グローバル化時代の大学論1 - アメリカの大学・ニッポンの大学 - TA、シラバス、授業評価 (中公新書ラクレ 429 グローバル化時代の大学論 1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (274ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121504296

作品紹介・あらすじ

ひたすら改革が叫ばれ、アメリカ発の制度を取り入れた日本の大学。だが、その有効性はいまだ見えず、グローバル化の荒波の中を漂流している-著名な教育社会学者が新米教師の頃、いち早く警鐘を鳴らした「アメリカ大学教育体験記」から、日本の当時と変わらぬ問題点が浮かび上がる。

感想・レビュー・書評

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  • グローバル化時代の大学論 1 アメリカの大学・ニッポンの大学
    TA、シラバス、授業評価
    著:苅谷 剛彦
    紙版
    中公新書ラクレ 429

    アメリカにあって、日本にない大学の習慣 TA:ティーチングアシスタント、シラバス(授業要項)、授業評価

    ■TA:教授を研究に専念させるための教育助手、と、大学院生に対する援助
    日本では、図書館の使い方、論文の書き方の基本的ルール、研究の具体的方法、を教えてもられることはない
    TAセミナー:討論の指導、レポートや試験の主題の方法、採点評価の方法、講義について、社会学概論の教え方、シラバスの作り方、研究計画の指導 等々
    日本の学生はしゃべらなくて、指導を受けるが、アメリカでは、しゃべりすぎて指導を受ける

    アメリカほど日本の学校で、規律が問題にならないのは、全人教育のおかげではないかいわれている

    ■シラバス:講義要項

    シラバスに含まれるもの
     授業に関する基本情報(授業名、科目番号、教室、日時)
     担当講師に関する情報(講師名、所属、研究室の場所、電話番号、オフィスアワー)
     講義の目的、スケジュール(授業のテーマ、あらかじめ読んでおかねばならない文献)
     成績評価の方法
     文献の入手方法
     履修条件、受講資格

    ■授業評価
    日本:モノローグ的、モノローグの連鎖、独り言のメッセージが積み重ねるほうに、ひとつの結論が導かれていく
    米国:ダイアーログ的:コミュニケーションを中心、対話的

    グローバル化ですすむ、人材育成

    大学学習評価 知的能力、批判的思考力、分析的な論理的思考力、問題解決能力、そしてそれを文章に書き合わすための、文章力

    米国:卒業後に職に就くための有利点、職業資格の取得
    日本:講義中心、読んで書く。話を聞いてノートをとる

    目次
    「グローバル化時代の大学論」シリーズ巻頭言
    新書版まえがき
    はしがき
    第1章 ティーチング・アシスタント制度にみる日米大学比較考
    第2章 新米教師のアメリカ学級日誌―もうひとつの日米教育比較考
    第3章 シラバスと大学の授業、授業評価
    第4章 高校から大学へ―高校間格差とトラッキングにみる入学者選抜の違い
    第5章 アメリカの大学からみた日本の大学教育
    第6章 漂流する日米の大学教育

    あとがき
    解説(宮田由紀夫)

    ISBN:9784121504296
    出版社:中央公論新社
    判型:新書
    ページ数:280ページ
    定価:840円(本体)
    発売日:2012年09月10日初版
    発売日:2012年12月10日再版

  •  アメリカの大学院でPh.D.を取得し、その後、その大学でも教えたことのある著者だけに、アメリカの大学の事情を詳しく紹介してくれている。アメリカの大学生はよく勉強すると言われるが本書を読むと、それが実感できる。たとえば一回の講義に対して、受講生は150~200ページもの文献を読まなくてはいけないそうだ。
     それだけの分量を読むにはアメリカ人でもある程度時間がかかる訳だが、それはアメリカの大学生は一学期に3~4科目しか履修しないので、時間的な余裕があるからである。ただし、1科目は月水金の週3回50分授業あるいは火木の週2回75分授業だったりする。
     本書には書かれていないが、筆者(平山)は学部生のときにアメリカ・メイン州のリベラルアーツカレッジに1年間留学したことがあり、そのときにアメリカの大学事情を見たが、多くのアメリカの大学では学生のほとんどはキャンパス内の寮に住み、夜遅くまで(あるいは24時間)開いている図書館で勉強する時間をとれるという特長も指摘されるべきであろう。
     それに対して日本の大学生は一学期に十数科目もの授業をとるので、それぞれに対して予習をする余裕がない。その結果、教師が一方的に講義するスタイルをとることになる。
     また著者は社会学者・中野収氏の言う「日本のコミュニケーションは双方的ではなく、一方的なモノローグ型である」という主張を援用し、日本人は討論が苦手であると指摘する。そのため演習のようなクラスでさえ、真剣な討論がなされることはほとんどない。この指摘は誠に正鵠を射ていると言わざるを得ない。
     私自身、「日本は組織の和を重んじるので、議論での対立より、妥協を選ぶ傾向がある」と思って来ただけに、中野氏の指摘には大いに首肯するものがある。一方、アメリカでは双方向的なダイアローグ型のコミュニケーションが主流なので、学生も討論に積極的に参加するのである。
     日本の大学での講義は、単なる知識の伝達をしているだけで、ものごとの考え方や分析を主体的にすることを教えていないという著者の指摘も,耳が痛いが、当たっていると言える。日本社会の持つ、モノローグ型のコミュニケーションのスタイルでは授業で討論を取り入れようとしても、なかなかうまく行かないことは見えている。
     さらに成績の重視もアメリカの大学の特徴であるそうだ。アメリカでは多くの学生が大学院に進学するので(研究者になるだけでなく、ロースクール・ビジネススクールなどに進むケースも多い)、当然学部での良い成績が重んじられる。さらに採用する企業も大学での成績を重視するので、学生も当然、良い成績を取るべく頑張るのである。それに対して、日本では成績はあまり重要ではないために、学生は良い成績をとる動機に欠ける。
     このように見てくると、アメリカの大学と日本の大学の実情は、それぞれの国の社会・文化の影響を受けていることが明確になる。すなわち、日本の大学が簡単にはアメリカの大学のようになれる訳ではないことが結論づけられるのではないか。

    付記 よく「アメリカの大学は入りやすいが、卒業はしにくい」と指摘される。勉強しないものは容赦なく、退学を命じられる、というような旨が主張されることがある。しかし、これは筆者(平山)が学部で留学したときに経験したことであるが、アメリカでは学期の途中でも、相手の大学との交渉次第で、別の大学に移ることが可能なのである。それはレベルを落とす場合もあれば、さらに上のレベルの大学に移るケースもあったようだ。ところが日本では一度、大学を辞めると、狭い門の編転入試験を受けるか、一から入試を受け直さなければならない。つまり、アメリカでは大学を辞めさても、その次の行き先を決めることが出来るが、日本ではそれは簡単ではないので、大学からの退出をそう安易には実行できないという問題がある。つまり、日本には大学を変わるというインフラが整備されていないから、「卒業を難しくする」というやり方はあまり現実的ではないのである。

  • 米国と日本とでは大学の仕組みがだいぶ異なるのだという。確かに「米国の大学は入学するのは簡単だが卒業するのが難しい,それに対して日本では入学しさえすれば卒業は簡単だ」などということ耳にすることも多い。本書は,英国の大学に籍を置く教育社会学者による,TA(ティーチング・アシスタント)制度,シラバス及び授業評価,入学者選抜制度などの視点から書かれた日米大学比較論である。

    ところで,本書は20年前に出版された同名の著書の新書版である。新書化にあたって元の著書の一部が削除され,替わりに一章及び各章末の新書版付記が追加された。しかし本書の内容は現在でも十分に読むに値する。例えば日米の大学教育を比較した第5章では,米国の大学において小規模クラスやTAによる手助け,また授業内容の詳細を伝えるシラバスが重要だと考えられている背景として,米国における学力問題があると指摘している。「それに対しアメリカでは、(・・・)学生の学力の分散は日本以上に大きい。」「したがって、(・・・)さまざまな教育上の工夫がどうしても必要となる。」(214頁)。しかし,ここで述べられている米国の大学が置かれた状況はまさに今の日本の大学のそれと同様のものであると言えるだろう。とすれば,本書が示す(当時の)米国大学における様々な教育制度は,現在の日本の大学制度にとっても参考になる点が多くあるに違いない。

    このように本書の内容は古さを感じさせない。大学教育に関心を持つすべてのひとに強くおすすめできる本である。

  • 教育社会学者の苅谷さんが、かなり若い頃、まだ日本の大学で教える前にアメリカの大学で働いた経験などを書いた本。
    年代はかなり前だけど、今も読める。
    折に触れ、日本のモデルとして出てくるアメリカの大学。
    そこから導入された制度も多いが、その起源や運用実態、大学を取り巻く社会・文化などを知ることができる。
    おもしろい。

    いずれブログで書評を書く。


    ——以下、Twitter。アドレスは2023/09/13以降
    読了本。苅谷 剛彦「グローバル化時代の大学論1 - アメリカの大学・ニッポンの大学 - TA、シラバス、授業評価 (中公新書ラクレ)」 https://amzn.to/3Z0w4qA 氏が若手の頃に書かれた、アメリカの大学についての本。アメリカの教壇に立った話、TAの役割などについて。おもしろい #hrw #book #2023b

  • 期待した内容とは違っていたので。

  • 日本の学校は、掃除や給食そして部活など人間を作る全てを学ぶ、知識だけではない全人教育である。能力差を個人の努力で狭めることで、その精神力を身に着ける。
    アメリカは、多くの情報からいかに個人の意見を作り出すかを学ぶことろが大きく違ってる。 これが日本人の強さと、グローバルに生きるには弱さにもなる点であろう。

  • 1992年に書かれた日米の高校・大学教育比較についての本を2012年に新書化したもの。20年間の経過による補足もある。

  • 2012年刊。底本出版は20年位前。

     以前より読みたかった本。米国大学の授業の活々した様子や日米の大学・高校の比較等内容は興味深い。

     入試のある日本の高校は、高校入学時の学力差のため、大学進学の可能性に事実上相当の開きが生じるものの、高校過程での履修科目で大学進学の是非・差異が生じることに比して、高校がクーリングアウトとして機能させていない。
     かように形式的にせよ、日本の高卒資格が大学受験資格を齎す長所や、履修科目が多様すぎる米国高校の短所なども広範に解説。◇米国大学のTAやシラバスの長短にも言及。

     ただ、何らの焼き直しがなく、著者のネームバリューに依拠したような出版がいいのかは、首を傾げてしまうところ。まぁ、新書化された、つまり安価になったということでいいのかもしれないが…。

  • 日本とアメリカの教育が置かれているコンテクストがよく分かる。20年前の著作だが、学問的な方法論と両国の底流にあるものは不変だ。

    TA、シラバス、授業評価、トラック。どれもコンテクスト抜きには見る目を持てない。いわんや導入など。

    最後の章の大学の漂流は、日米ともに深刻なのだな。

    ・モノローグとダイアローグ。さらにモノローグも成り立たない日本の昨今。
    ・体験学習はクリティカルシンキングを伸ばさない。
    ・グループより個人の学習のほうが、CLAに寄与する。

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著者プロフィール

オックスフォード大学教授

「2023年 『新・教育の社会学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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