観光亡国論 (中公新書ラクレ)

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121506504

作品紹介・あらすじ

右肩上がりで増加する訪日外国人観光客。12年の836万人から17年には2800万人を突破。政府の掲げる20年の4000万人突破も現実味を帯びてきた。一方で京都や富士山を初めとする観光地へ想定を越えた観光客が殺到したことで、交通や景観、住民環境や文化などを含め、多くのトラブルが露呈化し始めた。その状況を前に「まるでかつての工業公害だ」と指摘しているのが、京都に居を構え、自らその問題に向き合う東洋文化研究者・アレックス・カー氏だ。氏が今すぐ管理技術を高めないと「観光立国」のはずが「観光亡国」になる、と指摘した『中央公論』の記事は反響を呼んだ。
本書はその指摘をベースに、その実態と対策について世界の最新状況を盛り込み、深く検討を重ねていく。そこに都市開発に造詣の深いジャーナリスト・清野氏が加わりシャープな指摘・提言を展開。日本の亡国化を防ぐため、今すぐ「観光公害」に備えよ!

感想・レビュー・書評

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  • インバウンドが2000万人を突破、今年は3000万人を上回る、2020年には4000万人だと、浮かれている間に、国内の観光名所は大変なことになっているようです。
    たとえば京都。
    既に清水寺や二条城といった超の付く名所だけでなく、京都駅南側のお寺や神社でも、今は人で溢れ返っています。
    伏見稲荷大社は、鳥居が「インスタ映えする」として、いつ行っても鳥居の下に人がびっしりいて参拝もままならない。
    美しい禅庭のある東福寺も紅葉の季節になると開門からすぐに、庭を一望できる通天橋の上に人が連なり、立ち止まることも出来ないのだとか。
    他の有名観光地でも、「観光公害」とでも呼ぶべき事態が起きています。
    これでは、「観光立国」どころか「観光亡国」だというのが著者の見立て。
    では、インバウンドは不要なのか。
    いえ、そうではありません。
    「適切なマネージメントとコントロールが必要」と著者は説きます。
    具体的なアイデアも提出しており、注目しました。
    たとえば、祇園に「花見小路レーン」、観光名所に「マナーゲート」を設けたり、大型バスや公共の乗り物の中で「マナー講座」を義務化したり…。
    いずれもやや突飛な発想ですが、「そもそもイノベ―ティブなアイデアというものは、常識の外から出てくるもの」と著者は指摘します。
    神社仏閣に数多ある「撮影禁止」の看板の撤去には、私も賛成です。
    世界的には、有名な博物館や美術館でも撮影を解禁するのが今の流れだそうです。
    「ゆるキャラ」や「顔出し看板」もそろそろいいのではないでしょうか。
    本書にはこのほか、「クオンティティ(量)よりクオリティ(質)を」「地域のプライドを取り戻すことが重要」など真の観光立国を成し遂げるための貴重なヒントが盛りだくさん。
    私の住む空知はインバウンドが大挙して押し寄せるような観光地ではありませんが、インバウンドが少ないからと言って嘆く必要はなさそうです。
    まずは地域の資源を発掘し、それを磨いて、できれば結んで、本当にこの空知が好きだという人に何度も来てもらい、お金を落としてもらう。
    そんな観光を目指すべきではないかと、本書を読んで思いました。

  • 観光分野に実際に取り組んでいる方には、
    書かれている内容は極めて当たり前の指摘だと思う。
    ただ、何度もカー氏が指摘されるように行政の「時代遅れの観光政策」については処方箋がいくつあっても足りないのは現実。
    この本を読むべきは、行政関係だったり政治家の皆様。

  • 観光におけるオーバーツーリズム等に警鐘を鳴らす良書。
    大型バスによる量的なものではなく、質が高く地元に金を落とす観光の在り方というのはごもっとも。
    政府は2020年に、年間4千万人の訪日旅行客を目指すというが、それだけの数が来日しても対応できるのか。既に都内では外国人観光客でごった返しているのに、これ以上物理的にも“おもてなし”的にも対応できるかは疑問がある。
    また、本書に書かれていた、島しょ部での場所に合った港の在り方では小笠原諸島が思い浮かんだ。小笠原では現在、おがさわら丸などの「船」でしか行くことができない。島を離れる際の出航風景(フェリーに併走してダイブしてくれる)は、船だからこその旅ではないかと思う。
    一方で島民からは空路建設の要望もあると聞くが、開設されれば利便性は高まるだろうが、滞在期間は極端に短くなるだろうし、競争に負けてフェリーが撤退でもすれば、貨物輸送としての機能が失われかねない危険な事態に陥る。
    なんでもかんでも便利に、都会のように開発をという「ファスト風土化」はよろしくないなと。

  • 日本三大秘境の一つ、徳島県祖谷地方をご存知でしょうか。一つの出来事は心持ち次第で多種多様に広がっていきます。息子さんの進学で徳島との縁が色濃くなった古岡夫妻は、日本三大秘境の一つ、徳島県祖谷地方の茅葺き民家に宿泊したそうです。https://www.tougenkyo-iya.jp/
     東祖谷に残る古民家を再生、活用する新しいもてなしの形をプロデュースしたのは、アメリカ人のアレックス・カー。彼は私たち日本人が気づかない日本の美しさを再認識させてくれて、また後世に伝えようと文化芸術活動の推進も精力的にしています。大切なものは何か?!外の目を取り込むことって気づかされます。
    (by Furuoka)

  • 日本の景観に詳しく、古民家を改修した宿泊施設経営や地域再生コンサルタントをしているアメリカ人による、日本の観光業に対しての問題点と提言をまとめたもの。著者は、アメリカ人でありながら日本に40年以上も住み、欧米人の視点で日本を評価できる人物である。論評は鋭く、勉強になった。渡辺京二先生の『逝きし世の面影』を読んでいる時と同じような気分になった。

    「私は80年代から観光産業の可能性を予見し、京都の町家や、地方の古民家を一棟貸しの宿泊施設に再生する事業を実践してきました。08年には国土交通省から「VISIT JAPAN大使」の任命を受け、その趣旨の通り、外国人旅行者の受け入れ態勢に関する仕組みの構築や、外国人に対する日本の魅力の情報発信を行っています」p3
    「億単位で観光客が移動する時代には「量」ではなく「価値」を極めることを最大限に追求すべきなのです」p9
    「2017年のインバウンドを含めた日本における旅行消費額は26.7兆円となっています。これはトヨタの総売上高と拮抗する数字で、観光が「産業」として、いかに活性化してきたかを表しています。日本は「ものづくり大国」から「もの誇り大国」へ、スローガンを変更する時期に来ているのです」p26
    「(中国)国連世界観光機関の「国際観光支出」によれば、世界での観光消費額が2位のアメリカに2倍の差をつけて、ダントツとなっています」p33
    「(2000年、京都の町家改装の1棟貸し宿泊施設)従来のホテルや旅館のように、いたれりつくせりのサービスを揃えるのではなく、お客さんに鍵を渡して、「どうぞ、お好きにお使いください」というスタイルは、このとき生まれたものです」p38
    「(2000年初頭)新しい仕組みを作って運用することで、町家と街並みを救いたいと考え、一つ一つ法律や規制をクリアしていきました。やがて町家の宿泊施設転用は一つのムーブメントとなり、京都ではその後、数百件以上の町家が宿泊施設として再生されました」p48
    「京都は商業地と住宅地がきわめて近いことが特徴で、それが京都のそのものの魅力になっています。名所に行く途中に、人々が日常生活を営む風情ある路地や町家が、ご近所付き合いというコミュニティとともに残っているのです」p49
    「(富士山登山者)2005年には20万人の大台に乗り、すでにこの時から混雑が問題になっていました。08年にはそれが29万8000人に急増し、世界遺産に登録された13年には31万1000人になりました。多くの登山者が訪れることで、ごみや登山道の破損、トイレの許容量オーバーなど、数々の問題が引き起こされました」p74
    「(行政は価格引き上げに反対)文化的あるいは環境的な価値が高い場所は、入場料が少々高くても、本当に行きたい人たちは行きます。もし足を運ばなくなった理由として「入場料が高いから」という人がいたなら、それはおそらく大して興味を持っていない人でしょう」p80
    「その場所の価値に見合った対価を支払う、という気持ちを醸成しないと、日本が誇る資産は目減りするばかりです。入場料を価値に見合った価格に設定することによって市場原理が働き、その場所をきちんと評価し、大事にする客が増えて、どうでもいい客は減ります。それによって、観光名所はレベルアップができるのです」p80
    「日本の行政の弱い点は、ヨセミテなどのような決断が主体的にできないところです。そのとき使われる典型的な言い訳は「市民からそんな金額は取れません」、あるいは「地元観光業者の不利益になります」といったものです。そのようなときには、「例外の枠」を設ければいいのです。柔軟な対策に頭を使うことこそ「適切なマネージメント」です」p80
    「単純に比較して、ヨーロッパ諸国は日本の数倍の入場料を設定していることになります。日本の感覚でいえば、非常に高い入場料にもかかわらず、ヨーロッパの美術館は来場者たちを惹きつけているのです。私はその様子を見て、発想を転換する必要性を感じました」p81
    「屋久島町は2011年、縄文杉見学者の人数制限条例案を提案しましたが、観光業界からの反発を受け、議会で否決されています」p86
    「「お客さんにとって便利なように」という言葉には要注意です。むしろお客さんを不便にさせて、本来歩いてほしい道をたどる工夫を促すことです。参道を歩いてこそ、神社を訪問する本来の意味は取り戻せますし、参道の商店とも共存できるのです」p92
    「世界のトレンドは、駐車場を目的地からできる限り遠くに設け、人を歩かせることにあります。それによって周辺の賑わいをもたらされると同時に、名所の景観が守られることにつながるのです」p96
    「日本の観光が未だ車誘導型であるのに対し、世界の観光では「歩かせる」ことこそが、マネージメントの常識となっています」p99
    「日本は基本的に「土建国家」です」p108
    「欧米先進国と比べて、日本では地域経済や雇用が公共工事に依存している割合が著しく高く、依存がもはや国そのものの仕組みになっているので、一朝一夕には解決が図れません」p109
    「視点を「建設」から「景観」に移してみると、古くなった工場などの撤去、景観を台無しにしている看板の撤去、電線の埋設など、やるべき公共工事がたくさんあることに気づきます。古い歴史的な街並みを整備することもそこに含まれます」p113
    「全国的にいえることですが、地域観光にとって一番大事な資源とは、素朴で美しい風景です。その風景の中に、やみくもに道路を通し、さらにその工事に伴って山と川にコンクリートを敷き詰めることは、やはり観光公害にほかなりません」p116
    「商店街が観光地化されることで、それまでの町とは関係のない業者や商品が入ってきて、その地域全体の文化や個性が消えてしまうことは、世界的な問題となっています」p151
    「観光がプラスとマイナスのどちらに作用するかは、結局、市民が自分たちの文化をどれだけ理解し、誇りを持っているかにかかってきます。そして、誇りと理解を踏まえた上で、適切なコントロールをかけて文化に向き合えば、文化は観光がもたらす活力を得て、さらに美しく、力あるものへと発展できるのです」p162
    「(ゼロドルツアー)たとえば中国の旅行業者が、タダもしくはタダに近い激安料金のツアーを組んで、お客を大量にタイやバリ島に送り込みます。現地では、ほぼ強制的に宝石店などでの買い物が組み込まれ、お客はそこで町の相場とはかけ離れた、高い買い物をさせられます。宿泊は中国資本のホテルで、ガイドは中国人、バスも中国の業者と提携している会社、店の経営者も、もちろん中国人。それらの事業者の売り上げは、ほとんど現地に落ちることなく、中国に流れるようになっています。とりわけ最近は、買い物は「WeChat Pay(ウィチャットペイ)」「Alipay(アリペイ)」という中国の携帯電話経由の決済システムを使いますから、お金は直接中国に入って、現地の税金逃れにもなるし、マネーロンダリングにもつながっていきます(毎年20億ドルの損失をタイ経済に与えている)」p171
    「(大型クルーズ船は奄美は不適)福岡は成功したといえますが、神戸、高松、新潟、別府、鹿児島、日本には適地があります。そのような場所でなら、観光客の数が多いことをプラスの方向に持っていくことができます。しかし、奄美の環境は全く違います。世界が注目する美しい自然の眺めは負荷に脆く、大規模な工事が入ったらあっという間にダメになります」p176
    「(今後何が必要か?)知性であり、意識です。奄美大島でいうと、ここは少し前まではゾーニング云々を議論する必要のない土地でした。自然に囲まれた島で、人々が環境に寄り添いながら生計を立てていたわけです。しかし21世紀に入って、大型クルーズ船という、大きなストレスが奄美大島までやってくることになった。そのストレスが持つ恐ろしいパワーはすでに他国の事例でわかっています。「ゾーニング」や「分別」という治療で対抗しないと、島はあっという間に崩れてしまう。奄美大島だけではありません。日本の各地へ病を発症させてしまうストレスが、今まさに襲来してきているのです」p180
    「(質の観光)クオリティ・ツーリズムの一面として、確かに高級・高額路線があります。しかし、あくまで「質の高いツーリズム」ということであって、必ずしも富裕層しか楽しめない、という意味ではありません。クオリティ・ツーリズムの担い手は、自然や文化を愛して、旅先を大事に思う人。そこには学生やバックパッカー、一般のファミリー、学校の先生なども含まれます」p189
    「ゆるキャラやサーバーパンク的な眺めをいつまでも前面に押し出していると、B級の観光客ばかりを呼ぶことになり、A級の観光客はよそへ行ってしまいます」p194
    「(日本のA級とは)日本、とりわけ過疎化が進む日本の田舎には、信じられないほど美しかったり、心をわしづかみにされたりする眺めがあります」p194
    「(大事なこと)これからの時代に、地方の町や寺社が観光振興を考えるなら、みずから情報収集を行って、大手旅行会社への依存から抜け出さなければなりません。たとえばオーバーキャパシティで苦労している町が、入場料の値上げでその緩和を図ろうとすれば、バスで観光客を連れてくる旅行代理店が「入場料を値上げするなら、もう立ち寄らない」と、町の関係者を脅します。そして、旅行業者にそういわれれば、そのまま折れてしまいがちです。しかし旅行会社は観光過剰が生む「公害」に対して責任を取りません。行政や住民、社寺などの当事者がはっきりしたポリシーを持ち、企業のいいなりにならないことはマネージメントの大前提になります」p198
    「日本では観光振興というと、景観の保全ではなく、道路、大型バス用の駐車場、「何々物産館」といったハコモノ建設に行き着いていきます。観光振興のゴールが公共工事。さらに、オーバーツーリズムによって汚くなった国土や混雑した町の眺めを見た人たちは、旅行を楽しんだとしても、どこか日本を尊敬しない気持ちを持ち続けるでしょう。インバウンドの観光客にとっては「日本はどこもゴミゴミしていたから、次はもっときれいな国に行こう」ということになりかねません。それでは観光立国とは、まったく逆の方向になってしまいます」p206

  •  観光立国が観光客の急増で、京都の寺社は人がびっしり並び参拝もままならない。穴場もSNSで拡散されるや、たちどころに荒らされてしまう。観光公害、観光亡国にならないようにするのに必要なのは、適切なマネジメントとコントロール。アレックス・カー「観光亡国論」、2019.3発行。宿泊、オーバーキャパシティ、交通、マナー、文化などに言及されています。規制強化と規制緩和のバランス、入場予約制度と管理費(入場料)の徴収、車誘導から歩行方式に、看板公害の除去、旅行会社依存からの脱却など。

  • ふむ

  •  観光資源をどのように維持し、どのように活かすか。
    観光に訪れる人は何を求めているのか。
    これからはどのようなものが観光資産となるのか。
    入場制限、車の乗り入れ制限、新たに観光の価値があるものなど、具体的な例と提案を簡潔に記している。

  • 空き家問題が進む日本で、古民家再生を軸にある種「ドラスティックにないやり方」で観光需要を満たす戦略を選んだ著者。
    海外の主要旅行地が、その社会のあり方や住民たちに対しての意図せぬ範囲までの影響に反発し指針を変えていった中で
    今後の日本社会を恒久的に下支えすべき観光事業の視座は、コロナを契機に改めて考え直すべきなのだろう。

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著者プロフィール

1952年米国メリーランド生まれ。1964年に初来日し、1966年まで父の仕事の関係で横浜の米軍基地に住む。1974年エール大学日本学部卒業。日本学を専攻、学士号(最優秀)取得。1972~73年まで慶應義塾大学国際センターでロータリー奨学生として日本語研修。1974~77年、英国オックスフォード大学ベイリオル・カレッジでローズ奨学生として中国学を専攻。学士号、修士号を取得。著書に、『美しき日本の残像』(新潮社学芸賞)、『ニッポン景観論』などがある。日本の魅力を広く知らしめる活動を展開中。

「2017年 『犬と鬼 知られざる日本の肖像』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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