新装版-思考の技術-エコロジー的発想のすすめ (中公新書ラクレ (696))
- 中央公論新社 (2020年8月6日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121506962
作品紹介・あらすじ
本書は、「知の巨人」立花隆さんの記念すべきデビュー作の新装版。親本『思考の技術――エコロジー的発想のすすめ』(1971年、日本経済新聞社刊)は、90年に『エコロジー的思考のすすめ――思考の技術』として中公文庫化。その後17刷を重ねる強力ロングセラーとなっている。
このたび出版から50年目という節目に、「知の怪物」佐藤優さんによる長文解説を収録、「立花思考法の原点」として新装再刊する。
ウィズ・コロナの社会にあって、新しい生存戦略、発想の転換が求められている。本書が提唱するエコロジー的発想とは、「自然の英知で脳を鍛えよ」ということ。その主張は50年経てなお本質的だ。読みやすく、立花さんも文庫版あとがきで、「データこそ古くなっているものの、内容的にはいささかも古くなっていない。もっと多くの人に読んでいただきたい」と自信を示す一冊。
感想・レビュー・書評
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1971年に立花隆氏が最初に出した本の復刊。田中角栄研究のイメージが強かったので、それより前にこういう仕事をしているのが、まず意外だった。
内容は、生態学(エコロジー)の紹介とその発想の応用であり、人類の活動の増大が地球に与える影響に警鐘を鳴らしている。世界的に有名なローマクラブ「成長の限界」が1972年であることを考えると、かなり先駆的な本なのではないだろうか。「これから文明のたどるべき方向は、より複雑で、より多様なシステムを、効率とスピードを落としても安全を重視して作っていく方向にあるのではないだろうか」という立花の提言は、残念ながら50年後の今なお古びていないと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
知の巨人 立花氏の事実上の処女作とある
その結論は、「自然をもっと恐れよ、畏怖すべきものとして」である
気になった点は以下です。
・生態学の極意は、自然に従って、自然の組織を利用して料理すること。人類はその極意に従っていない。
・生態学的思考に反する行動は必ず失敗する
・工業社会とポスト工業社会(=生態学的社会)の間には埋められない溝がある。それを埋めるにはその溝を飛び越えるしかない。
・生態学とは、生物学の一分野であり、「生物と環境および共に生活するものとの関係を論ずる科学である」
・生物学も科学である。科学とは、①論理的である、②客観性を有する、③実証的である を満たせばよい。
・生物学の一極を分子生物学とすれば、生態学は、もう一つの極にある。
・実際の生態系はあまりにも複雑であって、人間が生存するために最低必要な環境条件が何であるのかは、いまだにわかっていない。
・現在の生態学には理論体系はない
・自然があまりにも複雑な、複合システムであるため、その解明のためには、サブシステムをとらえて論じるが、サブシステム内では有効に働く技術が、トータルシステムでは弊害をもたらしている。
・システムには、閉鎖システムと、解放システムとがある。いかなるシステムにおいても、インプットよりも大きなアウトプットを取り出すことはできない。これが自然の大原則である。
・自然界は、つねにエントロピー(複雑度)が増大ので、エントロピーを押さえるためには、エネルギーが必要である。
・人間が人工的に作り出したシステムに関する限り、人間はそれが管理されなければ円滑に働かないことを知っていた。
・エコシステムは、4つの要素からなる。①非生物的環境(物質)、②生産者(植物)、③消費者(動物)、④還元者(バクテリア)。この4つが複雑なサイクルを形成する閉鎖系である。
・人間の文明が、土中の微生物を殺して、サイクルを破壊している。プラスチックがそのいい例である。
・人間は、エコシステムを破壊しない程度に、人工的なサブシステム改良にとどめるのが、良い選択である。エコシステムの破壊は、人間にとって命取りであるから。
・生命の根源は、水である。無機物を溶かして、生物間を媒体させるのが水である。水なしには、生物は生きられない。
・蛋白質を形成する窒素についても、生物が媒体となって循環している。
・炭素も生物にはなくてはならない物質。炭酸ガスと酸素のバランスについて、光合成や、二酸化炭素の海中での融解などに密接に関係している。
・気候変動、温暖化とともに、空気中を浮遊する塵が、アルベトという太陽光の反射率を押し上げて、逆に地球を寒冷化に導いている。でも、現在は温暖化の割合が大きい。
・生態系を形作っている、食物連鎖の1つの生物がいなくなると何がおきるかわからない。
・フィードバック機構をつくれ、フィードバックとは、アウトプットの一部をインプットに戻してやって、インプットの調整をはかる仕組みである。
・生態学の重要な概念に遷移がある。植物でいえば、地衣類⇒コケー>種子植物⇒針葉樹 遷移の進行とは、優占種の交代と同意語である。
・マルクスは遷移の考えを使って 封建主義⇒絶対主義⇒市民社会⇒社会主義⇒共産主義 という遷移を考えた
・デッドセンター:大繁殖した生命について、中心部は死滅するが、周囲が生き残って生存するという考え。文明論にも当てはまる。
・エコロジーの特徴、寄生と共生
・ガウゼの仮説:似通った二種の生物は、同じ場所に住めない
・過密がいけないのは食料不足に陥るから、個体間のストレスを増加させるから、かといって、過疎もいけない、集団のみにつけるべき学習の欠如、攻撃からの防御が弱い
・動物社会の秩序の維持は、①なわばりをもつ、②順位をもつ、③あるいは両方、人間もまさになわばりにうるさい。だから味方につけるなら、ある程度のなわばりを与えておいてその中で対応してもらえればよい。
・人類の進歩についても、生態学的な考えを取り込んでもう一度考え直さなければならない。それを、「思考の技術」と呼んでいる。
目次
はしがき
プロローグ 思考法としてのエコロジー
Ⅰ 人類の危機とエコロジー
1章 エコロジーの登場
2章 閉ざされた地球
3章 生命と環境
4章 文明と自然は調和しうるか?
Ⅱ エコロジーは何を教えるか
5章 システムのエコロジー
6章 適応のエコロジー
7章 倫理のエコロジー
8章 生存のエコロジー
エピローグ 自然を恐れよ
文庫版あとがき
解説 エコロジー的思考で捉える人間社会の現実 佐藤優 -
最初に断わりを入れられているように、思考を良くするための技術本ではありません。人はいろんな考え方があって、それによって何が重要と考えるのかが導かれています。その人のいりんな考えというものに対する現代の問題点を突かれており、そこから何が重要と考えるのか、私たちの現代のいわゆる常識ともいえる意識に対して、ちょっと違うと言われています。本書ではエコロジーという発想の仕方について詳しく書かれています。自然の仕組みを丁寧に説明され、それに反した結果がどうだったのかを提示されています。効率化など利益を増大させる発想で、世の中をよくしようとしてきた人間。しかしそれは自然の摂理に反したものです。本来エコロジー的にするならば、いまの常識を変えなければならない必要性が書かれています。
資本主義の行き詰まりを感じ、SDGsなど環境保護が言われるようになり、またコロナ禍から何かに気付かされつつある現在で、本書は当然のように腑に落ちるものです。これが資本主義全盛時代に書かれたものだとは、それが結局今まで軽く考えられていたことが驚きと感じます。 -
システム思考を中心とした考え方、物事の捉え方の要諦を様々なアナロジーを用いて分かりやすく説いている。
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先般読破した『評伝立花隆』を経て、原点に立ち返ろうと読んだ「知の巨人」立花隆氏のデビュー作『思考の技術』(新装版)。本書が提唱するエコロジー的発想は「自然の英知で脳を鍛えよ」。新カント派の発想に基づくという高校から文系と理系に分かれるのが通例である我が国の教育制度に対し、自然科学と人文科学という2つの科学の必要性を認めないシカゴ学派。物体の存在から精神の作用に至る全てを貫通する基本的な法則性を見出しうるとする立場が科学主義。文系と理系を一体で考える教育が必要ではないだろうか。
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50年以上前の実質的な処女作。「細分化された専門バカでは問題解決はできない。横断的な知恵が必要。」というようなことを死に際に言っていたように記憶しているが、その考えはデビュー当時から一貫していたということに驚く。ただしその解決策が生態学(エコロジー的発想)なのかという点には疑問が残るが。
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立花隆氏の処女作らしいが、傑作だった。
科学の思考は、対象に潜む雑情報を処理して、純粋なカタチにして捉えるというものだ。
一方で本書での思考法というのは、雑なものを、一歩上位に立って見つめ、最上流から最下流までの情報や生態系をいったんすべて記述することで理解する、とても雑然とした複雑なシステムの大枠をとらえてみようとする。
これっていまでも普通に通用するし、扱っているものこそ古けれど、あまり影響ない。
尊敬する人だとおもった。 -
大局観を身につける
短い本。
生物学の生態学を紹介してゐて、生物の教科書と重なる内容も多い。要するに、生態学的思考とは大局観のことである。だが、みな局所局所にしか目が行かず、全体の体系を知らうとする者はすくない。
わたしも小説の書きかたについてずっと模索してきて、どうやら闇雲や好きな小説、自己中心ばかりではなく、大局的な見方をしたほうが理解が深まると、さいきん気がついた。だから、なるべくいろんな本を読まうとしてゐる。
以前読んだ富永健一の社会学も、一種の生態学だなとおもった。 -
1971年に出版された本とは思えない。人類の進むであろう道を生態学の観点からものの見事に言い当てている。立花隆、恐るべし。いよいよ地球環境が異常になっている昨今において、一人ひとりが地球規模で物事を考えることができるかどうか、全員は無理だろうが、自分自身はそうありたい。
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知の巨匠。エコロジー、自然を恐れて生活。