「被爆二世」を生きる (中公新書ラクレ 354)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (261ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121503541

作品紹介・あらすじ

歌手、ジャーナリスト、医師、NPO代表、高校生平和大使…親世代の記憶・体験を受け継ぎつつ、人生のテーマに挑戦する人びとの軌跡。原爆投下から65年。親世代の思いをバネに世界に向けて発信する「被爆二世」の活動を紹介。

感想・レビュー・書評

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  • ○目次
    はじめに
    第一章:“被爆二世”として生きる
     (1)祈り ~歌手・佐々木祐滋さん
     (2)「イラクのヒロシマ」で原爆展
           ~ビデオジャーナリスト・玉木英子さん
     (3)新宿ジェノサイド 
           ~NPO法人「もやい」・稲葉剛さん
     (4)いのちの大切さ
           ~産婦人科医・河野美代子さん
     (5)子どもに感動を
           ~パントマイム・村田美穂さん
     (6)“カンちゃん”が結ぶ「父と子と世界」
           ~フリーライター・吉田みちおさん
     (7)被爆二世の肖像
           ~写真家・吉田敬三さん
    第二章:被爆二世問題とは
     (1)被爆者と被爆二世
     (2)「第五の被爆者」への遺伝的影響
    第三章:アジアとの連携
     (1)韓国で原爆写真展
           ~二世教職員の会・平野伸人さん
     (2)韓国の被爆二世たち
    第四章:こころのヒバクシャたち
     (1)“微力だけど無力じゃない” ~高校生平和大使
     (2)ヒロシマ・セミパラチンスク・プロジェクト
     (3)こころのヒバクシャ 
           ~証言の会・鎌田定夫さん
     (4)被爆二世を生きるということ
    おわりに

    個人的に被爆三世として、被爆二世について書かれた本ということで興味が出て読んでみた。
    著者が多くの被爆者・被爆二世と関わる中で、「自然人として被爆二世である人びと」と「自らの意志で主体的に被爆二世を生きる人びと」の二種類あることについて触れられた。
    大抵の人は被爆二世・被爆三世として生まれ、祖父母や両親から被爆体験を聞きつつも、日々の生活や仕事に忙殺されて、特に意識することはない。

    ただ、改めて被爆二世問題を考えてみると社会的に様々な問題が浮き彫りとなってくる。国内の被爆者においては平成6年に被爆者援護法が制定されたとはいえ、被爆者が受けた社会的な差別は心の傷として残るし、被爆二世の遺伝的影響に関する問題も政府見解では科学的に認められないとする方向で動いている。
    これは本書の第一章でホームレス支援の稲葉さんの活動の箇所でも触れられる弱者切り捨て政策に近いものではないか。
    また、さらに深刻なのが政府や国民の多くが用いる「唯一の被爆国」。広島・長崎でも約一割の外国出身の方が原爆の犠牲にあっている。また、生き残った外国籍の方の中には、例えば在韓被爆者などは韓国政府・日本政府からも見放され、同じ韓国人からは親日的だとして差別を受けてきた。
    また昨今の核の抑止力論的な机上の空論がまことしやかに広がりを見せている。

    著者は、被爆者・被爆二世だけでなく、それ以外の人々でも自らの身の回りの問題(例えば差別、貧困、いじめetc)に置き換えていくことで、自らの文脈で核兵器の脅威や悲惨さを伝えていくことができるという。

    被爆二世問題を通して、改めて核兵器を作り持つことの根本的な矛盾や「国家の論理」を押し通そうとする国家というシステムの傲慢さ、差別や貧困をのさばらせる社会の歪みをクローズアップさせてくれる一冊である。

  • 同じ著者による『被爆者が語り始めるまで』を読んで、この本があるのを知り、図書館で借りてきて読む。

    私の知り合いにも"被爆二世"は数人いる。二世に対する健康診断がおこなわれていることは私も知っていたが、そもそも被爆二世が何人いて、というところは実は曖昧なのだという。厚生省の「被爆者実態調査」をもとに、被爆者数からの推計(子どもが1~2人いるだろうという大ざっぱな計算)として30~50万人といった数字が出ているにすぎない。

    この本の前半、「"被爆二世"として生きる」には、親世代の思いを受け継ぎつつも、それぞれが自分のものとして見つけたテーマに挑む"二世"の姿を描く。そして、本の後半では、"被爆二世問題とは何か"、日本が唯一の被爆国ではないことが書かれている。

    最後の「こころのヒバクシャたち」の話が、私には強く印象に残った。

    たとえば「ノエルベーカーの手紙運動」のこと。若い世代に何ができるでしょうかという高校生からの問いに、ノエルベーカー卿は総理大臣に毎日手紙を書くことを話したという。「手紙、手紙、手紙です。たくさんの手紙を出すことです。郵便切手は民主主義の重要な武器です。もし大臣が百万通の手紙を受けとったら、彼は何かをしなければならないと思うでしょう」(p.198)。

    あるいは、証言の会の鎌田さんのこと。
    「ただ被害者意識で訴えるのじゃなく、いかに普遍性を持つような訴えになるのかという意味で、体験そのものを、被害と加害の関係のなかで、もっと構造的にとらえる。そうすれば非体験者、あるいは日本人じゃない人、若い世代にも伝承可能です。自分たちの問題として翻訳が可能なんですね。自分たちの日常体験のなかに翻訳できなければ、昔のことを昔のこととして語るだけでは、伝わらないんですね」(p.228)

    鎌田さん自身は被爆者ではないけれど、被爆者問題と核兵器廃絶問題に一筋に取り組んできたという。体験から学ぶ、体験を伝える、記憶するということは、被爆者問題に限らず、さまざまな運動の場面で言われる。体験した人たちがこの世から消えてしまえば、問題は消えるのか?たぶんそうじゃない。直接に体験した人たちしか語れないのか?たぶんそれもちがう。

    "当事者"って誰のことやろうと、よく思う。

  • [ 内容 ]
    歌手、ジャーナリスト、医師、NPO代表、高校生平和大使…親世代の記憶・体験を受け継ぎつつ、人生のテーマに挑戦する人びとの軌跡。
    原爆投下から65年。
    親世代の思いをバネに世界に向けて発信する「被爆二世」の活動を紹介。

    [ 目次 ]
    第1章 “被爆二世”として生きる(祈り―歌手・佐々木祐滋さん;「イラクのヒロシマ」で原爆展―ビデオジャーナリスト・玉本英子さん ほか)
    第2章 被爆二世問題とは(被爆者と被爆二世;「第五の被爆者」への遺伝的影響)
    第3章 アジアとの連携(韓国で原爆写真展―二世教職員の会・平野伸人さん;韓国の被爆二世たち)
    第4章 こころのヒバクシャたち(“微力だけど無力じゃない”―高校生平和大使;ヒロシマ・セミパラチンスク・プロジェクト ほか)

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 被爆二世とは被爆しているのではないかと怯えて生きる親の背中を見て育った人のこと。

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著者プロフィール

ジャーナリスト、専修大学社会科学研究所客員研究員、法政大学社会学部非常勤講師。
1960年 鳥取市生まれ。
1983年 九州大学法学部政治専攻(石川ゼミ)卒業。
NHK記者、九州大学大学院・大妻女子短大等の非常勤講師を経て現職。
主な著書
『名前を探る旅~ヒロシマ・ナガサキの絆~』石風社、2000年
『地域から問う国家・社会・世界』(共著)ナカニシヤ出版、2000年
『核の時代と東アジアの平和~冷戦を越えて~』(共著)法律文化社、2005年
『脳障害を生きる人びと~脳治療の最前線~』草思社、2006年
『スペイン内戦とガルシア・ロルカ』(共著)南雲堂フェニックス、2007年
『認知症を生きるということ~治療とケアの最前線~』草思社、2009年
『「被爆二世」を生きる』中公新書ラクレ、2010年
『奇跡の人びと~脳障害を乗り越えて~』新潮文庫、2011年
『被爆者が語り始めるまで』新潮文庫、2011年
『最重度の障害児たちが語りはじめるとき』草思社、2013年
『占領は終わっていない~核・基地・冤罪・そして人間~』緑風出版、2017年
『マツダの魂~不屈の男 松田恒次~』草思社、2018年
『スペイン内戦(一九三六~三九)と現在』(共著)ぱる出版、2018年
『ストーリーで理解する日本一わかりやすいMaaS&CASE』プレジデント社、2020年

「2020年 『スペイン市民戦争とアジア』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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