未来型サバイバル音楽論: USTREAM、twitterは何を変えたのか (中公新書ラクレ 370)

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121503701

作品紹介・あらすじ

CDが売れない音楽業界、ライブ・フェスの盛況、双方向のコミュニケーションで生まれる音楽など、多岐にわたり徹底討論。アーティストが自由に発信できる時代の、音楽のあり方とは?全てのジャンルが溶解しつつある今だからこそ問われるべき「未来型レーベル」の構想。

感想・レビュー・書評

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  • 発売直前に、Twitter上で話題になった、津田大介氏と音楽プロデューサー・牧村憲一氏の共著。ソーシャルメディア時代における、これからの音楽の在り方について、まとめた貴重な一冊。

    音楽業界をテーマに描かれている書なのだが、人ごととは思えない業界は沢山ある。出版業界、TV業界、そして我が広告業界も・・・

    そのためこの本を読みながら、サバイバルのポイントを「ビジネスにおいてサバイブするために、どうあるべきなのか」という公の側面、「強大化しつつある個人のパワーを、どのように活用できるのか」という私の側面、双方から考えてみることにした。

    ◆本書で主張されているサバイバルのポイント
    ・一人1レーベル立ち上げよう。レーベル=音楽と限定せず、意思を持った人が連携しあうことで、新しい文化が作られていく。
    ・ipadに象徴されるように、映像、音楽、絵など様々なものが「文化があるべきところ」に回帰する時代。だから、発信する人たちは一人何役もすればいい。
    ・パターンを知る、研究する。過去のモノをきちんと伝承していくという考え方をした上で、それを深く追求するか、拒否するかが重要。
    ・いい役割をするミドルマン=ニューミドルマンの重要性は増してくる。
    ・何を目標にしているのか、どういうことを表現したいのか、今の時代において何がヴィヴィットなのかというところを押さえて、どう演出するのか、誰を連れてきたら面白いものができるのか、という視点で考えることがキーポイント。
    ・「場」をどう作っていくかということと、継続することが大事。
    ・コミュニケーションを売る、キャラクターやストーリーを打ち出して、パーソナルを消費してもらう、ということが求められている。
    ・常に情報が更新されていくリアルタイム感の中で、瞬間的に物事を決断し、即座に行動に移していくことが新しいプロデューサー像。
    ・自分の美意識にこだわること、投資すること、新しいアイディアを考えることに時間とエネルギーを惜しまないこと。

    初めは、ビジネスにおいて求められること、プライベートにおいて求められること、分けて抜き出してみたのだが、途中でそれは意味のないことであることに気がついた。全ての項目が、公私双方において”重要なこと”として、当てはまってしまうのだ。

    すなわち、この変化の時代において最も重要なことは、公私の境目をなくしていくということなのかもしれない。もはや、発信側と受信側という境目など無い時代なのだ。

    これをポジティブに捉えるか、ネガティブに捉えるか、どちらでも構わないが、自分の立ち位置を認識しておくこともまた、必要なことなのだろう。

  • 著者の両名が考えるソーシャル時代における、音楽ビジネス「未来型レーベル」への過去実例を踏まえた考察が大変面白かったです。

    ただ、発刊年数が2010年のため、今現在の音楽業界の実情とは食い違っている点はいくつかありますが、まさに一人一レーベルが実現できる時代とインフラが整ってきていると強く感じれます。

    自身も同様の業界に足を漬けている分、興味深く読了できました。

  • "今後生き残っていく音楽とは?"
    音楽ビジネスについては全然詳しくないが、この本を読めば音楽というコンテンツがどういう経路で世の中に出るのか、時代によってどう変化していったのかが理解できた。1人1レーベルという考え方はこれからの社会では当たり前になっていくのだろう。
    現にTwitter上でも大手事務所に所属せず、音楽で生計を立てている人をちらほら見かける。今後もそういう人はどんどん増えていくことだろう。
    自分が知らない分野の内容ですが、非常に読みやすくて内容も判りやすかった。思った以上に楽しめる一冊です。

  • 今までの音楽(ビジネス)の形を振り返りつつ、今はどうなっているのか、これからはどうなっていくのか、って話。
    これからは今までのように「所属」が何よりも有利で重要ということにはならない。
    個人の意思で、個人の意志で、道を切り開ける時代になってきてるんだなぁ。

    これは絶対に音楽に限らない話だと思う。
    わたしの未来にも少ーし明かりをともしてくれた一冊。
    腹を据えて柔軟に!

  • 80年代から10年代今日までの音楽ビジネスの変遷を語る。まつきあゆむ氏やDOMMUNEなどの活動を知る人には新しさはないが、今後の運動の起点になり得ると思う。

    新しさや奇抜な発想はないのだけど、これまでの流れを再確認することで見えてくるものはあるのだろうと思う。80年代の話にはあまり食指が動かなかったが、00年代からの流れは意外と忘れられていて、ナップスターとその周辺のムーブメントが歴史になりかけていることに気付いた。

    本文で著者の津田さんも言っているけど、「一人レーベル」という単語を掲げたのは、それを立ち上げることを勧めているのではなくて、単純化すると、一人「でも」できるよという、何か活動することの勧め。それと同時に、津田さんの意図は知らないけど、これはゲリラ戦の勧めなのだろうと思った。

    あれ、そう書いてから気づいたけど、本の名前はサバイバル音楽論じゃないか

    今の音楽ビジネスの状況を考える上では、主に著作権法や、レコード会社の異常、販売上の課題が考えるべき重要な問題だと思うに至った。

    そのうち、著作権法と販売上の課題は、前者は知ることが重要だと、後者は、土壌が整いつつあってかつ発展途上なので、議論と活動の必要があると言うにとどめて良いかと考えた。そう考えると、レコード会社(を始めとする緒環境)の問題や弊害の解決に向けた活動が必要だろうかと考えた。

    ちなみに、特別レコード会社の内情について詳しくもなければ、これまで注視してきた訳でもないので、あくまで感想として。それから、「音楽ビジネス」は、「音楽で金を稼ごう」というのではなく、「音楽享受の一連の運動を豊かにするための一連の活動」という意味として使っています。

    そこで考えたのは、レコード会社を始めとする緒環境によって音楽の享受が貧しくなる原因は、緒環境と製作者の不和、緒環境によって製作者が管理される状況ではないかということ。

    例えば、宇多田ヒカルの原盤権問題なんかは正にこれで、広く認知された問題ではあっても、これが解決すればという期待は十二分にある。

    管理から脱する方法として、より強い力をと考えるのは普通の流れだと思うけど、詳しくは知らないが、それはうまくいかなかったのだと思う。一人のアーティストが力を持ったとしてそれが上手く正しく活用されることはあまり期待できないし、力を集結しようという方法には、啓発に多大な労力が要る。

    そこで考えられる上策こそが、ゲリラ戦なのだと思う。そしてその方法が、「1人1レーベル」と、その勧めとしての「せっかく土壌が整いつつあるのに」という働きかけなのだと思う。

    ゲリラ戦によって成し得るのは環境の変化なので,その運動に対して応える他の運動が必要だと思う.それを行なうのは例えば,ゲリラ戦を展開・応援する若者だったり,ゲリラ戦を支援・協力する大人だったり,将来を担う子供たちの教育だったりする.

    ひとつ本書でほうと思ったのは,津田さんや牧村さんの年代の人は,物心がついたときから音楽を再生する環境があった訳ではないという話.自身もそうであったわけではないけど,これはあまり考えたことがなかった.今の子供たちは4,800円でiPod Shuffleを買うことができる.

    更に,音楽の情報を探すためにiPod touchを買うという選択肢もあれば,トランセンドの2000円ちょっとのMP3プレイヤーでも再生機器は再生機器だから,恵まれている.

    しかし逆に,僕らの世代に関しても,世の中の音楽再生事情が恵まれた状況になったことで,音楽はステータスとしての役割を失なったし,音楽は高いという意識になってきたんじゃないかと思う.贅沢品に逆戻り.

    「高いから」と言って音楽に興味を持たない人や,そういった人へ向けていそいそと音楽を生成してきた企業たちは,この場から降りればよい,という風に考えて,いわゆる音楽好きたちだけのための場作りの方策としてゲリラ戦を決行するという流れもあると思う.

    ただ,「音楽好き」という群が何であるか定義するのは難しいし,そのまま行なう運動にはあまり期待できないので,やはり土壌が整いつつあるこの状況に期待するという側面が大きい.

    そして,そういった環境の恵まれた状況への変化を,ゲリラ戦の先の未来に繋げるために,教育をする必要があると思う.例えば,子供にiPodを買い与えるなら,iTunes cardも一緒に買い与えて,どう使うのかを教えるという風に.

    それから,教育するために必要な知識と教養を身につけることも当然必要になってくる.その方法として,著作権を学ぶという方法がある.まだ多少触れてみた程度だけど,芸術の歴史を知った人たちも加わって議論されたものだろうから,その成立背景を学ぶのは無駄ではないだろうと思う.

    本書を読んでいて気になったのは,最近のこういう言説にしてもそうだけど,しきりにCDが売れた時代と比較すること.もちろん,いい比較対象なのだろうけど,音楽の歴史と本質を含めて,今後のことを話していくこともせねばなあと.

    「ある場合にはベートーヴェンの響くかたわらで,強盗事件を報ずる新聞の社会面を読み,セレナードを耳にしながら夫婦喧嘩をするような風景」(『音楽の基礎 (岩波新書)/芥川 也寸志』198ページ)が生じる世界になっていることを認識することは,とても重要だと思う.

  • 日本に住んでる音楽ファンは一度読むべきだと思う

  • 全方位に渡る様々な視点から音楽業界の移り変わりを丁寧に追いかけた一冊。
    ここ数十年に渡る音楽業界の変遷がよく分かった。
    ひとつの場所に留まったことが殆ど無く、常に変化し続けている業界なのだな。

    音楽は、書籍や絵画と違い、形に依らない芸術だからこそ、ここまで多彩に変化をしているのだと思う。
    コンテンツとメディアという対比が、最も鮮やかに見えるのも特色のひとつ。
    例えば書籍は、昨今は電子ブックの登場で変化が起ころうとはしているものの、その本質はグーテンベルグの時代から変化はない。
    けれど音楽は、(技法はさておき)メディアとしての変遷は根幹から変わり続けている。

    その変わり続けてきた業界の姿勢を、一つずつ丁寧に取り上げていく本書は、その本質を浮かび上がらせることに成功していると思う。
    つまり、コンテンツとメディアの親和性が低いこと、メディアによってコンテンツが変化し、コンテンツによってメディアが変化していくということ。
    お互いがお互いに影響し合い、螺旋状に進化を続けているということ。

    特に、第4章で丁寧に取り上げられた「媒体」が移り変わっていく様子は、改めてその速さと激しさに感心した。
    ここまで急激な変化が起こり続けていれば、法整備が遅れるのも宜なるかなと。

    音楽業界でマネタイズを行う人はもちろん、ビジネスとは関係のない、単なる音楽好きにとっても、業界がどういう状況にあるのかという知識として、本書は読まれるべき本だと思う。
    ミュージシャンが生活できる環境があるからこそ、音楽好きは、その音楽を享受できるわけだから。
    これからは、表現者と観覧者という二極ではなく、双方が一体となって業界を支えていくような仕組みが重要になってくるのだろうね。

    牧村氏が最後に語っている部分に心から同感した。
    <blockquote> 音楽は時間をかけて、ひょっとすると言葉と同じものになるかもしれません。</blockquote>
    音楽は、「ことば」だと思う。

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    【要約】


    【ノート】

  • 20180503
    音楽プロデューサーの牧村氏と、メディア論学者の津田氏が音楽の未来について対話をした作品。
    結論として音楽は文化として残り続ける。人が娯楽を楽しむ上で欠かせないコンテンツだからだ。しかし、その楽しみ方は過去と大きく姿を変える。中間関係者であったレーベル事務所や販売会社といった売り手を経由せず、作り手であるアーティストと買い手が直接繋がるようになるのだ。この現象を起こす要因として、①音源技術の進歩と、②SNSツールの進歩が挙げられる。①の為に、CD等の製作費が下がり、個人でネット上に簡単に音源を上げることができる。②では、広告等個人で発信することができるようになる。
    一方で、楽しみ方がより個人間の繋がりに近づくことで発生する問題点も指摘できる。1つには著作権の問題である。ネット上で簡易に音源が流布してしまうため、ネット上での著作権の管理方法、誰がそれを担保するのかという議論は深める必要がある。解決策として、JASRACのような著作権信託会社が立ち上がり著作権を守る方法や、音楽配信のプラットフォーマーの中で音楽を聴ける形にする事で、剽窃できない形にする等である。
    今後の音楽の楽しみ方として、さらに個人の買い手の選択肢が広がっていくと思う。例えば、①定額ストリーミング配信で、ダウンロードコピー等の煩雑な作業を減じて音楽を聴き続けられることや、② 作り手と買い手がSNS上で情報を共有し合い、小さいサイズのフェスや、ネット上でのライブ配信を実施していくなど。
    これらのミドルマンが薄まっていく流れは音楽に限らずどの分野にも言えることだ。ネットが発達した現代においては、作り手や買い手が双方に情報発信できるため、横流しだけのミドルマンに価値はない。一方で、情報を集め付加価値を提供できるニューミドルマンには、今まで以上に価値が高まり、仕事が集まるのも事実だと思う。私も銀行員という旧来のミドルマンの生き方を変え、いかにニューミドルマンとして価値を発揮できるかという観点は常に持ち続けたい。


    約10年前の著作でようやく、mp3やネット視聴が増えてきた時代。
    今の時代は、更にストリーミング化が進み、月額制聴き放題のサービス中心の時代である。
    ストリーミング、店舗型のCD販売や、フェスでの活動など、音楽家にとってビジネスモデルはどう変わっているのか。
    音楽を取りまとめるプラットフォーマーは存在感を増し続ける。

    体験型
    発信できる=ツールやプラットフォーム

    ニューミドルマンの存在

    価値を生み出す著作権
    著作権をどう管理するか。信託の活用=JASRAC
    信託に乗せない著作権フリーでの活動

  • ビジネス視点というよりも文化として残したい二人の音楽好きの論だった。
    この手の本は 作り手などではない門外漢の方が書かれている場合がほとんどな気がしますが、著者の牧村さんが実際に細野さんのレコード会社や 渋谷系の渦中にあり、フリッパーズギターとCDを作っていた経験がおありで、生の経験が知れてよかった。
    Spotifyの登場以前の書籍なので、ストリーミングサービスについての記述がないので、まとまっていて読みやすいが、今は、この解釈では通用しないのでは?と疑問に思う点も多々あった。
    過去の構造をよく知ることが出来て、温故知新ができる。レコードからCDに移行したこの経緯は今の時代に反映できることが多々あると思った。
    音楽がビジネスとしての価値を失っていくので、本当に音楽に対する愛情の純度が必要なことを気付かせてくれた。
    個人的にレンタルショップが地方で生き残っている理由が気になっていたが、他の娯楽が無く、生で音楽と出会える体験に時間をかけることに地方の人間は価値を感じているのは私にも通じていたので納得できました。

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著者プロフィール

1973年、東京都生まれ。ジャーナリスト、メディア・アクティビスト、「ポリタス」編集長/「ポリタスTV」キャスター。著書に『情報戦争を生き抜く』『ウェブで政治を動かす! 』(ともに朝日新聞出版)など。

「2023年 『宗教右派とフェミニズム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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