない、という内容に納得させられた。
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2000年代半ば腐女子がメディアで取り上げられ始められました。本書では様々な著者や本を引用し、社会動向等も考慮した上でなぜ腐女子化が進展しているのかを考察しています。ちょっとその主張は無理があるかなという箇所が見受けられますが、いくつか線を引いて後で検討してみたい記述もありましたので、サッと読んでサッと学んだ気になれるという新書の要求を満たしているとは思います。
著者は腐女子は世間のイメージと違いリアルも充実している人が多いという方向にもっていこうとしているのが痛々しいような気もします。リアルではキラキラしている方のインタビューや写真をコラムとして途中で何度もはさんでいます。たしかに一部にはそうゆう方もいるかもしれませんが、あくまでそれも一部にすぎず本来の腐女子の方を無視することにはならないのでしょうか?そもそも、リアルが充実してもてる人なんて腐女子に限らずごく一部の超人ですからね笑。もっと中立的な視点であるほうが、もっと生き生きとした腐女子の世界を垣間見れたと思います。世間のイメージとは違うという逆のイメージを無理に作り上げようとしている作為感が本の信憑性を損なっていると感じました。 -
腐女子と東池袋
腐女子にとって東池袋とは「足で探さないと見つからない商品がある」「欲しい物が全部手に入る」場所だ。
アニメグッズ、漫画を購入する場所として乙女ロード、22時まで開いているジュンク堂が有名だ。
GAP・ユニクロなどリーズナブルな洋服、コスメ、おしゃべりを楽しめるレストランがサンシャインシティに集まっている。
腐女子とオタク隠し
女性は男性よりも他人から批判されることに対して過敏である。その為、買う時に恥ずかしくない表紙(BL本)であることが重要だ。日常とは「別の顔」を楽しんでいる。
腐女子と恋愛
既婚者も多く、腐女子同士で恋愛話で盛り上がることもある。BLを現実の恋愛とは別の妄想の物語、「異次元」としての物語として別腹で楽しんでいるからだ。「物語」を「妄想」することこそが腐女子の物語の消費の仕方であり、ボーイズラブをテーマにした小説や漫画は読者である女性が「感情移入できない」ものが主流である。腐女子にとって少年ジャンプは大変人気がある。ユニセックスの媒体として成功している、と言えよう。
腐女子と現実
同じ嗜好を持つ仲間から承認を得ることが出来るので、現状(現実)への肯定が強い。働く女性たちこそが現実離れした物語を好んでいる。
★現実で地に足を付け、平凡な日常をきちんと営んでいくために現実とは違う「物語」を必要とする。そういう健全な現実逃避をすることができるのが腐女子のスキルなのである。「嗜好」でつながったコミュニティを拡げていく「腐女子化」こそが日常で大切なモノである。 -
●内容紹介
腐女子とは、男性同士の恋愛物語を嗜好する女性をいう。なぜ彼女たちは、「自分不在」の妄想世界に遊ぶのか?密かに、しかし確実に進行する女性のオタク化、その裏側をレポートする。
●目次
第1章 メディアに無視されてきた腐女子たち
第2章 腐女子の思考と生態
第3章 社会のオタク化は加速する〜「嗜好」の時代へ
第4章 腐女子の「妄想」を分析する
第5章 「女性性の否定」という誤解
第6章 「自分探し」から「自分忘れ」へ
第7章 ライフスタイルは選択できない
第8章 女性誌のモノサシはもういらない
第9章 腐女子化は格差社会を生き抜く知恵
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<抜粋&要約>
<b><腐女子にこのまれる作品とは?></b>
P.54
(世間では散々な酷評を受けた「ゲド戦記」が腐女子たちに人気であったことを踏まえ)
「テニスの王子様」も登場人物たちへの細かい書き込みがない。
それゆえに腐女子たちは「登場人物像」を「妄想」して楽しめる。
「妄想」する余地を用意してある作品を、腐女子は好むのである。
<b><「腐」は「別腹」></b>
(取材中の著者の印象では、恋にオクテな腐女子は少なく、既婚者が多く女子でも恋人がいる人が多い。また、恋愛は堅実でまじめな恋愛を望んでいる人が多かった。
彼女たちにとって「腐」は「別腹」。)
(ある腐女子の意見)
P.93
「男女の物語は感情移入を強制される。それが心地悪いんですよ。ヘンな話、自分の恋愛は現実ですればいい。小説を読むときにまで、ヒロインに感情移入して恋愛を疑似体験なんてしたくないんですよ」
<b><”自分探しはいらない”></b>
P.126
(かつて、女性たちは「社会」や「異性」に承認されることを強く求めた。)
(しかし、腐女子たちは)同じ嗜好をもつ仲間から承認を得ることができれば、「自分探し」入らない、というわけである。
P.143
(取材に応じた、ある)25歳の女性は「個性化、個性化って言われてきて疲れちゃったから、(抽象的だけど、自分とかかわりがあり、大義を与えてくれる)全体主義に憧れる」
<b><自己実現のために働くのは、もはやゼイタク></b>
P.162
いくら努力しても労働市場での下の階層から抜け出す展望が見いだせない女子たちが「社会から引き込もる」という意味で、専業主婦を希望する。もちろん、その希望がなかなかかなうものではないのだが。
P.150
つまり、女性が社会に出て働くのは(略)「自己実現」ではなく「生活のため」なのだ。
P.151
バブル未経験世代以降の女性には「(生活のために働くのが当然であって)自己実現のために働く」という感覚は薄いのだ。
ライフスタイルが選択できない現在、女性たちが選択できるのもは「嗜好」である。先の章で述べたように「嗜好」で繋がっていくコミュニティが拡がっている。そこでの「格差」は日常のそれと違う(例:釣りバカ日誌)。
(略)日常を離れた価値観で構成されるコミュニティに参加することで日常の「格差」から逃避することができるのである。
<”腐女子化は格差社会を生き抜く知恵”>
P.200
現実で地に足をつけ、平凡な日常をきちんと営んでいくために、現実とは違う「物語」を必要とする。そういう堅実な現実逃避をすることができるのが「腐女子」のスキルなのである。
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<span style="color:#990000;"><感想>
腐女子のメンタリティは長らく謎だったんだけど、ちょっと理解できた(気になった)。
この著作で定義される「腐女子」とは、「自分不在の男性同士の恋物語の中に、自分の妄想をインストール」し、それを「現実の格差社会の息苦しさを生き抜くツールとして活用している人たち」といったところなのかな??
だとすると、男性で「百合」が好きな人もそうなるのかな??
ただ、「嗜好」を基本とするコミュニティのなかでも多分格差は生まれると思うんだけど、どうなんでしょう???</span>
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2006年出版のため、現在と事情が異なる。前半は面白い。腐女子のオタク隠し、物語を妄想することこそが物語の消費の仕方、現実離れした話を好む、感情移入できない物語を好む。など腐女子分析は面白い。
しかし、後半は女性の格差の話がメインとなり、腐女子は関係なくなる。非正規雇用、子育て、女性の競争。 -
読み終わった後に何とも言えぬ居心地の悪さを感じた。著者の中に主張があってそれに都合よく参考文献やインタビューを切り貼りしてきたような、そんな感じである。そういう風に展開しちゃうのって飛躍じゃない?とか……
別に扱う存在は腐女子でなくてもよかったのでないの?ただ腐女子を掲げておけば私のようなおっちょこちょいが本を手にとってくれるから触れといた、みたいな印象を読み終わった今強く感じている。格差や階級については面白く読ませてもらったが。
腐女子ってこんなもんでしょ的な括りの大雑把さが根本の揺るぎとして違和感の源になっているのかもしれない。